社員のカードゲーマー率が100%!? 共通言語で活性化する社内コミュニケーション(株式会社Sekappy)
「同僚との会話が業務連絡だけになっている……」
「職場でのコミュニケーションに壁を感じる……」
こんな悩みを抱えている方は少なくないでしょう。多くの企業が社内コミュニケーションの活性化に苦心する中、驚くべき方法でこの課題を解決している会社があります。
株式会社Sekappyは、オーダーメイド型のシステム開発・技術支援を行う企業で、特にトレーディングカードゲーム(TCG)関連のシステム構築を強みとしている企業。
最大の特徴は130名の全社員がカードゲーマーであることです。「同じ趣味」を軸に集まった彼らの職場では、コミュニケーションの質と速度が向上しているのだとか。
実際に社内ではどのようなコミュニケーションが交わされているのでしょうか? 同社取締役の佐々木大輔さんと執行役員の川崎慧太さんに伺いました。
佐々木大輔(ささき・だいすけ)
株式会社Sekappy取締役。編集者からキャリアをスタートし、株式会社ライブドア、LINE株式会社、SmartNews株式会社で要職を歴任。現在は会長室に所属し、TCG(トレーディングカードゲーム)のトータルコーディネート事業立ち上げに携わる。「マジック:ザ・ギャザリング(MTG)」歴は27年。2024年からは、ポケモンカードゲームで精力的に活動している。
川崎慧太(かわさき・けいた)
株式会社Sekappy執行役員・コーポレート本部長。2018年4月に同社に入社、現在は総務や経理、人事、法務などのバックオフィス業務を統括。MTG歴は15年以上で、カードゲーム専門店「BIG MAGIC – ビッグマジック」が運営するMTGのスポンサードチームに所属している。世界大会である「ミシックチャンピオンシップ・リッチモンド2019」出場や複数のグランプリで複数のグランプリでプレイオフ進出の実績を持つ。
カードゲームの戦略的思考がエンジニア力に直結
カードゲームに関わる事業をしているとはいえ、130名の社員の全員がカードゲーマーとは驚きです。
佐々木
ありがとうございます。なかには普段はあまりプレイしない人もいますが、トレーディングカードゲーム(TCG)業界の知識を持っていたり、イベントには参加したりと、本当に全員がTCGプレイヤーなんです。
これは、創業時から「カードゲーム好きであること」を必須の採用条件としてこだわってきたからです。
条件を限定することで、採用の幅が狭くなったりしないのでしょうか?
佐々木
そう思われるかもしれませんが、実際には非常に順調に人材を集めることができました。社員数は創業から3年で約70人まで増え、その後も年間10〜15人ペースで採用を続けています。
過去の採用では、リファラル制度の一環として、TCGの元祖である「マジック:ザ・ギャザリング(MTG)」で有名な1枚10万円近くする「デュアルランド」というカードを紹介者と内定者両名にプレゼントする採用施策などを実施し、TCGプレイヤーのなかででの話題になりました。
1枚で10万円……!?
でも、転職エージェントに頼むより、よっぽど安いですよね。
佐々木
そうなんです。
さらに、分かる人達にとっては「TCGについて理解のある会社」と認識され、企業文化を共有できる多くのカードゲーマーに入社いただきました。
カードゲーム好きがカードゲーム好きを呼んでいったんですね。
佐々木
そうですね。
あと、TCGは確率計算をしたり、行動を起こす前に選択肢を挙げて評価して、実行に起こしたりするなどの理系的戦略思考要素の集合なんです。
カードゲームプレイヤーにはそういった戦略的思考能力とエンジニアリングのスキルを持つ人材が豊富にいた。これが会社の成長を支える大きな要因となりました。
なるほど。確かに戦略思考は仕事でも絶対に使いますよね。
佐々木
また、タイミングも良かったと思っていて。2024年はTCGが誕生してから31年目。
ちょうど子供の頃からカードゲームに親しんだ世代が20代後半になり、転職をしようというタイミングに差し掛かっています。
子どもの頃にあこがれていた業界に、自分のスキルを生かして働けるということがうまくハマっている印象です。
部活があることで、深まる社員同士のコミュニケーション
社内ではどういったジャンルのカードゲームをしているプレイヤーがいらっしゃるのでしょうか?
川崎
創業当初は、会長の高桑がMTGの元プロプレイヤーとして活動してきたことや、MTGをメインに取り扱うカードゲーム専門店「晴れる屋」の立ち上げメンバーだったこともあり、MTGのプレイヤーのみを採用していました。
しかし、近年では「ポケモンカードゲーム(ポケカ)」や「遊戯王」、「デュエル・マスターズ(DM)」、「シャドウバース」など、さまざまなジャンルのTCGに興味を持つ社員が増えてきています。
あらゆるカードゲームを押さえていますね……。
川崎
カードゲーマーは複数のゲームを並行してプレイする傾向があります。
そのためMTGをプレイしていた社員が入社後にポケカを始めたり、過去に遊戯王をプレイしていた社員が周囲の影響で再び遊戯王を始めたりするケースもあります。
カードゲームの種類に応じてコミュニティがあるのですね。部活や同好会はどれくらいの種類あるのでしょうか?
川崎
現在は10種類の部活動と、それに近い数の同好会があります。
MTGに関しては、「競技マジック部」やMTG内で「統率者」と呼ばれるカードをキーとするデッキを使った「EDH部」など4つもあるんですよ。
川崎
TCG以外にも、ボードゲームや麻雀を楽しむ社員もおり、趣味の幅が広がっています。多くの社員が2、3種類のゲームを真剣にプレイしているのでジャンルの壁を越えて交流をしていますね。
毎週特定の曜日に集まってゲームをしたり、オンラインゲームではDiscordでコミュニケーションをとりながら毎晩プレイしたり。
1つの部活はどれくらいの規模なんですか?
川崎
さまざまですが、20〜30名が所属していて、アクティブなメンバーが10名前後という部活が多いです。複数の部活動に掛け持ちで所属することも可能です。
そういう部活は自然発生的に生まれているのでしょうか?
川崎
設立は主に社員の発案によるものです。たとえば、最近設立された「デュエル・マスターズ」の部活は、新卒入社の社員5名で立ち上げました。会社に申請を行い、承認を得て発足という流れです。
会社公認の部活になると、部員数に応じて毎月部費が支給されます。これを使って社内のゲーム大会や懇親会を実施したり。
なかには、何カ月分もの部費をプールしておいて、1泊2日でペンションに泊まるゲーム合宿を楽しんでいる部活もあります。
楽しそう……!
これは社員同士のコミュニケーションが活発になりますね……!
川崎
はい。同じ趣味を持つ人々が集まることで、コミュニケーションが取りやすく、相互理解も深まりやすいという利点があります。
採用活動でも、入社希望者にこういった活動があることはしっかりと説明しており、入社の決め手になることもあるようです。
なるほど……!
川崎
会社としても部活や同好会は、単なる趣味の共有以上の意味があり、弊社の重要な企業文化の一部だと考えています。
特に社会人になってからは、趣味を共有できる仲間を見つけることは難しいものですよね。
会社としてそのような機会を提供することで、社員同士のコミュニケーションを促進し、働きやすく、働き続けたい環境づくりにつながればと思っています。
共通言語で加速する仕事と課題
社員全員がカードゲーマーであることで、業務を進める上で何か具体的なメリットは生まれましたか?
佐々木
もっとも大きなメリットだと思っていることは、やはり「コミュニケーションの質と速度の向上」です。
TCGという共通言語があることで、社員間の会話がスムーズになります。たとえば、カードゲーマーの間では「メタゲーム」という言葉をよく使います。
メタゲーム?
佐々木
TCGでは、大会にデッキを持ち込む前に、「このデッキがよく使われているから、その対策カードを入れよう」という読み合いや駆け引きが発生します。
そのように「実際のゲームがはじまる前の、どういうデッキ選択をするか」を考えることを、メタゲームと呼びます。
そういう前提を考える場面は仕事でもありますよね……!
佐々木
はい。ある提案がどんなに魅力的でも、すでに市場に溢れていて新規性がない場合には「メタゲーム上、よくないね」と表現したりするんです。
こういった共通言語があることで、複雑な概念も簡潔に伝えられるんですね。
川崎
あと、ゲーマーはPDCAサイクルを回すことに慣れています。
大会参加を例にとると、仮説を立て、実践し、結果を振り返り、次の戦略を立てるというプロセスを繰り返し行っています。これはビジネスにも直接応用できるスキルです。
佐々木
社内でのあらゆる会話にゲーム用語や概念が浸透しており、それらが当たり前のように通じる職場環境は非常に居心地が良いものとなっています。
確かに自然体でいられそうですね。
川崎
共通の趣味があることで、お互いの考え方や行動パターンを理解しやすくなるので、人間関係もつくりやすくなりますね。
また、趣味と仕事が密接に関連しているので、仕事への熱意も自然と高まるんです。大きな大会がある際も有給休暇が取りやすいなど、趣味と仕事の両立がしやすい環境も整っています。
それは嬉しいですね……!
反対に、ほぼ全員がカードゲーマーであることで何かトラブルが起こる可能性もあるのかな、と想像しています。何か気をつけていることはありますか?
佐々木
強いて言えば、本当にTCGプレイヤーしかいないことで、TCGをそこまでプレイしない人にとっては少し居心地が悪いかもしれない、ということはあるかもしれません。
基本的にはTCGプレイヤーしか採用しないという方針は話してきた通りですが、普段からどれくらいプレイしているかはそれぞれです。
佐々木
そのため、入社後になって「本当にTCGプレイヤーしかいないんですね!」と驚かれることもあり、人によって馴染みづらい部分があるのかもしれません。
でも、Sekappyではそれでもなお同じカルチャーを共有する人材を採用することに重きをおいて、現在まで方針を変えていません。
「共通の趣味がある」を会社のストーリーにする
「趣味で従業員がつながる企業文化」には、すごく良いところがある一方、気をつけたほうがいいところもあるんですね。
改めて、この企業文化の中で働いているお二人にとって、この文化はどう感じますか?
佐々木
私は、2017年の会社設立時から社外顧問として関わっていますが、当初からアウトドアメーカーの「Patagonia(パタゴニア)」に似ていると感じていました。
パタゴニアは、社員全員が同じアウトドアのカルチャーを共有し、それが企業の強みになっているんです。
当社も同様で、カードゲームという共通の情熱を持つ社員が集まるという文化は、初めて聞いた時にも「なんだか上手くいきそうだな」と思いましたし、実際に強みになっていると感じます。
川崎
僕はこのカルチャーがあるから入社したという経緯なので、とても良い印象がありますね。
過去に働いていた職場では海外の大会出場のための有給休暇取得の理解を得づらいケースもありました。しかし、この会社ではそういったコミュニケーションコストがなくなり、非常にやりやすくなりましたね。
これからも、このカルチャーを一緒に育てていきたいです。
業種の異なる他の企業がSekappyと同じようなコミュニケーション設計をしようとしていた場合、どのようなアドバイスをしますか?
佐々木
まず「この趣味が好きな人が集まっている会社である」というストーリーを、ちゃんと表に出すことが大切だと思っています。
そして、その文化醸成を外注せず、社員が主体で行い、仕組みを構築していくこと。このようなループが大切と感じました。
ありがとうございます。最後に、会社として今後やっていきたいことについて教えてください。
佐々木
実は、ちょうどオフィスを移転したばかりなんです。今はゲストの方を招いてTCGの体験イベントや社内でのTCG大会などをやり始めたところ。
部活動や同好会での利用はもちろん、そういった形を含めて新オフィスをどんどん活用していきたいです。
ありがとうございました!
2024年8月取材
取材・執筆=西村重樹
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト