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「立ち姿勢」は授業の質を上げるのか ― 中学校では双方向コミュニケーションが活発化

いま、学校教育は大きく変わりつつあります。従来では当たり前だった指導方法や教育環境の在り方が見直され始め、アクティブ・ラーニングなど新しい学びの手法を取り入れながら、「主体的な学び、健康的な学びをもたらす環境」を構築していくための試行錯誤が行われています。

オカムラはこれまでに多くの教育施設の創出を手がけてきました。その中で、変革に向かう学校教育のうねりに触れながら、「もっと効率よく学べる環境はつくれないか?」「子どもたちが集中しやすい教室とは?」と、私たちだからこそできる教育現場への貢献の形を模索しながら、日々研究を重ねてきました。

先だって公開した記事『課題の正答数・ねむけ感などに変化 ― 小学校授業に「立ち姿勢」を導入、その結果は?』では、小学校における実験を紹介。検証の結果、教室に立ち机を導入することで、子どもたちのねむけ感の減少、注意力の向上、運動不足の解消などの効果が得られることがわかりました。

今回は、オカムラと千葉大学・柳澤要教授の研究室が、2016・2017年の2年間にわたって中学校で行なった共同研究についてまとめました。実際にアクティブラーニング型の授業で立ち机を使用すると、どのような変化が期待できるのでしょうか?

先生との対話、子ども同士のディスカッションが活発に! 

学校は一般的に「座って授業を受ける場所だ」との認識が当たり前にあると思います。しかし、「ずっと座ったまま小一時間ほど人の話を聞き続ける」という場は、人間の集中力や体勢の観点から見て、本当に最適な学習環境なのでしょうか。

アクティブ・ラーニングとは、「教師の話を一方的に聴く」という受動的なスタイルではなく、対話的な手法を取り入れながら、子どもたちがより能動的に学べるようにしていく学習方法です。そして、これを実施する上では、先生との対話だけでなく、子ども同士の対話を促していくことも、学習効果を向上させるポイントとなってきます。

「アクティブ・ラーニングの実践において、座りっぱなしになる従来の学習机よりも、立ち机を利用した方が、生徒たちも移動がしやすく、よりアクティブな授業になるのでは?」――このような仮説から、オカムラと柳澤研究室では、千葉大学教育学部附属中学校の協力の下で、「主体的な学習を促進するために立ち机を導入した場合、子どもの活動にどのような効果があるのか」という実験を行ない、主にデスクレイアウトに注目しながら効果を検証しました。

 

実験によってわかったこと その1  ー 「学習活動に合わせたレイアウト変更が活発に

  • 立ち机を導入することで、学習活動に合わせて多様なレイアウトの形が見られた。
  • 「グループ学習」「ディスカッション」「発表」「先生と話す」などの活動では、立位の割合が多かった。
  • 「講義」や「発表」などの生徒全員が一斉に行う活動では、先生の指示でデスクを移動させるケースが多く、「個人作業」や「グループ学習」の場合は、子どもが自分の意志で自由に移動する様子が多く見られた。

(上記結果からの考察)

立ち机は子どもが自分の活動に合わせて姿勢を選び、好きな場所に移動し、使いやすいように自由に組み合わせることができるため、座位に比べ多様な学習活動に対応しやすいのではないか。

実験によってわかったこと その2  ー 「子どもたちの集中力が向上

実験後のアンケートでは、63%の子どもたちが「立ち姿勢のほうが座り姿勢よりも授業に集中できた」と回答した。

実験によってわかったこと その3  ー 「コミュニケーションが取りやすくなり、多様な意見に触れられる

  • 実験後のアンケートでは、93%の先生が「子どもが会話に参加しやすくなった」と回答した。
  • 実験後の子どもたちから「いつもよりグループがスムーズにつくれるから、話し合いがしやすかった」「移動がしやすいので、いろんな人の意見を聞くことができた」との感想が多く寄せられた。

実験によってわかったこと その4  ー 「少人数授業なら普通教室でも効果的に活用できる

  • 実験では、立ち机を利用した授業での一人あたりの利用面積は最小3.8㎡/人、最大8.0㎡/人となった。(上記結果からの考察)
  • 日本の中学校における普通教室面積は約63㎡~80㎡が標準的と言われているため、習熟度別や少人数授業など15名程度であれば普通教室程度の広さでも、立ち机の移動を効果的に取り入れられるのではないか。
  • それ以上の人数の場合は、多目的教室やアクティブ・ラーニング教室などの少し広い教室での活用を推奨したい。
  • 移動することを前提としなければ、普通教室でも立ち机の効果的な運用が可能(※どのような効果が得られるかは、小学校編で詳述)。

行った実験内容の詳細

  • グループ学習が多い2つの特別授業に、立ち机を導入。
  • 各回2~4名の調査員で学習形態、生徒・教員の動線、デスクのレイアウト変更などを記録し、授業後には先生と子どもを対象としたアンケート調査を行った。
  • 2016年は普通教室同様の面積の教室を利用。2017年は立ち机を利用する際に適した教室面積を調査するため、普通教室より広い視聴覚室を利用した

<立ち姿勢を体験した子どもたちの声>

  • 「立って作業することで座って作業するよりも動きやすく活発に活動することができました。なにより話し合い活動のときはスムーズにグループを作ることができるので話し合いが活性化して良い話し合いをすることができました」
      
  • 「移動がしやすいので、色々な人の所に行きやすく活発に意見交換をすることができました。またディベートやプレゼンテーション、タブレットを使う活動にも向いていると思います」
     
  • 「立っていることで作業がスムーズになり、人との話し合いがうまくいきました。自分で高さを簡単に変えられるので、私は文字を書くときは高めの方が書きやすかったので高めにして、ハサミを使うなど作業をするときは低めにしました」

     

 
従来の常識にとらわれず、よりよい学び場の創出を目指して

中学校で実施した実験からは、授業での立ち机の導入によって「集中力の向上」「コミュニケーションの活発化」などの効果が得られることがわかりました。

また、実験に参加した先生からは「子どもたちに主体的な活動を求める場合に、立ち机はとても有効に機能した」、「一般的な机だと、その時々にさまざまな形態のグループを作ることは難しいが、立ち机だと2~3人の小グループから15人ぐらいのグループまで、短時間で自在に組むことができた」、「アクティブ・ラーニングを推進していく道具として優れていると感じた」といった感想をいただけました。

実験結果を通して見ると、アクティブ・ラーニングにおける立ち机の導入は、子どもたちにとてもポジティブな効果をもたらすのではないか、と言えそうです。しかしその一方で、立ち机を効果的に活用するには教室の人数・広さが課題となるので、ただ単純に導入するだけではなく、子どもの学びに合わせた授業環境づくりを複合的に考えていく必要があります。

次世代のよりよい学びの在り方を構築していくためには「座って学ばなければいけない」「授業は一方的に聞くもの」といった従来の常識を取り払い、新たな手法や環境を追求していくことが大切です。時代の変化につれ、子どもの、そして大人の学びの環境も、これからどんどん変わってくるでしょう。そうした流れに乗り遅れないためにも、学校の積極的な取り組みを参考にしながら、大人たちの研修やワークショップなどの場づくりも、見直していきたいと思います。

オカムラでは今後も、こうした実験を継続的に行いつつ、実際の授業事例や使い方のポイントなどを紹介しながら、アクティブ・ラーニングにおける立ち机の効果的な活用の研究、及び普及に努めていきます。

 
2019年10月30日更新

リサーチ:森田舞(株式会社オカムラ)
編集:西山武志

イラスト:野中 聡紀
データ参照元:中学校における立位姿勢での授業に関するフィールド調査(2016・2017年 千葉大学柳澤要研究室・千葉大学教育学部附属中学校と株式会社オカムラとの共同研究)