シナリオ・プランニングで描く「未来の働き方とオフィス 2030」
予期しない未来に備えるために。
2020年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行・拡大により、社会は新しい生活様式(ニューノーマル)と呼ばれるようにライフスタイルやワークスタイルの強制的なアップデートを迫られました。リーマンショックや東日本大震災、ブレグジットなど、振り返れば私たちは不確実性に満ちた予測困難な時代を生きています。しかしながら、このような環境下においても企業や経営者は先を見越した意思決定や戦略を描くことを迫られています。
不確実な未来を踏まえた、有効な戦略アプローチのひとつとして考えられるのが1970年ごろからビジネスで活用され始めた「シナリオ・プランニング」という手法です。未来を扱う態度には、「起こって欲しい未来」や「過去~現在の延長から起こるだろう未来」がありますが、シナリオ・プランニングでは「起こりうる未来」を扱います。
WORK MILLは、アイディール・リーダーズ株式会社の協力のもと、このシナリオ・プランニングを活用して日本のホワイトワーカーの2030年の働き方と働く場について未来洞察しました。未来洞察に正解は存在しませんが、予期しない未来に備える材料となるべく、単一の未来ではなく、複数の未来シナリオを今回、描き出しました。
4つの異なる2030年の世界
人口動態、経済状況、テクノロジーの進化から価値観の変化まで幅広い領域のデータを集め、働き方・働く場に影響がある要素を抽出しました。その中から、未来を分かつドライビングフォース(分岐点)として「経営の価値観と地球環境問題」、「テクノロジーの進化と労働者不足問題」に着目しました。
そして、”エコノミーファースト(経済成長主義)⇔サステナビリティファースト(持続可能性主義)“ と ”Human-based working(人間が中心に働く)⇔ Tech-based working(AI・ロボットが中心に働く)“ の2軸を設定しました。このマトリクスから描き出した、2030年の働き方・働く場の4つのシナリオを、「起こりうる未来」の世界として紹介します。
Future1:Tech based Working(AI/ロボットが中心に働く)×エコノミーファースト(経済成長主義)
アスリートのように競い合う、競争型テクノロジー実力社会
テクノロジーの目覚ましい進展によって働き方が競争化、経済成長主義のもと「ワークスコア」を高める実力社会へ
ディープラーニング、AI、ロボットなどのテクノロジーが目覚ましい進展を遂げ、2030年にはシンギュラリティがほぼ実現される。AI革命が起こり、さまざまな領域で自動化やバーチャル化が進み、テクノロジーと共存する社会となり人々の生活様式も大きく変わる。
少子高齢化が進むが、テクノロジーによる代替で労働者不足は解消される。そして従来の技術力や勤勉さを活かし、日本は国力を維持していく。一方で転職や失業への職業訓練、リカレント教育といった持続的なキャリア形成や労働に対する社会保障は未整備な状態は変わらず。よって人々は経済力確保のためより良い仕事や待遇を求め続ける結果、経済成長主義が継続される。
AIやロボットに対するリテラシー(ナレッジ・スキル)がワーカーに問われ、テクノロジーを上手く活用できることが仕事の生産性や優秀さに結びつくようになる。また複数の企業をプロジェクトごとに参加し、専門性やスキルを高め成長をめざす働き方が浸透。企業も更なる経済成長のため優秀な人材を求め、終身雇用からジョブ型雇用に切り替えるようになる。
能力・成果重視が進むことで格差・ヒエラルキー構造が顕在化するが、公平性は高まる。立場に関係なく成果を上げた人材や先進的技術を取り込んだ企業が勝ち組となる。個人や企業に対して評価を示す共通指標が経済市場で生まれる。ワーカーはマイナンバーに労働スキルや実績がスコアリングされる全国共通の「ワークスコア」を与えられ評価基準となる、より良い仕事や待遇を得るためにスコア向上をめざしてアスリートのように切磋琢磨しながら働くようになる。企業側自身もプロジェクトの評価がスコア化され、高いスコアの個人と企業がつながりあう社会となる。
働く場もヒエラルキー型へ、ワークスコア強者が働く「プレミアムオフィス」の台頭
テクノロジーを駆使しながら競い合う実力社会では、いつでもどこでもスキルを磨き働けるようにリアル・バーチャルを問わず、あらゆる場で働くようになる。働く環境でもワーカーの能力や実績、つまりワークスコアがベースとなりヒエラルキーが顕在化される。
企業や雇用主はセンターオフィスに機能的な執務環境だけでなく、最新のテクノロジーツールやシステム、専属AIロボット(秘書)などを用意することで、ワークスコア上位者の確保と彼らの生産性向上に努める。さらにスキルを高める学習スペースや食事、医療、美容、娯楽など豪華な生活空間を含んだプレミアムオフィスの存在が加速する。センターオフィス以外にも、シェアオフィスやコワーキングスペース、デジタル空間上のバーチャルオフィスなど、ワークスコア上位者のための多様なファシリティが街中に広がる。
一方で、ワークスコア下位者はプレミアムオフィスが使用できなく、選択肢が限定される。2020年のパンデミック後から普及した在宅勤務がメインになりホームオフィスが彼らの主流となる。また街のお店、公共空間にあるワーキングスペースにおいて最低限の環境を活用しながら働く姿が日常となり、ヒエラルキー文化がワークプレイスにも反映した社会となる。