ひとりぼっちの「妄想」から生まれた、『大濠テラス 八女茶と日本庭園と。』-テラスの仕掛人・戸田三喜郎
「光と風を感じる場」としての『大濠テラス 八女茶と日本庭園と。』
WORK MILL:そんな戸田さんが手掛けた、『大濠テラス 八女茶と日本庭園と。』について、教えてください。
戸田:大濠テラス……、実は、僕のひとりぼっちの「妄想」から生まれた企画なんです。 公募の内容を見て、「大濠公園に、光と風を感じる場」を創りたいな、って。
戸田:でも当時は、とにかくお金がなかったから、僕の「妄想」に付き合ってくれる人を、この指とまれ方式で見付けるしかなかった。
図面関係は、積水ハウス時代の馴染みの方に、無理を言って作ってもらいました。
応募には、本当は図面を準備しないといけなかったんだけど、自分が妄想したパース図とカフェ巡りで行った全国の公園再開発カフェの類似事例を元に気合いで乗り切った(笑)。
信じられないかもしれないけど、正真正銘「手弁当」で始めた企画なんですよ。
こんなこと、大企業では絶対、まかり通りませんよね。無茶に見えるかもしれないけど、僕は、このやり方こそが面白いと思っています。
僕の「妄想」に、この指止まれで繋がってくれた人たちと、ああでもない、こうでもないとアイデアと議論を尽くしていくうちに、一つのチームが出来上がる過程も、実に、面白い。
それと、僕のひとりぼっちの「妄想」が、カタチになるってことが証明できたら、世の中に、「第二の僕」が出現するかもしれない。そうすると、世の中がよくなるスピードが単純に2倍になる。
それも狙ってるって言いたいです。恰好付けすぎかもしれないけど。
そんな感じであたふたやっていたら、『大濠公園「つなぐ」プロジェクト』として、僕の狙いどおり、賛同者がどんどん繋がって、この大濠テラスが出来上がったわけです。
結果として、2021年にグッドデザイン賞までいただいてしまった……。
戸田:グッドデザイン賞以外にも、「福岡県木造・木質化建築賞 大賞」、「福岡県美しいまちづくり賞 優秀賞」、「福岡市都市景観賞 大賞」など、合計で4つの賞をいただきました。
それからこれはおまけの話になるんだけど、福岡県の大川市に創った『大川テラッツァ』というのは、芝生広場を中心として、筑後川を眺められるような場所にしたいという想いを実現させた場所なんです。
名称は、大川を照らすという意図なども込めて、「大川テラス」で提案したのに、いろんな人の思惑が入って、「大川テラッツァ」になっちゃった(笑)。
WORK MILL:ところで、『大濠テラス 八女茶と日本庭園と。』に欠かすことのできない「&LOCALS」は、どのように射止めたのですか?
戸田:「&LOCALS」の本体は、女性チームの建築・デザイン会社です。
元々は、社長の高倉朋子さんとのご近所付き合いから始まったご縁です。先に述べましたが、自治会活動など、「仕事ではない繋がり」の中で、お互いの感性や仕事観を理解し、共有してきたことが、『大濠テラス 八女茶と日本庭園と。』という舞台での共創に繋がりました。
戸田:そして、「&LOCALS」には、まちの飲食店や企業、地域の公共施設のリノベーションのお仕事をご縁に、地域のブランディングのお手伝いをされてきた実績があったことも、大きかった。
彼女たちは、「尊い生産と食卓をつなぐ」をコンセプトに、生産者の方々が丁寧につくられる地域のやさしい食材や、それらを使った料理の仕方などをお伝えするということを使命と心得て、自分たちが納得できるものを、信念に基づき、誠実に売っていた。
この大濠テラスでは、福岡県産の食品や八女茶を扱うことがマストだったので、「&LOCALS」はまさに「大濠テラス」の理念そのものと言うことができます。
自分が楽しいと思うことを、ひたむきに
WORK MILL:さて、周りの人を笑顔にするために、必要なこととは何でしょう?
戸田:自分が好きなこと、楽しいと思うことをすることです。だけど、完全なひとりよがりではダメで。
誰かが楽しむだろう、世の中の役に立つだろう、という想いに沿ったものでなくてはいけません。 僕は、学生時代から、楽しい企画をして、楽しい場所を作れば人は集まる、ということを繰り返し経験してきました。次に、企画がよくて、告知方法もよければ、人はくるという確信も得た。この連鎖は、社会人になった今も、変わらないと思っています。
WORK MILL:戸田さんの次なる挑戦を教えてください!
戸田:詳しくは言えないんだけど、自腹で、ある古民家を改修する事業に取り組んでいます。
「絶対使いたい人がいるはずだ!」と思って。
きっと、ここは、ご近所の皆さんの心の中に、いろんな想いと一緒に記憶されている場所だと思うんですよ。そこの一部をカフェとして改修して、貸し出そうと思ってます。
不動産として真面目に契約しようとすると、借り手のハードルが高くなってしまうから、日割りとか、週割りとかで、若手のクリエイターなんかに、気軽に貸し出せる場所にしたいなって。
WORK MILL:最後に、戸田さんから、がんばりたいけど、なかなか一歩が踏み出せない方に向けて、エールをお願いします!
戸田:僕はいつも、妄想をカタチにすることを考えています。その中には、当然儲けにならない、つまり、仕事(事業)として成立しないこともあります。
仕事じゃないから、しない、できない、っていうのは、会社のためを思えば、もちろんその通りなんだけど…世の中全てがそういった思想で覆われてしまうと、僕は、なんだかちょっと窮屈に感じてしまう。
仕事じゃないから、楽しいんですよね。
さきに述べましたけど、自腹を切ってでも、やりたいことってあるじゃないですか。僕は、たまにそういう発作が出たら、我慢できずに、チャレンジしてしまう。
なぜかというと、真面目にふざけて、いろんなことにチャレンジしておかないと、つまらない人生を送ることになるんじゃないかなって。予定調和の人生なんて、つまらないでしょ?
それに、自分の「妄想」を実現する場所や仲間が、会社の外にあるって、素敵じゃないですか?
嘘だと思うなら、まずは試してみたらいい。
今日のインタビューを聞いて、ちょっとでも僕の考えが「いいな」と思った人は、一歩踏み出してみてください。 「志」と「ちょっとばかりのお金」があれば、だいたいのことは、動き始めるから。
Open Innovation Biotope “Tie”から、戸田さんへ
Tie:これから、オカムラが世の中のために、できることって何だと思いますか?
戸田:これはどこの空間にも言えることなんだけど、オカムラが持っているオフィスづくりの計画と、入居者の想いが、いい感じに結びつけばいいなと思います。
もちろん企業だから、テナント料や、波及効果に触れずにはいられないんだけど、入居者の課題を丁寧に読み解いて、その課題を解消するための「ソフト」を中心に、オカムラが「ハード」を収めていくことが大事なんだと思います。
2022年4月取材
執筆:豊田麻衣子
撮影:重松 伸