もっと、ぜんぶで、生きていこう。

WORK MILL

EN JP

「循環することが当たり前で心地よいと思える未来に」リユース容器シェアリングサービス「Megloo(メグルー)」を展開する善積真吾さんと考える、環境にやさしい身近な選択

ほんの短い時間、食べ物や飲み物を運ぶためだけに使われ、一度使ったらすぐに捨てられてしまうテイクアウト用のプラスチック容器。「これ、もったいないな」と感じたことがある人もいるのではないでしょうか。

そんな容器を地域の飲食店などと連携することでリユースをするシェアリングサービス「Megloo(メグルー)」を展開するのが株式会社カマン。鎌倉から始まった小さな循環は現在、イベントなどの形でも各地に広がりつつあります。

今回は、地域の資源循環と環境課題に挑むカマン代表・善積真吾さんに、「Megloo」のビジネスモデルや目指す未来、サステナブルな事業の広げ方・共創について伺ってきました。

善積 真吾(よしづみ・しんご)
株式会社カマン代表取締役。慶應義塾大学理工学研究科(修士)卒業後、2005年にソニー株式会社へ入社。新規事業開発や新規事業創出プログラム立ち上げに参画したのち、2020年11月に地域循環型社会構築のため株式会社カマンを創業。テイクアウト用の使い捨て容器削減のため、地域共通のリユース容器シェアリングサービス「Megloo(メグルー)」を立ち上げる。廃棄プラスチックを無くす国際アライアンス(Alliance to End Plastic Waste, 略称AEPW)による初の日本国内プロジェクトに選出。

環境配慮だけでなく、コスト・使いやすさ・見た目もあってこそ

本日はオフィスのある鎌倉にお邪魔しています。まず、容器のシェアリングサービス「Megloo」の仕組みについて教えていただけますか?

善積

基本的な流れは、「Megloo」を導入しているお店で食事をテイクアウトしていただき、食べ終えた後に容器を街やお店にある返却ボックスへ戻してもらうというものです。

その後、回収してお店に戻し、食洗機を使って洗浄します。

提供画像

善積

貸出時と返却時に利用者にQRコードを読み込んでもらうことで、容器の場所を把握しています。

鎌倉では就労支援施設B型事業所とパートナーシップを結んでおり、回収のお力添えをいただいています。

容器の場所が把握できるのはいいですね。

善積

現在は「ローカルモデル」といって、苫小牧・栗山町(北海道)、袋井市(静岡県)など全国に8カ所、各地域約3〜10店舗ずつで回す循環モデルをつくっています。

さらに渋谷や中野、麹町などでは、キッチンカーと連動する形で展開しています。

実は取材前に「Megloo」の導入店舗でもある鎌倉の「YUKA-GOHAN(ユカ ゴハン)」でランチをテイクアウトしてきたんです。店主のYUKAさんにも「Megloo」の感想を伺ってきました。

鎌倉・材木座で無農薬・自然農法の農家さんの直送野菜を使ったメニューを提供する「YUKA GOHAN(ユカ ゴハン)」。

YUKA

2021年ごろから利用しています。

「Megloo」の容器はなんといっても料理がおいしそうに見えるところが気に入っています! フォルムもカラーもかわいいですよね。

YUKA GOHANのガパオライス。「Megloo」のナチュラルなカラーが、色とりどりで鮮やかな料理をより引き立てる

実際に購入してみて分かったのですが、蓋もしっかりと閉まるので、持ち運ぶときも安心ですね。

善積

ありがとうございます。紙容器だと、湿ってふにゃふにゃになってしまったりするんですよね。

それに比べて、「Megloo」の容器はしっかりしていて保温性もあることを評価いただいています。

容器サイズは5種類ほどを用意。電子レンジや食洗機の使用も可能でありながら、500回以上使える耐久性も備える。スタッキング可能なものも。

現在はイベントでも導入されているんですよね?

善積

はい、イベント終了後に使用済み容器を洗浄施設に送ってもらい、洗浄したうえで次のイベントに再配布するという仕組みです。

食べ終わったら、会場内に設置されたボックスにリユース容器を返却してもらっています。

一般層にも、認知が広がっている実感はありますか?

善積

数年前と比べると、全然違いますね。たとえば、鎌倉市で開催されているイベントの場合、リユース容器を利用するケースが増えてきました。

公園などの市の公共施設で開催されるイベントにおいては使い捨てプラスチックが禁止されており、リユース容器を導入すれば補助金が出る制度なども後押しになっていますね。

それはすごいですね……!

善積

鎌倉やその周辺の地域は、特に意識が高い印象です。

たとえば、横須賀・逗子・葉山・藤沢・辻堂・茅ヶ崎・平塚・小田原など湘南エリアのイベントではリユース容器の導入がかなり進んできました。

一度使うと、見え方が変わるのかもしれませんね。

善積

最初は「環境意識の高い人が集まるイベント」での導入から始まったのですが、そこに参加した人が増えることで湘南が「意識の高い人が集まるエリア」へと変わり、地元のお店でもリユース容器を使うように人々の意識が変化していると感じます。

最近は、「『Megloo』を導入しているお店なので来ました」と話してくれるお客さんが一定数いらっしゃるそうで、そういったお声はとても嬉しいですね。

身近に捉えにくい環境問題、それでも何かできることがありそう

ソニーで数々の新規事業を手がけた善積さんですが、なぜリユース容器という分野に挑戦されたのでしょうか?

善積

学生の頃から秘境が好きで、世界中の自然豊かな土地に旅するのが趣味でした。ですが、どこに行っても環境問題と隣り合わせだったんです。

ボリビアのウユニ塩湖の周りにはプラスチックごみが散乱していたり、モンゴルの草原が1年単位でどんどん砂漠化していたり……。

そうなんですか……。

善積

都市ではあまり身近に感じない環境問題が、自然に近い場所ではリアルに迫ってくる。

「これは何かしなきゃ!」と感じていたのですが、当時はビジネスとして成り立たせるイメージが持てませんでした。

それで、卒業してからはソニーに入社し、全自動カメラロボットの開発や新規事業の立ち上げなどに携わりました。その中で、環境への意識もだんだん薄れていきましたね。

新製品開発事業を行う一方で、欲しいモノがなくなっていた自身にふと気づくこともあったそう

何が変化のきっかけに?

善積

3歳の息子が道端でごみ拾いをしている姿を見たんです。最近はゴミの話なども保育園で聞くそうで。それで、「大人として何かもっとできないかな?」と改めて考えるようになりました。

ちょうど、テイクアウトやデリバリーの機会が増えていたコロナ禍になったばかりの時期。弁当容器のごみが山のように積み上がっているのを見て「なんだかもったいないな」とも感じていたんです。

日常の中にある疑問や違和感が積み重なっていたんですね。

善積

その頃は在宅勤務になったので、少し時間に余裕があって。

試しに鎌倉のテイクアウト情報をまとめたサイトを個人で作ってみたところすごく多くの人から反響をいただいたんです。

当時、多くの人が必要としていた情報でしたよね。

善積

その中で印象的だったメッセージが「自分の容器を持ち込める店を紹介してほしい」という問い合わせでした。

最初は「ニッチな要望だな」と思ったのですが、調べてみると日本では年間約800万トンのプラスチックごみが出ていて、そのうち半分が容器包装らしくて。さらに、その4分の1が、弁当やカップ類だと知りました。

えっ、そんなに!

善積

多いですよね。そのデータを知って、私自身も「このまま使い捨てプラスチックを続けていいのか?」という気持ちが強くなりました。

容器の持ち込みがもっと普及すればと思ったのですが、実際に飲食店に話を聞くと課題が多かったんです。持ち込まれる容器のサイズや形がバラバラで盛り付けが難しかったり、衛生面やオペレーションでの不安があったり……。

たしかに。カフェにマイボトルを持ち込むよりは、ハードルが高そうです。

善積

それを聞いて、「共通のリユース容器があれば負担を減らせそう」と考えました。調べてみると、海外でリユース容器を使った取り組みがあって。これなら日本でもやれそうだと思い、2021年8月からクローズドで実証実験を始めました。

結果はどうでしたか?

善積

利用者は返却の手間があっても使ってくれるのか、飲食店は洗浄の手間があっても参加してくれるのか、そして自分たちのオペレーションが回るのか。

この3点を検証したところ、いけそうだったので、「Megloo」の立ち上げを決めました。

ローカルなつながりから伝えていく、利益も含めてサステナブルな選択を

新しい取り組みなので、実証実験の協力店舗を探すのも大変そうですね。

善積

最初は、環境配慮されている顔見知りの鎌倉のお店に「こんなことをやろうとしています」と声をかけたら、「実験だったらいいよ」と言ってくださって。

実証実験を重ねる過程で、課題を解消しながらオリジナルのリユース容器を開発していったという

ちなみに、鎌倉ご出身ではないと伺いましたが、どういったきっかけでいらしたんですか?

善積

子どもが生まれたタイミングで引っ越してきました。自然や文化があって、東京にも通える場所を調べていたら鎌倉がいいなと思って。

実際に住んでみると皆さんオープンマインドだし、田舎と都会の間のほどよい感じが心地よいんです。

さらに、おしゃれな雰囲気もあって魅力的な街ですよね。

善積

鎌倉は市民をはじめ、事業者も行政も環境問題に関して皆さんとても熱心な地域なんですよね。

海や自然が好きで引っ越してくる人も多いので、海洋プラスチック問題の取り組みとしてゴミ拾いをされている方も多くて。そういった地域性もあって受け入れてくださったのかなと思います。

広めていく時はどのように?

善積

押し付けるのではなく、問い合わせベースで興味を持ってくれた人たちに広めていったり、実際に使って満足してもらって他の人に薦めてもらったり。

人とのつながりは私自身も大切にしていますね。

たしかにグイグイ来られると引かれちゃうこともありそう……。

善積

そうなんですよね。現在でも「サステナビリティはお金がかかる」という印象は根強いと思っています。

実際に使い捨てプラスチックと比べて、リユース容器は2倍のコストがかかることもある。そうするとなかなか普及していくのは難しいと思います。

飲食店を経営する事業者の方には大きな負担ですよね。

善積

「Megloo」のローカルモデルでは、サブスクリプション形式で容器を貸し出しています。

たとえば、容器1個を100円で貸した場合、洗浄をして4回使えば1回あたり25円。こうなると、使い捨て容器とコスト的にほとんど変わらなくなります。

なるほど!

善積

以前、ヨーロッパのサッカーチームのサステナビリティ担当の方が「環境のために活動するのは地球人として当然のこと。こういう活動をしているからこそ、いいスポンサーがついてくれる」と言ったのが印象的で。

素敵な言葉ですね。

善積

そういう考えがあるからこそ、そのチームは安価な使い捨てカップはあえて使わず、サステナブルな選択をしている。

すると、結果的に志を共にする企業がスポンサーとして参画し、お金の循環も生まれていった。そんな話を聞いて、日本でも同じことができるんじゃないかと思いました。

善積

経済を無視して環境だけ押し付けても続かないし、経済だけ追い求めても続かない。

長期的に持続可能なビジネスをどうつくっていくか。そんな視点が日本でももっと広がっていけばいいなと思います。環境問題も利益も同じ目線で捉える必要があるんじゃないかな、と。

使い捨て容器はもちろん、限りある資源が「巡る」ように

実際にサービスを始めてみて、利用者から印象的な反応はありましたか?

善積

使ってみると、なんだか普通だね」と言われます。借りて、食べて、返す。これってなかなか当たり前な感じがするし、そんなに違和感がないよね、と。

よく考えれば、フードコートなどでは当たり前に返却しますもんね。それのテイクアウト版というか……。

善積

いいたとえですね。今、世界では使い捨てプラスチック製品の禁止や規制が進んできています。

そのため、多様なサービスがある環境先進国に憧れていたのですが、実際に現地を訪れてみると道端にゴミが落ちている光景も珍しくないんですよ。環境意識の高い人は多いのに。

そうなんですか!

善積

一方で、日本は分別が完璧です。さらに街中にゴミも落ちていないし、公共トイレも綺麗に使っていますよね? 「Megloo」のようなリユース容器も、海外と比べて返却率が高いし、綺麗に使って返してくれます。

モラルは最高なのに、環境意識は高いと言えないのがもったいなくて。

環境意識とモラルの両方が高い状態がつくれるのが理想なんですね。

善積

そうなんです。

カマンでは「2030年までに容器包装10%をリユースに」という目標を掲げています。今は少しビハインドしていても、日本が欧州を追い越してむしろ環境先進国になっている未来もありえるのではと考えています。

高い目標ですが、今はそのためにどういう広め方を?

善積

いろんなイベントでリユース容器を使っていただいていますが、サッカー以外のスポーツにもどんどん広げていきたいですね。

まずはイベントでリユース容器シェアリングの存在を認知してもらって、街中にもどんどん広げていきたいです。

まずはレストラン、そしてオフィス全体に広げていきながら、2030年にはコンビニやスーパーのお弁当やお惣菜の容器もリユースしていける仕組みを作っていければと思っています。

私たちが容器包装を減らすために、日頃からできるアクションはありますか?

善積

お客さんから「リユース容器を入れてほしい」という声があると、飲食店さんもOKしてくれるケースが多くて。

やっぱりお客さんからの一言って大きいんですよね。皆さんが喜んで使ってくれてそれが巡ってサービスを良くしていくことにつながるのかなと思います。

地球の資源を守っていくというと少し壮大に思えてしまうかもしれませんが、「身近なことから考えていく」という意識が大事ですよね。

善積

そういう意味では容器包装の10%をリユース容器に変えていくという目標は微々たるものなんです。

やらなきゃいけないことではあるけれど、これだけやっていてもしょうがない。循環させなければいけないものはたくさんあるので、さまざまなものが巡る社会にしたいです。

起業のきっかけとなった息子さんから今では「パパは世界のゴミを減らす活動をしている」と認識されているそう

善積

「日本と同じ水準で世界中の人が暮らすとしたら、地球3個分の資源が必要になる」と言われていますが、持続可能な世界にしていくには実際にアクションしていく姿勢が大事だと思います。

イベントでご一緒するサッカーチームの方が「環境問題の一番の敵は『誰かが解決してくれると思っていること』だ」と言っていました。本当にその通りですよね。

誰かではなくて、自分たちで解決していく。その考えが広まっていくといいですね。私もできることからやってみようと思いました。

善積

「Megloo」を使ってくれた人にアンケートを取ると、約7割の人が「環境意識が変わった」と答えてくれるんです。

実際に使ってみてリユースの仕組みを知ってもらって、そこから意識が変わり、自然と環境にいいアクションが取れるように変わっていく。

その先に、「循環することが心地よいよね」と当たり前に思える社会に繋がっていったらいいなと思います。

2025年6月取材

執筆=矢内あや
撮影=森カズシゲ
編集=鬼頭佳代(ノオト)