20年以上、残業ゼロ!ドイツ流・働く環境づくりと仕事の進め方とは?(『ドイツ人のすごい働き方』著者・西村栄基さん)

もっといい「働く」を作っていきたいとき、他国の取り組みがヒントになることがあります。
そこで、今回注目するのはドイツ。日本と同じく工業国で、真面目な国民性にもなんとなく共通点や似た部分があるのでは?と考えつつ、意外とどんな働き方をしているのかを知らない国でもあります。
今回は、書籍『ドイツ人のすごい働き方』(すばる舎)の著者であり、現在もドイツで働いている西村栄基さんにお話を伺い、オフィスづくりや働き方を改善していくヒントを探ります。

西村栄基(にしむら・しげき)
自動車向け半導体部品を取り扱う商社のドイツ支社に勤務。2つの会社での海外駐在で計17年間ドイツに在住、欧州向けビジネスに30年間にわたって携わる。ドイツ流の働き方を帰国後の職場で実践、自走型人材を育成する。全員が有休消化し残業ゼロでありながら、高い労働生産性を実現している。
広いスペース、大きい窓、カフェ……ドイツのオフィス環境とは
ドイツで長く仕事をされている西村さんから見ると、日本とドイツにはいろいろな違いがあると思います。まずは、オフィスなど働く環境面について伺いたく、どのような特徴があるのでしょうか?


西村
そうですね、ドイツのオフィスは日本より一人あたりのスペースが2〜3倍広く、窓も大きいですね。
ドイツ人は新鮮な空気が好きなので、真冬でもよく窓を開けて換気をします。そのたびに、「寒いなあ」と思ってしまうんですけどね(笑)。

日本は高層ビルなど窓が開けられないオフィスも多くありますから、違いを感じます。


西村
あとは、整理整頓が徹底されていて観葉植物がたくさん置いてあったり、部門長の個室がガラス張りで常にドアが開いていたり。
仕事の合間にリラックスできるカフェスペースも、どの会社にもありますね。
日本でも最近はオフィス環境に力を入れる会社が増えてきましたが、ドイツは以前からこのような環境なんですか?


西村
そうですね。私がドイツで働き始めた23年前から、どの会社もこのようなオフィスでした。
また、パソコンなどの機器類も、常に最新のものを従業員に貸与する会社が多いですね。機器が古いことで仕事が非効率になるなら、お金で解決するという考え方です。

いい環境でうらやましいです!
ただ、それだけコストもかかってしまいますよね。ドイツの会社は、なぜそんなにオフィスに投資することへ積極的なのでしょうか?


西村
まず、ドイツは労働法で一人あたりのスペースや窓の大きさが決められていることもありますが、ドイツ人の「非効率になるくらいなら、仕事環境にお金をかけた方がいい」というマインドが大きいと思います。
私のオフィスでも、昇降式のデスクや大きなディスプレイを最近取り入れたんです。身体への負担が減りましたよ。
効率的に働くためのベストな環境をつくる
ドイツではなぜ、快適なオフィスづくりにここまで力を入れるのでしょうか? 効率的に仕事をしたい、というお話でしたよね。


西村
ドイツ人は「合理主義」だからだと思います。短い時間で成果を上げることを重視するんです。
また、キリスト教的な価値観から「労働は罰」という意識がどこかにあるのかもしれませんね。労働へのスタンスが日本とは異なります。
日本人は、まだまだ仕事が生活の中心に位置づけられているような感覚があります。


西村
ドイツ人は、プライベートを中心に生活するスタイルなんです。仕事の予定よりも、休暇を先に決めてしまう。
20年以上前に、『休むために働くドイツ人、働くために休む日本人』(福田直子、PHP研究所)という書籍が出版されるほど、労働とプライベートの位置付けが日本とは違いますね。
だから、仕事を効率的に行う環境が整っていなければ、従業員は会社に「パソコンが古い」「ディスプレイが足りない」などと遠慮なくリクエストします。
なるほど。一方、日本人はどちらかというと、「与えられた環境でがんばる」というメンタリティがあるように思います。


西村
同感です。
もちろんそのマインドがモチベーションの源泉になっていますし、日本企業では、オフィスづくりは総務・人事部門が考えるという風習もありますよね。
たしかに、オフィスづくりは自分の役割ではないから、環境に不満があっても意見をする人は少ないかもしれません。


西村
また、新入社員でも専門性が求められる労働環境であることも、こうしたオフィス環境の背景にあると思います。
専門性を発揮して仕事に集中できるよう一人あたりのスペースが広い代わりに、コミュニケーションを取る機能としてカフェスペースがあるんですね。
一方、日本企業はOJTで社員を育てる文化が強いので、上司と部下が物理的に近くにいるほうが理にかなっている面もあると思います。働き方の違いがオフィス環境にも現れていると感じました。


西村
たしかにそうですね。自分のデスクでは静かに集中して仕事をし、カフェスペースでコミュニケーションを取るのがドイツ人の働き方です。
残業ゼロをどう実現する?
働き方について、もう少しお話を聞きたいです。ドイツでは、就業時間中にとても効率的に仕事をすると聞いたのですが、残業はあまりしないのでしょうか?


西村
残業は基本的にしません。みんな、残業をしない前提で業務を組み立てますから。
西村さんも残業はしていないんですか?
日本では、管理職は忙しいというイメージですが……。


西村
ここ20年ほど、残業はしていないですね。
私は働くことが嫌いではありませんし、日本にいた20代の頃はハードワークをしていました。でも、ドイツに来てからはワークライフバランスを大切にするようになりました。

チームを運営するうえで、残業が出ないようにどんな工夫されているのでしょうか?


西村
はい、誰かの仕事が回り切らないのであればすぐに対応します。仕事が増えたとしても、メンバーの時間を犠牲にするのではなく、仕組みでどうカバーするかを考えるスタンスです。
従業員も、納期に間に合わなさそうであればすぐ私に相談しますし、お客様と交渉することも厭いません。
日本では、個人の努力でどうにかしようと考えがちな場面です……。日本人とドイツ人は似ているという話を聞いたことがありますが、だいぶ違いますね。


西村
「勤勉」という共通点をよく耳にしますよね。日本の「勤勉」は、与えられたことをやり切る意味合いが強いように感じます。
でも、ドイツでは自分が対応可能な範囲において勤勉。それを超えそうであれば、すぐ周囲にオープンにして話し合います。
誰もが強みを発揮して働けるチームづくり
勤務時間内で成果をきちんと出すためには、メンバーの能力を発揮してもらうことも大切ですよね。
西村さんは、専門性をもつメンバーが集まるチームのマネジメントをどのようにしていますか?


西村
一人ひとりの強みを生かす仕組みづくりを意識しています。
各メンバーと定期的に1on1ミーティングをして、好きなことや得意分野、キャリアプランを把握して、その内容に沿った業務アサインをできる限りしています。
1on1ミーティングは日本でもかなり広まりつつありますが、ドイツでは以前から取り入れられているんですか?


西村
そうですね。私が最初にドイツに赴任した2002年にはすでに、駐在した拠点で実施していました。
そして、専門性を発揮してもらう一方で、属人性をなくす努力もしています。マニュアル化や自動化も含めて、誰かがいなくとも仕事に支障が出ない体制づくりを心がけているんです。
20年以上も前から……。逆に、日本の働き方で優れていると思うポイントはありますか?


西村
管理職が介入しなくとも、お互いに助け合う精神があることですね。誰に教えられたというわけでもなく、日本人に宿っているメンタリティなのだと思います。
たしかに。誰かが困っていたら手を差し伸べるのは当たり前かもしれません。


西村
ドイツの会社は一人ひとりの役割が明確であるがゆえに、こぼれ落ちてしまうタスクが時に発生します。
駅伝に例えると、タスキが落ちてしまう。それを拾うのがマネージャーの役割です。
日本の働き方のいいところは継承しつつ、ドイツのような効率的な仕事のスタイルは、環境が整えば実現できるものなのでしょうか?


西村
できると思いますよ。
私も日本の商社のドイツ支社で働いていますから。日本の働き方改革の参考になる理想的なチームをドイツで作ってみたいと思い、日々マネジメントをしています。
まずは、整理整頓から始めよう
日本で働くビジネスパーソンが、自分の仕事の生産性を上げるために、ドイツの働き方で取り入れられそうなことはありますか?


西村
個人でコントロールできることとしては、まず「整理整頓」です。
「あの資料、どこだっけ?」と必要な書類をずっと探した経験がある人は多いんじゃないでしょうか? 探す時間をなくすことは、効率化の第一歩だと思います。

日本人は綺麗好きとよく言われますが、オフィスは、なぜか雑然としているケースも珍しくありませんよね……。
整理整頓は時間があったらやることであり、必須のタスクではない感覚があります。


西村
ドイツでは、物理的な資料もデジタルデータも、「置く場所を決める」「使ったら戻す」が習慣化されています。
ドイツには「人生の半分は整理整頓(Ordnung ist das halbe Leben.)」ということわざがあり、生活の基本として、子どもの頃から物を整理することをしつけられるのだそうです。
そうなんですね……!


西村
ただ、デジタルデータについては、今はクラウド環境が浸透してきたので、整理するというより、検索しやすいようにしていますね。
過去のやり方に固執することなく、新しいものを取り入れて働き方をリニューアルしていくことも大切だと思います。
整理整頓の仕方も、時代の流れとともに変わりますね。定期的に働き方を見直すことの大切さを感じます。


西村
あとは、時間の使い方です。就業時間や会議のタイミングが決まっていたとしても、1日の中で、自分がコントロールできる時間はあるはず。
集中してやるべきタスクやクリエイティブな仕事は頭がスッキリしている午前中に取り組み、ルーティンワークやミーティングはそれ以外の時間にやるといった工夫ができるのではないでしょうか。
なるほど。ミーティングの時間を変えるなどの場合、まずは上司を動かさないと変えられない……というケースもありますよね。メンバーから上司に働きかけられそうなことはありますか?


西村
日本企業は上司の指示に部下が従う組織風土がありますよね。
だとしたら、直接的に意見を伝えるよりは、他の部署の人から上司に働きかけてもらうなど、ワンクッション挟むのがいいかもしれません。
日本とドイツの違いを理解したうえで、今日おうかがいしたことを参考に、働きやすいオフィスづくりや働き方をしていきたいと思います。今日はありがとうございました!

2025年2月取材
取材・執筆=御代貴子
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト