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デザインに偶然は宿らない ― “いい文化”を根付かせるための空間づくり、場づくり、組織づくり

“ReBuild New Culture”――新しい文化の再構築。
これは、2016年9月に長野県上諏訪にオープンした「ReBuilding Center JAPAN」の理念です。古物や古材の“レスキュー”と販売を手がけるこの施設を立ち上げたのは、デザイナーの東野唯史さん。彼は「ReBuilding Center JAPAN」を中心に、これからどんな文化を日本に根付かせようとしているのでしょうか。 

今回、WORK MILL編集部は「ReBuilding Center JAPAN」まで赴き、“文化をつくる空間づくり”というテーマで、東野さんにじっくりとお話を伺いました。

後編は、“デザイン”をする過程で大切にしていることや、“いい空間”、“いいコミュニティ”の定義など、東野さんの個人的な哲学に迫っていきます。

空間の“声”、言語化されていない“作法”に従うデザイン

WORK MILL:東野さんは空間をデザインする際に、どんなことに気をつけていますか?

―東野唯史(あずの・ただふみ)ReBuilding Center JAPAN代表取締役・デザイナー
デザイン会社勤務を経て、2011年に独立。2014年、妻の華南子(かなこ)さんと空間デザインユニット「medicala(メヂカラ)」を結成。長野県松本市のギャラリーカフェ「栞日」、大分県竹田市のレストラン「Osteria e Bar RecaD」、山口県萩市の美容室「kilico」など、古材を活用した温かみのある空間づくりを手がけてきた。2016年10月、長野県諏訪市に、古材のリサイクルショップ「ReBuilding Center JAPAN」を設立した。

東野:基本的には古材をはじめ、自然素材を多用しているのですが、自然なものって変なことをしない限り、全体のバランスが悪くなることは少ないんですよ。その中で、最近気をつけているのは、“作法”を守るということですかね。言語化するのは難しいんですけど。

WORK MILL:作法、ですか?

東野:これまで日本人がこの地に何百年も住んできて、無意識的に積み上げてきた…住居建築における文化というか、美意識みたいなものがあるんですよ。それは、ある種の“作法”だなと感じていて。

WORK MILL:その作法に逆らうと、空間に違和感が生まれる?

東野:そうなんですよ。たとえば以前、天井を漆喰で塗ったことがあって。でき上がってから全体を見ると「なんかちょっと違うな」と感じたんです。ここ数年で気づいたんですけど、天井を漆喰で塗っている古民家って、まったくと言っていいほどなくて。日本的な建築における天井は、やっぱり木がしっくりくる。だからよほどの意図がない限りは、今までの日本建築の中に根付いている“作法”を、大事にしようと思っています。

WORK MILL:“作法”に敏感になるには、どうしたらいいのでしょうか?

東野:うーん…これも感覚的な表現になってしまうんですけど、空間や素材と“会話”ができるようになるといいですね。

WORK MILL:その“会話”について、もう少し詳しく聞かせてください。

東野:たくさんの現場を回る。たくさんの空間に身を置いて、たくさんの素材に触れる。そして、空間の声に耳を澄ませる。フリーになって全国を回り始めた当初は、よく工事が終わった後の夜、作りかけの建物の中にひとりで腰かけて、話しかけていましたね。「お前はどうなりたいんだ?」って。

WORK MILL:そうすると、そのうち空間の声が聞こえてくると。

東野:はい、きっと。聞こえてきたら、あとはその声に従うだけなんです。そうすると、「やれることがほとんどない」というくらいに、自ずとデザインの選択肢が絞られてくる。空間に寄り添えるようになれば、作法からはみ出ることは、ほとんどなくなってくると思います。

“社会にいいこと”が「かっこいい!」とつながる文化を

WORK MILL:「ReBuilding Center JAPAN」のコンセプトは、“新しい文化の再構築”ですよね。東野さんにとっての“いい文化”って、どんなものでしょうか?

東野:捨てるものは少なくて、長く使えるものが多い生活。欲しいものは、できるだけ自分で作る――そんなスタイルがよしとされる文化が、これから日本にも根付いてくれたら素敵ですね。

WORK MILL:「当たり前に、ものを大事にする」ということですね。

東野:それと関連して「ものの作られる過程を把握する」ことも、結構大切です。たとえばオーガニックコットンって、栽培するときの農薬の散布量が少ないから、自然にとっても農家さんの健康にとってもよくて。品質の問題だけではなく、そこまで理解した上で「こういう作り方、思想っていいよね」と買うものを選べる人が、ここ最近は増えている気がしています。

WORK MILL:同感です。

東野:僕らは「廃材を再利用する」という行為をデザインしていくことで、その奥に潜んでいるさまざまな価値観、思想も一緒に広めていきたい。最初は見た目のかっこよさから入ってもらってもいいけれども、そのうち自然に「環境のために/世の中のために古材を使おうかな」と感じてもらえると嬉しいです。

WORK MILL:その価値観は、他にもいろいろな行為に当てはまりそうですね。

東野:まさにその通りで。髪の毛の長かった人が、切った髪の毛を捨てずに、ヘアドネーションに出すこと。捨てようとしていた服をしかるべき団体に寄付して、必要としている人のもとに送ってもらうこと。「ゴミになってしまうはずだったものを、機転を利かせて生かす行為」自体が、「なんか、かっこいいよね」という感覚につながっていったら、世の中は大きく変わっていくと思っています。

“いい空間”は、面白い人を呼び、街を変える

本家のリビセンとの関連性を意識したパッチワークの窓。「廃材利用の象徴としてのデザイン」を取り入れたカフェスペース。(株式会社ReBuilding Center JAPAN 提供)

古材を使ったカウンター(株式会社ReBuilding Center JAPAN 提供)

2Fの古材置き場(株式会社ReBuilding Center JAPAN 提供)

材木置き場(株式会社ReBuilding Center JAPAN 提供)

ご夫婦で運営している空間デザインユニット「medicala」のウェディングボード

WORK MILL:東野さんはご夫婦で「medicala(メヂカラ)」というユニットを組んで活動を始められてから、「いい空間をつくる」ことにこだわりを持たれていますよね。東野さんにとっての“いい空間”って、どんな空間ですか?

東野:2つの条件が考えられます。「見た目がよいこと」と、「サービスがよいこと」です。この両方がそろっていると、お客さんにも運営スタッフにも愛される、“いい空間”になると思います。愛着が集まる場所には“いいコミュニティ”が生まれ、そこから街がよくなっていく。

WORK MILL:“いいコミュニティ”とは、どんな人たちの集まりでしょうか?

東野:属性で区切るというよりは、いろんなタイプの“面白い人たち”が集まってくる場所ですかね。面白い人たちは、さらに面白い人たちを呼ぶし、周りを面白くしていく力があるんですよね。
以前僕らは、山口県萩市のゲストハウス「ruco」の空間づくりを手がけたことがあって。依頼してくれたのは、「coen.」というバーのオーナーさんでした。その方は萩出身で、「地元にゲストハウスを作りたいけれど、しばらく萩から離れていたから、萩のいまの様子がわからない。だから、まずは人や情報のハブになる場づくりをしよう」と考えて、バーを作っていたんです。

WORK MILL:ゲストハウスを作るために、先にバーを?

東野:そうです。「coen.」はできてから、「最近、面白いオーナーがいるバーができた」と、じわじわ評判になって。陶芸作家さんとか、家具職人さんとか、大工さんとか、萩にいる面白い人たちが集まる場になっていきました。

WORK MILL:先に場づくりすることで、地元の人に受け入れてもらえる土壌を耕したんですね。

東野:そのおかげで、僕らがゲストハウスづくりを始めたときには、周りに協力的な方が多くて助かりました。
オーナーさんは「地元のよさを県外に伝えていきたいし、外のよさも地元の人たちに知ってほしい」という、熱い思いを持った方でした。「ゲストハウスで外の人を受け入れ、外の人の目線から萩のよさを伝えてもらうことで、地元の人に自信を持ってほしい」と。だから、「ruco」は1階にカフェをつくることで街に開かれた宿にして、外の人と地元の人が自然と接点を持てるような設計にしました。

WORK MILL:なるほど。

東野:このゲストハウスを中心に、いま萩という街が少しずつ変わってきています。「『ruco』をきっかけに萩を好きになったから」って理由で、萩に移住してくる若い子がいたり、近所に美容院やパン屋さんを出す方が出てきたり。いい人がいい人を呼んで、どんどん面白くなっているんですよ。その様子は、ゲストハウスに泊まりにくる人々によって、全国に伝わっていくから、さらにいい人が集まってくる。

WORK MILL:素敵な循環ですね。

東野:こういう循環のハブになる面白い人は、基本的に忙しい方々で。忙しい日々の合間に時間ができた時に訪れる場所って、“ちょっといい空間”ではなくて、“いい空間”なんですよ。その差は、ほんのわずかだと思うんですけど。もうちょっと、居心地をよくしようとか。もうちょっと、人が立ち寄りたくなる場にしようとか。

WORK MILL:そこから、“人が立ち寄りたくなるようなの空間づくり”を考えたり?

東野:そうすると「カウンターをかっこよくしよう」とか、「店主とお客さんのコミュニケーションが取りやすいようにデザインしよう」とか、具体的なアイデアにつながってくるのかなと。カウンターって、そのお店の顔だと思うんですよね。だから、フォトジェニックさを持たせてあげると、人が集まるハブになってくれる。みんな、写真撮ってinstagramにアップしてくれたりするから。
一方で「ReBuilding Center JAPAN」は、“コミュニティをつくる”のではなく、“文化をつくる”ことが目的なので、カウンターに対する考え方も違うんです。スタッフがずっとカウンターに立っているわけではなく、ほかにもいろいろと仕事があるので、あんまりお客さんがカウンターにたまらないように、意図的に距離感を取っていたりして。

WORK MILL:まず目的ありきで、それを空間に落とし込んでいると。

東野:いい空間が、偶然生まれることはないと思っています。しかるべき思想と意図、そして熱意を持って動くことで、結果がついてくると考えています。

組織における“場づくり”の要は、理念に即した制度の構築

WORK MILL:“いい空間づくり、いい場づくり”という文脈は、いま多くの企業が注目していることだと感じています。「ReBuilding Center JAPAN」は、会社法人で運営されていますよね。

東野:そうですね。

WORK MILL:会社組織という“場づくり”に関して、何か意識していることはありますか?

東野:組織を場として捉えると、“空間づくり”よりは、“制度づくり”の問題の方が大きいかなと思っていて。僕は、「任せてみる」ということを意識しています。何でもこちらで指示出しをしちゃうと、指示ありきの働き方になってしまうかもしれません。それって、お互いに楽しくないですよね。
ある程度のルールとゴールを設定して、やり方や人の動かし方は任せてみる。あとは、その制約の範囲内でゴールに向かいながら、自由に遊び回ってもらえたらなと。任せた結果に何か不備があったりしたら、その修正などは僕らも一緒に取り組みます。

WORK MILL:それは、仕事に対する主体性を持ってもらうことにも、つながるように感じます。

東野:ただ、いくら人を活かせるシステムがあっても、その人がそもそも持っている“志”が会社の目指す方向と一致していないと、将来的に誤差が大きくなって、苦しくなる。だから「ReBuilding Center JAPAN」では、スキルよりもやる気やビジョンを重視して、「これこそ目指すべき未来だ!」と強く共感してくれている人を採用しているんです。「リビセン君」を一緒に育ててくれるような。

WORK MILL:リビセンくん?

東野:はい。僕らはいま、社内で「リビセン君」という人格を共有していて。リビセン君が「“ReBuild New Culture”だ!」と理念を掲げて、突き進んでいる。僕らはその志に共感しているから、「ReBuilding Center JAPAN」を運営して、彼の進む道を切り開いている――そんな構図を作っているんですよ。
法人化したのも、僕が個人事業主のまま続けていたら「僕の言うこと=組織の目指す未来」になってしまう気がして、それを避けたかった。“ReBuild New Culture”という理念は、別に僕のものじゃない。みんなで共有して、「いいね!」と思った人みんなで取り組むべきことなんです。その中心にリビセン君がいて、周りを僕らがいて。

WORK MILL:その輪を、価値観を共有できるコミュニティを、これからどんどん広げていくのですね。

東野:“いい文化”を根付かせていく――そのプロセスをデザインしていくのが、デザイナーである僕の役目です。僕は「デザインに偶然は介在しない」と考えています。すべては、意図の範囲でしか生まれない……そういう前提に立って、偶然に頼ることを辞めると、やるべきこと、進むべき道が、自ずと見えてくると思います。

2017年5月16日更新
取材月:2017年3月

 

テキスト: 西山 武志
写真:BEEK DESIGN
イラスト:野中 聡紀