暗黙のルールの奴隷になるのをやめよう 合理性や納得感のないルールは意味がない(澤円)
仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。
驚きのツイートに遭遇した
先日、X(旧Twitter)を眺めていたところ、衝撃のつぶやきに遭遇しました。
「仕事中に水飲むヤツ嫌いなんだよ」という部長の言葉を耳にした副部長が、「業務中の水分補給禁止」の大号令をだして業務中の水分補給が一切禁止になった、という内容でした。
……正気の沙汰とは思えません。完全に狂っています。これが日常になっているとしたら、どこか思考を麻痺させないと生き抜くことは難しそうです。
そんなボクも、30年ほど前は似たような環境でした。まだ社会人2年目だったボクが、今や懐かしいどころか歴史的遺物とも言えるMDプレーヤーで音楽を聴きながら出社した時のことです。
席について、MDプレーヤーを机に置いて仕事を始めたところ、当時のマネージャーが「仕事に関係ないものは引き出しにしまえ」と言ってきたのです。聞いているわけでもないし、机は広いので邪魔になるわけでもない。もちろん、社内規則に明記されているわけでもない。なのに、命令をしてきたわけです。
とはいえ、若かったボクはそんなものなのかなぁと思って引き出しにしまったのですが、全くもって釈然としない気分でした。今でも覚えているくらいですから、かなり納得できなかったんでしょうね(笑)。
明文化されていないルールができる根本原因
このような、明文化されていないルールというのは、世界中至る所にありそうです。それが「習慣」とか「風習」とか「伝統」とか呼ばれるものではなかろうかと。
それそのものを否定するつもりはないですし、そういう暗黙のルールがあることによって保たれていた秩序のようなものがあったのではないかと思います。
ちょっと面白い暗黙のルールとして、日本のプロ野球では「大差がついたゲームにおいて、攻撃側は六回以降に盗塁や送りバントをしてはならない」というものがあるそうです。
これは、「相手に敬意を払う」という観点からの暗黙のルールになっているそうです。「勝負の世界なのにくだらない」と思う人もおられるでしょうし、いろんな考え方があるでしょう。
ただ、「野球」という統一ルールの中で行われているプロスポーツにおいては、このようなルールに則ってプレーするのは、比較的定着させやすい気がします。なにしろ、ルールの中には価値観が入り込む余地はないわけですし、かつそのような暗黙のルールによって、スムーズな試合運営が行われる側面もあるからです。
職場のルールも、「明文化するほどではないけれど、守っておくと色々スムーズに進む」という観点で定着したものもあるかもしれません。
例えば、「誰かが職場に持ってきたお土産を独り占めして全部持って行かない」とう暗黙のルールがあるとすれば、職場の人間関係を心地よいものとして保とうという意思の表れとも言えますね。(そもそも職場にお土産いるんだっけ?というのはまた別にしてですね……)
優先順位を間違えてはならない
とは言え、職場における「暗黙のルール」は、人間関係をよいものにしたり仕事が進みやすくなるようなものでなければ、意味がないとも言えます。
冒頭の銀行の例などは、明らかに健康を損なうものですし、「別のところで水分をとれ」というのは生産性の観点から言っても合理性があるとは言えません。
「合理性」や「納得感」が共有できないルールは、存在そのものが悪とも言えます。誰かの偏った価値観や思いつきがルール化され、働きにくい環境ができてしまうとしたら、経営の妨げと言っても過言ではないでしょう。
仕事場におけるルールは、法律に則ったものでなくてはならず、かつビジネスを進めるためのものでなくてはいけません。
「法律では許されていないけれど、絶対的なルールとして職場に存在している」なんてとんでもないものがあります。時々耳にするのは、残業関連のルールですね。
「残業してはならない」かつ「売り上げは確保しなくてはならない」という非常に相性の悪いルールが二つあったとして、「記録に残っていない残業は残業とはみなさない、ただし残業代は支給しない」という暗黙のルールが共有されていたりするわけです。
このルールが徹底されると、サービス残業・サービス休日出勤などが横行する職場がいっちょ上がりですね。
この手の無茶苦茶なルールが横行する理由は、「守らせようとする人」と「守る人」が存在するからです。
なんでそんなルールがあるんだ……?と思ったら、まずは職場を観察してみてください。誰が守らせようとしていて、誰が守ろうとしているのか。そして、その人たちは自分の人生にとってかけがえのない重要な人たちなのか。
もしも「かけがえのない人たちだ」と思うなら、ルールの改正を申し出てあげましょう。そうすることで、その人たちが幸せになる確率を大幅アップさせることができます。
「いや、そうでもないな」って思うなら、いくつかの選択肢がありますね。
・まず、ルールを無視する。
・そのことを咎められたら、華麗にスルーする。
・スルーしているうちになにも言われなくなったら、ラッキー!
・しつこく指摘されるなら、異動や転職などを考える。
自分が快適に働ける環境を整える権利は、誰にでもあります。戦う必要はないと思いますが、屈することもありません。快適さを求める気持ちは忘れないようにしたいものです。
アイキャッチ制作:サンノ
編集:ノオト