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海外企業の最先端のSDGsへ向けた取り組みとは? アジア諸国編 前編

国連によって定められた持続可能な開発目標、SDGsは企業活動はもちろん、学校教育でも取り上げられ、日本では大人から子どもまで誰もが知るところとなった。日本では主に日常生活に根ざした、小さな変化が多く見られるが、海外ではどうだろうか?今回は実際に自然環境、また人々の生活にもポジティブな変化をもたらしているプロジェクトを行なっている企業をアジア各地から紹介する。アジア諸国前編である今回は、17あるSDGsのゴールの中から、3つ、人の暮らしに関わる題材を選んだ。

No Poverty 「貧困をなくそう」

国連は2030年までにあらゆる国、地域での極度の貧困の根絶を目標にしている。現在、新型コロナウイルスの影響により貧困減少率が停滞してしまっているのが現状だ。

美的集団 (中国)

中国国内では昨今、国を上げて貧困削減に注力しており 、政策に関連したプロジェクトを立ち上げる企業も多い。電機メーカー、美的集団 (Midea Group) もそのひとつだ。同企業は地方活性化に対して特に力を入れており、行政の目の届きにくい遠隔地にある市町村の公共事業への投資を多く行なっている。

美的集団 2020年 Environmental, Social and Governance Reportより 頁101

例えば小さな集落の小学校のリノベーション。子供たちが清潔な場所で安心して学習に励むことのできるよう校舎を立て直した。

そのほか、これまでに中国全土にある同様の市町村で、神社仏閣の修繕や今まで有効活用されていなかったスペースを利用した公園づくりなどを手がけている。

Environmental, Social and Governance Reportより 頁105

ジョリビー (フィリピン)

フィリピンにおいて農業は非常に大きな産業であるにも関わらず、国内の貧困層の多くを農家が占めている。マニラ発の巨大ファストフードチェーン、ジョリビーは国内で生産された農産品を積極的に使用することで地元の農家の収入をサポートしている。

そのほか、農家に対して実施している職業訓練によって自社の使用する農産物のクオリティの高さの維持にも繋げており、共にwin-winの関係を作り上げている。人道支援を通じて自己の利益にもつながる理想的なプロジェクトである。

Jollibee Group Foundation ウェブサイトより

Zero Hunger 「飢餓をゼロに」

国連は2030年までに飢えで苦しむ子供たちが十分に栄養のある食事ができるようにすることを目標としている。また、2025年までには5歳未満の子供たち、妊婦や乳幼児を抱える母親、高齢者に焦点を合わせた同様の目標を提示している。(参考)

Yeremyan Project (アルメニア)

アルメニアは食料自給率が比較的高く、日々の生活に欠かせない食料品の5割以上を占めており、国内の生産に大きく頼っているのが特徴だ。

新型コロナの影響とアゼルバイジャンとの国境付近での紛争が重なったため、生産の運搬が停滞し、国内の食品流通が逼迫してしまっている。アルメニアの飲食店業大手、Yeremyan (エレミャン) Projectでは、自社店舗で提供する材料ほぼ全てを自家栽培し、国内における食糧不足の解消に貢献している。

さらに、運営している牧場で採れた牛乳を使用し「Milk in School (学校に牛乳を) 」プロジェクトを発足。国内の小学五年生から中学二年生までを対象にし、毎朝1瓶の牛乳を無償で提供している。

No Food waste(インド)

こちらはNGOになるが、とても価値のある活動であり、紹介したい。

インドでは現在約2億人が栄養不足に陥っていると言われており(参考)、飢餓と貧困は深刻だ。スマホアプリ、No Food wasteは余分な食べ物を持て余す個人や企業と、それを必要としている人々を繋げ、資源のフル活用を促進している。ユーザーは寄付された食べ物のデリバリーを、アプリを通じて無料で依頼することができる。

また提携する飲食店に専用の冷蔵庫が設置され、近隣の飲食店や食品店が余分な食品を保管することができるようにした。量や種類などはクラウド上で管理され、デリバリーされる食べ物はここからも提供される。

Quality Education 「質の高い教育をみんなに」

国連は2030年までに国、地域に関わらず全ての子どもたちが幼稚園や保育園に通い、小学校に通うための準備ができるようにする、ことを目標としている。また、職業訓練を含む高等教育に関しても、性別関係なく手頃な価格で受けられるようにすることも目標の一つである。

Sapa O’Chau(ベトナム)

ベトナムには54もの少数民族が存在するが、多数のハンデにより、国民の大多数を占めるキン族との間に深刻な教育格差が存在する。主な要因としては金銭的、地理的な制約や言語の壁が挙げられる。

少数民族によって運営されるツアー会社、Sapa O’Chauは、マイノリティの高校生たちに教育の機会を与える活動をしている。同社は、親にツアーガイドとしての雇用機会を提供し、子どもたちを学校に通わせるための資金を稼ぐ一方、得た利益で寄宿学校を建設している。

これにより生徒は毎日徒歩で10キロ以上地元の村から徒歩で移動する必要がなくなった。学校では、通常の授業のほか、特別にベトナム語や英語の授業も行なっており、卒業後は同社でツアーガイドとしても働くことができるようになっている。

プルタミナ (インドネシア)

インドネシアでは現在4割近くの子供たちが学校に行けていないと言われている。(参考) 。大手石油会社プルタミナ は質の高い教育に投資することが企業の社会的責任であると考え、エネルギー会社として教育を通じて環境に優しい社会の実現に取り組んでいる。

複数のプロジェクトの一つとして、インドネシアの人里離れた湿地帯にある地元の学校への太陽光発電設備の設置、島中の子どもたちが学校に通いやすいよう桟橋の建設、教員への指導などがある(参考)

プルタミナが行う学校教育を中心とした地域開発プロジェクトは、人材の質の向上と周辺の環境への配慮を通して地域社会やステークホルダー、企業自身にとっても利益になるような相乗効果をもたらしている。

多様性への注目も

東洋における取り組みを見ていく中で共通点があるとすれば、多くの国と地域で次世代を守ろうとする意識が見てとれたことである。環境問題せよ、食糧問題にせよ、今の大人の世代がどのように若い世代の環境を改善できるかという問いが根本にあるように思われる。また、各国のインクルーシブな姿勢にも注目したい。

日本だけでなく、世界中で多様性という言葉に大きな注目が集まる中、少数民族など、マイノリティに寄り添い生活する上でぶつかる障壁をなくしていこうという取り組みも多く見られた。社会における少数派の声はなかなか多数派には届かないからこそ、マジョリティが耳を傾ける努力をしなければならない。今回はアジア諸国における人の暮らしに関わるSDGsの取り組みをまとめた。

後編ではより規模の大きな環境問題に関わるSDGsを取り上げる。

テキスト:松尾舞姫