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アスリートが引退後にITエンジニアへ。競技経験を活かしたセカンドキャリア支援のかたち

ひと昔前、体育会系といえば「明るくて元気」が強みで「営業職に多い」といったイメージもあったかもしれません。

しかし、彼・彼女らが活躍できるのは必ずしもそのフィールドに限らないと話すのは、アスリートや体育会系人材の就職・転職支援を主力事業とするアーシャルデザイン代表取締役の小園翔太さん。

これまでに5000名以上の支援に関わってきた同社では、アスリート人材の適性をどのように見極め、仕事へつなげているのでしょうか。

憧れだったアスリートが、実は不安でいっぱい?

まずは、アーシャルデザインを創業した背景を教えてください。

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小園

私は学生時代にプロのテニスプレイヤーを目指していました。でも、高校3年生のときに目の病気の飛蚊症(ひぶんしょう)に罹ってしまって。高い競技レベルで続けることが難しくなってしまいました。

プロの道は諦めて大学に進学しました。テニスは嫌いになれなかったため、インストラクターのアルバイトを始め、子どもやご高齢の方など、さまざまな人にテニスを教えてきました。

小園

その中で、たまたまプロのテニスプレイヤーの練習を手伝う機会がありました。その選手は、引退後が不安だとお話しされていて。

「3歳からずっとテニスしかしてこなかったから、テニス以外のことを知らない。もうすぐ引退なのに、世の中にどんな仕事があるのかわからない。どうしたらいいんだろう」と。

目の前にいるのは私が憧れていたプロのテニスプレイヤー。だけど、その彼女が将来を非常にネガティブに捉えているのに驚きました。

意外な反応だったんですね。

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小園

そこで、ほかのメジャースポーツも調べてみると、日本ではアスリートの引退後のキャリアが大きな問題になっているとを知りました。

そこから「将来はアスリートのセカンドキャリアを支援する事業をしよう」と考えはじめたんです。

スポーツで、ビジネスパーソンを育てる

日本で、アスリートのセカンドキャリアの選択肢が狭くなってしまうのはなぜですか?

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小園

日本とアメリカの違いを説明するのがわかりやすいと思います。

日本では、スポーツをする理由はその競技そのものをするため、心身の健康のためです。つまり「体育の延長線上の側面が強い」と感じています。

一方で、アメリカでは、スポーツがビジネスパーソンを育てる(社会で生きる上での人間形成)という側面があります。

スポーツとビジネスにそんな関係が?

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小園

実際にデータもあります。アメリカの有名な雑誌『Fortune』は年に1回、企業の総収入上位500社を「Fortune 500」としてまとめています。

その500社の幹部の経歴を調べた会社がありました。その調査結果から、そのうちの80%が、カレッジ(大学)までスポーツをやっていた人だったそうです。

説得力のあるデータですね。

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小園

そうですね。本当に考え方が違うんです。

日本では「大学までスポーツばかりやって、就職活動はどうするの?」「プロまでやって引退後はどうするの?」と聞かれたときに言い返せない人が多いんです。なぜなら、スポーツはスポーツでしかない、と考えているから。

小園

そうではなく、アメリカのように「スポーツは産業人を育てる。社会で活躍する能力を培える教育コンテンツですよ」とメッセージを発することができれば、日本でもスポーツは違う価値を持ってくると思っています。

アーシャルデザインでは、そのスポーツ経験のもつ価値をどのように伝えているのでしょうか。

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小園

私たちはブランドメッセージに「ビジネスアスリート」と入れています。「アスリートであることを辞めなくていい。それは、アスリートだけの個性であり、人生の財産。次はフィールドを変えて、ビジネスのアスリートになっていきましょう」と。

ただ、競技レベルが高くなればなるほど、その競技の世界から外に出る機会がなかなかありません。世の中にどんな仕事があるのか知ることもない。

それにもかかわらず、引退は突然やってくるわけです。選手によっては「1カ月後でプロ契約は終わりです」となることもある。いきなり外に放り出され、何をしていいかわからなくなるのは、大きな問題です。

体育会系人材が向いている意外な職業とは?

競技経験がビジネスに活きるのは、どんな点ですか?

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小園

私たちが紹介したアスリート人材が入社した会社から聞いた話から感じるのは、失敗経験が強みになるということです。

例えば「プロになる」「代表選手になる」「全国大会で優勝する」など、何かに対して強烈にチャレンジする時、失敗することの方が多いかもしれません。

つまり、真剣にスポーツをやってきた人は「人生をかけて何かにチャレンジしても、失敗することがある」とわかっているんです。

そして、「失敗はネガティブなものではなくて、次へのステップ」と理解しています。だから「失敗したから終わり」ではなく「成功に一歩近づいた」と思えるのは強みであり、仕事で活きる部分だと思います。

体育会系出身者と聞くと、なんとなく営業職に就く人が多いイメージがあります。

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小園

アーシャルデザインを創業したのは2014年。当時はアスリートが引退後に就く職業と言えば、営業職やスポーツ関連業務がほとんどで、そうしたイメージは間違っていなかったと思います。

けれど、私は「これはおかしい。真剣勝負の世界で何年も取り組んできた人が、仕事で結果を出せないことはない。アスリートには他の可能性もあるはずだ」と、当時から思っていました。

小園

そこで私たちが2020年から行っているのが、アスリートをITエンジニアにする取り組みです。結果として、ITエンジニアの仕事とアスリートはよくフィットしていますね。

アスリートにITエンジニアの適性があるんですか?

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小園

はい。当社では、人材紹介サービスの一環で元アスリートに約5000人に適性検査を行ったんです。

そのデータからわかった元アスリートの「職種適性」の1位は「目標達成を要する仕事」、つまり営業職でした。けれど、続く2位としてITエンジニアという結果が出たんです。

アスリートエージェントテックのWebサイトより

意外な結果ですね。

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小園

はい。しかし、考えてみるとよく納得できるんです。

ITエンジニアの仕事は、クライアントから仕事の依頼を受けて、納期が決められ、チームが作られ、ポジションを分けられます。そして、上にはリーダーがいて、チームで目標に向かう。

小園

これをサッカーに例えれば、ゴールキーパーやディフェンダーといった守る人がいて、ミッドフィルダーが間をつなぎ、フォワードが攻める。上には監督がいて、「今年のリーグ戦優勝に向けて頑張るぞ」と目標を示す。

カテゴリーは全然違いますが、脳の使い方は似ているんですよね。

どんなポジションの経験者がITエンジニアに向いているんですか?

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小園

もちろんデータによるものなので、一概に全部そうとは言い切れませんが、サッカーで言うと、ボランチより後ろ(自陣のコート半分よりゴール側)のゴールキーパーやディフェンダーが向いているような結果が出ています。

彼らは職人のような気質をもっているのかもしれません。自分が目立つというよりかは、後ろでチームを支える、指示を出すといった仕事を、普段からやっています

小園

特にゴールキーパーは唯一、自分以外の10人のプレイヤーを常に見られるポジション。全体を見てプレーしているので、ITエンジニアが向いている傾向値がでたのかもしれません。

反対に、得点を取る前線のポジションの人は営業職への適性が強く出る傾向にありました。

ほかの競技はいかがですか?

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小園

野球なら、キャッチャーに適性が濃く出ていて、陸上なら長距離、なかでも駅伝の選手たちに適性があります。

長距離だと個人競技ですが、駅伝はチームスポーツです。自分のペースの計算も必要ですし、「ここで抜くのは難しいかもしれないが、次の3区にいい形でつなげれば次の区で抜かせるかも」と、全体を考えながら走ります。

そういったスポーツで培った視点が、適性につながっているのかもしれません。

元気や明るさだけでない、アスリートのポテンシャル

これまで支援してきたなかには、どんな方がいましたか?

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小園

印象的だったのはある駅伝選手です。「毎日走っているだけなので、何を自己PRしたらいいかわからない」とおっしゃっていました。

そこで、「毎日していたことを朝から全部書き出そう」と伝えると、「毎朝5時に起きて、6時から数十km走ります」と。

毎朝、そんなに長い距離を!?

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小園

はい。それを続けるためには、本人のなかでさまざまな工夫や忍耐力がある。「それだけで自己PRだよ」と伝えました。

本人にとって毎朝の練習は当たり前の習慣なので、極端な表現でいえば、歯磨きするのと近いのかもしれません。なので、強みだと気づいていないんです。それを、PRできるかたちに言語化するのを手伝うのが大切ですね。

チャレンジ=自分の資産と思えるかどうか

最後に、どんな体育会系人材が社会で活躍していると感じますか?

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小園

10〜20年前は、元気や明るさが前提だったと思います。それも大事ですが、最近はより重視されている点が変わってきています。

具体的には、もっと本質的な目標達成能力や、自分自身で考えて行動できる自走力が大切になっている印象です。

これまで5000人以上を支援してきましたが、引退後に活躍している方やイキイキと働いている方には共通点があります。

活躍している方は、競技経験を「B/S(貸借対照表)」で捉えています。一方で少し躓いている方は、競技経験を「P/L(損益計算書)」で見ています。

現役経験や競技経験をB/Sで捉えている。つまり「資産」として考えているという事です。

そうすると、例えば「元大相撲の力士」と伝えた方が、最初の掴みとして盛り上げるかもしれないと思えたり、そういう考えが浮かびます。なぜなら現役時代の勝敗ではなく、プロ競技者であったことに価値を見出しているからです。

自分のアスリート経験をうまく捉えているのですね。

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小園

一方、セカンドキャリアが難しくなる人は、P/L(損益計算書)で見ている。勝った・負けたで競技経験を捉え、「Aチームで出られなかったから」「こんな成績で書くのはどうかな」と思ってしまうのはもったいないことです。

「競技でチャレンジしてきたことは私の資産です」と考えられれば、競技経験を強みにできて、社会に出ても活躍できると思いますよ。

2022年3月取材

取材・執筆:遠藤光太
編集:鬼頭佳代(ノオト)