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リーマントラベラーの東松寛文さんが10年間81カ国の週末海外旅行から得られた「自分軸」の働き方とは

会社員は、自由に海外旅行をするなんて大変――そう思い込んでいませんか。自らを”リーマントラベラー”と称する東松寛文さんは、平日は広告代理店で働く傍ら、週末は世界中を旅しています。

入社当時は「会社員はまとまった休みがとりにくいから、海外旅行に行くのは難しいのでは」と思っていた東松さん。しかし、初めての旅行でその考えが吹き飛びます。

そこから訪れた国は、10年間で80カ国、181都市。あえて会社員のまま、縦横無尽に海外を旅する理由やコロナ禍での発見、そして旅が仕事に与える影響についてうかがいました。

―東松寛文(とうまつ・ひろふみ)
リーマントラベラー。1987年岐阜県生まれ。神戸大学経営学部卒。平日は広告代理店で働く傍ら、週末で世界中を旅する“リーマントラベラー”。社会人3年目に旅に目覚め、10年間で81カ国190都市に渡航。2016年、3カ月で5大陸18カ国を制覇し、世界一周を達成。“週末海外”のスペシャリストとして『地球の歩き方』から旅のプロに選ばれる。著書に『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』(河出書房新社)、『休み方改革』(徳間書店)、『週末だけで70ヵ国159都市を旅したリーマントラベラーが教える 自分の時間の作り方』(学研プラス)が日本&台湾で発売中。

旅行は心を回復させるツール

東松さんがリーマントラベラーになるきっかけはなんだったのでしょうか。

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東松

入社3年目、初めての海外旅行でロサンゼルスに行ったんです。入社3年目のとき、偶然アメリカのバスケットボールリーグNBAのチケットを手に入れ、4連休に1日有休を追加して、アメリカ旅行へ。「短い旅行でも満喫できる」と気づき、週末に海外旅行を行うようになりました。

それまで、「平日は仕事だけをするもの」という価値観を持っていたのですが、ロサンゼルスでは昼から人生を謳歌している大人がたくさんいたんです。「え!大人でもこんな生活をしてもいいんだ」と気づいたんです。

世の中にはいろんな人がいるのに、自分は「サラリーマン」しか知らない。もっと世界を見てみたいと、休日をフル活用して海外旅行をするようになりました。

旅の計画はどのように立てているのでしょうか。

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東松

仕事でのモチベーションが維持できるように、旅行に行くたびに、また次回の旅の予定を決めています。その場ですぐにチケットを取らないケースもありますが、目の前にご褒美があるほうが、僕は頑張れるので。

毎週のように海外に行く暮らしは、疲れないのでしょうか。

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東松

よく聞かれるのですが、旅行によって非日常を体験することで、気持ちのリフレッシュになっています。

僕の場合、家でダラダラしても、心のリフレッシュができないんです。旅行をすると肉体は疲れますが、それ以上に非日常の空間に出かけることで心が回復する。戻ってから「仕事を頑張ろう!」という気持ちになります。移動疲れのデメリットよりも、メリットが大きいのです。

コロナ禍では、海外へなかなか行けなかったと思います。その期間は、どのようにリフレッシュされていたのでしょうか。

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東松

今振り返ると、あのときも非日常を求めていましたね。「できない」と言われると、逆にテンションが上がっちゃうんですよ。だから「旅行はできない」と言われても、その代わりになる方法を探しました。

海外じゃない非日常として、近場のホテルに泊まって、住んでいる街を旅行感覚で歩いてみる。それだけでも、新しい発見があります。

ほかにも、外国料理のレストランや国内の外国人街へ行ったり。そういった場所では、道端にある張り紙も外国語で書かれていたりするわけですよね。僕はそれを見つけるだけで非日常を感じるタイプで。

横浜にあるコリアタウン(提供写真)

東松

それに、僕は海外ドラマを観るのも好きなのですが、ただ物語を楽しむだけでなく、そこから現地の人々の考え方や文化が学べますよね。そうやって過ごすだけでも十分、海外旅行に行く気分を味わえるんです。

どんな場所でも、視点を変えれば「新しい場所」になるんですね。

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東松

あと、コロナ禍以降、旅の目的をより強く意識して下調べするようになりました。

以前は、下調べせずに旅行されていたのですか?

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東松

はい、行き当たりばったりでした(笑)。

でも、今は違います。例えば、仕事で疲れ切って身体を整えるために旅行したいときは、安心できるハワイなどで非日常を楽しむなど、できるだけ刺激が低い旅にするようになりました。

目的や状況に合わせて行き先や予定を決めていくことで、旅で得られる効果も大きくなったと思います。

非日常を楽しむ(提供写真)

効果というのは、目的に対する効果ですか。ハワイの例でいうなら、たくさん体を休められたということでしょうか。

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東松

そうです。「なぜ、ここに行くのか?」と考えるようにしています。例えば、海外旅行に行ってドミトリーでさまざまな国の人と交流したい人は多いと思うのですが、僕はそれをやらないんですね。

ドミトリーに泊まるよりも、ビジネスホテルの個室でしっかり寝て、翌日の発見や気づきを得たいと考えるようになったのです。

ハワイにて(提供写真)

自分しか生み出せないことが好き。仕事も緩急をつけて

休日は心身を動かさないことで「休める」と感じる人も多いかと思いますが、東松さんの休日は異なるように見えます。

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東松

知らないことに出会ったり、発見や気づきが得られたり。これが、僕が休みに求めている「本質」です。

それがわかってから、ちょっと視点をずらして楽しみ方を見つけたり、コロナ禍でも日常を楽しんだりすることができるようになりました。

普段から、新しいことを見つけるのがお好きなのですか?

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東松

そうですね。根底にあるのは、「他の人と一緒であることがあまり好きじゃない」という気持ちです。僕にしかできないことを求めています。

仕事でもそうですよね。例えば、経費精算などの仕事は、やらなきゃいけないのはわかっているのですが(笑)、「自分ならでは」の仕事ではないため、あまり気乗りしません。

逆に、自分ではなくてはいけない、自分が求められていると感じる仕事は、テンションが上がるんです。

自分にしかできない仕事でテンションが上がるのは、リーマントラベラーをされる前も同じでしたか?

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東松

いいえ。旅をはじめる前と後では、仕事への取り組み方自体が変わりました。旅をする前は、どんな仕事にも全力の200%で取り組んでいました。「仕事=自分の人生への評価」だと考えていたからです。

でも、旅を始めてから、好きなことをするために早く帰ることを意識して、仕事に濃淡をつけるようになりました。通常の仕事では200%から減らしつつ、100%を少し超える101%で。その中でも特に自分の好きなことや、人生に必要なことに対しては120〜150%の力を入れて取り組んでいます。

それでも、すべての仕事に100%を超えるパワーを注ぎ込んでいるのですね! なかなかできることではありません。

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東松

自分がやりたいことを実現しながら、仕事をしているからこそ、チームメンバーをはじめとした職場の人間からの信頼を得ることは欠かせません。会社があるからこそ、リーマントラベラーでありつづけられているのですから。

(提供写真)

自分で決めることで愚痴がなくなる!?

仕事の濃淡をつけるようになったことで、仕事の成果や旅の部分で、どのような変化がありましたか。

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東松

これまで会社が全ての中心だった頃は、日曜午後になると会社のことを考えては不安になっていました。なぜなら、自分の人生の中心が仕事になっていたから。つまり、自分ではない他人軸で生きていたんです。

でも、自分のやりたいことを中心に据えて物事に取り組むようになり、判断軸ができたからか、不安になることはなくなりましたね。

休み方ひとつとっても、仕事に影響が出ないためのものだったのが、自分のための休みという位置づけに変わりました。

ほかにどのような変化があったのでしょうか。

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東松

仕事帰りに愚痴を言いながら飲むことがなくなりましたね。

それはすごいですね! でも、どうしてでしょうか。

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東松

かつてスポーツ選手を目指していた先輩がいたのですが、その方の働き方はストイックでかっこいい。なぜだろうと考えたら、スポーツを辞めて会社員をやると決意して入社しているんです。

僕自身、旅をする前は、就活をして、就職をして……と流れに身を任せていたので、「自分で今の状況を選んでいる」という認識がありませんでした。 その先輩にならい、「サラリーマンをしながら旅をする、と自分で選んでいる」と認識し直したことで、「この状況は自分で選んでいるのだから」と思えるようになり、愚痴もなくなりました。

会社中心から、自分を中心に物事を考える軸を変えたことでさまざまな変化が生まれたのですね。

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東松

自分軸を作ったことで、他人からの評価ばかりを人生の中心に据えることがなくなり、仕事も楽になったのだと思います。目標へ向けて走るスピードも上がっている、研ぎ澄まされているなと感じますね。

自分でやりたいことがあれば自分軸を作りやすいとは思うのですが、やりたいことが見つからない人もいるかもしれません。

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東松

まずは広い範囲で順番に選択肢を潰していくのはどうでしょうか。

広い範囲から消去法で消していった結果、手元に残るのが、きっと自分軸です。もし、違うなと感じれば、別のモノに変えればいいだけなのです。

社内の人間関係での影響はありましたか?

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東松

ありました。それまで僕は、どんな球にも応えてヒットや送りバントが打てるジェネラリストになる必要があると考えていました。

でも、どう頑張っても仕事の中に得意不得意があります。不得意なことを得意なことにするのは容易ではありませんし、ストレスも大きかった。

でも、自分軸ができたことで、苦手なことに注力するより、得意なことに注力してホームランを打つほうが楽しいなと感じるようになりました。

後輩への接し方も変化しました。もし後輩が失敗しても、そこは上司である自分がカバーすればいいだけ、と思えるようになったのです。ホームランをみんなで目指したことで、チームメンバー間でできないことをカバーし合うようになり、モチベーションもあがりました。

海外旅行をすると「自分らしさ」へのヒントが見つかる

東松さんは、海外旅行をしながら自分軸を見つけられたとのこと。非日常に身を置くことで、見えてくるものがあるということでしょうか。

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東松

非日常にいると、日常と比較して物事を考えることができます。自分らしさとはなにかを考えるためのかけらが、いっぱい落ちているんです。

僕は帰りの飛行機の中で、旅を振り返るようにしています。強みや弱み、自分らしさとは何かということを落とし込んでいくのです。

具体的にはどうやって振り返りを行っているのですか?

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東松

旅行中、興味を持った店や物などを写真で撮っておいているのですが、飛行機の中で「なぜこれに惹かれたのか」「なぜ買わなかったのか」と考えていくのです。そういった内省を繰り返すことで、眠っている自分らしさに気づくきっかけに出会えると思います。

旅で仕事のモチベーションを維持!

東松さんが旅をきっかけに、仕事に対する取り組みや考え方の軸ができたというのはすてきなお話だと感じました。

最後に、私たちが自分軸を見つけるために、どんなことをすればいいのでしょうか。

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東松

やはり、海外旅行がおすすめです。内省の材料がいくらでも見つかるので、自分のことを知れると思います。自分の得意不得意にも気付けるので、仕事でも役立ちます。

ちなみに、この取材後、ご家族で海外へ行かれるとか。

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東松

妻の母がバンコクに駐在していることもあり、育休を利用して短期的に家族で住んでみることにしました。子どもはまだ赤ちゃんですが、これからたくさんの選択肢を与えて、選べるようにしていきたいですね。

ありがとうございました。気をつけて行ってきてください!

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バンコクで育児休暇中の東松さん(提供写真)

2023年3月取材

取材・執筆=ミノシマタカコ
編集=桒田萌(ノオト)