「Sports×Creative」で新産業を生み出す拠点、横浜DeNAベイスターズ「THE BAYS」
新たなビジネスの萌芽や革新的なアイデアを生む仕組みとして注目されている「オープンイノベーション」。WORK MILLではさまざまな共創空間を取材し、先行事例を紹介しています。
今回新たに取材したのは、横浜DeNAベイスターズが運営する多機能施設「THE BAYS(ザ・ベイス)」です。球団経営を担う会社が、街に開かれたコワーキングスペースやカフェ、スポーツスタジオなどを運営する背景には、一体どんな意図があるのでしょうか。執行役員 経営企画本部 本部長であり、「THE BAYS」の立ち上げに携わった木村洋太さんに、詳しくお話を伺いました。
前編では「THE BAYS」に入っている機能のそれぞれの狙いや、空間づくりにおけるコンセプトなどにフォーカスします。
球団と街、スポーツとクリエイティブを繋いで、化学反応を引き出す
WORK MILL:はじめに「THE BAYS」がどのような施設なのか、教えていただけますか。
木村:「THE BAYS」は2017年3月にオープンさせた、横浜DeNAベイスターズの情報発信拠点です。私たちは現在、スポーツの力で街づくりや産業創出を盛り上げる「横浜スポーツタウン構想」を推し進めており、この計画のパイロットプログラムとして「THE BAYS」は誕生しました。
—木村洋太(きむら・ようた)株式会社横浜DeNAベイスターズ 執行役員 経営企画本部 本部長
米系戦略コンサルティングファームでの勤務を経験した後、2012年に株式会社横浜DeNAベイスターズに入社。横浜スタジアムの球場改修計画『コミュニティボールパーク』化構想の策定などに従事。事業本部チケット営業部部長、経営・IT戦略部部長を経て、2017年11月より現職。「横浜スポーツタウン構想」や「THE BAYS」などの新規事業開発を担当している。
WORK MILL:横浜DeNAベイスターズは2012年より、球場を中心に人々の賑わいを生み出そうと、横浜スタジアムを中心とした『コミュニティボールパーク』化構想(2017年10月グッドデザイン賞受賞)を提唱されていましたね。これが発展して「横浜スポーツタウン構想」が生まれた、という流れでしょうか。
木村:おっしゃる通りです。『コミュニティボールパーク』化構想は基本的に、球場と横浜公園内を対象にしたプロジェクトでした。この施策が功を奏して、観客動員数は順調な伸びを見せています。そこから少しずつ「せっかく賑わいを生み出せているのだから、球場・公園内で閉じないで、外に出てコミュニティを広げていこう」という気運が高まり、「横浜スポーツタウン構想」に繋がりました。
ー横浜DeNAベイスターズの本拠地の一つである「横浜スタジアム」は、神奈川県横浜市の横浜公園内に位置する ※写真提供:横浜スタジアム
木村:「横浜スポーツタウン構想」は、横浜という街を基盤とした「スポーツ産業エコシステム」の構築を目指すプロジェクトです。行政やパートナー企業と連携して「スポーツ産業を生み出し、拡げ、根付かせる」サイクルを確立し、街全体を活気づけていきたいと考えています。
WORK MILL:「THE BAYS」は「Sports×Creative」をテーマとして、新たなライフスタイルや産業を生み出していく場所、と銘打たれていますね。各フロアにはどのような施設があるのでしょうか?
木村:「THE BAYS」は地上4階・地下1階立ての構成で、4階が横浜DeNAベイスターズの執務スペース、3階~地下1階が外に開かれた施設になっています。
1階にあるのは「Lifestyle Shop +B」と「Boulevard Cafe &9」です。「+B(プラスビー)」は2015年に立ち上げたブランドで、野球のエッセンスを取り入れたグッズでありながら、日常生活で使いたくなるような良質な雑貨や洋服などを取り揃えています。「&9(アンドナイン)」は、普段使いできるカフェに、野球文化のエッセンスを加えました。この2つは「野球ど真ん中ではない手法で、私たちがどれだけ街の日常に寄り添えるか」を試す場でもあります。
木村:地下1階にあるのは、アウトドアフィットネスをテーマにしたスポーツスタジオ「ACTIVE STYLE CLUB」です。こちらでは室内で取り組むダンスやエクササイズのほか、ランニングやパークヨガなど野外で行うプログラムも充実させています。運動を楽しむ人たちを「THE BAYS」から外に送り出すことによって、街に賑わいが生まれてくれたら…という願いの下、屋内に閉じない展開をモットーにしています。
WORK MILL:確かに、街中でランニングしている人が増えたら、空気が変わりそうです。
木村:東京だと、皇居の周辺が良い事例ですよね。皇居ランナーが増えたことによって、周辺に新しくランニングステーションが設置されたり、飲食店が活気づいたりしています。アクティブな人が集まってくると、ある場所の賑わいが、また別の場所の賑わいを生み、相乗効果的に街がどんどん盛り上がっていく……「THE BAYS」には、その賑わいの発信源になってほしいなと思っています。
1階と地下1階は「街との接点を作り、賑わいを生み出す」ための、市民の憩いの場所です。これに対して、2階にある会員制シェアオフィス&コワーキングスペース「CREATIVE SPORTS LAB」は、ビジネスの文脈で「Sports×Creative」を追求する空間と位置づけています。
WORK MILL:現在「CREATIVE SPORTS LAB」はどのような方々が使用していますか?
木村:法人会員にはSDM(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科)やスノーピークビジネスソリューションズ、超人スポーツ協会などが入られています。主にデザインやスポーツ分野に縁のある会社さんが多いですね。個人会員には、横浜に拠点を構える起業家さんや、スポーツ分野での新規事業開発に関心のある会社員の方などがいらっしゃいます。3階のミーティングルームは、私たちが日常業務で使うとともに、こちらの会員の皆さんにも貸し出しています。
WORK MILL:今後はどんな人たちに「CREATIVE SPORTS LAB」を活用してもらいたいと考えていますか?
木村:スポーツ産業に携わる意志のある方はもちろん、「なんとなくスポーツが好き」という会社さんや事業家さんには、一度来てもらいたいですね。スポーツ分野には、デザインやテクノロジーが介入できる余地が、まだまだたくさん残されているんです。ちょっとした技術でも、スポーツの世界で活用されることによって、大きなビジネスチャンスに化ける可能性は十分にあります。
スポーツ産業に携わっている方と、スポーツ産業に興味のある方、単純にスポーツが好きな方 ― まだ会員数はそこまで多くないですが、多種多様な職種・属性のメンバーが「CREATIVE SPORTS LAB」に集まれば、いつしかこの中で驚くような化学反応が起こるんじゃないかと、期待に胸を膨らませています。
「室内でカジュアルに働ける場所」≒「アウトドア感のあるオフィス」
WORK MILL:「THE BAYS」の空間づくりを手がけていく中で、最も苦労されたのはどんなところでしたか?
木村:準備段階は、本当に苦労の連続でした。この建物は横浜市から借りているもので、文化財の指定も受けています。レトロな趣があって素敵なのですが、例えば、壁面のレンガなど、歴史的な資産として、保存をしていくべきものが多くあるんです。大胆なリノベーションができない中で、元ある素材をどう生かすかに腐心しましたね。
この建物は直近で耐震補強の工事をしたこともあって、柱やブレースの数が多くて、かなり存在感があります。それらが空間を圧迫しないように、目立たない配色を考えたり、部屋の配置を変えたりして。デザイナーさんと設計者さんと相談しながら、できる限り広く見せるために「1フロアひとつながりの部屋に見えるような空間づくり」を意識しました。
WORK MILL:「コンセプトありき」で空間を作っていったのではなく、「場所ありき」の空間づくりをしたと。
木村:そうですね。この建物を借りられることが決まった際に、大きな方針も決まっていたのですが、そこから「この建物、この立地を十二分に生かすには、どんな空間にしたらいいか」と検討していった結果が、今の「THE BAYS」を形作っています。
WORK MILL:「CREATIVE SPORTS LAB」には、ミーティングスペースにテントが設置されていますね。
木村:あのテントは「室内でアウトドアを感じながらカジュアルに働ける場所」の一提案として、実験的に設置しました。私たちは「Sports×Creative」のコンセプトの下、新しいライフスタイルを創造していきたいと考えています。
オフィスにトレーニングジムを併設して、仕事の合間に運動を取り入れたら、パフォーマンスが上がるかもしれない。むしろ仕事場をオフィスに限定しないで、街全体をコワーキングスペースだと捉えたら、もっと創造的な働き方ができるかもしれない――そんな型に捉われないライフスタイルの提案を、「THE BAYS」全体でやっていけたらいいなと思っています。
WORK MILL:オフィスと中と外との境目を曖昧にしていくと、そこでまた新たな化学反応が起こりそうですね。
木村:だからと言って、私たちがいきなり横浜公園にテントを立てて「今日からここはコワーキングスペースです!」というのは、さすがに無理があるので(笑)。そこで、室内にテントを置いて「アウトドア感のあるオフィス」に仕立てているんです。生活や趣味と仕事を切り離さないで捉えてみることで、新しい働き方が見えてくるんじゃないかと。
WORK MILL:テントの存在感も然りですが、椅子やテーブルもアウトドアブランド「snow peak」の製品が使われていることで、オフィス全体の雰囲気が柔らかく感じられます。
木村:今はアウトドア感を押していますが、今後は会員の数や属性の変化に合わせて、さまざまな切り口で新しいオフィスの形、生活の形を提案していきたいですね。
街に拠点を構えることが、街づくりへの意欲を示す効果的なアピールに
WORK MILL:まだオープンして間もない「THE BAYS」ですが、ここを作ったことによって得られている手ごたえは、何かありますか?
木村:「THE BAYS」の立ち上げによって、横浜DeNAベイスターズないしディー・エヌ・エーグループが「外に開いて、横浜の街づくりにアプローチしよう」と本気で思っていることを、行政や街づくりに携わる方々にアピールできたことは、一つの大きな収穫です。
WORK MILL:単なる「球団経営会社」というイメージを、大きく塗り替えつつあるわけですね。
木村:これまでの私たちは、周りから「横浜スタジアムで何かをやっている人たち」という見られ方をしていたと思います。そこから、実際にスタジアムの外に一歩踏み出して拠点を作ったことで、新たに「横浜の街で何かをやろうとしている人たち」という印象を与えられたのかなと感じています。
木村:最近では、物件の所有社さんから協業の相談をいただいたり、行政の職員さんと周辺地域の開発の意見交換をしたりと、街づくりについての話をする機会が多くなってきました。
また「CREATIVE SPORTS LAB」の存在のおかげで、街づくりや空間づくりに関することだけでなく、スポーツビジネスの相談も増えてきました。次のスポーツ産業の創出に向けた取り組み全体を加速させるために、11月9日、「BAYSTARS Sports Accelerator」という、スポーツ業界を盛り上げるベンチャー企業との共創プログラムを12月から開始することを発表しました。
WORK MILL:お話を伺っていると「Sports×Creative」の文脈には、まだまだ多くの可能性が眠っているのだなと感じられます。
木村:スポーツは人を集め、楽しませることに長けたプラットフォームです。私たちの持っているリソースを活用して、新しいエンターテイメントを生み出してくれる方々がいらっしゃれば、ぜひとも積極的に協業していきたいですね。そういった「Sports×Creative」の産物が次々と飛び出していく拠点として、今後「THE BAYS」が機能してくれることを願っています。
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前編はここまで。後編では、横浜DeNAベイスターズが「THE BAYS」を作った先に見すえている街づくり、そして「景色づくり」について、さらに深くお話を伺っていきます。
2017年11月22日更新
取材月:2017年10月