東へ南へ ユースカルチャー震源地のいま EAT,PLAY,WORKーPlexal,Pop Brixton,Netil House
この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE03 THE AGE OF POST-INNOVATIONALISM イノベーションの次に来るもの」(2018/10)からの転載です。
私たちは今回、イノベーションに代わる新しい経済のかたちを探す旅に出た。訪れたのはロンドン、北京、そして東京。くしくも今世紀、オリンピックの開催地に選ばれた3都市だ。企業や大学、専門家への取材を続けていくうちに、「2020年」後の日本を考えるヒントが見えてきた。
ロンドンのクリエイティブカルチャーはどんな場所から生まれているのか?
クリエイターや起業家たちが集まる、「東」と「南」のホットスポットを訪ねた。
オリンピックの遺産をイノベーションハブへ Plexal
2012年のロンドンオリンピックの際に世界中のジャーナリストが仕事をするために建てられた巨大なプレスセンターは、英国随一のイノベーションハブに生まれ変わった。17年夏にオープンした「Plexal」にはいま、フィンテックからサイバーセキュリティ、AI、デジタルファブリケーションといった領域のスタートアップが入り、約600人のメンバーが働いている。Plexalという名前は神経叢を意味するラテン語に由来するのだと、コミュニティマネジャーのカーラ・デイビスは言う。「スタートアップのつながりとエコシステムをつくることが私たちの最大の目的なのです」。緑あふれるオリンピックパークのすぐ隣に建てられたイノベーションハブ。そこで働く起業家たちのいちばんのお気に入りは、一歩外に出れば自然に触れられることだという。
「南」を牽引するコンテナだらけの実験場 Pop Brixton
ここ数年でイーストロンドンの家賃が高くなって、クリエイターたちは南に集まり始めている─そんな話をたびたび聞いて「PopBrixton」を訪ねた。レストラン、デザインファーム、床屋にタトゥーショップといった55のインディペンデントの店や企業が集まる、ブリクストン地区のカルチャースペースだ。ローカルビジネスを後押しするために2015年にスタートしたPop Brixtonは、20年までの期間限定の実験場。敷地にはテナントが入るコンテナが積み上げられ、移民が多く住むブリクストンのダイナミズムを反映したマルチカルチャーな空間がつくられている。ユニークなのは、テナントたちに週に1時間を、コミュニティのためのボランティア活動に使うよう求めていること。地元の子どもたちを対象にした無料のワークショップなどが開かれている。
「東」のクリエイターたちは屋上に集まる Netil House
取材に同行してくれたロンドン在住約20年のフォトグラファーのおすすめで訪ねたのは、若いクリエイターやアーティストが多く住む地域ハックニーにある「Netil House」。音楽から建築、写真、ファッションといった多様な領域のクリエイターたちが使う約100のスタジオが入るオールドファッションな建物であり、居住者は400人に上る。屋上は「Netil360」と呼ばれるパブリックスペースになっており、音楽フェスやヨガ、映画の上映会といった居住者主催のイベントが毎日のように行われている(もちろんバーでお酒も飲める)。Netil Houseを拠点とするクリエイターたちのネットワークを育んでいることはもちろん、地域に開かれた屋上スペースを運営することで「ハックニー全体のコミュニティをつくっているんだ」と案内をしてくれたルーカスは言う。
2020年5月13日更新
取材月:2018年7月
テキスト:宮本裕人
写真:ジュリア・グラッシ
※『WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE03 THE AGE OF POST-INNOVATIONALISM イノベーションの次に来るもの』より転載