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「立ち姿勢」を取り入れると、働き方が変わる ― 導入した企業は「働き方改革」の効果を実感

近年、ワーカーたちにとって働く場所や時間帯を選択できる働き方が徐々に増えています。過去には、自席がなく自由に席を選択するフリーアドレスや、現在では「ABW」※1という働き方が先進的な企業で導入されてきています。

 そのような時代において、立ちながら仕事をすることも国内外で注目されています。たとえばITや外資系に留まらず、鉄鋼商社の株式会社メタルワンや九州の株式会社萩原技研といった企業が、高さを調整して立ったり座ったり姿勢を変えながら仕事ができる昇降デスクを導入し、日本でも話題となっています。なぜ、仕事中の姿勢に着目した働き方が注目されるのでしょうか。

オフィスで過ごす時間は日常生活の多くを占めており、座ったまま長時間過ごすことで運動不足になる可能性が高くなっています。世界保健機構(WHO)の調査によると、世界の高所得国※2の死亡に対する危険因子は、第1位が高血圧、第2位が肥満、第3位が身体活動不足。いずれも運動不足が引き起こしている可能性が高いものです。

疾病抑制や突発的な休職のリスクを減らすためにも、企業がワーカーの健康確保を行うことは経営の重要な課題であり、ワーカーの心身の健康を目指すことは、結果として企業の生産性を高めることにつながります。

※1 世界的にも注目されている「Activity Based Working」の略。フリーアドレスから一歩進んで、業務内容や目的に合わせて、作業する場所をオフィスの内外の多様な環境からワーカーが主体的に選択して働ける働き方のこと。 

※2 世界銀行による推測で,2004年の一人当たり国民総所得10,066ドル以上の国ノルウェー、オーストラリア、シンガポール、アメリカ、日本など39か国。 

欧米で普及する昇降デスク。デンマークでは新規購入シェアの約95%が昇降デスク

日本では、厚生労働省発表の「職場における腰痛予防対策指針」が2013年に改訂されました。その中でワーカーの腰痛予防対策を第一優先とし、「一般事務、OA機器作業などの腰掛け作業」の場合には「作業台の高さ、角度及び作業台とイスとの距離は、調節できるように配慮すること」と、使う人に合わせて天板高さを調整することが腰痛の予防に有効であると示しています。

米国では、座りがちな生活をおくることで心疾患、糖尿病などによる死亡を引き起こす病をセデンタリー・デス症候群(SeDS)と称して警鐘をならしています。そのため、オフィス作業の中に立ち姿勢を取り入れることもできる昇降デスクが急速に普及してきています。

EU各国では、昇降デスクの採用が標準化しつつあります。部品メーカーの調査によればデンマークやスウェーデンでは執務デスクの新規購入シェアの約95%が昇降デスクになっており、その他の国でも2005年以降急速に普及しはじめています。

いずれも共通して、労働環境における健康対策が重要であること、疾病予防として作業中に積極的に姿勢を変えることを推奨しています。欧米では先行して昇降デスクが普及していますが、それにはどのような効果があるのでしょうか。

オフィスワーカー約200人に調査、30分以上立ち姿勢で仕事をした人は6割以上に

 オカムラは、座り時々立ち仕事に関する検証を実施。導入企業のアンケート調査では、新社屋移転に伴い昇降デスクを導入した企業の協力のもと、オフィスワーカー217人から回答を得ました。

はじめに、立ち姿勢で行ったデスクワークの内容について見ると、パソコン作業が第1位で、8割のワーカーが行っていました。続いて資料仕分けや資料閲覧が上位にのぼり、リフレッシュも回答者の約4割を占めています。通常業務を立って行うだけでなく、気分転換になることから立ち姿勢を取り入れている人も多いことが分かります。

その他には、パソコン画面を見ながら人と話すときや、社内を頻繁に往復するのが見込まれるときなどの意見があり、周囲とコミュニケーションを取る場面、移動の多い場面で立ち姿勢を実践していることが伺えました。

次に、立ち姿勢で一日当たり何分間作業を行ったかについて平均の時間を尋ねました。その結果、30分未満が36%、30分以上60分未満が32%、60分以上が32%と、回答した人の割合はほぼ均等でした。つまり6割以上が 30分以上実践しており、多くの人が積極的に立ち姿勢を取り入れていたことが伺えます。

ただし、単純に長く立ち続ければ良いわけではありません。長時間立ち姿勢のままでいると、足への疲労の蓄積を招き、かえって仕事効率を下げる恐れもあるのです。

オカムラと大原記念労働科学研究所で行った実験では、1時間に10~20分程度の立ち姿勢を取り入れると、他の条件よりも身体の負担感が少なくなることが明らかになりました。

仕事中ずっと同じ姿勢で過ごすのではなく、座った状態を基本としつつも合間に立ち上がって作業するなど、姿勢を変えながら働くことが重要だと考えられます。

半数以上が、効率面と健康面の両方に効果を実感

立ち姿勢を取り入れて仕事を行うことで、オフィスワーカーはどのような効果を実感しているのでしょうか。昇降デスクの導入前と比較し、座り時々立ち仕事を通して感じる効果について、効率、健康、交流に関する項目ごとに5段階評価をしてもらいました。

その結果、効率面では、半数以上の人が「気分転換のしやすさ」「仕事中の眠気」「仕事の効率」に効果を感じると回答しました。健康面では「足のむくみ」「腰痛や肩こり」に加え、約半数の人が「健康意識や習慣」において効果があると感じていることが分かりました。

さらに、自由記述では「立ち姿勢が出来るようになったことで、(腰や肩の)不調が少し軽減されたように感じます」「一日のうち少しでも立って仕事ができることは、確かなリフレッシュ効果がある」などの意見が見られました。交流面に関しては、変わらないという人が多くを占めましたが、「声のかけやすさ」が良くなったとの回答もありました。

こうした結果から、座り時々立ち仕事を実践すると、特に効率面や健康面において、プラスの効果が期待できると考えられます。

4割弱が立ち仕事を「実施しにくい」と回答、その理由は

昇降デスクを導入した企業のワーカーは、これからも座り時々立ち仕事を実践したいと感じているのでしょうか。

今後デスクワークの一部を立って行うことに関して4段階で選択してもらったところ、座り時々立ち仕事を「実施したい」「どちらかといえば実施したい」と回答した人が8割弱を占める一方で、実施したくないと感じている人もいることが分かりました。

昇降デスクを使用したワークスタイルが実施しにくいと感じる理由を見ると、「疲れる」という回答が4割弱にのぼりました。続いて「恥ずかしい」「周りに迷惑」などが上位にあがり、周囲の人が気になって実施しづらい状況が伺えます。

恥ずかしさなどの抵抗感は、周囲に立ち仕事をする人が増えなければなかなか払拭されないでしょう。自由記述の中にも「TVでも効果を見たので日常に使用できる習慣があったらよいと思いますが、周囲〔中略〕がほとんど使用していないので恥ずかしい雰囲気があり勿体ない」という意見がありました。

座り時々立ち仕事が浸透するためには「慣れ」と「風土」が大切

座り時々立ち仕事が浸透するには、座り過ぎのリスクや立ち仕事をプラスする効果を周知して対策の必要性を認識してもらうこと、そして、まず一人ひとりが座り時々立ち仕事を体験してみることが重要だと考えられます。たとえば、ミーティングの場に昇降デスクを取り入れるなど、姿勢を変えて働くこと自体に慣れるのも有効な方法です。

そして、立ち仕事をプラスしたワークスタイルが普及するためには、単に昇降デスクを導入するだけでなく、自らが働く環境を自律的に調整し、「立つ・座る」が自由にできる風土をつくっていくことも大切です。

2019年5月15日更新

リサーチ:浅田晴之(株式会社オカムラ)編集:鈴木梢
イラスト:野中 聡紀
データ参照元:健康になるオフィス(株式会社オカムラ)、座り時々立ち仕事の実際(株式会社オカムラ) 

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