働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変える。

WORK MILL

EN JP

社長がフルコミットする必要はない。ー 長期的に考えるポストミレニアル世代の経営戦略

ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの資金調達が一般的なものとなり、インキュベーションプログラムやスタートアップ支援など、日本でも起業しやすい環境が整ってきました。大学在学中に起業する人もいれば、中には「10代の起業家」も現れました。

 働き方が多様化するなかで、「ポストミレニアル世代」と呼ばれる若者は、「働く」ということをどう捉えているのでしょうか。今回は、17歳の時に株式会社Yokiを起業した東出風馬さんにお話をうかがい、その仕事観を探ることにしました。前編では、現在の働き方や自身の会社で成しとげたいこと、マネジメント手法などについて語っていただきます。

―東出風馬(ひがしで・ふうま) 株式会社Yoki代表取締役社長
1999年8月15日生まれ。慶應義塾大学総合政策学部1年。中学2年時に現在のYokiの事業を着想し、2016年秋、高校2年のときに東京都主催の「TOKYO STARTUP GATEWAY」に応募。テーマ「能動的かつ直 感的なロボットで今までの情報端末の限界を 超える。」で優秀賞を受賞。獲得賞金等で、 2017年2月、このうえなく優しい情報端末をつくり、真にパーソナライズされた世界をつくり多様性のある世界をつくることを目標に、株式会社Yokiを創業。社内では、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、コピーライティングなどデザイン全般にも関わっている。また現在複数のサイドプロジェクトを動かしている。

「行くつもりはなかった」大学に入学した理由

WORK MILL:4月から大学に入学されたばかりですが、会社との両立は順調ですか。

東出:会社自体はリモートワーク中心で、土日に集まる感じなので問題ないんですけど、大学は……ぼちぼちですね。実は、秋からちょっと休学しようと考えているんです。

WORK MILL:やはり、両立は大変なんですね。

東出:会社の仕事というより、他にも携わっているプロジェクトがあって、物理的に大学へ通うのが難しくなりそうなんです。それと、大学は楽しいこともありますが、コミュニティーに属しているという状態が非常にストレスであったりもするんですね。そもそも、僕自身はあまり大学に行くつもりがなかったんです。でも、ある方から「せっかく受かったなら、行ったほうがいいよ。慶應出てるか出てないかで、会社につく評価額も違ってきたりする」とアドバイスいただいて、確かにそうだな、と。年間100万円学費がかかっても、必要経費としては妥当だなと考えて、とりあえず大学に行こうと思いました。

WORK MILL:「他のプロジェクト」というのは?

東出:会社と並行していくつかのプロジェクトに参加しているのですが、僕の中ではその比率を50:50くらいでやっていきたいなと考えています。例えば今働き方というものが少しアップデートされれば意外と世の中の問題が解決されるんじゃないかと思っています。みんなが小さなちいさなプロジェクトを起こして、オーナーにも顧客にもなるような世界を実現したいなと思っています。それを実践するために、自分でもプロジェクトに参加しています。ひとつは、奄美大島でゲストハウスを立ち上げるのと、もうひとつはインドに学校をつくるプロジェクト。それと、恋愛メディアで文章を書いていた女の子が、「デートプランを作成するサービスをやりたい」と言っていて、それを手伝おうとしていたり。

WORK MILL:ジャンルも規模感もバラバラですね。何か参加する判断基準はあるのですか。

東出:単純に、「面白そう」とか「意義がある」とかもあるんですけど、Yokiが取り組んでいる事業は長期的なビジョンを掲げているので、すぐに成果が出るわけではないんです。それで、もう少し短期的に成果が出そうな小さなプロジェクトを支援することで、会社経営やマネジメントにつながるノウハウを実践のなかで身につけられたらいいなと考えています。

WORK MILL:いま、会社はどのくらいのフェーズにあるとお考えですか。

東出:よく「Appleにたとえると、iPhone IとiPhone IIの中間だよね」と話してるんですけど、いま、僕らがつくっているプロダクトは、目指しているステージの2つ、3つくらい後ろの段階からスタートしている感じなので、それこそビジョンを実現するには何十年もかかると考えています。

オープンソースでカスタマイズできる「やさしい情報端末」

WORK MILL:Yokiが掲げるビジョンはどういったものなのですか。

東出:「ZOZOスーツ」の旧モデルがまさにそういうものだったんですけど、センサーで体型データを取って、個人にフィットした服をつくるサービスですよね。今は服はZOZOでつくられ送られてきますが、将来は家の3DプリンタにZOZOからデータが送られてきて服がプリントされるような時代が来ると思っています。つまり、よりパーソナライズされたプロダクトやサービスが登場するのではないか、と。ただ、そこから取り残されてしまうのが「感情のデータ」なんですよね。物理的なデータは収集できても、感情に至るまでフィットさせなければ、本当の意味でパーソナルではない。

ペットと人間の関係のように、言葉は通じないけど、一人ひとりの感情に寄り添うような情報端末をつくることは可能なんじゃないか、と考えていて今そんな情報端末はロボットである、という仮説をたてています。21世紀中にもっとAIが普及したとき、心でつながれるような「やさしい情報端末」をつくりたいんです。それは、ある意味ドラえもんとかアトムみたいな存在で、多くのロボットメーカーがドラえもんをつくりたい、アトムをつくりたいという目標を掲げています。

でも今現状は失敗してしまっているものが多い。それは、そもそもあらゆるものが個人にフィットする時代が来ていないから今現時点においては必要ないからだと考えています。僕らはすでにある市場一つひとつに合わせられるようなプロダクトをつくって、一つひとつ成功事例をつくっていこうとしています。

WORK MILL:それが、いま開発されている「HACO(ハコ)」なんですね。

東出:ハードウェアとしては、レーザーカッターで出力されたパーツやAmazonで買えるパーツ、「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」などカスタマイズ性の高いもので構成されています。ソフトウェアも「HACREW(ハックル)」といって、ブロックプログラミングとテキストプログラミングの両方が可能。ブロックをひとつ並べれば、テキストが表示されるので、仮にテキストコーディングがわからなくてもプログラミングできるようになってるんです。それに、ライブラリを読み込んだり、APIとつなげることもできる。

つまり、ハードウェアもソフトウェアもオープンソース化して、ユーザーに使い方を委ねることによって、僕らが想像もつかないようなことができるようになるかもしれない。いまのところ、8月のプレリリースを予定しているのですが、まずは既存のマーケットに投入して、わかりやすい事例をつくろう、ということで、プログラミング学習に活用してもらおうとしています。

WORK MILL:最近では、「Nintendo Labo」もまさにユーザーが自由に使い方をカスタマイズできるようなものでしたよね。

東出:可能性はいろいろあると思っているんです。認知症患者との対話による症状の軽減や、東南アジアにおける日本語教育の教材とか……。この1年くらいで10件くらい目立った事例をつくりたい。僕らはまだ、エンジニアも足りていないし、資金もないし、情報のリソースもない。そういったなかで、外部の手を借りることで、やれることを広げていけたらいいなと思っています。

WORK MILL:いまはどんな体制で会社を経営しているのですか。

東出:チームとしては10名くらいなんですけど、基本的にはみんなリモートで、何かしら掛け持ちしている人が多いです。学生が中心ですが、高校生から40歳まで。エンジニアが数名とディレクターが2名、マーケティングと広報を兼務しているメンバーが1名、という感じです。海外にいるメンバーもいます。できればひとりも雇わずに、全員業務委託 で、権限委譲して進めていきたいと考えています。ただ正規雇用でないとローンが組めなかったり世間体との差がありますので業務委託というのは実質という形ですね。

WORK MILL:確かに、社員を雇うとなると、それだけ給与や諸経費も発生しますから、大変ですよね。

東出:どちらかというとそういうネガティブな理由というより、みんなそれぞれがプロジェクトを掛け持ちしていくやり方のほうが正しいと思っているんです。経営者の立場にいると、「あなたの生活を保障します」なんて、絶対言えないな、と思っていて。僕自身もプロジェクトを掛け持ちして、そこからYokiにつながるノウハウを得ているから、みなさんもそうしてください、という感じなんです。

WORK MILL:よくスタートアップの経営者の方が、「創業期は寝食を惜しんで働いた」みたいに振り返っていたりしますけど、それとは真逆のアプローチですよね。「代表が会社にフルコミットしていない」というのは、とても新鮮です。

東出:日本のスタートアップでは、短期勝負というか、ガーッとコミットして、1、2年で成果を出して、みたいなものが多いかもしれないけど、僕らは違いますから。長期的に続けていかなくてはならないので、それとは違うやり方をしなきゃいけないと思っています。一人ひとりの時間を使って、会社を成り立たせています。だから、メンバーを採用するときにも、2時間くらいかけてビジョンやミッションを共有するんです。

WORK MILL:先ほど「業務委託で権限委譲する」とおっしゃってましたけど、自律的に動けるくらいプロフェッショナルな知識が必要ですよね。どうやってメンバーを見つけているのですか。

東出:ひとりは大学の友人で、入学してから参加してもらったんですけど、それ以外はSNSが中心ですね。最初はFacebookのグループでリクルーティングをかけていたのですが、「ここは作業ページじゃない」って怒られたので、いまはTwitterで地道にハッシュタグを追って探しています。エンジニアの場合、わりと自分のスキルをハッシュタグで書いてくれている人がいるんですよ。そういう人をフォローして、フォローバックされたらDM(ダイレクトメッセージして……という感じです。それと、最近はメンバーの紹介で入ってくれる人もいます。

WORK MILL:Twitterで見つかるものなんですね……。ハッシュタグでスキルを書いていたとしても、本当かな?と思ってしまいます。

東出:そこはいまのところ、あまりウソはないですね。あとは、その人に合った役割に配置すれば、力を発揮できると思っています。

WORK MILL:きちんとメンバーのことを理解していなければ、適材適所に配置するのは難しいですよね。

東出:だから、がんばってコミュニケーションを取るようにしています。そういう意味では、やっぱりリモートは課題が多いんです。おもにSlackでやり取りしてるのですが、「ありがとう」と活字だけで目にするのと、面と向かって言われるのとでは、受け取り方に差はありますよね。やっぱり、マネジメントが重要なんですよ。起業したばかりのころは、ボタン押したら思った通りのものができあがる機械のようにチームを潜在的にとらえていましたが、まったく違う。組織は喜ぶしすねるし、生き物なんですね。最初は、みんなを機械みたいに扱ってしまっていた。でも、いまはとにかく細かいところまでフォーマット化することや、メンバーが嬉しい気分なのか怒ってるのか、悲しんでるのかなど気を配っています。しくみと、気配りの両方を徹底していきたいなと。でもあまり細かいことには口をださない。仕方ないと目を瞑るくらいに考えています。

WORK MILL:それはある意味、世の中の経営者やマネジャーが苦心していることですよね。成果を出そうと思うと、つい部下に口を出したくなってしまう人が多いように思います。

東出:その点、僕は「自分でコードを書けない」というのが大きいのだと思います。ザッカーバーグは自分でFacebookを作りはじめて、投資を受けて、会社を大きくしていったけど、僕は絶対に誰かに手伝ってもらわないと、会社のビジョンを達成できないんです。常に人の力を借りなければ、何もできない。だから、マネジメントするしかないんです。

WORK MILL:「何もできない」と言えるのって、とても勇気がいりますよね。

東出:一応、チームのなかでは「見守る」という役割と、デザイナーとしての役割は果たそうとしています。サイトやプロダクト、ロゴのデザインや広告的な文章は自分で決めていますし、みんなが立体的にイメージできるような外から見える部分は僕がつくっている。そういうのは得意なんですけど、苦手なことは無理してやらない。球技は苦手だし、漢字は全然書けないから、スマートフォンなくしては生きていけない(笑)。諦めの早いところと熱中するところがあって、その切り替えはわりとうまいほうなんです。だから、自分の苦手なことはどんどん人に任せられるのかもしれません。


前編はここまで。後編では、日本のスタートアップシーンに対する考えや「小さなプロジェクトを立ち上げやすい環境」をつくる目的、そして「幸せ」について考えます。

2018年7月31日更新
取材月:2018年6月

テキスト:大矢 幸世
写真:中込 涼
イラスト:野中 聡紀