「ちゃんと座る」ってどういうこと? テレワーク時代に求められる身体と椅子の正しい使い方
最新チェア「Spher」の開発背景と機能性
続いてオカムラ・ワークプレイス製品部の杉山渉が、最新のタスクシーティング「Spher(スフィア)」の開発経緯や機能、デザインについて解説します。
杉山
近年、仕事の内容に合わせて時間や場所を選んで働く「Activity Based Working(ABW)」という概念が広がっています。とはいえ、自宅やカフェ、コワーキングスペースで仕事をしても、結局のところ一つの椅子に一日中座り続けるケースが多いのです。
そこで、なるべく面倒な調節機能をなくし、誰に対しても適切にフィットする椅子が必要ではないかと考え、Spherの開発を始めました。
杉山
今回、Spherの開発にあたって掲げたキーワードは
1. 誰にでも寄り添うフィット感
2. 調節機能の簡素化
3. 柔らかなデザイン
4. 環境対応(SDGsなど)
の4つです。
杉山
開発の前に、「近年は女性の社会進出や外国人ワーカーの増加など、椅子に座る人の体格差が広がっているのではないか」と仮説を立て、調査を行いました。具体的には、社員100名以上の身長・体重、腰からお尻まわりのカーブを計測し、現在使われている椅子との関係性を調べました。
その結果、多くの椅子は「大は小を兼ねる」で、比較的大きなサイズになっていることが分かりました。小柄な女性の体形にはフィット感が弱いのです。
杉山
そこでSpherには、魚の尾ひれのような内部構造を採用しました。座った人の体格に合わせて動き、体を包み込むような機構になっています。
男性や大柄な人でも、座ったときに形が広がり、背もたれと座面がなじむ構造なので、複雑な調整は必要ありません。
杉山
Spherは環境面にも配慮しています。2050年のカーボンニュートラルの実現をめざし、工場の設備やメンテナンス等の製品のライフサイクルでのCO2排出量を排出権としてクレジット化する「カーボンオフセットプログラム」を開始しました。
また、漁業で使われる網をリサイクルし、糸にして編み込んだ張り材をオリジナルで開発し採用しています。
そもそも椅子に座る姿勢は、人間にとって不自然
続いて、環境神経学研究所の藤本靖さんからは、身体と椅子の関係性や「アクティベーション」について解説していただきました。
藤本
そもそも人間が座るのは、すごいこと。というのも、人間の身体は2足歩行を原則として作られています。つまり、椅子に座ることを想定されていない構造なのです。
立っている状態では、左右の足で地面を踏むことにより力が上にあがり、両側から骨盤を真ん中に集める力が自然と働いています。それにより背骨を支える力が生まれるのです。
しかし、座ると、太ももの骨が外へ流れてしまい、身体を支える力がなくなってしまいます。座っているときに足をブラブラさせたくなったり、あぐらを組みたくなったりするのは自然な反応。何もしないと、足の骨がどんどん外に流れていってしまうからです。
また長時間座っていると、外に流れていく足の重さに引っ張られて、骨盤周りの筋肉が引き伸ばされて固まってしまいます。いくら骨盤や背骨を良い位置にもっていこうとしても、中心に集まる力が起こらないと筋肉が緩まず、適切なポジションに入らなくなってしまう。
藤本
その点、Spherは座る人の骨盤に合わせてフィットするように作られています。包み込むような構造になっているので、太ももの骨を真ん中に集める力が自然に働くんですね。ここに座っていればいいんだ、という感覚がある。足裏からのサポートが骨盤を通して背骨に伝わるので、頑張らなくても支えられるのです。
藤本
オフィスで問題となるのは、「一度座ると、立つことが面倒くさくなる」こと。つまり、立ったり座ったりする動きがスムーズにできる椅子であることが重要です。
人間の体を支えるために必要なサポートには2種類あります。一つは、腰痛のときに着けるコルセットのように、きちっと固めて守ってあげるサポート。もう一つは、長く座る椅子に必要な発想で、人間が本来持っている機能をうまく引き出してあげるサポートです。
優しく手を添えて、結果としてその人の中にある力を引き出す。それを「アクティベーション」と言います。
藤本
ふかふかのソファに座ると心地よいですが、「長時間座っていたら腰が痛くなってしまった」という経験がある人もいるのではないでしょうか。かといって、カチカチの椅子に座ると疲れてしまいます。
人間の芯にある力をほどよく引き出し、身体の内側で支える力に対してスイッチを入れる。椅子について考える際に重要なポイントは、人間の本質的な力を引き出すための「アクティベーション」だと思っています。