将来を担う世代の『生きる力』を養い、共に『未来』をつくる-「理論」と「実践」のマラソンランナー・井上博成
2024年4月の開学を目指して、岐阜県飛騨市では初となる大学、「Co-Innovation University(仮称)」(以下「CoIU(仮称)」)が設立される動きが注目を集めています。その設立準備に、現在進行形で奔走しているのが、一般社団法人 飛驒高山大学設立基金代表理事の井上博成さんです。
そんな井上さんに、Open Innovation Biotope “Cue”のメンバーが会いに行く!
井上さんの、「理論」と「実践」の軌跡を、どうぞご堪能ください。
前編はこちらから。
―井上博成(いのうえ・ひろなり)
平成元年(1989年)生まれ。岐阜県高山市出身。東日本大震災をきっかけに地域の新しい価値を感じ、出身地である高山市と京都大学との間で2014年~自然エネルギーに関する研究開始をきっかけに高山市へ戻るようになる。京都大学大学院経済学研究科博士課程研究指導認定退学。主な研究領域としては自然資本と地域金融。自然エネルギーを研究⇔実践する中で、小水力では、飛騨高山小水力発電㈱を設立(2015年)し、そののちも各地に法人を設立しながら全国各地で小水力発電の事業化を行う。木質バイオマスを研究する中でエネルギー利用のみならず、木材そのものの利用に高い関心を持ち、飛騨五木㈱(2015年)の立ち上げや、金融視点から東海地方で当時唯一の管理型信託会社である、すみれ地域信託㈱(2016年)の設立など理論と実践とを日々往復している。
ついに夢が実現! 大学設立に向け、カウントダウン。
WORK MILL:準備運動を経て、「大学づくり」ですね。
井上:大学をつくるって、大変です。「現在進行形」でめちゃくちゃ大変です(笑)
「経済学」が主戦場だった私が、「教育」という新たな分野に飛び込む。経済学では使わない筋肉を使うわけです。働く人や、建物、お金、学校経営、カリキュラムといったいろいろな検討事項を「インテグラル」しながら、一つのあるべき形を目指していくことに、やりがいもありますが……。
すべての始まりは、まず、2019年11月2日、21人の先生や行政・NPO等のステークホルダーの方々に集まっていただき、大学設立に向けた委員会を設置しました。第1回検討委員会は、顔合わせ程度で無難に、かつ和やかに終わったんですが、第2回検討委員会は、それはもう悲惨なものでした。
「こんな大学つくれるの?」
「こんな大学つくる意味あるの?」
って、皆さん超辛口でした……
大学って、先生方が集まれば、つくれると思っていたんですが、そうは問屋が卸さなかった。「なぜ、いま、飛騨に大学をつくるのか」ということについての本質が捉えられていなかったんです。実際、他の大学との差別化要素は、立地条件くらいしかなかった。しかも社会的に見たら、飛騨にあるということは、むしろハンデでしかなかった。 そこから、もう一度コンセプトをはじめ、様々なことを一から考え直すことにしたんです。
井上:それから、ここでは到底お話ししきれない調整や検討を経て、2020年6月に、私が代表理事を務める一般社団法人飛驒高山大学設立基金と飛騨市との間で「大学設置に関する包括支援協定」を締結することができました。
また、「井上君がやるなら手伝うよ」と、現在一緒に理事を務めてもらっている鈴木興太郎さんと、川戸健司さんが一番最初の組織化や壁打ちを手伝ってくれたのも大きかったと思います。そして「CoIU(仮称)」の学長候補である宮田裕章さん(慶応義塾大学 医学部教授)と出会ったり、藤本壮介さん(藤本壮介建築設計事務所主宰・東京大学特任准教授)と出会ったり、いまの理事や評議員、監事の皆様をはじめ、実践の根幹を支えてくださっている南田修司さん(NPO法人G-net代表理事)や事務局・全国の地域コーディネーターの皆さんとの出会いが今の大学構想を形成しています。そして、このステートメントが2022年3月27日にできあがりました。
「Co-Innovation(共創)」スパイラルに突入
WORK MILL:ここまでのステップが、まさに、「共創」そのもののような感じがします。
井上:そうですね。これまでを振り返ってみると、ここまでの大学設立に向けた取り組み自体が、まさに「共創」だと感じます。2019年11月からここまでの約2年7か月、数えきれないくらい多くの方々とお話しさせていただき、ずーっと形を変化させながら進んできました。
僕の手元に「CoIU(仮称)」を紹介するパワーポイントがあるんですが、いろんな方と対話をすることで毎日スライドが何枚か変わっていくんですよ(笑)。だからこそ、この大学をつくるプロセス自体が「共創」なんじゃないかなって思っています。学部ももともと設立想定だった「経済学部」を、「共創学部」に変更したわけですが、そのプロセスも理事のある一言から一気に進みました。そういったプロセスも楽しくて。「共創学部」という存在自体がこのプロセスや目指す未来、すべてを物語っているなと思います。
学生の皆さんには、私も日々噛みしめている「共創」の醍醐味を味わってもらえるような教育の枠組みをつくれたらいいなと感じています。ただ本当に大変な道のりだとも感じますが(笑)