失敗しても世界は終わらない 「責任を負うのを恐れる」のをやめよう(澤円)
仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。
日本人固有の責任の取り方
突然ですが、みなさんは相撲をご覧になりますか? 相撲は日本の国技であり、最近では「サンクチュアリ」というNetflixのドラマでも話題になりましたね。
相撲の中でも、NHKで中継される大相撲は、多くのファンがいてスター力士が土俵を沸かしています。大相撲は「行司」と呼ばれる審判が取り組みを裁くこととなっており、結びの一番を含む大事な取り組みを裁くのが「立行司」と呼ばれる、大相撲最高位の行司です。
現在の立行司には「式守伊之助」と「木村庄之助」の2名が存在しています。そして、この二人にのみ許されている特権が「帯刀」です。
特権、と言いましたが、これはどちらかというと「責任の重さを象徴するもの」と考えた方がいいでしょうね。この刀の使い道は、敵を撃退するわけではありません。
誤った判断、すなわち「差し違え」をしたときに、責任をとるために使うのです。つまり、判断をミスったときの責任は「自分の命を絶つ」という形でとられるわけです。
とはいえ、現在においては切腹することなどありませんし、ちょっと調べたところでは実際に切腹した事例はなさそうです。
ただ、「命をもって責任をとる」という考え方が、現代社会においても土俵では垣間見られるのですね。
ちなみに、今の大相撲においても行司が差し違えをした場合には、降格となることがあるそうです。そして立行司が差し違えた場合には、日本相撲協会に「進退伺い」を出すことが慣例になっているとか。
あるこれも「首を差し出す」という意味においては実に武士の香りが残っていますね。
責任取ってる人、見たことあります?
さてさて。ビジネスシーンにおいては「どう責任取るんだ!」みたいなセリフを耳にすることがあります。ドラマの中だけではなくて、リアルな世界においてもこのセリフを口にする人って少なくないですよね。
そして、ビジネスの世界では、会社の不祥事の責任をとってトップが辞任するというパターンが少なくありません。なるほど、手にしていたポジションを手放すのは確かに「責任をとった」と見えるかもしれません。
また、多くの人が「そんな問題起こしたんだからやめろ!」みたいなこと言いがちです。
ただ、これって本当に責任取っているんですかね? むしろ、一番楽なやり方にも見えるのはボクだけでしょうか。なにせ、残作業やらずに立場から降りるわけですから、ちょっとイージーすぎやしないか?と思うわけです。
企業や組織のトップがこのような責任の取り方をしていることを考えれば、ぶっちゃけ責任ってそこまで重く考えなくていいんじゃないかな?と思ったりもします。
本当の意味で責任を取るというのは、自分の指揮下で起きたすべてのネガティブ要因を排除してゼロに戻し、さらにそこから成長させるためにあらゆる手を尽くすことではないかと思うんですよね。
もしかしたら、そうやって回復させるための機会を奪うことこそが責任を取ったことになるんだ、という人もいるかもしれませんし、たしかにその側面もあります。
でも、キャリアをリセットして新しいチャレンジが始められると思うと、やっぱり責任の取り方としては簡単だなーって思うんです。
失敗しても世界はそうそう終わらない
ミスっても、その仕事をやめれば責任を取ったことになるんだと考えれば、挑戦を恐れる理由は少なくなる気がします。
もちろん、法に反することはダメですけど、一生懸命仕事をして社会に貢献しようとしたうえでの失敗であれば、胸を張ってもいいんじゃないかと思います。
他人のミスに対していちいちかみつく人って、ヒマなだけなんじゃないかな~って思うんですよね。そういうヒマな人たちの「何かあったら責任取れるのか?」という言葉を真に受ける必要って、ほとんどないと思うんですよ。
失敗して、人の命が危険にさらされるとか、地球環境がめちゃくちゃ汚染されるとか、そういうのは確かに気を付けた方がいいでしょう。
とはいえ、命にかかわるような仕事の時は、何重にもセーフティーネットが張られていることがほとんどではないでしょうか。取り返しのつかない仕事、というのは確かに存在します。医療や旅客に関する仕事がまさにそれです。
でも、多くの仕事はそうではありません。社会に貢献するために、いろんなチャレンジができる環境に身を置いている人がほとんどだと思います。
大抵の仕事の失敗は、取り返しがつきますし、やり直しがききます。もし所属している会社での居心地が悪くなれば、他に自分の失敗を生かせる場所があるはずです。
一番もったいないのは、責任という見えない魔物にビビりすぎて、やりたいことをやらずに終わってしまうこと。後悔には二種類あります。それは、「やっちゃった後悔」と「やらなかった後悔」です。
「やっちゃった後悔」は、学びがあります。でも、「やらなかった後悔」は、それこそ取り返しがつかないのです。
どうしてもチャレンジしたいことがあるなら、「ダメならやめりゃいいや」のマインドでやってみましょう。そう簡単に世界は終わりませんからね。
アイキャッチ制作=サンノ
編集=ノオト