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都市公園における「いい風景」を探る。社会実験を積み重ねて導いた場の育て方とは(一般社団法人リバブルシティイニシアティブ代表・村上豪英さん)

約150年前の開港を機に、居留外国人の運動場として整備された神戸・三宮の中心地にある東遊園地。近年では「神戸ルミナリエ」などの開催地として知られるものの、数年前まで、大規模イベントが何もない日はほとんど滞在する人のいない、砂地の広場だったそう。

「東遊園地を変えれば、神戸の都心全体もよくなるのではないか」と、2015年から7年間も社会実験を続け、2023年の公園リニューアルにあわせて、Park-PFI制度を利用して施設のオープンを実現させたのが、一般社団法人リバブルシティイニシアティブ代表理事の村上さんです。

今では、平日の昼間でも人が多く集まる場所となり、市民主導のプログラムがたびたび開かれ、あらゆる人々が主体的に関わることのできる場になりました。

7年間に及ぶ社会実験の成果を経て、公園を育てるために行ってきたこと、そして場を醸成させるために欠かせない“観察”の方法について、村上さんに伺いました。

村上豪英(むらかみ・たけひで)
兵庫県神戸市生まれ。京都大学大学院生態学研究センターを修了後、シンクタンクに勤務。家業を継ぐため株式会社村上工務店へ転職し、現在は代表取締役社長。2015年に東遊園地の社会実験「URBAN PICNIC」を事務局長としてスタート。一般社団法人リバブルシティイニシアティブの代表理事、有限会社リバーワークス代表取締役社長も務める。

神戸の都心をもっとよくするための社会実験

村上さんが東遊園地に関わるようになったきっかけを教えてください。

村上

私は神戸生まれ神戸育ちで、阪神・淡路大震災のときは京都で学生をしていました。自分の街が崩れてしまうことに悲しさを感じて、これからは自分の街のためにできることを……と思っていました。

しかし2011年に東日本大震災が起きたとき、なにも行動できていなかったということに気づいて。これではだめだと、同年に始めたのが「神戸モトマチ大学」という勉強会でした。

そこではどんなことをしていたんですか?

村上

すごくシンプルで、街の人が講師となり、その方の知見に沿ったテーマについてお話しいただくというものです。

活動をしていると神戸市役所の方と知り合うようになり、2014年頃、「神戸の都心をよりよくするための提案はないですか?」と聞かれました。 そこで真っ先に「何とかしたい」と思ったのが東遊園地でした。

当時の東遊園地はどんな公園だったのでしょうか?

村上

神戸の中心部にあるにもかかわらず、神戸ルミナリエや神戸まつりといった大規模イベントのときにしか人が訪れない場所でした。そもそもここに関心を持つ人が少なかったですね。

だからこそ、この公園が気持ちのよい場所に変われば、神戸の都心の価値は大きく向上すると思いました。

当時の東遊園地(2012年時点)©神戸市

都心の価値というのはどのようなものですか?

村上

いろいろありますが、まちを回遊する人が増えることもそのひとつだと思います。神戸の立地でいえば三宮の西側に旧居留地があり、テナントも多く人もたくさん行き交っています。でも、その近くにある東遊園地周辺は人がほとんど歩いていない場所でした。

閑散としていた場所に人が訪れ、次の場所に向かっていく、まちのジャンクションとなることに価値があると思いました。つまり東遊園地の社会実験も手段であり、公園が良くなることで都心がどう変わっていくのか、そこに関心がありました。

どのように社会実験「URBAN PICNIC」が始まったのでしょうか?

村上

初めて社会実験をしたのが2015年6月の2週間。舗装されていたちいさな広場に芝生を敷いて、プログラムをいくつか開催して、たくさんの人が滞在してくれる風景ができました。

足を止めたくなる素敵な風景ですね!

2015年の社会実験の様子(提供写真)

村上

本棚で小さなカフェを囲むような設えにしています。あとはオーナーシップが大事だと思ったので、「本棚オーナー」を募集して自分の本棚を作ってもらいました。

芝生の効果は大きかったですか?

村上

ただ芝生があるだけですが、やっぱり緑の力は大きいですよね。最初は芝生を設置することに不安を感じていた神戸市役所の方も、社会実験を経て共感してくださるようになり、翌年、土のグラウンドを芝生化する実験をしてくれました。

よくいろんな人に「天然芝じゃないとだめなのか」と聞かれますが、個人的に枯れないものより枯れゆくものの方が愛せるという理由で、天然芝にこだわりました(笑)。

わかる気がします。

村上

それから3年間は、社会実験を進める事業者を募集する公募形式になり、2016年からは毎年応募をして、それぞれ約半年間の社会実験を続けました。

カフェを開いたりセミナーをしたり、考えつくことはなんでもしました。開催したプログラムは毎年100個を超えていたと思います。

すごい数ですね! このときの社会実験では、どんなことを目的にしていたのでしょうか?

村上

大きく2つ。ひとつは自分ごとのように公園を良くしようと思ってくださる方を増やすこと。 公園は誰かに楽しませてもらう場所ではなく、自分たちで楽しむ場所なので、どうすればそんな人が増えるか、といった視点を大事にしました。

もうひとつはなんでしょうか?

村上

2016年から神戸市役所で東遊園地のリニューアルへの機運が高まって、有識者を呼んだ検討会が開かれていました。

そこで世界中のかっこいい公園の事例をもってきて検討するのではなく、東遊園地では何をすればどんなリアクションがあり、どんな発信でどれくらいの集客があるのかというリアルな情報を提供することが目的でした。

神戸のライフスタイルを感じる公園に

2019年にはPark-PFI事業者(※)が公募され、東遊園地の拠点施設を運営する事業者に選ばれましたね。このときはどういう提案をされたのでしょうか?

※Park-PFI:都市公園の魅力と利便性の向上を図るために、事業者を公募・選定し、公園の整備を託す公募設置管理制度のこと。

村上

社会実験の段階から市民がどう関わるかを大事にしてきたので、それは続けていきましょうということは伝えました。

あとは「場のつくり方」。公園って、こちらが望む使い方や、してほしくないことを何かに書いて提示しても、うまくいかないですよね。だから、禁止事項が多い公園にはしたくなかった。

確かに禁止事項が多いと、むしろ人が集まらなさそうですよね……。

村上

そこで、禁止事項を作るのではなく、ありたい公園の姿のイメージを思い浮かべ、そこに近づけていく公園づくりを提案しました。

イメージ」?

村上

東遊園地は、神戸のライフスタイルを感じられるような、文化に触れるきっかけとなる公園にしたいと思っていました。

設えやプログラムを通して、「ここでは文化的なものが起こるんだな」「神戸の人が気持ちよく過ごしているところなんだな」というイメージの共有ができれば、ここに来る人たちも自ずとそういう使い方をし始めると思いました。

平日でも多く人が集まる

行動を制限するのではなく、イメージを共有することでいい公園に育てていこうという考えがあったんですね。

村上

誰でも受け入れるけれど、なんでも受け入れるわけじゃない。なんでもしていいと思われると、極端な使われ方をされてしまうので。

それを、注意事項を作ることなくどう抑制するのか。そのためには、やっぱり気持ちいい使い方がされている状態を伸ばしていくしかないんだと思います。

2019年に運営者に選ばれてからも社会実験を続けられていますが、どんなことをされたのでしょうか?

村上

私たちがすべての設計・リニューアルを任されたわけではなかったので、他の設計者さんや市役所の方と「こういう公園の使い方がいいよね」というのを再確認する場を多く作りました。

社会実験自体は2015年からスタートして、結果的に7年間も続けられたことに驚きました。

村上

長いですよね。自分でも、いつまで実験するんだろうと思っていました(笑)。

長い期間、社会実験を続けたことは今に活きていますか?

村上

とても活きていると思います。結構辛いんですよ。毎日日差しも強くて夏は暑いし、誰も来ない日だってある。

体力的にも大変でしたが、今日見えている風景はどこが良くてどこがイマイチだったかという話をずっとしていました。

東遊園地にとって“いい風景”とはなにかを確かめていたんですね。

村上

そうですね。私たちだけではなく、社会実験に携わった市役所の人も有識者委員会の先生方も園地の設計者も、みんなでずっと同じ風景を見ていました。

結局みんなが好きなのは、園地のなかで訪れる人たちが笑って過ごしている風景なんですよね。期間は長かったですが、「あの笑顔がもっと増える公園にするんだ」という目標は全員ずっと一致していたと思います。

社会実験の過程で関わる人に生まれた変化はありましたか?

村上

公園を育てようとする人はすごく増えたと思います。

公園って、「この街をいい街にしたい」と考えている方が活躍しやすい場所なんですよね。そういう方々が参加しやすいステップを作れたので良かったですね。

社会実験の頃から多くのボランティアと一緒に活動されていたんですよね。

村上

そうですね。市民の方の活躍の場を作ることで、この公園がよくなることに関わったと実感している人は増えたと思います。

当時、手伝ってくれた学生が、実験を経て「公園って本当に育つんですね」と言ってくれたことがあって。最初は「育つってどういうこと?」と思っていたけれど、数か月いろんなものを見ていくうちに「本当に育つんだ」と思ったみたいです。

それはうれしい気づきですね。どんなところで「公園が育つ」という実感が得られたのか気になります。

村上

「公園が育つ」というのは愛着を持つ人が増えていくということです。愛着を持つ人が増えれば、公園の使われ方も変わりますし、声のかけられ方も変わります。

その学生も、きっと知らない人から「ありがとう」と言われることが増えていったんじゃないでしょうか。

いい風景を作るための工夫

2023年にリニューアルを迎え、現在の東遊園地ではさまざまな関わり方ができるようになりましたね。

村上

一番関わりやすいのは、「アウトドアライブラリー」に本を寄贈してもらうことでしょうか。1人一冊に限り、本を寄贈いただけます。

また市民が提案・主催する「公募プログラム」も参加するだけではなく、自分で企画するところから関わることができます。実は社会実験のプログラムのうち約3割は市民からの提案でしたが、一度も断ったことがないんです。

あとは「GREEN COMMONS」。市民ガーデナーを育てるガーデニングスペースです。たくさんの人が自分の庭ではなく、街の庭をきれいにする活動に関心をもってくださっています。

市民が育てる「GREEN COMMONS」は美しく緑が整備されている

人気のプログラムなんですね。

村上

ほかにも夕方以降の過ごし方を提案するために始まった「NIGHT PICNIC」が大きなものに育ってきています。一般の方にも「フレンズ」というボランティアとして、当日のお手伝いをしていただいています。

NIGHT PICNICの様子(提供写真)

どの活動も市民の方が主体的に関わっているのが印象的です。主体性が生まれる場にするために工夫していることがあるのでしょうか?

村上

ここにどんな活動があったら公園がもっと良くなるのか、といったことを皆さんにお伝えしているということでしょうか。

同時に、公園にとって大切にしていることや、プログラムの進め方など、参加したいと考えてくださる市民の方とのやりとりも粘り強く続けました。

それはすごいですね! でも、自分たちが公園のためにやりたいこと、見たい風景を伝え続けるということが大切な気がします。

村上

あとはイベントやプログラムを企画するときの工夫は、いくつかあります。

例えば映画のように初めから終わりまでそこにいないと成立しないものはなるべく避けて、途中で来て、途中で帰ってもいいような内容にするなど。

あとは、遠目から見て何をしているかわかりやすいものにするとか。近寄らないとわからなかったら、風景にそもそもなっていないので。

「いい風景」になるかどうかを常に見極めているんですね。

村上

そうですね。そういうことをエゴではなく、公園のためを想っているということがうまく伝わっているのかなという気がします。

場所によって見たい風景は違う

東遊園地は大きく変化しましたが、神戸の街全体にどう影響していると感じますか?

村上

周りへの影響の伝播は、まだ道半ばだなと感じています。

東遊園地を目的に訪れる方は増えましたが、公園で過ごした後に街を回遊する人よりも、まっすぐ駅に帰っている人が多い感覚があるので、まだできることはありそうな気がします。

でも、この東遊園地の事例は、他の街や場所をつくることにも応用できそうです。

村上

ありがとうございます。でも、押さえていただきたいのは、やっぱりその場所場所によって見たい風景は違う、ということ。それをちゃんと理解しておく必要はあると思います。

場所によって見たい風景が違うというのは、どういうことでしょうか?

村上

東遊園地には東遊園地だからこそ見える景色があり、他の場所ならばその場所に適した景色がある、ということです。

例えば、東遊園地では社会実験の初めの頃から「本のある風景って絶対いいよね」と本を置いていたんです。本があると人は立ち止まるきっかけにもなるし、実際に素敵な風景になりました。 でも、同じことを開発中の駅前でするとします。きっと、うまくいきません。

そこに本を置いたところで、人々はその場でそういう風景を見たいわけじゃない。公園だと本を読む人をみて「素敵!私も同じ風景の一部になりたい」と思うけれど、人々が忙しなく行き交う駅前だと、そうはならないと思うんです。

たしかに駅前だと少し浮いて見えそうです。

東遊園地ではそれがうまくいったということですね。

村上

東遊園地も、長い期間実験をしたから「こういう風景にしたら人がくるはずだ」というイメージがわかっていきました。その結果、公園を使う人も「そうそう、これがいいよね」と思ったから足を運んでくれた。

でも、もし実験前にあらかじめその質問をしても、きっと出てこないはずです。実験をするからこそ、人々が心のなかで求めているものがわかってくる

実験を通して、その求めているものを観察してきたことが、今の東遊園地につながっているんです。

公園に設置された施設「URBAN PICNIC」の外側に設置された本棚も、人々の憩いの場となっている

でも、実験ってかなり大がかりで大変そうなイメージがあります……。

村上

そんなに大変なことではないですよ。例えば、コーヒーを淹れる道具とベンチを持って、どの場所にコーヒースタンドがあると一番ハマるのかを試してみる。その結果についてどう感じるのかを話すだけでも、立派な実験だと思います。

なるほど。それなら、身近な場づくりで試せるかもしれません。

とにかく地道に観察をして、言語化していくことは場づくりのヒントになると感じました。今日はありがとうございました!

前田 英里
前田 英里

【編集後記】
東遊園地で行われてきた社会実験は、「問い続ける」という、極めて地道で本質的な営みだと感じました。最初から理想像が明確にあり、そこに向かってギャップを埋めていく進め方ももちろんあります。ただ、実際には「こうありたい」という感覚はあっても、最初から言葉にできるとは限りません。そんなときに必要なのが、まずは「やってみる」こと。実際の使われ方や反応を手がかりに、「これはいい」「これは違う」と確かめ合いながら、少しずつ形を変えていく。そのプロセスを重ねる中で軸が共有され、多様な人たちが同じ方向を向いて進めるようになるのだと思います。問い続けること自体が、場を育て、人と人とをつないでいく力になっている──、そんなことを考えました。(株式会社オカムラ 前田英里)

2025年11月取材

取材・執筆=橘春花
写真=木村華子
編集=桒田萌(ノオト)