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メーカーと産廃業者が手を組むことが、循環型社会への第一歩 ― 石坂産業 石坂典子さん

産業廃棄物のリサイクル化(再資源化)を行っている石坂産業株式会社は、業界トップの98%のリサイクル化率を達成する産廃工場として広く知られています。 

前編では、そんな石坂産業に年間4万人もの見学者が訪れる理由をうかがいました。後編では、石坂産業がこれから見据える未来「メーカー×産廃業者」によるイノベーションについて詳しくお話をうかがいます。

メーカーに対する教育は産廃業者のミッションである

WORK MILL:以前、あるインタビューの中で「これからは企業に対する教育が必要になってくる」と仰っていましたが、詳しくお話をうかがえますか?

石坂:ゴミをゴミとして扱うのではなく、未来に繋がる「資源」として捉えていただく。すべての廃棄物を再生すべき素材として捉えることがこれから重要になってくると考えています。なぜなら世に出回るプロダクトが将来ゴミで終わるのか、それとも資源に生まれ変わるのかは、製造の時点で決まってくるからです。モノづくりと産廃処理は決して切り離して考えられるものではありません。

実は石坂産業を訪れる年間4万人の企業・団体のうち、製造業(メーカー)は高い割合を占めているのです。メーカーにこそ、サーキュラーエコノミー、ゼロウェイスト社会の実現の重要性について廃棄物処理を通じて知っていただきたいと考えています。

ー石坂典子(いしざか・のりこ)
1972年東京都生まれ。 高校卒業後、米国の大学に短期留学。 1992年父親が創業した石坂産業株式会社に入社。 埼玉県所沢市周辺の農作物がダイオキシンで汚染されているとの誤報を機に、「私が会社を変える」と父親に直談判し、2002年社長就任。

従来の大量生産・大量廃棄型の「リニア・エコノミー」から抜け出し、既存の資源を最適化することが気候変動や環境問題への対処に繋がるでしょうし、それが新たなビジネスや雇用を創出するきっかけにもなると思います。

WORK MILL:一方で、まだまだ大量生産・大量廃棄型のビジネスはメジャーな存在かと思います。そうした現状についてどのようにお考えですか?

大量生産・大量廃棄型ビジネスのジレンマ

石坂:もちろんメーカーもビジネスをしているわけですから、一生壊れない商品を作ることは現実的ではありません。

より売れる商品、あるいはより回転率を高められる商品を製造するために各社が工夫を凝らしています。

一方でそうした商品が世の中に出回ることによって、ものを大切にしなかったり、飽きたら捨てるといった「ファスト的」な価値観を作り上げてどんどんゴミを増やしていることも事実だと感じています。

WORK MILL:印象に残っている具体的なエピソードは何かありますか?

石坂:かつて石坂産業に焼却炉があった時代、工場の通路が塞がれるほど大量の廃棄物が持ち込まれました。それはクリスマスのイベントが終わった時に捨てられた商品、新店リニューアルの際に捨てられたブランド品の衣類、消費期限が間近に迫った食品などです。それこそ皆さんが信頼している大手企業が製造した商品がたくさん持ち込まれたのです。

それに不法投棄の問題も無視できません。実は家を解体した時に出る廃棄物は処理や再生が非常に難しいものなのです。世界的にもほとんどが再生できずに埋め立てられていて、何より不法投棄されやすいのがハウジングから出る廃棄物なのです。

運ばれてきた混合廃棄物は仕分けされ再資源化へ展開される。

これはハウジングメーカーが破棄しているというわけではなくて、住宅のように販売から廃棄までの時間が長い(約50年)商品は、作る側と解体する側が違うんですね。

そうなると、将来的にどの会社が家を解体するかなんて分からない。もちろんハウジングの廃棄物にはシリアルナンバーは振られていませんから、どこかの山に捨てても分かりません。それに廃棄にかかる費用が高額なこともあって、適切に廃棄しない業者が少なからずいることは事実です。

SDGsの広がりによって、石坂産業の価値観が社会に伝わりやすくなった

WORK MILL:そうした現状がある一方で、最近はSDGsの概念が広く浸透し、レジ袋やプラスチックのストローを廃止する動きも活発化していると思います。こうした流れに関してどのようにお考えでしょうか?

石坂:SDGsは社会にとって大きな変換点になったと思います。私たちが何十年にも渡って伝えようとしてきた価値観がやっと社会に受け入れられる時代になったと感じています。’

作って売ることだけ考えれば良いという時代ではなくなってきているのです。例えば、ファッションの世界でも「この服は後進国の人たちが劣悪な労働環境の中で作らされている」といったニュースが話題になる時代ですよね。つまり、「目に見えない世界」のことを考える時代になったということです。

それは生産の現場もそうですし、廃棄処理の現場も同じだと思います。消費者がそういった部分に目を向ける時代になったのです。こうした流れは特に欧米で顕著ですし、目に見えない部分に配慮できる企業が支持されていく時代になるのだと思います。

WORK MILL:石坂産業が産廃処理会社としてできることは何かあるのでしょうか?

製造業者と産廃処理業者が手を組むことが次の時代の答え

荷降ろし場に運ばれた廃棄物に異物等が混入していないかを確認し、素材ごとに仕分けしていく。

石坂:もちろんです。先ほどお伝えしたように、プロダクトは生産の時点で将来的にゴミになるか資源として再生できるかが決まってしまいます。だからこそ、モノづくりと廃棄処理はセットで考える必要がありますし、我々は様々な企業と協業していきたいと考えています。

モノづくり企業は作る技術を持っていて、なおかつ何をどう売れば顧客に支持されるのかといったマーケティングのノウハウも豊富に持ち合わせていますよね。一方で、我々は「どんなふうに作れば処理のコストが掛からず、環境にも負担をかけないか」というノウハウを持ち合わせています。

だからこそ我々は、モノづくり企業にとって、ものを循環させるための「再生パートナー」になりたいと考えています。なぜならば私たちは何が一番再生しやすいかを熟知しているからです。

WORK MILL:メーカーと廃棄物処理会社が手を組んだら、消費にはどのような影響があるでしょうか?

石坂:特に日本の消費者は「ヴァージンもの」いわゆる新品の商品を好んで購入しますよね。再生品よりも新品が好きという方は少なくないのではないでしょうか?

そういった価値観はモノづくりメーカーが作り出している節が少なからずあると思います。でも、裏を返せば、「頻繁に新品に買い換えることは、カッコいいことじゃないよ」という真逆の価値観を作れるのもメーカーなのです。

ー回収された廃棄物は様々な用途で再利用される。家畜敷材、バイオマス代替燃料、そしてチップ材に至るまで、再利用される分野は非常に広い。

ー回収された廃棄物は様々な用途で再利用される。家畜敷材、バイオマス代替燃料、そしてチップ材に至るまで、再利用される分野は非常に広い。

ー回収された廃棄物は様々な用途で再利用される。家畜敷材、バイオマス代替燃料、そしてチップ材に至るまで、再利用される分野は非常に広い。

そうした価値観を作り出すために、現在では多くの企業や大学と連携して、「製造プロセスの価値化」を進めており、完成品ではなく生産プロセスに価値を見出すことに取り組んでいます。生産プロセスに共感してくれた方が商品を購入するという流れを作りたいのです。

WORK MILL:確かに商品単体に価値を見出すというのはもう時代に合わなくなってきているのかもしれませんね。そんな時代だからこそ、メーカーと産廃業者が手を組むことで新しい価値観を生み出すことができるのですね。

石坂:近年、ビジネスの世界ではデジタルトランスフォーメーションという言葉をよく耳にしますよね。でも、デジタル以外にもトランスフォーメーションがあるはずなのです。それが「メーカー×産廃業者」による新しい価値観の創出です。

時代が大きく変わる今、メーカーも新しい道を模索しています。そんな時代だからこそ、我々のような廃棄物処理を専門にする業者を積極的に巻き込んでいただき、一緒に新しいモノづくりをしていきたいと思っています。

中小企業の生き残り方。同業者の買収ではなく、異業種とのタイアップで付加価値を生み出す。

石坂:新しい時代における企業としてのあり方を模索しているのはメーカーだけではなく、私たち廃棄物処理業者も同じです。

実は全国に廃棄物処理業者は約2万社あるのですが、急成長している会社はほとんどなくて、上場している企業は異業種参入している大手企業くらいなのです。多くの場合、中堅と呼ばれる業者でも年商は10億円ほどいったところで、今後生き残っていく上で進むべき方向を模索している企業は少なくないと思います。

WORK MILL:生き残っていく戦略として各社はどのような選択をしているのでしょうか?

石坂:よく言われるのは、同業者を買収することで自分たちの弱みを補完して進んでいく、いわゆるM&Aです。でも、それはすべての業者が選択できる道ではありませんよね。だからこそ、先ほどお伝えした「全く別の異業種とタイアップして新しい価値を生み出す」ことが重要になってくるのだと思います。

WORK MILL:その考え方は、廃棄物処理業者に限らず、他の産業でも応用できそうですね。

石坂:もちろんです。まったくの異業種と協業することは、自分たちがこれまで蓄積してきたノウハウや技術を活かすことになるからです。単体では高い価値を生み出せなくても、全くの異業種と手を組むことで大きな付加価値を生み出すことが可能になるのです。

廃棄物の処理に大きなコストと手間がかかるハウジング業界と手を組むことで、これまでになかった新しい家のあり方を提案できるでしょうし、医療メーカーと手を組んで再資源化を行うことで医療の現場に変化を起こすことができるようになるかもしれません。

生み出すことが価値だった時代から、「見出すこと」に価値がある時代へ

ー木材リサイクルプラントでは、鉄くずや異物を取り除き地下設置のハンマー破砕機へと展開する。

ー大型の重機で、続々と運ばれてくる廃棄物を手早く積み上げていく。

WORK MILL:現在、様々な企業と協業を進められているようですが、今後、石坂産業が目指すところはどこなのでしょうか?

石坂:石坂産業の工場の重機はすべてガソリンではなく電気で動いています。現状その電力は電力会社から供給されたものを使っていますが、地中のエネルギーには限りがあり、地球を持続させていくためには枯渇しない代替エネルギーに切り替える必要があると考えています。

WORK MILL:具体的にはどのように代替エネルギーに切り替えるのでしょうか?

石坂:実は現在、エネルギー創出に向けた研究を行っています。具体的には、太陽光だけでなく、風力+太陽光の一体型発電、地中熱を利用した空調システムの導入、また工場から出る排風や振動といった負の遺産をエネルギーに変えています。そして将来的にはエネルギー供給会社としての役割も果たしていきたいと考えています。

これまでは「生み出す」ことに価値が置かれていた時代でした。しかし、これからの時代は「価値がないと思われていたものに価値を見出す」ことが本当の価値創造になっていくのではないでしょうか。

そんな社会を一緒につくるパートナーとして、これからも石坂産業は挑戦を続けます。

更新日:2020年6月30日
取材月:2020年4月

テキスト:高橋 将人
写真  :大木 健介