リモートでオフィスづくりにチャレンジ ― ヤッホーブルーイングの移転プロジェクト
長野県の東に位置し、標高830メートルの高原地帯に佇む御代田町(みよたまち)。2020年9月、自然豊かで魅力溢れるこの町に、「ヤッホーブルーイング」スタッフたちの情熱が詰まったオフィスが誕生しました。
ヤッホーブルーイングは、創業の地・長野県にて新拠点である御代田町醸造所を新設。醸造所を併設した、スタッフ同士の絆を繋ぐワンフロアオフィスを完成させました。
「よなよなエール」「インドの青鬼」をはじめとする数々のヒット商品を世に送り出し、日本中のクラフトビール好きを魅了してきた同社が、これまでの歴史を継承し、新しい文化を生み出すために選んだオフィスとは。
御代田町・小園町長とヤッホーブルーイング・井手社長の対談記事に続く第2弾となる今回は、ヤッホーブルーイングと、オフィス移転業務を手掛けたオカムラチームによる総勢8名の懇談会が実現。
ヤッホーブルーイングではお互いをニックネームで呼び合う社風にオカムラ側も倣い、コミュニケーションを密にとりながら会社を超えた一つのチームとしてオフィスをつくりあげました。
新オフィス移転の意図やオフィスのデザインに込められた想い、コロナ禍でのチームビルディングについて、チームオリジナルTシャツをお揃いで着用して参加した皆さんにたっぷり伺いました。
株式会社ヤッホーブルーイング
写真右/児玉 ノンナ(ニックネーム はまち) 通販受注・顧客対応ユニット(ユニット名:おもいやり隊)
写真中央/羽野 優衣(ニックネーム はのちゃん) 情報システムユニット(ユニット名:システム管制塔)
写真左/神代 沙紅良(ニックネーム くるり3) 総務ユニット(ユニット名:ヤッホー盛り上げ隊)
株式会社オカムラ
写真右/林 昌毅(ニックネーム はやしっぺ)営業開発部 開発営業担当
写真中央/塚本 紗千(ニックネーム つかP)スペースデザイン一部 デザイナー
写真左/神山 里毅(ニックネーム リッキー)フューチャーワークスタイル戦略部クリエイティブディレクター
ヤッホースタッフの物理的、心理的距離が近付いた新オフィスのデザイン
WORK MILL:オフィス移転おめでとうございます。フラットで広々とした空間が広がっていますね。
はまち:見ていただいて分かるとおり、天井が高くて非常に開放感があります。ワンフロア内には受注、人事総務、経理といった一通りの機能が揃っており、コロナ禍で増加したテレワークにも対応できるような会議室も複数設置されています。
立って作業するのに最適なスペースや、窓際のコラボスペースもあるんですよ。一カ所にとどまって作業するのではなく、スタッフの状況や内容に応じて場所を変えながら仕事ができる空間になっています。
WORK MILL:オフィスの中でも窓際のスペースが華やかですね。
はまち:窓側はスタッフ自らが装飾しているんですよ。ワークショップにも使えるスペースがあったり、スタッフが普段着ているオリジナルTシャツをリメイクしてつくったガーランドなどを飾っています。自分たちの手でワイワイとオフィスを彩っていく過程は心躍りますね。
WORK MILL:新オフィスに移転して約1ヶ月、スタッフの反応はいかがでしょうか。
くるり3:お陰様で「これまでよりスタッフ同士の距離が近くなった」「コミュニケーションの機会が増えた」という声が多く寄せられています。今はコロナ禍でオフィスへの出社を制限しているため全員が一度に出社できているわけではありませんが、在宅勤務中のスタッフからも期待の声を聞いていますね。移転前に構想していた新オフィスのコンセプトや、ヤッホーらしさが体現された空間になったと感じています。
WORK MILL:「ヤッホーらしさ」というと?
くるり3:ヤッホーブルーイングはスタッフを重視する会社で、「お客様は友人、スタッフは家族」という感覚を常に持っています。自分たちのルーツであり、自慢でもある部分ですね。そんな社風を尊重し、スタッフが一番働きやすい環境を提供するために、コミュニケーションをオープンかつフラットにできる仕掛けや、すれ違った人とコミュニケーションを増やせるようなオフィスデザインを思い描いていました。
リッキー:私たちオカムラとしても実際にオフィスを提案するうえで、ヤッホーさんならではの温もりやスタッフ同士のつながりを重視しました。ヤッホーさんの社風については以前から知っていましたが、実際にお会いして、スタッフ同士の仲の良さに驚きました。本当に家族のような関係性を築いているんです。オカムラ側のスタッフとも一体になってくれて、パートナーとして迎え入れてくれました。
WORK MILL:コンペでパートナーを選ばれたということですが、決め手は?
はやしっぺ:選定理由は気になりますね、教えてください!(笑)
はまち:ヤッホーの目線で寄り添ってくれたことでしょうか。これまでに条件書を書いた経験がなかったので、「きちんとコンセプトや希望が伝わるかな」「この表現って失礼にならないかな」と不安だったんです。そんな懸念を払拭し充実した提案書をつくってくださいました。
私たちのちょっとした言葉からオフィスデザインを膨らませ、質問にも真摯に答えてくれたと思います。漠然としたイメージが形になる過程を体感しました。
はのちゃん:プレゼンテーション時に驚いたのは、オカムラさん側もお互いをニックネームで呼び合っていたこと。馴染んでいたので「あ、もともとオカムラさんもニックネームで呼び合う社風だったんだ!」と思ったくらいです(笑)。
後日、ヤッホーのニックネーム文化に合わせてくれたと知って嬉しく思いました。私自身、外部パートナーさんと大きな仕事をするのが初めての経験だったのですが、一緒にものづくりをする仲間としてチームビルディングできましたね。
家族を迎え入れるように。コロナ禍で見つけた、最適なオフィスのかたち
WORK MILL:新オフィスのコンセプトを具体的に教えてください。
はまち:働くスタッフにとって、家のように居心地がよく自然と団らん(コミュニケーション)が生まれるような場所をめざしました。ヤッホーにとってはワンフロアでお互いの様子が分かり、気軽に声をかけあってコミュニケーションがとれることは非常に大切な要素なんです。
コロナ禍でテレワークが浸透し、働き方や働く場所の選択肢が増えた今でも変わらず意識しているポイントです。最終的には仕切りもほとんどない、ヤッホーらしさ溢れるオープンなワンフロアオフィスになりました。
WORK MILL:こだわったポイントはありますか?
くるり3:居心地の良いオフィスをつくるために、大前提としてオフィスの基本的な快適さは担保できるように気遣いました。新オフィスが入った建物は、もともとはオフィス仕様の物件ではなかったんです。オフィスとして整えるためには、インフラ面でのテコ入れも必要で、なかでも「快適な空調」「心地良い照明」「音に関するストレスがないこと」の3点は移転前から重視していました。
リッキー:オカムラチームとしても、この建物をどうオフィスデザインに活かすのかは大きなポイントでした。今年に入って早めの時期に佐久にある旧オフィスにうかがう機会があったんです。率直な感想として、スペースが手狭でスタッフ同士が窮屈そうだなぁと思いました。せっかくのヤッホーさんらしさが発揮されていない空間というか……。
はのちゃん:やっぱりそう思われますよね。もともとオフィス移転のきっかけも事業拡大による人員増加が理由のひとつだったんです。新オフィスではみんなが輪になってアイデアを出し合えるような空間をつくりたいと思っていました。
つかP:旧オフィスと移転先の建物を下見したあとに、オンラインプレゼンテーションの準備をはじめました。「壁なし、吹き抜けあり」という開放的かつ限りなくフラットな空間を活かしながら、ヤッホーさんの社風を表現するオフィスを提案させていただきました。
WORK MILL:オカムラチームがオフィスを考えるうえで、こだわったポイントは?
つかP:これまでもお話に出ているように、ヤッホーさんは本当にアットホームで明るいんですよ。文化であり最大の魅力であるその部分を、どのようにレイアウトに落としていくのかを考えました。
会話のきっかけが自然と生まれるように、固定席のスペースと執務スペースはオフィス中央に配置して、「みんなでワイワイ話しながらプロジェクトを進める」というヤッホーさんの文化をしっかり継承できるよう意識しました。内装についても明るい色を取り入れることで、ヤッホーさんの活発さや仲の良さを表現できたと思います。
リッキー:コミュニケーションの取り方については、設計やデザインを考えるなかで非常に重要なポイントです。旧オフィスを下見した際にもスタッフさん同士が大きな声で話す文化、活気ある文化を感じました。そんなヤッホーさんらしいコミュニケーション文化をどのように表すのかが最大のポイントでしたね。
はのちゃん:実際に新オフィスで過ごしてみてヤッホーらしさが溢れるオフィスデザインだなぁと感じます。オフィスの真ん中にギュッと集まっていながらも、窮屈感はないんですよ。周囲に打ち合わせスペースがあるので、個々の時間とチームでの時間をしっかり確保できています。
課題になった冬の御代田の寒さ。建物の特徴を活かした工夫とは
WORK MILL:さきほどヤッホーさんは「空調、照明、音」を移転時の課題に挙げていらっしゃいましたよね。
くるり3:そうですね。まず、長野県御代田町という地域の特性を考えるうえで、冬の厳しい寒さをどのように克服するのか、どのように暖かいオフィスにするかは大きな課題でした。天井が高い吹き抜け構造で開放感がある一方、ただ暖房で温めるだけでは冬場の光熱費や底冷えの問題も予測されていました。
プロジェクトが始まったタイミングが真冬だったこともあり、建屋内は冷え込んでいて本当に寒かったんですよ……。限られた予算の中でこの寒さを克服できるのか、不安が拭えませんでした。
はやしっぺ:地域と建物の特性を踏まえたうえで、スタッフの方が快適に過ごすためのプランを考えていきました。暖かさと開放感を両立できる空間をつくりたかったんです。
くるり3:最終的に提案いただいた中から、高い天井で開放感を維持しながらも空調効率を向上させ、底冷えを防止するプランを選びました。天吊りタイプの空調を設置のうえ、送風機でフロア内の空気循環を効果的に生み出す仕組みです。
暖かさはもちろん、コストパフォーマンスにも優れていたのが採用の決定打になりました。また、床は将来的な人員増に伴う執務スペース拡張も見据えて、OAフロアを敷く面積を最大限にとりました。床の断熱効果にも期待しています。
WORK MILL:照明や音の環境についてはどうですか。
くるり3:建物にもともと設置されていたのは、非常に明るい水銀灯型の照明でした。オフィス用として使用するには眩しすぎて、デスクワークには厳しい環境でした。また、ワンフロアオフィスを採用したものの、音の問題も心配で……。お客様の電話対応やオンライン会議といった、静かな環境が必要なときにどう確保するのかが課題でした。
はやしっぺ:照明については、省エネ性はもちろんデスクワークに適した明るさを確保できるタイプを提案させていただきました。必要な静音性については広々としたフラットな空間を活かして距離で担保するようにし、レイアウトの工夫でカバーしました。
くるり3:心配していたフロア内の音の環境については、床をカーペット素材にすることで反響を抑えられています。空調にしても音にしても、省エネと快適性を両立するプランを提案いただいたので、必要なものにしっかり投資することができました。
新しいオフィスで思い描く、新しいヤッホーのかたち
WORK MILL:新オフィスと旧オフィスで、決定的に違うところはどこでしょうか?
くるり3:新オフィス移転のタイミングは、すでに新型コロナウイルスが猛威をふるっていた時期でもあり、働き方を見つめ直す大きな転機になりました。オフィスデザインを考える過程でも、「オンラインで仕事をする流れがきているなかで、ワンフロアオフィスは本当に必要なの?」という問いがありましたが、顔を合わせて同じ空間で働くことは、チームビルディングを会社の競争力として重視している私たちにとって、変わらず重要な要素です。
在宅ワーク期間を経て、久しぶりにオフィスに来て一緒に仕事したりすると、オンラインでは埋めきれていないものが多くあることを、改めて実感します。一方で、コロナを機に、オンラインの活用にも、皆急速に慣れてきて、ケースバイケースで両方を上手く使い分けるような形になってきています。
結果的にヤッホーの理想が取れ入れられた、新しい働き方にも柔軟に対応できる場所が誕生しました。長い時間をかけて検討してきた新オフィス構想が、いいかたちで完成したことが嬉しいです。
前編はここまで。後編ではコロナ禍におけるオンラインでのチームビルディングの手法や御代田オフィスの未来ビジョンについて詳しく掘り下げます。アットホームなヤッホーならではの、ユニークなコミュニケーション術について語ってもらいます。
2020年11月24日更新
取材月:2020年10月