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ちょうど良く振り返るには? 個人やチームの成長を促す「リフレクション(内省)」のコツ

「良い仕事がしたいなら、日頃からちゃんと振り返りを行うことが大切」と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

しかし、一人で振り返りをしようと思っても、失敗したことばかり思い出してしまい、なんだか自分を責めてしまう。気づけば「反省」に陥ってしまい、なかなか続かない……。

どうすればちょうど良く振り返りができるのでしょうか? そして、本当に正しい振り返りの方法とは? 今回は、振り返り=リフレクションの専門家・熊平美香さんに、成長につながる振り返りのコツを伺います。

―熊平美香(くまひら・みか)
昭和女子大学キャリアカレッジ学院長。一般社団法人21世紀学び研究所代表理事。ハーバード大学経営大学院でMBA取得後、金融機関金庫設備の熊平製作所・取締役経営企画室長などを務めた後、日本マクドナルド創業者に師事し、新規事業開発を行う。その後リーダーシップや組織開発、教員養成や教育ビジョンの形成に携わり、2015年に一般社団法人21世紀学び研究所を設立し、リフレクションの普及活動を行う。文部科学省教育再生実行会議高等教育ワーキンググループ委員、国立大学法人評価委員会委員、経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会委員などを務める。

過去の経験をジャッジしない。大切なのは心理的安全性

まず前提として、熊平さんの考える「振り返り」とはどんなもので、「反省」とはどう違うのでしょうか?

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熊平

私の思う「振り返り」、つまり「リフレクション」は、自分の内面を俯瞰的かつ批判的に振り返ることを指しています。「反省」との決定的な違いは、心理的安全性があるかどうかです。

反省は、自分の良くない点を思い返して「申し訳ない」「自分のせいで」と責めたり追及したりするので、ネガティブな感情に振り回されてしまいがちですよね。それだと、学びの機会にはつながらないと思うんです。

リフレクションの場合、過去の経験をもとにするのは同じですが、「成功も失敗も全ての経験に価値がある」という考え方をします。

大切なのは、過去からどう学ぶか。過去のためではなく、未来の自分のための知恵を生み出すことなんです。

確かに、「反省」は他者に対する配慮や後悔など、感情的なところに支配されているイメージです。

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熊平

どれだけネガティブな感情を抱いたとしても、過去に起きた事実は変えられないんですよね。

リフレクションで大切にしてほしいのは、その変えられない「現実」とありたい姿のギャップを見つめること。そして、どうしてそのギャップが生じているのかを理解し、次に生かすというマインドセットを持つことが重要です。

「自分は何もできないのだ」と責めるのではなく、理想とのギャップを客観的に見つめるわけですね。

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熊平

そうです。そのために大切な方法が、「認知」です。「認知」には、次の4つのステップがあります。

1:「〇〇はこうだ」と「意見」を提示すること。
2:その考えに至る背景となった「経験」を思い返すこと。
3:その経験に対してどんな「感情」を抱いたのかを言語化すること。
4:それらの経験や感情から「価値観」を導き出すこと。

私たちが何か行動するとき、その背景には「感情」や「価値観」が絡んでいます。「これが大事だから、この行動を取ろう」と判断している。つまり、感情から行動まですべてつながっている。

リフレクションは、その「大事にしているものは何か」を導き出す作業なんです。

供:一般社団法人21世紀学び研究所

ネガティブな感情は価値観をあぶり出しやすい

振り返っているうちに、感情に支配されてしまい、結果的に「反省」になってしまわないか不安です。感情に振り回されないコツはあるのでしょうか?

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熊平

自分の感情を俯瞰的に認知し、言語化することです。意見を述べる機会に比べて、感情を言語化する機会って意外と少ないですよね。

物事に対して、自分がどんな思いを抱いているのか。うれしいのか、残念なのか。そうやって、あえて感情を言葉にすることで、どうしてその気持ちが生じたのか、背景が見えてきます。

例えば、「どうしてこの時に緊張してしまったのか」。それを言葉にして理解することで、次に緊張しそうなシーンを予測できるようになるんですよ。

振り返っている肯定するわけでも否定するわけでもなく、「ただそこに、こんな感情が存在する」と認識するイメージでしょうか?

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熊平

その通りです。ネガティブな感情をなかったことにするのではなく、それすらも受け止めるのが大切です。

実は、ネガティブな感情の方がリフレクションに活用しやすいんですよ。

ネガティブな感情の裏側には、「自分がこうありたいのに、そうではない」「目の前に存在することは自分の望んでいることではない」といった願いと、それに対する裏切りが存在するんです。そこで改めて、自分が何を大事にしているのかに気づけますから。

結果が良し悪しにかかわらず、その受け止め方を変えて昇華させることで、どんなチャレンジも楽しくなると思いますよ。

リフレクションには、自分を変える力でなく、行動も変える力があるんですね。

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熊平

そうなんです。私は、リフレクションには5つの目的があると考えています。

1つ目は、自分を知ること。
2つ目は、ビジョンを形成すること。
3つ目は、経験から学ぶこと。
4つ目は、多様な世界から学ぶこと。
5つ目は、過去の経験を手放すこと。

これらの目的でリフレクションを行うことで、自分の内発的な動機が見えてきます。それがわかっていると、モチベーションが下がったときも、どこかで元に戻しやすくなる。

もしうまくいかないことがあっても、次に自分の進む方向を自分で選べるようになりますよ。

多様な世界から学び、時には価値観を手放すことも

俯瞰的に自分の経験や感情を見つめる、いわゆる「メタ認知」は、方法を間違ってしまうと、あまり良い振り返りにならないのではないかと心配です。

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熊平

そんなときは、積極的に手放す行為「アンラーニング」をおすすめします。

「何かにとらわれているな」と感じたときは、「自分らしさ」にとらわれているとき。良いものとされているはずの「自分らしさ」は、時にはネガティブな影響をもたらすこともありますから。

供:一般社団法人21世紀学び研究所

熊平

例えば、普段から「誠実でいなければ」と振る舞っている人は、他者に対して真摯に向き合えるという良さがありつつ、不誠実な物事に対して厳しくなり過ぎてしまうかもしれないですよね。

私の場合は、「変化が大好き」という価値観を持っているのですが、逆に停滞が苦手で……。変化を好む気持ちは、何かを変革させるときに大切ですが、立ち止まる必要があるシーンを見逃すこともあるわけです。

俯瞰的に自分のでも、今まで「自分らしさ」だと思っていたものを手放すのは、少し怖い気もします。

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熊平

そうですよね。変化によって得られる楽しみは見えにくく、価値観を手放すことで別の何かも手放さなければいけない「恐れ」を感じてしまう。

でも、今は過去の価値観を手放す力が求められている時代だと思います。変化が速い世の中で、「毎日同じことを繰り返して生きています」という人の方が少ないですし、過去のやり方は既に通用しない時代になっていますから。

これは、企業内部でもよくあることです。価値観を手放すと、その考え方で得られた自分の立場を失いそうで怖い。でも、その価値観が弊害になって本人や組織の成長が止まっているのに、何も変わらなかったり。

世の中には、「大人になると変われない」という強い思い込みをもっている人もいますよね。それは「変わることで自分が損する」ことを恐れた人の広めた考え方なのではないか、と私は思うんです。

過去の価値観を手放すことは、自分の立場を失うことだけでなく、「これまでの自分自身を否定された」と感じる人も多そうです。

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熊平

そう思うのも無理はありません。でも、よく「過去の経験を手放せ」と言いますが、自分の成功経験まで手放さなくていいと思っています。

過去の成功や成果は、誰にも変えられない事実。重要なのは、そこで形成された価値観を切り離すこと

自分のこだわりを理解して、何を手放すべきなのかを認知する。ちょっとずつでもいいんです。こうした「アンラーニング」を行うことで、新たな成長につながりますよ。

供:一般社団法人21世紀学び研究所

お話を聞いていると、仕事の成果は自分自身の能力だけではなく、「物事への見方」や「価値観」にも左右されるのだなと思います。

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熊平

その通りです。仕事を行うプロセスに「What」「How to」「Why」があるとします。これまでは、「What」と「How to」が重要視されてきました。何をするのか、どうやってするのか。

しかし、今は「Why」から組み立て直すことが求められる時代。一人ひとりの選択肢が増えて、決断する機会が増えたからこそ、なぜそれをやるのか、なぜそれが大事なのかを考える必要があるのです。

ただ、独力で価値観を手放すのは大変そうですね……。

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熊平

そんな方は、一人ではなく誰かと一緒にリフレクションをするのをお勧めします。

誰かと一緒にリフレクションをすることは、多様な世界から物事を学ぶ行為です。自分の内面と向き合って、導き出した価値観の評価判断を保留にして、その上で相手の感情や価値観を聞き取る。

提供:熊平美香さん

熊平

私たちは、経験したことに対して、自分の思考で意味づけを行います。例えば、他者とトラブルがあったときに、「相手が悪かった」と思うのか、「自分の言い方が良くなかった」と思うのかも、その人の認知によって大きく変わります。

これは一種の「偏見」でもあるんですね。ある研究者によると、私たちの脳は1秒あたり1100万ビットの情報を受け取っているのに、意識的に認知している情報量はたったの40ビットだそうです。

つまり、自分でも気づいていない潜在的な認知が無数に存在するわけです。そこをどれだけがんばって認知しようと思っても、一人では限界があります。だから他者の力が必要なのです。

チームでリフレクションをして互いの価値観を浮き彫りに

一緒に働くチームのメンバーと一緒にリフレクションをするときに、大切なことを教えてください。

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熊平

チームのビジョンを共有する場合は、上司やリーダー自身の原体験や価値観もセットで伝えてください。

ビジョンには誰かの原体験や、それに対する喜びや怒りなどの感情が紐づいているはず。

だからこそ、ビジョンを誰かに伝える役割の人は、「自分はこんな体験と感情があって、これを大切だと思っているから、こんな未来を目指したいんだ」と伝えるといいと思います。そうすれば、メンバーの中に共感が生まれるでしょう。

熊平

その後、さらに大切なのが各々のメンバーで対話し合うこと。リーダーだけがビジョンを語るのではなく、誰もが「私にとって、どうしてこのビジョンが大切なのか」「私にとって、ビジョンを実現することに、どんな意味を持つのか」を一人ひとりがリーダーと同じように体験と感情を交えて語ることが大切です。

すると、同じビジョンなのに、各々の違う経験が紐づいてくる。それぞれの経験と感情の背景には価値観があるため、経験をより具体的に聞き合うことができると、互いに何を大切にしているかがわかってきます。

対話をすることで、誰もが自分の動機の源とビジョンを結びつけることができ、ビジョンを自分ごとにすることができるのです。

一緒に働くチームのメンバーと一緒にリフレクションをするときに、大切なことを教えてくださ今はリモートワークも進み、チームづくりに一層の難しさを感じている方が多そうです。

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熊平

リモート環境だからこそ、チームでのリフレクションをおすすめします。お互いの価値観を知ることで、人となりがわかり、メンバー同士の距離が縮まりますから。

リフレクションをしないままだと、そもそも自分にどんな思い込みがあるのかも気づけず、「これはこうあるべきだ、以上」という思考になってしまうこともあります。

しかし、複数人でリフレクションをやることで、「自分もいろんな人のうちの一人に過ぎない」と気づくんです。相手が正しいとかおかしいのではなく、自分も正しくておかしい。そして、不思議と他者を愛せるようになりますし、多様性の理解へもつながります。

方向性を理解しながら一緒に物事を進める必要のある人と行うと、普段の仕事にも良い影響がありそうですね。

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熊平

そうですね。日頃からともに意見を出し合い、それを「良い」「悪い」でジャッジせずに合意形成をしていく必要のある間柄なら、ぜひやってほしいですね。

また、チームの仲を深めるのではなく、「自分の器を大きくしたい」と思っている方なら、自分が違和感を覚えている相手とリフレクションをするのが非常に効果的です。

自分の未経験ゾーンに入っていく体験ができ、見ている世界が広がっていくと思いますよ。

リフレクションは、個人の学びと成長だけでなく、誰かを理解したり、チーム単位で成長できたり……活用できるシーンがたくさんありそうです。

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熊平

はい。リフレクションをすると、自分の気づかない潜在的な力に気づくことができるんです。

自分の道を切り開いていきたい、未来を作るために意図的に行動したい、自分の能力を超えた力がほしい。大なり小なり答えのない問題に向き合わざるをえず、行き詰まってしまった人。そんな方は、ぜひ定期的にリフレクションを行ってみてください。

2022年8月取材

取材・執筆:桒田萌(ノオト)
編集:鬼頭佳代(ノオト)