個性や価値観が見えてくる! ボードゲームソムリエの松永直樹さんに聞く、相手をもっと知るためのボードゲーム3選
夏になり、新しい環境に慣れてきた人が多いのではないでしょうか。チームメンバー同士のコミュニケーションを深めたり、お互いの人となりを知ったりして、より良い仕事をしたいと考える人たくさんいるはず。
その方法としておすすめしたいのが、ボードゲーム。誰でも簡単に楽しめて、相手を深く知るのにきっと役立ちます。
今回は、ボードゲームの制作やプレイする場所の提供をしている「ボードゲームソムリエ」の松永直樹さんにインタビュー。コミュニケーションを生み出し、相手を知るのに適したボードゲームを3つ紹介してもらいました。
―松永直樹(まつなが・なおき)
様々な状況で最適なボードゲームを提供する「ボードゲームソムリエ」。延べ5000人以上にボードゲームを感動サプライズとして提供するエンターテイナーとして活躍する。また、大手企業へのボードゲーム研修コンサルティングや東京大学にてボードゲームの特別講師として登壇するなど、幅広い分野での活動も行う。著書に『戦略と情熱で仕事をつくる 自分の強みを見つけて自由に生きる技術』(ダイヤモンド社)がある。
ボードゲームを通してわかる、本当の姿
ボードゲームは、どんなコミュニケーションを生み出すのでしょうか。
WORK MILL
松永
取りつくろった自分ではなく、本来の自分を自然にさらけ出せたり、一緒にゲームをプレイすることによる一体感から深いコミュニケーションを生み出したりします。
松永
僕はボードゲームを使った企業研修を行うこともありますが、いつも2種類のパターンに分けてカリキュラムを用意しています。
純粋にボードゲームで楽しんでもらうパターンと、ただ楽しいだけでなく「あの時のプレイングはこうすれば良かったんじゃないか」とゲームを通して学びが得られる教育的な要素のあるパターンです。
どちらの内容でも、皆さんの楽しそうな様子を確認でき、「メンバー同士の今まで知らない一面を見ることができた」といった声があります。そういう時、コミュニケーションツールとして、ボードゲームが役立っているのだと実感しますね。
スマホのゲームやテレビゲームやトランプなどさまざまなゲームがあるなかで、コミュニケーションを深めるという点で、ボードゲームならではの良さはどんなところにあるのでしょうか?
WORK MILL
松永
3つあります。
1つ目は、ボードゲームはアナログである点です。アナログだからこそ、デジタルの慣れ・不慣れなどは関係なく、年齢を問わず楽しめます。また画面に集中するのではなく、テーブルを囲みながら遊ぶので、仕草や表情などから相手の人となりが発見しやすいです。
2つ目は、大人数でも遊べるところ。2〜4人で遊ぶことの多いデジタルゲームと違って、ボードゲームは2~10人と幅が広く、人数の調整が自由です。
3つ目は、場所を選ばず楽しめる点です。電源は必要ありませんし、持ち運びもできるので気軽にプレイできます。
気軽にお互いの様子を掴み、コミュニケーションを深められるのですね。
WORK MILL
松永
そうなんです。シンプルなルールのボードゲームから、勝ち負けを競うもの、参加者同士で協力しながら楽しめるものまで、たくさんの種類があります。
なので、「ルールが難しそう」「負けるのが嫌」と思っている人でも、その人に合ったボードゲームをプレイすれば、楽しめるはずです。
では、今回は松永さんに会社のメンバーでコミュニケーションを深めるのに適したボードゲームを3つご紹介いただきます。
WORK MILL
ゲーム性抜群。シンプルで奥深い『ハゲタカのえじき』
松永
1つ目は、『ハゲタカのえじき』です。今回紹介する3つのゲームの中ではゲーム性が強く、オーソドックスで、ルールがシンプルで盛り上がるという理由で選びました。
より大きな数字で得点の獲得を狙う、心理戦ゲーム
●ルール
各プレイヤーは、1から15の数字が書かれた手札を1枚ずつ持つ。
「−5」から「10」まで得点がついている「ハゲタカカード」はシャッフルして、山札にする。
ハゲタカカードを1枚めくったら、各プレイヤーが自分の持ち札を1枚選び、他のプレイヤーに見えないよう場に出す。
全員が1枚ずつ持ち札を出したら、一斉に表に向け、数字を比べる。
・場にあるハゲタカカードがプラスの場合:最も大きい数字の手札を出したプレイヤー
・場にあるハゲタカカードがマイナスの場合:一番小さい数字の手札を出したプレイヤー
が、そのハゲタカカードを手にできる。
なお、同じ数字がかぶってしまうと、カードは獲得できなくなる。
この流れを繰り返し、最終的に得られたハゲタカカードの合計点が大きい人が勝ち。
●推奨人数
2〜6人
●プレー時間
15〜20分
ルールがシンプルで分かりやすいですね。
WORK MILL
松永
シンプルだからこそ、手札からカードを選んで、「せーのっ!」で表向きにする瞬間にとても盛り上がります。
やっぱり、盛り上がった瞬間を共有できたという共通の体験は、コミュニケーションを取る上で大事ですからね。
ゲームにおいて大切な要素ですね。
WORK MILL
松永
出した手札の数字が他の人とかぶると、そこで「同じ数字だからお互いの波長が合うね」と会話のきっかけになることもあるかもしれません。
偶然性が楽しめそうです。
WORK MILL
松永
ちなみに、出した手札の数字がかぶった場合、その数字が場においてもっとも大きな数字でも小さな数字でも、2人ともにその手札は無効になります。僕はここに、このゲームの奥深さがあると思っていて。
通常ならば、ハゲタカカードが+10のような高得点の場合、多くの人が15のように強い手札を出してカードを得たいと思うはずなんです。
でも、それを出すと他のプレイヤーとかぶってしまい無効になる可能性が高い。そういった思惑を予想し合いながら駆け引きができるので、一層白熱するんです。
ゲームの性質上、人数が多い方がかぶりやすくなり、より盛り上がると思います。
シンプルだからこそ、心理戦が際立ちますね。
WORK MILL
想像力と個性がみえる『DiXit』
松永
2つ目は『DiXit(ディクシット)』です。勝ち負けの結果よりも、ゲームのプロセスに価値が置かれているゲームなので、コミュニケーションを深めるのにぴったりだと思います。
松永
このゲームは、2010年にボードゲーム界のアカデミー賞ともいえる、ドイツ年間ゲーム大賞「Spiel des Jahres(シュピール・デス・ヤーレス)」という権威ある賞で大賞を受賞した人気ゲームです。
クリエイティビティ抜群! イラストを用いた感性重視のゲーム
●ルール
各プレイヤーは、それぞれ違うイラストが描かれたカードを手札として6枚ずつ持つ。
1ターンごとに、1人が語り部を務める。語り部は、自分の手札から好きなカードを選び、その絵柄から連想するタイトルを付けて、その名を他のプレイヤーに共有する。ただし、選んだカードの絵柄は誰にも見せない。
他のプレイヤーは語り部が名付けたタイトルに最も関係が深いと思うカードを自分の手札から選び、伏せて場に出す。
全員の手札がそろったら、語り部がシャッフルして、場にあるカードをすべて表向きに並べる。
語り部以外のプレイヤーは「語り部の選んだカードはどれか」を投票で当てる。その投票結果によって、各プレイヤーのポイントが決まる。
全ターンを通して、最も早く30点を得たプレイヤーが勝ち。
●推奨人数
3〜6人
●プレイ時間
30分
松永
これは僕も大好きなゲームで、面白すぎて他のゲームをやらなくなる危険性があるので、普段は封印しているくらいです(笑)。 カードのイラストが美しいのも特徴で、オプション的に拡張セットや続編なども用意されていて、バリエーションが豊富なのも魅力です。
語り部がタイトルをつけることで、その人の個性が見えていいですね。
WORK MILL
松永
そうなんです。タイトルの付け方にルールがないのもポイントです。直感で思いついたものだけでなく、歌やセリフ、擬音で表現してもOK。
むしろタイトルを長考しすぎると、思いつかなかったりするので、考えすぎずに出した方が良いです。
参加者のうち何人かが「語り部のカード」を当てられたら、語り部が得点をもらえます。 ただし、全員正解もしくは全員不正解の時は得点をもらえません。
なので、わかりやすすぎたり、まったく的外れのタイトルをつけたりすると、不利になる。そのため、「適度にあいまいなタイトル付け」が要求されるんです。
クリエイティビティが試されますね。
WORK MILL
松永
そうなんですよ。だからこそ、勝ち負けにこだわらず、プロセスを楽しんでもらいたいゲームです。
感受性が強かったり、芸術が好きな人が参加者の中にいたりすると、より一層楽しめると思います。
価値観のズレが、大笑いのもと『ito』
松永
3つ目は『ito』です。会話をメインにゲームを進めていくタイプなので、コミュニケーションの活発化につながると思います。
・プレイヤー同士で協力して進める『クモノイト』
・裏切りも含めた『アカイイト』
という2種類の遊び方がありますが、今回は前者を紹介します。
お題を通じてお互いの価値観を知る、プロセス重視型ゲーム
●ルール
1から100までの数字が書かれたナンバーカードの山札から、各プレイヤーに1枚ずつランダムに配る。カードに書かれた数字は、他のプレイヤーに見せない。
次に、1枚につき2つの「お題」が書かれたテーマカードを1枚引いて、場に並べる。内容は、「コンビニの商品の人気」や「ゾンビと戦う時に持っていたいもの」など。場に出たテーマの中から、全員で議論できそうなものを選ぶ。
各プレイヤーは自分の手札の数字を「テーマに沿った言葉」で表現する。その言葉をもとに、一番小さいと思われるカードを持っているプレイヤーから順に手札のナンバーカードを表にする。
最終的に、小さい数字から順に全員が手札を出せれば、ゲームが成功。
●推奨人数
2〜10人
●プレイ時間
30分
価値観が違うので、そのズレを見極めるためにたくさんコミュニケーションをとる必要がありそうですね。
WORK MILL
松永
はい。例えば、お題が「学校にあるもの」だとしましょう。1〜10のように小さい数字の時は、「消しゴム」や「黒板消し」のようにサイズの小さなものを示して、一方で大きい数字が出た時は「プール」や「体育館」などと大きなもので表現します。
この例のように「物の大きさ」だったらまだ分かりやすいんですが、「食べ物のおいしさ」や「好きな芸能人」だと、人によって違いますよね。
定量化しづらいお題だと、他のプレイヤーの表現している言葉を明かされたときにも「それがこの数字!?」といった感じで価値観のズレがむしろ盛り上がりに繋がるんです。
ズレが大きいのは、ゲーム的には失敗なのですが(笑)。
最初からお題が用意されているのも魅力的ですね。
WORK MILL
松永
テーマカードは50枚あり、1枚ごとに2つのお題が書かれています。自分でネタを作って無理やり話さなくとも、自然と話題が用意されているので、初対面同士でもプレーしやすいと思います。
同じチームのメンバーなど一緒に仕事をする時間が長い人など、特に価値観が知りたい人の考えを聞けるのがいいところですね。
ボードゲームで見つけた個性を、仕事にも活かそう!
他のボードゲームでも遊んでみたいとき、どんなことを基準に選べばいいでしょうか?
WORK MILL
松永
インタラクション(相互作用)の濃さを基準にするのはいかがでしょうか。つまり、どれだけ人との関わりの幅が多いゲームなのか、です。
とはいえ、パッケージだけを見ても、遊んでいる時のイメージが湧かないですよね。思い切ってボードゲームカフェに足を運んで、店員さんに質問をして教えてもらうのも良いと思います。
一度、試してみることが大切なんですね。
WORK MILL
松永
ちなみにボードゲームカフェは、飲み会や二次会、カラオケ、ボウリングくらいのノリで軽く行ける場所なので、社内の人とコミュニケーションを深めるのにおすすめです。
気軽に誘えるのは魅力的ですね。チームのコミュニケーションが深まれば、仕事にもプラスの影響が表れそうです。
WORK MILL
松永
ゲームを通して見えた人となりが、仕事をする上でも共通するかもしれません。
例えば、博打のような戦法をとる人は何事も恐れずにチャレンジするタイプかもしれないし、じっくり考えてプレイする人は几帳面で仕事が丁寧なタイプかもしれない。
そこでお互いの個性や価値観を知ることでチーム全体が良い雰囲気になり、仕事の成果や成長に繋がればいいですね。
そうなれば嬉しいです。本日はありがとうございました!
WORK MILL
2023年5月取材
取材・執筆:西村重樹
撮影:HAYATO
編集:桒田萌(ノオト)