散歩しながらミーティングをすると、いいアイデアが湧いてくる? 歩きながら専門家に聞いてみた
ミーティングをしても、いいアイデアがなかなか生まれない……。ビジネスシーンでよく見られる現象です。
机を囲んで会議をする以外に、なにかいい方法はないのか? いっそのこと、外に出て散歩しながらミーティングしてみると、思いもよらなかった発想が浮かんでくるのでは――?
そんな問いを、専門家に投げかけてみました。お話を伺ったのは、早稲田大学で教鞭をとっている、理学博士の望月泰博さんです。
―望月泰博(もちずき・やすひろ)
理学博士。早稲田大学データ科学センター講師。イギリス・ケンブリッジ大学自然科学学部卒業、同修士課程修了。京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了。専門は神経科学、データ科学。研究の傍ら、瞑想や滝行に励む羽黒派古修験道先達の山伏でもある。
散歩に適しているのは正解のない問いを考える「発散型思考」
今日お伺いしたいのは、「散歩をしながらミーティングをすると、いいアイデアが湧いてくるのか」です。実際のところ、どうなのでしょうか?
WORK MILL
望月
アイデアを生み出す「創造的思考」には、2つの種類があると言われています。
1つ目は特定の問題や課題に対して、フルに頭を働かせて解決策を考える「収束的思考」。「漢字穴埋めクイズ」のように問題がはっきりしているときには、「収束的思考」を働かせる必要があります。
2つ目は、正解のない問いに対して、自由にアイデアや発想を出していく「発散的思考」。
散歩ミーティングと相性がいいのは、2つ目の「発散的思考」です。
切羽詰まった問題や、なんとかしないといけないトラブルへの解決策ではなく、自由に創造力を働かせるのに散歩ミーティングは適しているのですね。
そのとき頭の中では、どのようなことが起きているのでしょうか?
WORK MILL
望月
運動中の脳内で何が起きているかは、よくわかっていませんね。脳には、まだまだわからないことがたくさんありますから。
ただ、運動と創造力の関係性について、現時点でよく言われていることが2つあります。
1つ目は、体を動かすことで、脳の中でも特に海馬と呼ばれる領域と周辺の血流量が増加し、クリエイティビティが高まる、というもの。
2つ目は、運動に伴って脳に放出される神経伝達物質、例えばドーパミンやアドレナリンなどの働きがアイデアの創造を促す、というものです。
……メカニズムはさておき、体を動かすと清々しい気持ちになりませんか?
それは、確かにそうですね。
WORK MILL
望月
進化論で有名なダーウィンは、1日に4回も散歩をしていたらしいですね。Facebookを立ち上げたマーク・ザッカーバーグも、散歩ミーティングを好んでいるそうです。
心理学の領域でも、「うれしい」「楽しい」などのポジティブな感情を持つと、クリエイティブなアイディアが出やすくなる、と古くから言われています。
スッキリした頭でブレストすると、いいアイデアが浮かんでくる。散歩にそういう力があるのは、間違いないでしょう。
なるほど。ところで、アイデアを考えるときはどんな場所が適しているのでしょうか?
今、私は大阪の淀屋橋というエリアを歩いているのですが、オフィスビルが多くある一方で、公会堂や美術館などの建物やバラ園があったり。ビジネスと自然が混在する街です。
WORK MILL
望月
できれば自然の中をおすすめします。そもそも、オフィス街というのは人工的な造形で。人類が生きてきた長い歴史の中で考えてみると、すごく特殊な空間なんですよね。
その点、自然の中で過ごすだけでも、ストレスの低減や免疫力の高まりといった健康促進効果や、クリエイティビティや集中力といった認知能力の向上が期待できます。
山や海にまでは行けなくても、近所の公園も良いと思いますよ。
研究の原点は山での修行経験
望月先生は、『頭を良くしたければ体を鍛えなさい 脳がよろこぶ運動のすすめ』(中央公論新社・陳冲さんとの共著)を書かれていますよね。
WORK MILL
何がきっかけで、運動と脳に関する研究をはじめられたのでしょうか?
WORK MILL
望月
それは、僕自身が山伏だからです。
山伏……?
WORK MILL
望月
はい。山岳修行や滝行、瞑想などをする修験者のことです。
山や滝に行く人って、何かしら問題意識を抱えていることが多くて。僕自身も、留学から帰国後、これからどうやって生きていこうか迷っていたときに、修験と瞑想に出会ったんです。そこから師匠について、修行を始めました。
望月
もともと僕の専門分野は「意思決定」に関する神経科学なんです。
ただ、山岳修行の中でさまざまなインスピレーションを受けたことで、改めて「体と心と頭はつながっているんだな」と感じて。半分は趣味のような形で運動と脳に関する本を出すことになりました。