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課題の正答数・ねむけ感などに変化 ー 小学校授業に「立ち姿勢」を導入、その結果は?

「学び」という営みは、子どもの頃からずっと私たちの身近にあるもの。それは人が今日より明日、明日よりその先、より豊かに生きていくために不可欠な行為です。そんな学びの重要性は、学校という学び舎を出て働くようになってから、さらに増してくるでしょう。日々の業務の合間を縫って、仕事のため、スキル習得のための学習を能動的に行うことが、個人のキャリアアップにつながります。そんな背景から、社会人になって、改めて学びなおしたい、効果的な学び方はどういうものなのだろう、という思いが湧いてくるのではないでしょうか?

そのヒントにもなる実践が、今まさに教育の現場で進んでいます。それが「主体的・対話的で深い学び」、すなわちアクティブ・ラーニングと呼ばれる手法です。教師が一方的に話すのではなく、よりインタラクティブな学習方法を導入していくにあたって、学校では「効率的な学び、健康的な学びをもたらす環境」についての試行錯誤が行われています。

従来の学校では「ずっと座ったままで授業を受ける」ことが当たり前だと思われてきたが、双方向に対話をしながら学ぶアクティブ・ラーニングでは、はたして本当に座ったままがベストなのか?

昨今の調査結果から「子どもたちの体力は落ちていないが、疲れやすくなっている」ということがわかってきたが、この現代的な健康課題を日常的な学校の授業の中で解決できないか?

このように学びの現場で生まれている課題に、オカムラは空間のエキスパートとして何ができるのか、日々研究を重ねています。本記事ではその一環として、オカムラと日本体育大学・野井真吾教授の研究室が小学生を対象として実施した調査研究をご紹介します。

座ったままよりも立ち姿勢を取り入れたほうが、学習効率アップ! 

学校は一般的に「座って授業を受ける場所だ」との認識が当たり前にあると思います。しかし、「ずっと座ったまま小一時間ほど人の話を聞き続ける」という場は、人間の集中力や体勢の観点から見て、本当に最適な学習環境なのでしょうか。

学校とは少し違った条件にはなりますが、「座ったままの姿勢を長時間キープする」という意味では、オフィスも似た環境だと言えます。以下はオフィス空間における実験ですが、最近の研究結果から「座りっぱなしよりも立ち姿勢を取り入れたほうがよい」ということがわかってきており、職場にスタンディングデスクを導入する会社も増加傾向にあります。

 

こうした背景から、研究チームは「立ち姿勢を教室に取り入れることで、学びにも良い効果があるのではないか?」という仮説を立てて、小学生を対象に実験を行いました。

実験によってわかったこと 1.1  ー 「注意力を持続させられる」

  • 「ずっと座った状態(座位作業)」に比べて、「ずっと立った状態(立位作業)」や「座ったり立ったりを繰り返す状態(混合作業)」で作業(夏休みの宿題)を実施したほうが、作業後の課題の正答数が増加していた。
  • この結果から、授業に立ち姿勢を組み込むことで、子どもたちの注意力をより持続させられることがわかった。
  • 注意力の持続は、学習効率の向上に期待できる。

行った実験内容の詳細

  • 小学校4~6年生合わせて26名の子どもたちに「座位作業」「立位作業」「混合作業」で、45分間の作業(夏休みの宿題)をしてもらう(実験中の作業内容は同じ系統の内容で1日1回、3日間にわたって実施)。
  • 作業前と作業後に、「ストループ課題」を実施。すなわち、赤字で書かれた「あか」というテキストを、文字通り「あか」と答える課題(非干渉課題)と、青字で書かれた「あか」というテキストを、色通り「あお」と答える課題(干渉課題)を行った。干渉課題の正答数を計測し、作業前/後で、子どもたちの注意力、集中力に変化があるかどうか測定した。

教室内で運動不足が解消できる? 立ち姿勢が学校生活に及ぼす影響

一日の大半を学校で過ごす子どもたちにとって、教室は学びの場であるとともに「生活の場」でもあります。その生活時間の多くが「座った状態」で占められていることは、成長期にある子どもたちの身体のことを考えると、少し窮屈そうです。仮に座りっぱなしでもネガティブな影響がないとしても、授業中に「座ったり立ったり」という動きを加えることで、何らかのポジティブな影響が生まれるのではないでしょうか。

…そんな仮説から、もうひとつ実験を行いました。それは、「座りっぱなしの授業の中に立ち姿勢を取り入れたら、子どもたちの生活面にはどんな変化が起こるか」というものです。

実験によってわかったこと 2.1  ー「運動不足が解消される」

  • 1日の平均総歩数が12,700歩であった「一般的な学習机を使用するクラス」に「立ち机」を導入すると1日の平均歩数は13,763歩となった。
  • 特別に外遊びや体を動かす時間を作らなくても、立ち机を導入することで、普段の教室での授業の中で子どもたちの運動不足の解消が期待できる。

実験によってわかったこと 2.2  ー「眠くなりにくい」

  • 自覚症しらべ(※後述を参照)の結果、「立ち机導入クラス」の半数以上の子どもたちに、導入前より「ねむけ感」が減少した傾向が見られた。
  • 眠くなりにくい環境をつくることで、授業の学習効果の向上が見込める。

行った実験内容の詳細

  • 小学5年生3クラス(88名)を実験対象に、1クラスを「立ち机導入クラス」、2クラスは今まで通り「一般的な学習机を使用するクラス」とした。
  • 立ち机導入クラスの担任の先生には、少なくとも1コマの授業で1セットの体位変換(座位→立位→座位)をするように指示。
  • 3クラスで2ヶ月間、子どもたちの「一日の総歩数」を計測。また、導入前後に、疲労の自覚症状を測定する「自覚症しらべ※」を実施。

※自覚症しらべ:作業に伴う疲労状況の経時的変化をとらえるための調査指標。「ねむけ感」「不安定感」「不快感」「だるさ感」「ぼやけ感」の5つの群別に疲労度を評価する。

立ち姿勢の導入が、子どもたちの学ぶ意欲をかき立てる

小学校で実施した実験からは、授業での立ち机の導入によって「注意力の維持、運動不足の解消、ねむけの防止」などの効果が得られることがわかりました。

また、実験に協力していただいた先生方からは「立ち机を使うことによって、ただの受け身の授業から、自分から学ぼうとする姿勢が育つ授業に変わるような気がした」、「以前よりも後ろの人に何気なく相談したり、隣の人と話し合うといった行動が見られるようになった」など、生徒たちの変化を垣間見ることができたという感想が聞けました。

仮説段階から「立ち姿勢の導入が、学習環境に何らかのいい影響をもたらすのでは?」との期待はありましたが、こうして実際に数値として客観的に、そして現場の声として実感的にポジティブな結果が出てきたことは、研究チームとしても「教育現場に対して、家具や環境からコミットできる余地がある」と感じられて、背中を押してもらった思いでした。

オカムラでは今後とも、学校の学習環境の向上、子どもたちの健やかなる未来への貢献のために、多角的な調査を行ないながら、製品やサービスのアップデートに努めていきたいと思います。

 
2019年10月7日更新

リサーチ:森田舞(株式会社オカムラ)
編集:西山武志
イラスト:野中 聡紀
データ参照元:移動式立ち机導入による短期的・長期的影響(2017-2018年 日本体育大学 野井真吾研究室と株式会社オカムラとの共同研究)