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「ちゃんと座る」ってどういうこと? テレワーク時代に求められる身体と椅子の正しい使い方

最新チェア「Spher」の開発背景と機能性

続いてオカムラ・ワークプレイス製品部の杉山渉が、最新のタスクシーティング「Spher(スフィア)」の開発経緯や機能、デザインについて解説します。

杉山渉株式会社オカムラ オフィス環境事業本部 マーケティング本部 ワークプレイス製品部。2008年入社。製品の企画・開発を行うマーケティング本部にて、会議用のチェアやテーブル、ソファ等の企画・開発を国内外で担当。日本のグッドデザイン賞をはじめ、数々のデザインアワードを受賞。現在は執務用のシーティングを担当している。

杉山

近年、仕事の内容に合わせて時間や場所を選んで働く「Activity Based Working(ABW)」という概念が広がっています。とはいえ、自宅やカフェ、コワーキングスペースで仕事をしても、結局のところ一つの椅子に一日中座り続けるケースが多いのです。

そこで、なるべく面倒な調節機能をなくし、誰に対しても適切にフィットする椅子が必要ではないかと考え、Spherの開発を始めました。

杉山

今回、Spherの開発にあたって掲げたキーワードは

1. 誰にでも寄り添うフィット感
2. 調節機能の簡素化
3. 柔らかなデザイン
4. 環境対応(SDGsなど)

の4つです。

杉山

開発の前に、「近年は女性の社会進出や外国人ワーカーの増加など、椅子に座る人の体格差が広がっているのではないか」と仮説を立て、調査を行いました。具体的には、社員100名以上の身長・体重、腰からお尻まわりのカーブを計測し、現在使われている椅子との関係性を調べました。

その結果、多くの椅子は「大は小を兼ねる」で、比較的大きなサイズになっていることが分かりました。小柄な女性の体形にはフィット感が弱いのです。

杉山

そこでSpherには、魚の尾ひれのような内部構造を採用しました。座った人の体格に合わせて動き、体を包み込むような機構になっています。

男性や大柄な人でも、座ったときに形が広がり、背もたれと座面がなじむ構造なので、複雑な調整は必要ありません。

杉山

Spherは環境面にも配慮しています。2050年のカーボンニュートラルの実現をめざし、工場の設備やメンテナンス等の製品のライフサイクルでのCO2排出量を排出権としてクレジット化する「カーボンオフセットプログラム」を開始しました。

また、漁業で使われる網をリサイクルし、糸にして編み込んだ張り材をオリジナルで開発し採用しています。

そもそも椅子に座る姿勢は、人間にとって不自然

続いて、環境神経学研究所の藤本靖さんからは、身体と椅子の関係性や「アクティベーション」について解説していただきました。

藤本靖。環境神経学研究所株式会社 代表取締役。長野県立大学客員准教授、上智大学兼任講師。東京大学経済学部卒業。東京モード学園ファッションスタイリスト学科卒業。海外経済協力基金(現・国際協力機構)にて政府開発援助の業務に関わる。東京大学大学院身体教育学研究科修了。自律神経系の科学的探究とボディワーク実践の中から「快適で自由な心と身体になるためのメソッド」を開発。民間企業、研究機関、公的機関などと数多くの協業を実施。「脳幹リセットワーク~人間関係が楽になる神経の仕組み~」(講談社)など著書多数。

藤本

そもそも人間が座るのは、すごいこと。というのも、人間の身体は2足歩行を原則として作られています。つまり、椅子に座ることを想定されていない構造なのです。

立っている状態では、左右の足で地面を踏むことにより力が上にあがり、両側から骨盤を真ん中に集める力が自然と働いています。それにより背骨を支える力が生まれるのです。

しかし、座ると、太ももの骨が外へ流れてしまい、身体を支える力がなくなってしまいます。座っているときに足をブラブラさせたくなったり、あぐらを組みたくなったりするのは自然な反応。何もしないと、足の骨がどんどん外に流れていってしまうからです。

また長時間座っていると、外に流れていく足の重さに引っ張られて、骨盤周りの筋肉が引き伸ばされて固まってしまいます。いくら骨盤や背骨を良い位置にもっていこうとしても、中心に集まる力が起こらないと筋肉が緩まず、適切なポジションに入らなくなってしまう。

藤本

その点、Spherは座る人の骨盤に合わせてフィットするように作られています。包み込むような構造になっているので、太ももの骨を真ん中に集める力が自然に働くんですね。ここに座っていればいいんだ、という感覚がある。足裏からのサポートが骨盤を通して背骨に伝わるので、頑張らなくても支えられるのです。

イベント当日、登壇者はSpherに座っていた。

藤本

オフィスで問題となるのは、「一度座ると、立つことが面倒くさくなる」こと。つまり、立ったり座ったりする動きがスムーズにできる椅子であることが重要です。

人間の体を支えるために必要なサポートには2種類あります。一つは、腰痛のときに着けるコルセットのように、きちっと固めて守ってあげるサポート。もう一つは、長く座る椅子に必要な発想で、人間が本来持っている機能をうまく引き出してあげるサポートです。

優しく手を添えて、結果としてその人の中にある力を引き出す。それを「アクティベーション」と言います。

藤本

ふかふかのソファに座ると心地よいですが、「長時間座っていたら腰が痛くなってしまった」という経験がある人もいるのではないでしょうか。かといって、カチカチの椅子に座ると疲れてしまいます。

人間の芯にある力をほどよく引き出し、身体の内側で支える力に対してスイッチを入れる。椅子について考える際に重要なポイントは、人間の本質的な力を引き出すための「アクティベーション」だと思っています。