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セオリーとは真逆の経営から見えてきた、大きなシステムの中で自分を生かすヒント(クルミドコーヒー・影山知明さん)

組織や資本主義の中に身を置いていると、システムに順応することを求められる場面が多くあります。そうした日々を送るうちに、自分らしさを見失ってしまう感覚を抱く人も多いのではないでしょうか。

東京・国分寺でカフェ「クルミドコーヒー」や「胡桃堂喫茶店」、シェアハウス「ぶんじ寮」などを営む影山知明さんは、独自のお店の育て方や経済に対する考え方をもつ一人です。行きすぎた資本主義が問題視される現代社会における生き方について記した著書『ゆっくり、いそげ』(大和書房)や『大きなシステムと小さなファンタジー』(クルミド出版)は、名著として注目を集めています。

一人ひとりが自分のいのちをのびのびと発揮できることを目指してカフェやシェアハウスを運営している影山さんに、大きなシステムの中で自分を生かすヒントを伺います。

影山知明(かげやま・ともあき)
1973年、東京・西国分寺生まれ。大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー社を経て、独立系ベンチャーキャピタルの創業に参画。2008年、シェアハウス「マージュ西国分寺」を開設し、その1階にカフェ「クルミドコーヒー」を開業。2017年には、2店舗目となる「胡桃堂喫茶店」をオープンさせた。開かれた場づくりから、一つ一つのいのちが大切にされる社会づくりに取り組む。

経営のセオリーと真逆の道を進むことを決めた

影山さんは、元々コンサルティング会社やベンチャーキャピタルで働いていたと伺いました。2008年にカフェであるクルミドコーヒーを開いたのはどういった経緯からですか?

影山

実家を建て直すことになったんです。それで、2階から上をシェアハウスにしたのですが、1階はまちの人の交流が自然と生まれる「縁側」のような場所をつくりたいなと。

「縁側」?

影山

僕が子どもの頃、地元の国分寺では隣近所との自然な付き合いがありました。その時代に完全に戻らなくとも、顔を合わせたら挨拶するくらいの緩やかな関係性を、地元でまたつくりたくて。「目的がなくてもふらっと行けて、居続けられる」場所がカフェだと思いました。

なるほど。これまでのビジネス経験を生かして、カフェを立ち上げたのでしょうか?

影山

いえ、それまでの職業経験で身に付けた経営論は使いませんでした。経営のセオリーに従えば、カフェの短期的な成功確率は上げられるかもしれませんが、本質的なお店にはならないと思ったんです。

経営論という確立されたシステムに従わないことに、恐れはありませんでしたか?

影山

自分の意思で始める事業なので、「常識といわれていることと真逆の道を進んだら何が起こるんだろう?」という気持ちでした。

資本主義によって世の中が便利になっているので、そのすべてを否定するつもりはありません。しかし、それだけを突き詰めると、お金のためだけに働くようになってしまう。

それでは人間は幸せになれません。そう思ってカフェをオープンしたんです。

クルミドコーヒーに続き、2017年にオープンした「胡桃堂喫茶店」

大きなシステムは、人を「置き換え可能な存在」にする

影山さんがかつて身を置いていた会社組織や資本主義の世界を、著書では「大きなシステム」と表現されていますよね。

カフェのお話の前に、この大きなシステムについての考えをお聞きしたいです。人を幸せにしないこともあるシステムは、なぜつくられてしまうんでしょうか?

影山

営利法人がその役割を果たすためだと思います。売上や利益を最大化するためにはムダを省いて、業務を効率化したほうがいいですから。

ただ、その結果、人は個性を発揮する前に「別の人で置き換え可能な存在」になってしまいます。

その中で、自分を生かせず悩む人も多いのではないでしょうか。

影山

仕組みがあることで安心するケースもあるので、人によるかもしれませんね。ただ、システムへの窮屈さを感じたり、自分自身を発揮できず苦しんだりする人は少なからずいると思います。

大きなシステムを窮屈に感じている人が、そこから抜け出すにはどうしたらいいと思いますか?

影山

一つ目は、王道の出世コースを目指すではなく、周縁を少しずつ変えていくこと

組織の中心から離れるほど、システムの力学は弱まります。そこで自分の個性を発揮するほうが、案外おもしろいことが起こるものですよ。

なるほど。いきなり転職したり起業したりしなくても、やり方はありそうです。

影山

そうですね。二つ目は、100%職場で自分を発揮しようとするのではなく、仕事後や週末に「別の自分」を生かす場所をもつことです。

副業やボランティア、地域活動などでしょうか?

影山

そうですね。でも、これらの提案は対症療法に過ぎません。根本的には、資本主義の大元の仕組みが変わるといいなと思っていて。 株主が利益だけでなく、数字で測れないものも大切にできるような、資本参加の方法がとれる社会だといいですよね。

影山さんが思い描く、理想の資本市場とはどのようなものですか?

影山

投資家と事業体の距離がもっと近くて、投資家が「お金以外の価値も生み出せていること」を主観で感じ取れるような世界です。このカフェは、まさにそういう仕組みだと思っています。

「ギブ」から始まる、組織と個人の関係性

「お金以外の価値を生み出せる世界」について、詳しくお伺いしたいです。このカフェでは、スタッフやお客様とは「ギブし合う関係」を築くことを目指しているそうですね。

影山

はい。カフェをはじめ通常の経済活動は、お金を払ってコーヒーを飲むという等価交換の関係で成り立っていますよね。お互い「テイク」し合っているわけです。

たしかに。それが当たり前だと思っていました。

影山

そうではなく、このカフェでは、まずは相手のために自分ができることをギブする環境を作るようにしています。

具体的に、何をギブするのでしょうか?

影山

とにかく相手に喜んでもらえることをするんです。「仕事とは、誰かを喜ばせるためにすることだ」ということを座右の銘にもしています。

そういった姿勢をとっていると、受け取った側は数字には表せない感謝の気持ちや「自分も何かを返したい」という自発的な意思が生まれる。このエネルギーの循環が社会を豊かにすると思うんです。

お客さんとの関係以外に、マネジメントにおいては「ギブし合う関係」をどう実践しているのですか?

影山

基本的に、スタッフに指示を出すことはありません。それは会社の都合に合わせて誰かをコントロールしようとすることですから。

店主の仕事は、スタッフの「やりたい」という気持ちを受け止め、それをどう助けるかを考えることだと思っています。

ということは、半年後や1年後のカフェの事業計画のようなものは、存在しないんですか?

影山

はい、あえて作っていません。ここではスタッフがやりたいメニューや接客の仕方を採用していくので、1年後のカフェの姿は誰にもわからないんです。

とても興味深いです。ただ、その土台に信頼関係がないと「ギブし合う関係」が成り立たないように思うのですが……。

影山

いえ、信頼しているからギブする、という順序ではないんです。まず「ギブ」の姿勢で接するからこそ、相手に感謝が生まれ、信頼関係が育っていく。このサイクルを積み重ねることだと思います。

多くの人がこういう関係を築けるといいですよね。「ギブし合う関係」を、会社員が組織の中で実践することはできるんでしょうか?

影山

むしろ、ギブし合うことを前提にするべきだと思います。お店づくりだけでなく、会社経営においても基本中の基本です。

ところが、顧客には社会貢献(ギブ)を約束しながら、社内では最小の報酬で最大の結果を社員に求める矛盾を起こしているケースも少なくありません。これが組織を歪ませると思うんです。

ギブし合うことで、個人が自分を生かせる場が持てて、成果も出せる。その結果、組織も成長していく。こういう職場が世の中に増えるといいなと思いました。

職場での「秩序」と「自由」のバランスをどう取る?

影山さんが運営するシェアハウス「ぶんじ寮」では、カフェ経営の考え方を取り入れている部分はありますか?

影山

そうですね。「一人ひとりが好きに暮らしていい」ということがスタート地点になっていて、ルールはありません。

え!? それだとトラブルが起きてしまう気がするのですが……。

影山

住民ミーティングを月2回行っています。ずっと不参加だと退居しなければなりません。これが唯一のルールともいえますね。

いろんな人が住んでいて「お互い分かり合えない」ことから出発して、率直な対話を重ねる。このコミュニケーションの質と量が、ルールのない共同生活を支えています。

これを僕たちは「無秩序の秩序」と呼んでいます。

長い時間をかけて、ぶんじ寮の生活が作られていったんですね。「無秩序の秩序」は、会社組織にも適用できるものなのでしょうか?

影山

「自由である」という無秩序は、秩序と両立できると思います。 ただし、すべてを無秩序にする必要はありません。カフェでも全部を無秩序にしたら、営業時間やメニューが毎日バラバラになってお客様に何の約束もできなくなってしまいますから。

たしかに。では、どのようなことから無秩序を取り入れていけそうでしょうか。

影山

たとえば、一部の業務時間や空間を自由に使える「治外法権的なもの」にすることで、個人のクリエイティビティを引き出せると思います。

今の会社組織は、秩序がとても強い。その結果、創造性や自由な発想が引き出しにくくなっているのではないでしょうか。バランスとして、もっと無秩序に振ってもいいと思うんです。

その際、短期的な成果ばかりを追い求めないことが大切ですね。

影山

丁寧に、ゆっくり取り組むことは、決して成果を軽視することではありません。自由や丁寧さが、結果として売上やインパクトに繋がることを小さく証明して、その範囲を広げていけるといいですね。

無秩序と秩序のバランスを取るためには、どのようなことを意識しておくといいでしょうか?

影山

僕は、大きな木をイメージしています。自由という「枝」を謳歌するためには、日常業務という「幹」への貢献が不可欠です。幹がしっかりしていなければ、枝を張ることはできませんから。

このバランスが取れていると、組織内で信頼が生まれ、経済的な持続性も担保できると思います。

「大きなシステム」も、あくまで手段。常に作り替えていこう

最近、いろいろな会社で新しい価値を生み出すための共創が盛んです。しかし、成果に結びつかないケースも少なくなく、新しく生み出されたものが形骸化されたシステムになってしまうこともあると思います。

そういったネガティブな結果を生まないために、心がけておきたいことはありますか?

影山

まず、共創する相手として、「利害が一致するから手を組む」というテイクの関係は避けるべきだと思います。メリットがなくなれば関係が崩れるので、持続性がありません。

一般的には利害が一致した相手と共創しているように思いますが、真逆の考え方ですね。

影山

あとは、ルールを絶対化しないことです。共創で生まれた仕組みやルールも、あくまで「手段」であることを忘れずに、常に作り変えていく心構えが大切だと思います。

これを組織文化として根付かせられるといいですよね。

ルールや仕組みはいつのまにか変えてはいけないものだと捉えられがちですよね。「大きなシステムも変えていい」と思うと、自分を生かしやすくなるように感じます。

最後に、個人の可能性と、組織の可能性を両立させるための組織づくりについて、ヒントをいただけますか?

影山

まずは、余白や混沌をおもしろがること。整然と決められた議題から新しい発想は生まれません。

今の企業は内部統制をしっかり行う傾向がありますが、言葉にならない想いやアイデアも出していく「混沌」のプロセスも許容する。それこそが、創造性を発揮するカギになります。

なるほど。私たち一人ひとりがもっておくといい心構えはありますか?

影山

肩書きを外して、一緒の時間を過ごして汗をかくという泥臭いプロセスが必要だと思います。

人は他者から認められ、愛されていると感じたときに「器」が広がって、他者を受け止められるようにもなりますから。

これも、利害関係とは逆の視点ですね。

影山

他者との関わりには、2つの層があると思うんです。意見やアイデアを出し合うだけの関係は「言葉の層」。それを超えて、一緒に多くの時間を過ごし、気が合わない部分があっても相手の存在を認められるようになる「存在の層」。

この層を重ねながら他者と向き合えると、大きなシステムを突破する力になると思っています。

私たちがぜんぶで生きていくための、たくさんのヒントをありがとうございました!

宮野 玖瑠実
宮野 玖瑠実

【編集後記】
影山さんのお話は、今の自分の状況に刺さることばかりで、取材の後半は、半分私のお悩み相談室のような時間になってしまいました。
共創はそもそも、予定不調和や混沌を面白がるところから進んでいくものですが、その取り組みが広がり発展していくと、いつしか一つのシステムや秩序にくるまれてしまう、そんな場面が多々ある気がしています。どんな時でも、無秩序や余白を面白がり、受け入れる姿勢を忘れずにいたいと、改めて実感しました。
「あなたのためにやりたい」と互いに思い合える関係。自分の能力やリソースは、求められた人や場所に喜んで差し出してこそ輝くものなのかもしれない。そんなことを考えながら、お話を伺う時間となりました。
(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / Sea コミュニティマネージャー 宮野 玖瑠実)

2026年1月取材

取材・執筆=御代貴子
撮影=篠原豪太
編集=桒田萌/ノオト