働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変える。

WORK MILL

EN JP

「ZeBrand」を生み出した老舗モリサワの若きイントレプレナー ー 10倍の目標を掲げるチームづくり

会社と距離をとりながら“4000%の達成”を目指す仕組み

WORK MILL:お話を伺っていると、すばらしいイントレプレナーのモデルケースができていると感じます。けれど、ご自身のなかで、さらに改善していきたいと考えている部分はありますか?

菊池:そうですね……いち早く目に見える形で結果を出すことだと考えています。これは初めからわかっていたことなのですが、やはりイントレプレナーは、実績を出して会社に伝えるまで、誰にも認めてもらえないんです。経営陣は信じてくれているけれど、社内の多くは「あの人たちは何をやってるの?」という状態です(笑)。だけど成果が生まれた瞬間に景色が変わるのもわかっているから、いまはつらい時期だけど、頑張り続けていこうと思っています。

WORK MILL:その状況を乗り越えるために、チーム外とのコミュニケーションで気をつけていることはありますか。

菊池:新たなインスピレーションに触れたり、既成概念に捉われないようにMBNLはWeWorkにオフィスを構えています。「イノベーションを起こすには、既存組織から物理的にも離れて活動すべき」というイノベーションのセオリーに則って活動しています。

さらに、大きなメリットが2つありました。ひとつは、WeWorkで働く他業界の企業から学びを得て、進化できることです。マーケティングや翻訳、海外のUXデザインといったさまざまなプロフェッショナルがいて、最先端の知見を得られたり、ネットワークを紹介してもらえたり、WeWork海外拠点にてイベントを主催させていただいたり……MBNLはモリサワ内の一組織だけど、やはり一種のスタートアップに近いので、そうした繋がりがとても役立ちます。もうひとつは「チームが外部から認められている」という成果を会社に示しやすいこと。MBNLは、WeWork内で世界的に成長しそうな企業として、新たな試みにも声をかけてもらうこともあり、一緒に成長している実感があります。また、WeWork × AMEX主催のピッチコンテストでもエリア代表に選んでいただいたり、そうした第三者からの評価が得られると、社内にわかりやすく、いいインパクトを与えていけます。

WORK MILL:物理的に社外のオフィスを活用するという大きな変化は、歴史ある会社にとってはかなり新しい取り組みだったのではないでしょうか。どうしてこれだけの条件を揃えられたのでしょうか。

菊池:会社から信頼してもらえたことに対する感謝は、とても大きいです。それと、信じてもらうだけの理由も用意できたのだと思っています。10年近く勤めてきて目標未達が一度もないのは、社内でも唯一というのが自分の強み。その信頼に基づいて、MBNLには「3年で○億円」というミッションが与えられました。でも、私はそれをそのまま受け入れず「その数字では、イノベーションは絶対に起きません」と断言したんです。すると経営陣は、その3倍の数字を提示しました。それでもまだ、自分の中で達成可能な数字だと感じ、既存の延長線上にあるアイディアしか出てこないと直感的に思いました。そういう事態を避けるために、結局は「最初の10倍以上の数字を2020年までに達成する」という約束をしました。もちろん厳しい目標ですが、そのコミットがなければ、さすがにここまでの環境は整えてもらえなかったと思います。適切なストレッチ目標を持つことで、普通じゃないことができるし、自分たちが覚醒するために全力も出せる。僕らが目指したいのは、120%じゃなくて、4000%や7000%など、10倍以上の達成です。

WORK MILL:120%達成する方法と、4000%達成する方法は、具体的にどう違いますか?

菊池:現在地から120%まで伸ばすために、いまの方法を“改善”するのは、日本人の得意なアプローチです。でも、4000%まで伸ばすには、まったく異なる視点からのアイディアの投げ入れや、アイディアそのものを心から望む探究心が必要。もちろん、120%を実現することが得意なメンバーもいるから、そのあたりはバランスをとりながら、みんなが納得できる方法や目標をつくらなければなりません。でも私自身は、4000%の高みを目指す視座を持って、その最短ルートを探していきたいと思っています。

「一人の人間は、世界を変えられる」ジョン・マエダに突き動かされた夢

WORK MILL:今おっしゃったような、菊池さん個人としての目標や、これから追っていきたいテーマはありますか?

菊池:僕は、世界を変えていきたいと思っています。きっかけは、リサーチフェローとして1年間 米国の美術大学Rhode Island School of Design(以下RISD)に留学していたこと。当時、メンターや教授から毎日のように「What do you really want to do?」と何度も尋ねられたんですよね。それで、本当に自分のやりたいことを常に考えるようになったのが、ひとつ。

もうひとつは、そのときRISDの学長であったジョン・マエダさんから言われた言葉です。「一人の人間は、世界を変えられる。君はその一人だよ」……それからは、自分のために生きるのではなく、使命感とともに自分の経験を通じて世界をよりよく変えていきたい、と考えるようになりました。

WORK MILL:壮大で、とても素敵なテーマです。その目標に、どのようなアクションで挑んでいかれますか? モリサワやMBNLで成し遂げることとも、繋がりがあるのでしょうか。

菊池:自分自身の成功と会社の成功は、いま、ほとんどイコールになってきていますね。チームやサービスが認められれば、自分のことよりもうれしい。それに「ZeBrand」自体も、自身の目標を体現するツールだと思っています。ブランディングの第一歩を担う「ZeBrand」を使えば、私たちは人間として、その領域を越えた“自分らしい表現”からはじめられるようになる。一定のブランディングの土台を整えることで、自分らしさを発揮するという大切な部分に、しっかりエネルギーが注げるようになると考えています。おそらく、仕事だって同じ。この先、いままで打ち込んできた仕事がAIに代替される場面があるかもしれません。もちろんインパクトはあるだろうけれど、そのときあらためて自分や周りに「What do you really want to do?」と問いかけながら、誰もが自分らしく本当にやりたいことを実現できるような自分らしさのブランド化をサポートしていきたい。それが、世界をよりよく変えることにつながっていくと信じています。

 (撮影場所:WeWork 丸の内北口)

2019年9月6日更新
取材月:2019年8月

テキスト:菅原さくら 
写真:マスモトサヤカ