在宅ワーカー向け、素材や色に見るバイオフィリックデザインの取り入れ方
今も多くの国でまだ収束が見えない新型コロナウイルスにより、私たちの働き方は大きく変わった。中でも象徴的なのは、世界的にリモートワークが普及したことだ。ロックダウンを経て、コロナ前に数パーセントだった実施率が現在アメリカでは71%(ピュー研究所) 、東京都では65%(産業労働局)となっている。
リモートワークが浸透していく一方で、特に在宅ワーカーの中には結果的に慣れない働き方を強いられ、精神的な負担を感じている人も少なくないように思える。実際、アメリカ国内で行われた統計では、2019年に大人全体の5.3%(NIMH) だった鬱の症状が見られる人の割合が、2021年1月までに40%(CDC)に跳ね上がっており、統計を取ったCDCはこれをパンデミックにより社会から切り離された事による孤独感からくるものであると推測している。これが本当なら、パンデミック収束後も在宅ワークが継続される場合、ワーカーのメンタルヘルスへのダメージが蓄積していく恐れがある。
そこで、在宅ワーカーの鬱防止、またメンタルヘルス、ウェルビーイング向上のためのインテリアデザインとしてバイオフィリックデザインを取り上げたい。
バイオフィリックデザインとは
バイオフィリックデザインとは人間が本来持っている自然との繋がりをデザインとして表現したもの。昨今、ウェルビーイングの向上に役立つとして、パンデミックを皮切りに広く取り入れられ始めた。環境へのいい影響もあり、サステナブルな社会を促進するデザインとしても注目されている。
バイオフィリックデザインはサステナブル
バイオフィリックデザインを取り入れるにあたり、大きく分けて二つのメリットがある。一つはワーカーのウェルビーイング。そしてもう一つはサステナビリティの向上だ。木材や植物ベースの家具など、バイオフィリックデザインに採用される素材の多くは持続可能、サステナブルである。
木材は再生可能で持続可能な建築材料であり、鉄やコンクリートに比べて二酸化炭素排出量が少ないのが特徴だ。また木材は、他の建築材料に比べて生産に必要なエネルギーや水の量が少ない。木の種類によっては成長段階で二酸化炭素を吐き出すより多く吸収する(USDA) から、それらを枯らさず、燃やさず、そのまま加工して家具にすることで、空気中の二酸化炭素排出の削減に貢献したことになる。ケアを怠らなければ木や植物はまた生えてくるから、極端に言えば無限に使用可能な資源だと言える。このことから、天然素材を多く取り入れるバイオフィリックデザインはサステナブルな社会に大いに貢献する便利なデザインとも言える。
自然が様々な要素で構成されているように、バイオフィリックデザインへのアプローチも、家具の素材や、色、形など非常に多岐にわたる。あなたにとって一番自然を思い起こさせる要素は何だろうか?以下、バイオフィリックデザインの取り入れ方について様々なアイディアを紹介する。自分のホームオフィスに合ったものを見つけて欲しい。
照明で気分に変化をつける
窓が無くてもホームオフィスを明るく保ちたい。一日の中でムードに変化をつけたい。初めにご紹介したいのは、家にこもりがちな在宅ワークで気分が落ち込む時に、室内で大空を感じさせてくれるランプを取り入れたアイディア。
体内時計は基本的に太陽光などの光を基準としているため、一日中家にいるとリズムが狂ってしまうこともある。そんな時に室内にいても、例えば夕焼けが見られたら乱れた生活リズムも改善されるのではないか。
天然素材を活用する
「自然との繋がり」を再確認する手段として、また自然への配慮として、バイオフィリックデザインでは基本的にプラスチック製品ではなく自然を五感で感じられる天然素材を多く使用する。これらの素材は時間が経過しても有害なガスが発生しないので、良好な室内空気質が保たれる。
天然素材といっても、木材だけではない。石、竹、土、ウール、革製品などから作られるものも多い。現在ではサステナビリティの観念からか、以前では思いつきもしなかった様々な素材が活用されている。
最近ではトウモロコシなどの穀物や、自然環境への配慮から本革や有害な化学物質を多く含む合皮の代わりに植物由来の皮革を素材をを重宝するデザイナーも多い。まさにサステナビリティへの注目度の現れだろう。
現在ではサステナビリティの重要性から、以前では思いつきもしなかったようなマテリアルが増えている。例えば上の画像に写っているのは、サボテンから作られた皮。サボテンはほとんど水やりを必要とせず、メキシコの畑で育つ間、除草剤や殺虫剤も使用しないことから、生産における環境への負担が非常に軽い。サボテンでできた皮革はビーガンの人々にも人気だそうだ。
壁や床に自然を連想させる色彩や模様を取り入れる
バイオフィリックデザインは素材へのこだわりだけでは完結しない。空間を構成する色や形までもが重要なのだ。また、天然素材を使った家具は時に高価で家に置くのが難しいこともある。そこで自然を連想させる色彩、アースカラーや、模様にこだわるのも、バイオフィリックデザインへの一つのアプローチだ。
自然は見るだけでなくなるべく他の五感も使って感じる方がより大きなリラックス効果や知覚的な効果が得られるといった研究も発表されている 。例えば、芝生を模したカーペットなどは視覚だけでなく触れて楽しむことができる。
ランダムな形状や配置を意識する
上記の色彩や模様同様、視覚を通して自然を感じる為には家具の形状や、配置も重要な要素である。人工的に作られた空間とは違い、手つかずの自然環境は動きや配置がランダムで常に変化し続けることから予測しづらい。そよ風に揺れる草花や水の波紋など、ダイナミックな自然の動きを表現する為の手法としてバイオフィリックデザインでも多く用いられるのがアシンメトリー、そして複雑性だ。シンプルで無駄のない産業的なデザインに比べ、より複雑で重複も多いデザインを見た時の方が、脳が活性化されるというイエール大学の研究もある。
家具の形だけでなく、それらの配置にもこだわりを持ちたい。たくさんの家具に囲まれていても、カラーパレットを統一すれば乱雑な印象にならない。
一石三鳥のバイオフィリックデザイン
以上、在宅ワーカーのための、ホームオフィスに取り入れられるバイオフィリックデザインのアイディアを紹介した。心身の健康にポジティブな影響を与えてくれるこれらのアイディアは、リモートワークでストレスが溜まりがちなワーカーにピッタリである。さらに、自然との繋がりをテーマとし、天然素材を多く使用しているのでサステナビリティの面での評価も高い。メンタルケア、そして環境への配慮もできるバイオフィリックデザインは現在リモートワーク中、またはこれから在宅ワークをトライしたい方のマストアイテム、ならぬマストデザインではないだろうか。
2021年11月25日更新
テキスト:松尾舞姫