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まちの議員と話せる「まちのBAR」に潜入! 対立ではなく対話が生まれるフラットな場作りとは?

みなさんは「議員」と聞いてどんなイメージを思い浮かべますか? 自分には関係ない、遠い存在だと距離をとってしまう人もいるかもしれません。

今回は神奈川県茅ヶ崎市で行われている「まちのBAR」をご紹介します。これは、茅ヶ崎市の市議会議員がBARのマスターになり、市民と対話する取り組み。政党や会派を超えて、フラットな交流がほぼ毎月行われていると言います。果たして本当にそんなことは実現できるのでしょうか?

「まちのBAR」を企画したコワーキングスペース『Cの辺り』を運営する池田一彦さんと、茅ヶ崎市の市議会を8年以上傍聴し「まちのBAR」のママとして協力している藤池香澄さんにお話しを伺います。

「すべての議員さんを応援します」

2024年11月開催の「まちのBAR」の会場、コワーキングスペース「Cの辺り」にお邪魔しました!

今日は実際に「まちのBAR」を体験しに茅ヶ崎へ来ました。

楽しみな反面、議員さんがマスターをやっているBAR……。なかなか今までにない場所なので、ちょっと緊張します。

池田

政治ってどうしても「タブー」な部分がフォーカスされてしまいますからね。

「まちのBAR」はカジュアルな雰囲気なので、緊張しなくても大丈夫ですよ!

そうなんですね。まず「まちのBAR」とは何かを教えていただけますか?

池田

「まちのBAR」は、議員がBARのマスターとなり、市民にお酒を提供する取り組みです。2023年7月からほぼ毎月開催しているんですよ。

会場は、私が運営するコワーキングスペース『Cの辺り』や茅ヶ崎市内の飲食店などです。1回で3〜4人の議員さんがマスターとして参加してくれています。

池田一彦(いけだ・かずひこ)さん。2000年よりアサツーDK、2009年より電通と複数の広告代理店を経て、2021年より株式会社 be代表。「すべての仕事は実験と学びである」をモットーに、事業開発からコミュニケーションデザイン、UX設計まで幅広いレイヤーのディレクションを手掛ける。現在は地元茅ヶ崎にて、コミュニティスペースを拠点に地域発の社会システムをつくるべく、さまざまな活動を行っている。

議員さんは、政党などに関係なく集まるのでしょうか?

池田

はい。政党や会派に関係なく来てくれます。僕たちが掲げているのは「すべての議員さんを応援します」なんです。

誰がいいとかではなく、「こんなまちがいい」という対等な視点で語り合うことを大切にしています。

言葉ではわかっていても、実現するのは難しそう……。

池田

議員さんって「先生」って呼ばれることがありますよね?

無意識の中に、議員さんが上、市民が下という上下関係が生まれてしまう。気軽に話せない、距離があって当然と思っているのかもしれません。

確かに、あまり親しみがあるという印象はありません。

池田

でも、議員も同じ市民なんですよ。BARという空間を共有することで不思議と対等になれちゃうんですよね。

住んでいるまちの議会を傍聴しないなんてもったいない?

池田

あとはやっぱり、ママの存在も大きいんです。「まちのBAR」の開始当初からママとしてお手伝いしてくれている藤池香澄さんです。

藤池

藤池香澄です、よろしくお願いします。

藤池香澄(ふじいけ・かずみ)さん。2016年より茅ヶ崎市の議会傍聴を始め、2018年より「ギカイにいこう~茅ヶ崎市議会傍聴ツアー」を開始。現在は、フリーランスとして働きながら「まちのBAR」のママとしてイベントの運営に携わる。

池田

香澄さんは、茅ヶ崎市の市議会を8年以上も傍聴していて、2018年頃から「ギカイにいこう~茅ヶ崎市議会傍聴ツアー」を無料で実施されているんですよ。

藤池

あの〜、ちなみに議会って傍聴したことありますか?

……ありません。そもそも傍聴できることも知りませんでした。

藤池

もったいない!

茅ヶ崎市の市議会は3の倍数月に開催されると決まっていて、一般質問や委員会などいろんな話し合いが開かれています。スケジュールも、ネットで公開されているんですよ。

へえ!

藤池

まずは、みなさんがお住まいの地域で「いつ」議会が開催されているか調べてみましょう。「地域名 議会 日程」などで調べてみるのがいいですよ。

最近はYouTubeなど生配信する地域も増えてきました。ちなみに傍聴は無料です!

ものすごい熱量……!

ところで藤池さんは、なぜ議会を傍聴するようになったのでしょうか?

藤池

9月の暑い日、仕事の後に茅ヶ崎市の総合体育館で運動をしようとしたのですが、あまりに暑くて。「どこか涼める場所はないかな?」と思って、近くを見渡したら市役所がありました。

「議会がやっていれば、傍聴しながら涼めるかも?」と思いつき、入ってみたんです。もともと国会なども好きだったので、存在は知ってはいたんですが、地元の議会を傍聴したことはありませんでした。

確かに涼しそうですけど……。涼むだけでは、8年も通うようにはなりませんよね?

藤池

その日は何をしているのかすら、全然わかりませんでしたね。「なんだか静かで盛り上がらないな〜」と思っていたくらいで……(笑)。

涼めたし、議会も終わったし、帰ろうとしていたら、同じく傍聴席にいた男性がトトトと寄ってきて、「初めて来たの〜?」と声をかけてくれました。

藤池

お話している中で「寝てる議員がいたでしょ? あれで給料もらっているんだよ。どう思う?」って質問されたんです。

その時は、そもそも議員さんがどんな仕事をしているかも知らなかったので、答えられなくて。でも、しばらくその言葉が引っかかっていました。

うーん、なるほど。

藤池

それがきっかけで、もっと議員さんのこと、やっている仕事を知りたい、市民の方々にも知ってほしいと思うようになって。議会に通っていたら、8年が経っていたんですよね。

そうしたら、登場人物である議員さんのことや議会の仕組みがちょっとずつミリ単位で理解できるようになっていきました。

ちなみに、傍聴し続ける中で「政治家になろう!」とは思わなかったのですか?

藤池

ありませんでしたね。今は、議員さんの仕事を知るほどに「かっこいい!」「すごい!」って感動するようになっていて。

この面白さを多くの人に広めたい。そんな気持ちが強いです。それで、2018年頃からは、無料の傍聴ツアーも企画するようになりました。

「ギカイにいこう~茅ヶ崎市議会傍聴ツアー」のチラシ。毎回「こんなチラシにしたら面白いかも!」と、藤池さんがCanvaを使って自作しているのだとか! 「デザインは素人で……」とおっしゃっていますが、熱量の高さが伝わってきます。

池田

「まちのBAR」には政治的中立性を保つなど、議員さんも市民も安心して参加できる環境をつくることが必要です。

それで、いつも傍聴している藤池さんがママなら、と参加してくれる議員さんもいらっしゃって。香澄さんは欠かせないと思い、ママとしてスカウトしました。

対立ではなく、共創するまちづくりへ

まちのBARを1年以上続けている中で、まちの変化は実感されていますか?

池田

正直、認知度はまだまだこれからだと思っています。茅ヶ崎市の人口は24万人なのですが「まちのBAR」に参加したのはまだのべ500人程度。

ただ、「まちのBAR」の存在は多くの人に知っていただけたかな?と思っています。

藤池

市民の方々が「まち」について考える時間が増えたのは、いい変化だと思っています。

「まちのBAR」の参加者さんには、茅ヶ崎市について思うことをテーマカードに記入してもらうんですが、実はこういうこと自体、なかなかしないんですよね。

確かに「こうなったらいいな」と思っていても、誰かと話す機会ってありませんね。

テーマカードの一部。これまで200枚以上のコメントが寄せられ、SNSなどでもアーカイブされています。(提供画像)

池田

文句やクレームは、出てきやすいと思うんですよ。「◯丁目の道路が壊れている」「もっと〇〇しろ!」とか。でも、それでは市民 vs 行政の対立構造になってしまう。

「まちのBAR」で目指したいのは、対立ではなく共創するまち。いかにこれまでの価値観を転換していくかが重要だと考えています。

2024年、「まちのBAR」は第19回マニフェスト大賞のシティズンシップ部門・優秀賞と審査員特別賞を受賞した。

「まちのBAR」は、楽しかった!

そろそろ、「まちのBAR」が始まる時間ですね。ここからは、実際に参加しながらみなさんにお話を伺っていきます。今回は、どんな方が参加されるんですか?

藤池

3名の議員さんにもお集まりいただきましたよ。

議員さんはマスターのバッジをつけるのが「まちのBAR」のルール。「なんだか恥ずかしいな〜」と照れながらポーズしてくれたのは、茅ヶ崎市議会議員の清野匡志さん。

議員の方だと思うとちょっと緊張するんですが、エプロンつけていると急に親近感がわきますね!

あ、今カウンターに立たれている方も議員さんですか?

山口

初めまして、茅ヶ崎市議会議員の山口順平です。

2023年無所属で初当選した茅ヶ崎市議会議員の山口順平さんは、会社員と二足の草鞋を履いているそう!「会社を辞めないといけないと思っていたんですが、応援してくれたんです」と議員になるまでの経緯についても教えてくださいました。

カウンター越しに議員さんとお話しするのは初体験です。

山口

そうですよね(笑)。議員や政治と聞くと遠い存在に感じるかもしれませんし、選挙では選ぶ・選ばれる立場になるので、どうしてもややこしいコミュニケーションになりやすいもの。

でも、みなさんも僕も同じ社会を作っている一員です。僕としては、みんながフラットに交われる場になればいいなと思って参加しています。

池田

今回のまちのBARは、「気候変動アクション」がテーマです。茅ヶ崎市内で、不耕起栽培農家を営む衣川木綿さん・晃さんをゲストにお呼びしました。

ゲストのおふたり。会場では布川さんが製造するアイスクリーム「SOYSCREAM!!!」の販売も。

3人の議員さんが3つのテーブルにわかれて、今日のゲスト・衣川さんが投げかけた『あなたはなぜ生まれてきたのですか?』という問いについて話し合います。

それぞれのテーブル、盛り上がってますね……。議員の話を聞くという雰囲気ではなく、それぞれが自分の想いや考えを交換しているようです。

ここからは、参加者の市民の方にもお話も聞いてみましょう。なぜ「まちのBAR」に参加されたんですか?

まちのBAR常連の石井雅俊さん。参加していたお子さんたちからの「アイス食べたい」のリクエストに「レディたちにご馳走しよう!」と奢ってあげる場面も。

石井

議員さんが面白いことをやっているらしい、という話を聞いて参加してみたのがきっかけです。それがものすごく楽しくて。

こんなにフラットに話せる場所はない!」と、常連になっちゃいました。

石井さんは茅ヶ崎市にお住まいの方ですか?

石井

以前は川崎市に住んでいたのですが、脱サラをして茅ヶ崎で農園をやっています。何度も参加したくなるのは、ここに集まる人たちが楽しいから。

お子さん連れのママさんもたくさん参加していました。

石井

毎回、新しい刺激に出会えるので、市議さんと話せるというよりも「まちのBAR」に集まる人と話したい、という気持ちが強いですね。

地域活動で大事なのは「楽しそう」に見えること

この日は、第19回マニフェスト大賞の発表後だったこともあり、みんなで受賞のお祝いをする場面も。

今日はありがとうございました!

みなさんの熱量が高いことはもちろんですが、いろんな地域で「まちのBAR」が開かれてほしいなと感じました。

池田

ありがとうございます。もっといろんな場所でできたらうれしいです。

あとは「まちのBAR」で交わされた議論が実現できるといいですよね。僕としても、ボトムアップの世界を作っていきたいと願っています。

自分が住む地域で「まちのBAR」をやってみたいと思ったら、何から始めたらいいでしょうか?

藤池

まずは自分が住む地域に、どんな議員さんが何人働いていて、どんな課題があるかを知ることだと思います。

議会の傍聴がおすすめですが、議員さんのSNSやブログをフォローするだけでも十分。自分と考えが似ているな、一緒だなと思うところを見つけてみてください。

まずは知ることからですね!

藤池

選挙は議員さんに投票して終わりではありません。これって、ジャケ買いしたレコードを聞かないのと一緒だと思うんです。議員さんがどんなお仕事をしているか見てみましょう。

私は議会でいい発言をした議員さんに電話しちゃうんです。「〇〇が素晴らしかったよ!」って(笑)。すごく喜んでくれますよ。

議員さんは、市民の代表ですからね。応援というか一緒に進むくらいの感覚を市民が持つことも大事なのかも。

池田

まちづくりとか地域活動って聞くとちょっと義務的な感覚になる人も多いと思うんですよね。

市民も忙しいので、日常生活の延長で「ちょっと行ってみたいな」って思えるような感覚の場所にするのはとても大切です。

毎回テーマに合わせたお料理が出てくるという「まちのBAR」。おいしい飲み物と、おいしい食事があれば、「楽しそう」と足を運びたくなりますよね。

池田

自分でいうのも変ですが、「まちのBAR」は子どもから大人まで集まるので、SNSで過去の写真も楽しそうなんですよ。

運営する人も、参加する市民も、お酒を作る議員も「楽しい」と感じるのが続けていくポイントかもしれません。

今日は本当にありがとうございました!

2024年11月取材


取材・執筆=つるたちかこ
写真=小野奈那子
編集=鬼頭佳代/ノオト