もし「共創」の担当者になったら? 大切にしたい5つの態度(共創プロセスデザイナー・有福英幸×WORK MILL コミュニティマネージャー・岡本栄理対談・後編)

企業で共創に取り組む事例が増えてきました。しかし、担当する社員は突然「共創して」と言われても、何から始めたらいいのかわからないものです。
今回は、バックオフィス担当から共創空間のコミュニティマネージャーになった株式会社オカムラの岡本栄理さんと、共創の第一人者とも言えるフューチャーセッションズ代表の有福英幸さんの対談です。
後編では、前編の話題を発展させ、共創の担当者になったら、どうやって共創にどう取り組んでいけばいいのかから、議論を深めます。

有福英幸(ありふく・ひでゆき/写真右)
共創プロセスデザイナー。フューチャーセッションズ代表。2012年から対話を通してステークホルダー同士が「新たな関係性」と「新たなアイデア」をつくり出し、協力してアクションできる環境を作り続ける。オカムラの共創空間Open Innovation Biotope “bee”(大阪)、“Cue”(名古屋)の立ち上げに関わった。
岡本栄理(おかもと・えり/写真左)
オカムラWORK MILLコミュニティーマネジャー。大阪の共創空間Open Innovation Biotope “bee”の担当を経て、東京の共創空間Open Innovation Biotope “Sea”へ異動。2023年6月より、街から大阪万博を盛り上げる活動を行う一般社団法人demoexpo理事に就任。
共創の担当者になったら、どうすればいい?

岡本
他社で共創の担当者になった方にお会いすることもあるのですが、共創がまだ「自分ごと」になっていない方も多いなという印象があります。
「会社がやれ、と言うからやるけど、何をしたらいいですか?」という状態というか……。
できたばかりの部署だと、「共創すること」が目的になっている面がありますから。
さらに、共創空間や共創の部署を作ると、途端にそれ以外の人たちは「私には関係ないこと」になり、招き入れにくくなってしまうこともある。

有福


岡本
難しいですよね。
でも、共創のための空間を作っても「この人たちが担当です」と決めないと、その空間が活用されなくなってしまうし……。
そこに集まると自然と共創したくなる空間デザインは、もっと探求して工夫できそうですよね。

有福

岡本
あとやはり、共創空間のコミュニティマネージャーが、関わる人それぞれを主役にしていくことも大切です。
そのために、どんなことをしていますか?

有福

岡本
参加者が、テーマを「自分ごと」にしてワクワクできる場づくりをするんです。
私たちコミュニティマネージャーが背中を押してあげて。みなさん、最初は様子を伺いながら始めるので、「背中を押されたから」という言い訳をつくってあげる。
いいですね。

有福

岡本
そうすることで、共創空間が普段の業務では叶えられない自己表現ができる場になったり、「イベントで知り合った面白い人がいるから、社内でつなげよう」という掛け算になったりしていくんですよね。
自然と共創したくなる5つの態度

岡本
活動を広げていくためにも、まずはコミュニティマネージャーに、「こういう成果が自分たちで出せた」という成功体験をしてもらうことが重要かもしれません。
その時、個人のスキルだけに頼らない再現性が大事だと思っていて。
共創での成功体験を考える上で、私は「態度」がすごく大事だと思うんですよね。
最近、私たちが共創プロジェクトでうまくいった要因を整理してみて「自然と共創したくなる態度」として、次の5つにまとめてみました。どう思いますか?

有福
【共創態度】
・未来に心地よくいられるような発想をしよう
・積極的に情報・知識を共有しよう
・みんなが参加できるように配慮しよう
・役割を越えて臨機応変に相互支援しよう
・新鮮な気持ちで問い続け、試行錯誤しよう。
意識的にこういう態度で過ごしていると、のちにマインドセットが追い付くんですよね。
「自分がどう思っているかはとりあえず横において、まずはこういう振るまいをしてみよう」と考えることが大切です。

有福

岡本
どれも共感します……!
特に「新鮮な気持ちで問い続け、試行錯誤しよう」が素敵ですね。以前に開催した、「女性が活躍する職場」をテーマにしたイベントのことを思い出します。


岡本
有福さんたちとの対話の中で、「『何かが足りないから女性が活躍できない』『男性が悪い』じゃなくて、『女性が心地よい職場は男性を含めた全員にとって心地いい』という発想でやってみよう」という方向性をいただいて。
まさに新鮮な気持ちで問い続けた結果、「世の中の流れに自分たちは関われない」という思い込みがあったけど、「自分たちで未来が変えられるかも」と初めて思えたきっかけになりました。
最初からマインドだけ変えようとしても難しいですから。態度を変えることで「その方がうまくいく」と気づく。そこから自己変容するしかない。
成功体験とか、「その方が楽しい」感覚がないと、人はなかなか変わりません。共創の良さも、そこで初めて理解できるし、初めて「自分ごと」にできると思います。

有福
共創ができれば「副業」も必要なくなる?
そうやって「自分ごと」になっていくと、社員がやりがいを持って前向きに働けるようになりますよね。

有福

岡本
そうですよね。私の場合、共創によって会社に対する愛着も湧いたんですよ。
過去の私は「仕事は仕事」って感じでした。でも、今は仕事とプライベートの境界線が溶けて、まさにライフワークになっています。
共創によって本当にやりたいことに挑戦できる環境を整えることで、優秀な人材が会社に対して愛着を持つ。
そうやってモチベーション高く働ける環境や機会をつくるって大事なことですよね。個人のやりたいことが会社で実現できれば、わざわざ副業をする必要はなくなるはずです。

有福

岡本
たとえば、私は今、大阪・関西万博にまつわる一般社団法人の理事も兼業しているんです。
beeで共創活動をしていると、「大阪の未来を考える=万博」というように、自然と話題に巻き込まれることが増え、万博という大いなる共創の機会に自分も能動的に取り組みたいなという思いが強まって。
その一つとして「EXPO酒場」という街から万博を盛り上げる活動をしていて。本業とは直接は関係ないことですけど、「共創の延長線上だから」と会社側がOKしてくれたんです。


岡本
そして、万博の例でいえば、兼業でやっていた万博の活動も影響して、オカムラ自体も万博に出展することが決まったんです!
株式会社オカムラの全社としての大きなイベント事(EXPO 2025 OKAMURA Challenge )になり、社内外の共創へと発展しています。
素敵ですね。
副業って、「この会社ではできないことを他でやる」という状態です。なので、どんどん共創が生まれにくい状況になってしまうと思います。
でも、岡本さんみたいに、1つの会社の中でやりたいことができる状態の方が楽だし、その方が社員にとっても会社にとっても健全な関係性になると思います。

有福

岡本
個人が動けるようになると、「個人でやりたいことを応援してくれる会社」として、周りからの会社の評価も高まるんですよね。

「EXPO酒場」など多岐にわたる共創活動が評価され、「はたらくWell-being AWARDS 2025」の受賞にもつながりました。
世間の評価が得られると、「あの会社は社員にこんなチャンスを与えてくれるんだ!」という広報にもなりますよね。
それによって、さらに優秀な人材が入ってくるようになりますね。

有福

岡本
本当にそのとおりです。外部から表彰されると、会社側もポジティブな認識になるので、他の社員にとってもチャレンジしやすい環境も整っていきます。
だから、個人の望みをある程度叶えて自由にさせるのはいいことだと思います。私は会社に対しての愛着ができて、私から会社に外部評価という還元もできて、好循環になっています。
逆に副業でそういった賞を受賞しても、「個人でそんな活動をしてるなんてすごいね」で終わってしまう。
本業ではなかなか評価されないんですよ。

有福

岡本
そうなんです。
でも、本業でやれば万博で知り合った取引先とも違う形でどんどん関係性が続きますから。
自発的に共創を作り出す「共創人財」を育てたい
そう考えると、イノベーションのために外部の専門家をたくさん呼ぶよりも、岡本さんのように自然発生的に共創を作り出せる人を社内で育てる方が得策なんじゃないかと思います。

有福

岡本
たしかに、「共創人財」を育てることは大事かもしれませんね。
私も最近は、「自発的に活動できる人を増やしたい」とよく考えています。
今は言葉だけの「共創」が先走りしている状態なので、共創を作れる人と、共創ができる場を増やさないといけないのかもしれません。

有福

一方で「共創に挑戦したい」人が、どんどんできることも大切ですから、そういう共創の輪を広げていくプロジェクトを、積極的に仕掛けていくことが大切なんでしょうね。
さっきの共創態度も、ぜひ一緒にブラッシュアップしたいですね。

有福

岡本
ぜひ! 共創の輪が広がっていくといいですよね!
オカムラのように企業が本質的な共創に携わっているケースはあまりないと思うので、事例としてうまく広げられたらうれしいです。
学んできたことを言語化して「共創をやりたい」という企業へお伝えし、共創の輪をつなげていきたいです。

2025年1月取材
取材・執筆=ゆきどっぐ
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト