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モヤっとするのに言い返せない――社会学者の森山至貴さんに聞く、相手を閉じこめる『ずるい言葉』との関わり方

「あなたのためを思って」「友達にいるからわかるよ」「傷ついたのもいい経験だったね」。相手のことを思って言っているはずなのに、言われた方はなぜかモヤッとしてしまう言葉。早稲田大学で社会学を研究している森山至貴さんは、そのような言葉を「ずるい言葉」と表現しています。

私たちはどうして、「ずるい言葉」に傷ついたり、ときに相手に投げかけたりしてしまうのでしょうか。森山さんに、「ずるい言葉」の正体や、投げかけられたときの対処法、職場で「ずるい言葉」が発生しないためのポイントもあわせて伺いました。

―森山至貴(もりやま・のりたか)
早稲田大学文学学術院准教授。1982年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻相関社会科学コース博士後期課程単位取得満期退学。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻助教、早稲田大学文学学術院専任講師を経て、現職。専門は社会学、クィア・スタディーズ。著書『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』(WAVE出版)ほか。

気づかないうちに、相手を閉じこめる「ずるい言葉」

森山先生の定義する「ずるい言葉」は、どのような状況で発せられる言葉なのでしょうか?

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大きく2パターンに分けられます。

1つは、相手をコントロールしたいという意図や悪意が隠されているパターン。

もう1つは、悪意はないけれども間違った認識に基づいていたり、「相手のためになる」と勘違いしたりして、結果的に相手のためにならない言葉を言っているパターンです。

悪意か、勘違いか。どちらにしても自分に向けられていたら、モヤッとしますね。

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はい。そのモヤモヤする感覚は、とても重要です。

相手が「あなたのため」という体裁をとっていても、モヤッとする感覚によって、そうではないことを私たちは汲み取ることができます。

森山さんの著書『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』の「閉じこめられる」という言葉が印象的です。

「閉じこめられる」とは、具体的にどんな状態を指すのでしょうか。

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本来、対話はお互いの認識を確かめ合い、共通認識を積み上げていく行為です。ところがずるい言葉を発する人は、相手に気づかれないように自分の都合のいい部分を抜き取って、それだけを勝手に共通認識にしていきます。

会話は積み重ねで作りあげられるものなので、一度でも共通認識にしてしまうと、なかなか後戻りできません。私はそれを「扉を閉める」と表現しています。

扉を閉めた結果、閉じこめられてしまうのですね。

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自分にとって都合の悪い扉をこっそり閉めて、相手の選択肢を奪い、自分の都合のいい扉へ誘導していく。そうして、直接的な言葉で指図や批判をすることなく、相手をコントロールしようとするのです。

まずは「扉が閉められている」瞬間を見逃さないこと

実際にずるい言葉に遭遇してしまった時、扉を閉められないようにするには、どうすればいいですか?

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まずは、相手が扉を閉めようとしていることに気づくことが大事です。モヤッとした瞬間、相手が扉を閉めようとしていないかを、疑ってみるといいと思います。

閉める瞬間に気づくことができれば、「閉めないで」と言って止めることもできます。つまり、「その考えは自分とは違う」と意見を述べて、共通認識にさせない。そうすれば、扉は開かれたままです。

はっきり言ってしまうと、空気が悪くなってしまうのではないかと気になります。

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ずるい言葉を使う人は、まさにその「相手に合わせなければ申し訳ない」という気持ちを利用しています。お互いが対等の立場で会話をしているなら、そんなことは気にならないはずです。

しかし、それができないこともあるでしょう。強く言い返すことだけが策ではありません。

たとえば、どのような対抗策がありますか?

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言い返すというより、穏やかに「もしかして、今その扉を閉めようとしていませんか?」というニュアンスで聞いてみるのは有効です。

扉を閉めさせない戦略を複数持っておくと、自分を守ることにつながります。ビジネスの交渉の場面においても役に立ちます。

戦略的に相手の立場になって考えてみる

ずるい言葉を投げかけられてモヤッとしたときに、「自分に悪いところがあったのではないか」と考える人も多そうです。

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多くの人がそうだと思います。そう思わせるように仕向ける言葉だから、「ずるい」のです。

大切なのは、自分の問題ではなく、相手の問題ではないかと、一旦疑うこと。考えた結果、やっぱり自分の問題だったのなら、それでいいのです。

あとは、「この人はどうしてこの言葉を使ったのか?」と考えてみること。思いやりを持って相手の立場になって考えてみるというより、「戦略的に」相手の立場を考えるのです。

戦略的にというと?

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たとえば、その発言によって相手にどんな得があるのかを想像する。それがわかれば、自分に何か問題があるのではなく、相手の問題だと気づけます。

相手の問題だということが考えてもわからないときは、どうしたらよいでしょうか。

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そんなときは私の本を読んでみてください(笑)。というのは半分冗談で、半分本気です。ひとりだけで考えず、本などの力を借りて「考えるという行為を外注する」といいと思います。

閉じこめる言葉にはどんなパターンがあるのか、なぜ相手はそんな言葉を言うのか。それを知識として知っておけば、自分の経験を解釈する手助けになります。

森山さんの本以外なら、どのようなジャンルの本がおすすめですか?

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フェミニズムについて書かれた本を読むといいかもしれません。相手をそれと気づかせずにコントロールする例とその構造が、たくさん紹介されているはずです。

女性はもちろん、男性も「これは自分が過去に受けた攻撃だ」と思いあたる例を見つけられると思います。

本以外にも方法はありますか?

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身近な人にモヤモヤした出来事を話してみるのもおすすめです。話した相手が共感してくれたら、その瞬間に自分の問題だけではなくなります。モヤモヤの原因を一緒に考えていくこともできますからね。

ずるい言葉を言わないためには、「相手の行きたい扉」を見つける

では、逆にずるい言葉を言ってしまわないために、何に気をつければいいでしょうか。

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相手が行きたい扉を勝手に閉めてないか、自問し続けることが大切です。

もし相手の気持ちを勘違いしていた場合、自問してもずるい言葉に気づかないのではないかと心配です。

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そんなときは、相手に「これをしたら嬉しいかどうか」と聞いたらいいと思います。本人に聞けないのなら、同じような境遇の人に聞いたり、本を読んだりしてもいいと思います。

「よかれと思ってやったのに」と言いながら相手を傷つける人の多くは、相手に「それをされて嬉しいか」と聞いていないですよね。まずは対話をすれば、勘違いが解消されるはずですから。

確かにそうですね! 聞けばいいというのは目からウロコでした。

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ずるい言葉は「対等ではない関係」で生まれる

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気をつけてほしいことは、何でもかんでも「ずるい言葉」だと思わないことです。

お互いの意図を読み間違えてすれ違ったり、共有すべき情報が共有されていなくて食い違ったりすることは、よく起こります。

そのようなコミュニケーション不全のすべてに、ずるい言葉が発生しているわけではありません。

見分ける方法はあるのでしょうか。

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ずるい言葉が発生するのは、双方の立場が対等になっていない場合です。つまり、片方が相手を下に見ているときや、「話してもどうせわからないだろう」と思っているとき。

そのため、何かあった時に意見をすり合わせて解決策を探ろうとせず、相手を丸めこんで自分の意図通りしようとして勝手に扉を閉めてしまうのです。

本当に対等だと思っていたら、扉を勝手に閉めたりしません。「こんな扉がありますが、どうしますか?」と相手の思いを確認し、相談するはずです。

相手を対等な存在だと認めることが、ずるい言葉を言わない人になるポイントですね。

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森山

はい。ただし、対等は「みんな同じ」という意味ではありません。

特に社会人の場合、上司と部下といった関係性があったり、経験や実力の違う人と一緒にプロジェクトを進めたりすることもありますよね。

そこで、ベテラン社員と新入社員の意見を、まったく同じ基準で評価してしまっては、ベテランの経験値を活かせません。

上司が部下に対してできるのは、「私は、まだあなたが知らないこういう条件や状況を知っている」と手持ちの札を開示することです。

そのうえで、これまでの経験値を踏まえて「だから、このような考えや意見もある」と説明する。そうすれば部下の方も、上司の意見が正しいかどうか客観的に判断することができます。

話し合うための前提条件をお互いで共有できて、初めて対等にコミュニケーションできるのですね。

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森山

そのとおりです。それをせずに「あなたのため」と言ってしまうから、相手はずるいと感じてしまうのです。

ずるい言葉を通して、コミュニケーションのあり方を改めて見直すことができました。ありがとうございました。

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2023年6月取材

取材・執筆:寒竹泉美
イラスト:サンノ
編集:桒田萌(ノオト)