「小さなプロジェクトの集合体」が世の中をよりよくする。ー ポストミレニアル世代の幸福論
働き方が多様化するなかで、「ポストミレニアル世代」と呼ばれる若者は、「働く」ということをどう捉えているのでしょうか。今回は、17歳の時に株式会社Yokiを起業した東出風馬さんにお話をうかがい、その仕事観を探ることにしました。
前編で「人の手を借りなければ何もできない」と語った東出さんは、自律的なチームをマネジメントすることで、プロダクト開発を推進していました。後編では東出さんに、日本のスタートアップシーンに対する考えや「小さなプロジェクトを立ち上げやすい環境」をつくる目的、そして「幸せ」についても尋ねてみました。
―東出風馬(ひがしで・ふうま) 株式会社Yoki代表取締役社長
1999年8月15日生まれ。慶應義塾大学総合政策学部1年。中学2年時に現在のYokiの事業を着想し、2016年秋、高校2年のときに東京都主催の「TOKYO STARTUP GATEWAY」に応募。テーマ「能動的かつ直 感的なロボットで今までの情報端末の限界を 超える。」で優秀賞を受賞。獲得賞金等で、 2017年2月、このうえなく優しい情報端末をつくり、真にパーソナライズされた世界をつくり多様性のある世界をつくることを目標に、株式会社Yokiを創業。社内では、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、コピーライティングなどデザイン全般にも関わっている。また現在複数のサイドプロジェクトを動かしている。
大きなビジョンを描き小さなニーズを拾っていくことで世の中は良くなっていく
WORK MILL:東出さんはなぜ、働き方に興味を持っているのですか。
東出:ロボットの事業を始めたころ、もしかしたらそれより前だったかもしれませんが、かなり昔から資本主義の素晴らしさと資本主義の闇みたいな部分の両方を感じていました。そしてモノを売っていくというのはある意味で資本主義なわけで自分がやっている資本主義があるところでは問題を引き起こしていることがとても悔しかった。だから常に今の資本主義をどうアップデートしていけば世の中幸せになるんだろうかと考えていました。そして、小さなちいさなプロジェクトをみんなが回していく世界というのが今の資本主義をアップデートし、あらゆる問題の解決のいとぐちになるのではないかと思いました。
WORK MILL:それで、ご自身でも小さなプロジェクトを実践しているんですね。
東出:昔から環境問題などに興味があって、課題に対して、何か新しい技術でアプローチしたり、人を送り込んだりすることで解決していくのは、間違いなく必要なことだし、珍しいことではないと思うんです。でも、それをやっても埋まらない隙間は確実にある。単に「環境保全するためには節電すればいい」みたいな話じゃないんです。まずは「10人に届けばいい」という感覚でもいいから、いろんなプロジェクトをやってみて、お互いに助け合える環境があれば、マズローが言うところの自己実現欲求が叶えられるし、ニッチなニーズにも応えられるし、そういうプロジェクトがどんどん増えて集合体になっていけば、確実に世の中は良くなるんじゃないか、という考えがあるんです。
WORK MILL:それはある種、資本主義の中ではこぼれ落ちてしまう部分かもしれません。
東出:大きなビジョンを実現しようとすることと、小さなニーズを拾っていくこと、どちらも大切だと思うんです。僕の中では、Yokiが大きなビジョンを叶えられる環境で、他に掛け持ちしているプロジェクトが、小さなニーズのほう。その両軸を持っていることに意味があって、中間にはあまり意味がないと思っています。
クラウドファンディングで可視化される「小さなニーズ」
WORK MILL:東出さんはどうやって今のような考えにたどり着いたのでしょうか。
東出:どうなんですかね……何がきっかけだったのかはわからないですけど、ニーズが多様化していて、そこを埋めなければ、という意識は昔からありました。なんというか、「こんな未来があったらいいよね」というイメージはあるけど、逆算してみると全然そこに届かないな、という感じはあります。
たとえば、少し前にクラウドファンディングで別府市の「湯〜園地プロジェクト」が話題になりましたけど、「投資」はなかなかつきにくい事例だと思います。でも「クラウドファンディング」ならおもしろそう!とか、なんかいいよね!くらいで資金を集められる。そういうインフラって、単純に面白いなぁと思います。1000人の人がクラウドファンディングなど環境を使って自分のやりたいプロジェクトを実現できて、日銭を稼ぎながら自己実現できたらめちゃくちゃおもしろいんじゃないかと、思っていて。
WORK MILL:確かに、1000人の人が「自分の思いを掲げて、資金を集める」ということを実践すれば、多くの人の価値観が変わりそうです。
東出:価値観が変わるというより、既にそういう価値観を持っている人はたくさんいたと思うんです。ただ、これまでは単純に「こういうことがしたい」という人と、「こういうことにお金を払いたい」という人をつなげるものがなかったんです。やっと、それが可視化されるようになったのかな、って。
WORK MILL:お話をうかがっていると、とてもユニークな視野で物事を考えていらっしゃる気がします。東出さんはどうやって、今のような考え方をするようになったのでしょうか。
東出:よく聞かれるんですけど、わからないんですよね……。ただ、事実として挙げられるのは、僕がひとりっ子だった、ということ。だから、ずっと一人で妄想してるような子どもだったんです。妄想が止まらなくて、寝られなくなって徹夜したり、忘れるのが怖くて、あわててスケッチしたりするくらいだった。でも最近は「バタンキュー」で妄想する余裕もないので、このままじゃいけないなぁ、と思ってるんですけど。
WORK MILL:「妄想で寝られない」って、強烈ですね。同年代の方はむしろ、「自分は何に向いているんだろう」「自分がどうしたらいいかわからない」と悩んでいる人が多いのでは?
東出:確かに、僕は「こういうことがしたい」という考えは、わりと持っているほうだと思います。ただ、「いまやっていることが正しい」とは思っていないんですよ。それしかやる方法がない、というか……。朝起きるのが苦手だし、定時に会社へ行くのも絶対ムリ。自分で空間をデザインできるような環境にしかいられない。ダメ人間なんですよ。そういう意味では、これしかないのかな、という感じなんです。
ネガティブなことをポジティブに捉えてみる
WORK MILL:東出さんは、長時間労働や過労死など働き方の問題について、どうお考えですか。
東出:僕はクラウドファンディングの考え方が好きなので、家入一真さんに共感しているんですけど、家入さんがよく「逃げな」って言っているのは、僕もそうだと思います。「逃げるは恥だが役に立つ」って、本当にそうだな、って。僕も、自分が存在することが苦痛な空間には、なるべくいないようにしているんです。
実は僕、結構人からどう見られているかを気にするタイプなんですよ。お店に入って、中学生のグループが笑ってるのを見ると、自分のことを笑われてるような気がしてしまう。単に自意識過剰なんですけど。
WORK MILL:「危険を察知する」みたいな感じなのかもしれませんね。
東出:警戒心が強いんです。食わず嫌いなところもあって、「だまされてもいいから食べてみな」って言われても、食べない(笑)
WORK MILL:それってある意味、生きるうえでも大切な能力かもしれません。私たち日本人は、比較的同調圧力に流されやすいというか、諦めて鈍感になってしまっている。東出さんは、世の中の常識にとらわれないところがあるのでは?
東出:そんなかっこいいものでもないです。僕は基本的に、ネガティブなだけなんですよ。常に失望する日々です。こないだも、レジでもたついて、1日中ひきずってました。落ち込むところまで落ち込んで、「まぁいっか」となる。凹みやすくて、立ち直りは早いんです。ネガティブなことをポジティブに受け止められる、というか。
WORK MILL:まさに「レジリエンス」ですね。そんな東出さんにとって、幸せな働き方はどういうものでしょうか。
東出:うーん……いま幸せかどうか、と考えると、悩むんですよね。最近、キレイな水が流れているような田舎に行くと、「あぁ、ここでしばらく過ごしたいな」と思うこともあって、なんで僕、渋谷に通ってるんだろう、って思います。ないものねだりかもしれませんね。そういう意味では、やっぱりちゃんとリモートワークが機能するようにがんばりたいなと思います。「なぜこの会社で働くのか」「この人たちと一緒に働きたい」というのが薄れてしまいがちなので、しっかり伝えつづける必要がある。
WORK MILL:それがまさに、新しい働き方を実現するには重要なんでしょうね。
東出:「幸せ」って、わからないですよね。単純にぜいたくなだけなのかもしれないですけど、あまり現状に満足することはないというか。きっと、死ぬ瞬間までわからないんだろうと思います。
2018年8月7日更新
取材月:2018年6月