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WORK MILL

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東北・女川町に学ぶ、オープン・シェア・つながりのマインド

Googleが展開する復興支援事業「イノベーション東北」から生まれた「女川とびらプロジェクト」。前編の記事では、チームビルディングにフォーカスし、まったく接点のなかった東京拠点のプロジェクトメンバーの4人が、いかにして地域の課題と向き合い、強固かつスピード感のあるチームを構築してきたのかについておうかがいしました。 

後編となる今回は、彼らを受け入れた側の女川町の体制と、組織を超えてはたらくことの価値へと視点を移します。今大企業の多くがイノベーション創出を目的に挑戦する“共創”にもつながるエピソードがふんだんのお話になりました。

オープン・フラット・シェアのスタンスがプラスに作用する女川町の体制

女川町のまちづくりを推進するのは、左から女川町役場山田康人さん、NPO法人アスヘノキボウ小松洋介さん、女川町商工会青山貴博さん

WORK MILL:女川町には、県外から積極的に人を受け入れるなど非常にオープンな体制があると感じました。

宮城県女川町町長・須田善明(すだよしあき)さん。2016年3月現在、43歳。

柳川:女川町には町の未来についてみんなで話し合う文化ができています。町のビジョンを町内外に発信し、みんなで町を作っていこうとみんなが考えているので、私たちのような外から来た人間も受け入れてくれるのだと思います。自分たちがオープンになり、外の人たちをどんどん招き入れることによって、外からの新しい風を入れる。そのことが町づくりにプラスに作用するという考え方なんですね。

そして、町のみなさんはエネルギッシュです。町長はとても若くて、今43歳。町長になる前は、広告代理店で働いていたそうです。町長と町の人たちとの距離がとても近く、みんなで一緒にお酒を飲みながら町のことを話し合うのも日常茶飯事なんです。

金内:拠点になる飲み屋さんがあり、よくそこで集まって宴会が行われています。みんなで楽しく飲んでいるのかなと思ったら、急に真剣な議論になって、ミーティングが始まったりするんです。
また面白いのは、女川町では、60歳以上の人を「顧問」と呼んでいる点です。あらゆるアイデアを持っていて、まだまだ活躍できる方々ばかりなのですが、あえて30代から40代の下の世代に引き継いで町づくりを任せています。そのため、今は30代から40代の人たちが中心となって動いているのですが、意見や助けが欲しいときは、上の世代が手を差し伸べます。そんな縦のつながりがとてもうまく成り立っているんです。
女川町をひとつの組織としてみると、フラットでありながらボトムアップがきちんとできている。助け合う関係性も成り立っているので、とてもいい流れができているんです。

柳川:加えて女川町には「シェア」の発想が根付いていると思います。外からのお客さんを町の中で奪い合うのではなく、みんなで受け入れるというスタンスができているのです。起業家を生み出すためのプログラムにも取り組んでいますが、女川町で起業すること、女川町に住むということを強制していません。学んだことを他の地域で活かしてもいいし、地元に持って帰ってもいいんです。リソースをオープンにしているんですね。
自分たちの地域のことだけを考えているのではなく、他の地域とも連携しておもしろいことをしよう、人を育てようという取り組みが行われています。「株式会社女川町」といった感じで、とてもいい一体感を持った町だと思います。

女川町の特徴

まずは行ってみる、地域に関わるハードルを下げてみること

WORK MILL:女川町のような考え方をもった地域が増えていけば、課題解決の相乗効果につながっていきそうですね。一方、地方に関わりたいと考えていながらも、その方法が分からない人も多いと思います。第一歩を踏み出すには、何から始めたらいいのでしょうか。

金内:あまり難しく考えすぎずに、ひとまず現地へ行って、その土地の人と話してみればいいと思います。移住や現地で起業をするというような関わり方だけではなく、機会があれば、その地域へ行ってみるだけでもいいのです。距離が離れていても、私たちのような関わり方も可能ですし、つながれる方法はいくらでもあります。最初から「何か実績を残さなきゃ」という考えにならずに、最初は旅行感覚で気負わずに始めてみてほしいですね。ハードルを上げずに、まずは知ることからチャレンジすることをおすすめします。

柳川:私たちが「女川とびらプロジェクト」で企画したツアーも、地方へ行くハードルを下げようという思いが根底にあります。まずは気軽に行って、体感してみてほしいと考えたんです。今は、その参加のハードルをさらに下げて、東京で女川町のコミュニティを作ろうと動いています。女川町の魚が食べられる居酒屋を拠点に、コミュニティの輪を広げ、イベントを定期的に開こうと計画中です。興味があるなら、まずは一緒に飲みましょうというコミュニティです。新しい出会いになり、何らかのアクションにつながるきっかけになればと思っています。

スキルを活かした社外の活動は自己成長の場

WORK MILL:本業を持ちながらプロジェクトに参加したことによって、仕事に対する考え方は変わりましたか。本業にはどのように活かせていますか。

金内:何かをやると決めたら、最後までやり抜く姿勢を女川町の人たちから学びました。女川の人たちは「ノー」といわないんです。どんなに困難なことでも「どうやったらできるか」を考えるマインドを持っています。このマインドは普段の仕事でも意識するように心がけています。

上原:世間一般的には、会社のつながりからはみ出し、組織の外で何かアクションを起こす人はそんなに多くはいないと思います。会社のつながりがオンだとしたら、オフでは一切会社の人とは会わないという人もいるでしょう。私の場合は、オンとオフの切り替えがあまりありません。今回のプロジェクトのように、社外でもやりたいことを積極的に見つけて活動することによって、会社で培ってきたスキルを活かせる場になっています。

柳川:このプロジェクトに関わるようになってから、地域に関わることにさらに興味がわき、情報を積極的に集めるようになりました。情報をもとに、新しいアクションを起こすとどんどん新しい出会いにつながっていきます。自分の興味にしたがって動くことで、次のつながりができていく感覚がおもしろいですね。
今働いている会社でも、地域に関わる仕事に携わるようになりました。地域に関わる活動に参加していることを会社のみんなに発表したことによって、新たな仕事のきっかけになったんです。自分から発信することで、新たな仕事、出会いにつながっている実感があります。

お金ではない、新しい出会いと人とのつながりが価値

WORK MILL:本業だけでは得られない気付きや成長を得られたんですね。最後に、金銭的な報酬はなかったそうですが、にもかかわらずこれだけエネルギーと時間をかけて活動を続けられたのはなぜでしょうか。

柳川:女川町の方々、メンバーとのつながりが全てだったと思います。つながりが増えれば増えるほど、自分がさらにレベルアップしていかなければ、価値は提供できません。自分の成長がモチベーションの源にもなっていました。
そもそも、このプロジェクトに応募したきっかけは、自分が挑戦できるフィールドがあると感じたからでした。クライアントの要望に対して、課題解決のためのソリューションを提供するという本業のプロデューサーとしてのスキルが活かせると感じたんです。社外で自分の力を試してみたいという思いがあり、女川町の方々と出会うことで、みなさんの熱意に応えたい、変化に関わりたいという気持ちに結び付いていきました。

上原:私の地元は長野で実家はりんご農家です。将来は地元で働きたいと思っています。今回のプロジェクトで出会った女川町の方々やメンバーとのつながりを地元に帰った後、なんらかのかたちで活かしていきたいと考えています。そうすることが女川町の方々の思いに応えることにつながると思っています。

金内:ふたりの言うとおり、人とのつながりが一番大きいですね。女川町で出会えた人たちが私たちの財産であり、女川町は私たちの第二の故郷のような存在になっています。行くたびに女川町の様子が変わっているのが分かるので、すぐにまた会いに行きたくなるんです。ありがたいことに、提案内容を実施する次のフェーズも、ぜひ一緒にやりましょうと女川町の方々がいってくださったので、提案したプログラムを実行する段階にも携わることができています。これからも私たちと女川町とのつながりは続いていきます。

NPO法人アスヘノキボウ小松洋介さん(写真左)と「女川とびらプロジェクト」メンバー4人

テキスト:まきだ まどか
写真:岩本 良介
※女川現地写真のみ、「女川とびらプロジェクト」提供
イラスト:野中 聡紀