今すぐできる!エルゴノミクスから考える在宅勤務の環境づくり
テレワークが一般的な用語となる中、在宅勤務をされていて、いろいろとお困りのことがあるのではないでしょうか。オカムラが行った調査によると、不満の第1位は「オンとオフの切り替えができない」であり、約40%の方が感じています。「集中しすぎて座る時間が長くなる」、「快適に働くための椅子や机といった家具が不十分」、「快適に働くための照明や空調などの設備が不十分」など、働く環境面での不安が上位に挙がっています。
そこで今回は、エルゴノミクス※の観点から、これからも続く在宅勤務を快適に行うための3つのポイントを紹介していきます。
※エルゴノミクス(人間工学)とは、人間の身体的、認知的、組織的な特性を理解し、様々な製品・環境・サービスに適応させるための科学分野
好ましい姿勢を意識して、座りましょう
今、みなさんはどのような姿勢でこの記事を読んでいますか?
パソコン画面をのぞき込むような前のめりの姿勢など、良くない姿勢で座っていると、身体に様々な悪影響を及ぼします。腰痛であったり、肩こりであったりするだけなく、前のめり姿勢により腹部が圧迫されたり、呼吸が浅くなったりして、集中力の妨げになる恐れがあります。普段意識していないと思いますが、人は常に重力の影響を受けています。オートバイや自転車のヘルメットをかぶった時や、重いブレスレットや時計を付けた時など、身体に違和感があると思います。頭の重さは体重の約8%といわれていますので、体重65㎏の人だと5kgくらい、ボーリングの球とほぼ同じ重さになります。片腕の重さも同程度で、両腕も合わせると約15㎏の重量物を首や肩まわりの筋肉が支えています。人は様々な姿勢を取りますが、その姿勢を保つ上で身体の各部位の重さが影響しているのです。
では、好ましい姿勢とはどのようなものでしょうか。人の進化の歴史から考えてみます。四足歩行から二足歩行へと進化する過程で、人は身体構造に変更を加えています。地面と水平方向にあったアーチ状の背骨は垂直方向に変わり、重力の影響を受けてS字形に変形しました。頭部の位置は背骨の上となり脳が大きくなりました。そして骨盤は内臓を下から支える杯のような形に変わり、二足歩行を手にいれました。つまり、人は歩くことに適した身体構造に進化してきており、立った姿勢がもっとも自然な姿となったのです。
あらためて人の身体構造の特徴を見てみると、頭は体の真上にあり、前方を向いています。背骨は、頭蓋骨から骨盤までチェーンのようにつながっていて、首部と腰部が前方にカーブするS字形を描いています。肋骨があるために胸部は動きにくいですが、首部と腰部は前後左右に可動しやすい構造になっています。そのためその部分が動いて、好ましい姿勢は崩れやすくなるのです。
立った姿勢が自然な姿といいましたが、実は座る姿勢は、背中のカーブをなくし、自然な姿勢を崩してしまいます。座る姿勢をとると、立っていた時の骨盤は後ろに傾き、骨盤とつながっている背骨が引っ張られて、背中のカーブがなくなります。そのままだと後ろに倒れてしまうので、バランスをとるために頭が前に出て、さらに首のカーブもなくなってしまいます。床座りの姿勢は、特にこのような傾向が強いため、仕事のときにはおすすめできません。では、それを防ぐために使う道具は何かというと、それは椅子です。つまり椅子の役割は、好ましい立ち姿勢のような背中のカーブを維持するように身体を支えることです。特に長時間座っている仕事用の椅子には、その機能が重要です。
仕事をする環境を、自ら設定しましょう
今までのように毎日出勤せず、オフィスから離れて働いてみると、オフィス環境が仕事をする場として整えられていたことに気が付く方も多いのではないでしょうか。厚生労働省の「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」では、自宅でもオフィスと同等の労働環境にすることが推奨されています。在宅勤務が快適に行えるよう、みなさんも自らの働く環境をきちんと整えてください。
もっとも大切なことは作業姿勢です。そのため、好ましい姿勢で働くための機能が、椅子と机に備わっていることが重要です。
椅子に求められる機能
- 姿勢変化に対応するため、安定していて、簡単に移動できること
- 座面の高さは、体形に合わせて調整できる、高さ調整機能がついていること
- 身体をサポートする背もたれがあること。リクライニング機能があることが望ましい
つまり、自分の体格に適した、様々な作業姿勢の変化に合わせることができる、オフィスで使われているようなキャスター付きの回転椅子が推奨されています。
机に求められる機能
- 必要なものが配置できる、作業に適切な幅と奥行スペースがあること
- 前のめり姿勢にならない、体格に合った天板の高さであること
- 作業中に、膝や足先を自由に動かせるよう、足元の空間が確保されていること
大切なことは、ねじれた姿勢にならないよう、机の上や足元を整理して、パソコン画面を正面に向かって座ることができることです。
パソコン作業が多いと思いますので、その際の好ましい姿勢について知っていただき、この図のような姿勢がとれるように、椅子と机を設定することが重要です。
椅子は、膝裏の部分に圧迫がなく、足を動かしても、足裏が床から離れない高さで座れるように調整してください。足が床に着かない場合は、足の下に台などを置いて座面の高さを調節してください。椅子の座り方はとても大事です。身体を安定させるため、背もたれに十分つくように座面の奥まで腰かけ、身体を安定させること。その時には、背骨がS字形を描くように腰の部分が支持されていることを確認してください。
多くの方は、きちんとした姿勢で座ろうとすると余計な力が入ってしまいますので、息を深く吐いて力を抜いても姿勢が崩れないよう、しっかり椅子に密着させてください。そのような姿勢ですと、好ましい姿勢を長く保つことができます。時間がたつとどうしても姿勢が崩れてきてしまいますので、その時はこの姿勢を思いだして、座り直してください。
机の高さは、腕をのせることができて、肩が不自然に上がっていない、手首はほぼまっすぐな、自然な状態になるようにしてください。ノートパソコンをお使いの方が多いと思いますが、ノートパソコンは前のめり姿勢になりやすいデバイスです。できるだけ外付けの機器を活用して、キーボードとディスプレイを離して使ってください。外付けキーボードを使う場合は、ノートパソコンを台にのせて高くして、画面の上端が目の高さか少し下になるように調整します。集中するとパソコン画面に近づいて見ようとして、首が前に伸びてしまいますので、フォントサイズを大きくしてみるのも良いと思います。
家具の話をしてきましたが、照明や空調環境も仕事をする場として重要な要素です。自宅を安らぎのある電球色の照明にしている方も多いかと思います。パソコン画面とその周辺環境との明るさの差は、目の疲れに大きく影響します。自宅の照明環境が暗すぎないか、あるいは窓の近くで作業していて眩しすぎないか、きちんとチェックして対処しましょう。部屋の明るさは、その日の天候や時間経過で刻々と変化します。集中して作業していると忘れがちになりますので、きちんと調整しましょう。また、太陽の光は眠気を誘うメラトニンの分泌を促しますので、日中に日光に当たる機会を増やしましょう。空調に関しては、電気代を気にして我慢すると、健康だけでなく能率にも影響しますので、適温で仕事をしましょう。在宅勤務では窓が開けられるのがメリットです。たまには外の空気を入れてリフレッシュするのも良いと思います。
休憩するのも仕事の内、アクティブ・レストでリフレッシュ
在宅勤務では、オフィスにいるときと比べて、動くことが大幅に減ったのではないかと思います。ご存知のとおり、筋肉を動かすことで、血流がよくなります。座った姿勢を長時間続けると、血流が悪くなるため、時々姿勢を変えることが大事です。ふくらはぎは第二の心臓ともいわれており、血流を促すためには立ったり、歩いたりすることが有効です。欧米をはじめ、近年日本のオフィスでも、立って作業することができる昇降デスクの導入が増えています。立ったり座ったりしながら働くことで、身体的な疲労が軽減したり、足のむくみが改善されたり、眠気が抑えられたり、腰痛の自覚症状が軽減されたりするという効果が報告されています。在宅勤務では特に座っている時間が長くなるので、考えごとをするときは椅子から立ち上がって室内を歩き回ったり、メールチェックなどは立って作業したり、姿勢を変えてみることも必要です。
在宅勤務で、仕事モードに入りっぱなしになりがちなので、ON/OFFの切り替えが重要です。
オフィスと比べて中断が減ったため、休みを取らずに仕事に集中してしまうケースも多くみられます。そのため休憩もスケジュールに入れてアラーム設定をするなど、生活の中にON/OFFのリズムを取り入れることが健康維持には重要です。その際には、ゆったりとした休息をとるのではなく、ストレッチなど積極的に体を動かすことで血流を促す休息法であるアクティブ・レスト(積極的休息)を導入しましょう。例えば、しっかりラジオ体操をすれば、ゆっくり階段を上がるのと同じくらいの運動強度があります。朝夕の通勤のつもりで散歩して、仕事のON/OFFを切り替えているという人もいます。また、一人暮らしの方は、誰ともしゃべらない日がでてきてしまう恐れがあります。アクティブ・レストの時間を合わせて、リモートで皆と一緒に休憩するのも良いでしょう。
在宅勤務を経験した多くのみなさんは、仕事をする環境の重要性を再認識したことと思います。繰り返しになりますが、在宅勤務を快適に行うために大切なことは、好ましい作業姿勢をとることであり、それに相応しい椅子と机を用意することです。椅子のことを腰掛けともいいますが、腰の部分を支持できることが重要です。そして、椅子の座り方も大事です。座面の奥まで腰かけ、背もたれに十分にあてて身体を安定させる。その時の頭の位置は、身体の真上になるように心掛けてください。また、時々姿勢を変えたり、軽い運動を生活のリズムに取り入れたりすることが大事です。在宅勤務にふさわしい環境を自ら構築し、健康な生活を過ごしてください。
2020年5月21日更新
テキスト:浅田晴之(株式会社 オカムラ)