100回つづいたのは自然体だから。公務員人材開発研究会の舞台裏(刈谷市職員・内藤隆史さん×オカムラCue・河田佳美さん 対談)
職場での悩みがあるけれど、誰に相談すればいいかわからない……。
部下の育て方、上司との関わり方、異動のたびにリセットされるキャリア。組織で働いていれば、誰もが一度はぶつかる壁です。でも、そういった本音の悩みを安心して話せる場は、意外と少ないのではないでしょうか。
名古屋を拠点に、自治体職員が自発的に集う実践型コミュニティ「公務員人材開発研究会(以下、公人研)」は、日々職場で起こるさまざまな出来事を「自然体で話せる場」を9年にわたって作り続けてきました。公務員限定というクローズドな環境で、2026年2月についに開催100回目を達成。
今回は、公人研の主催者である刈谷市職員の内藤隆史さんと、立ち上げ当初から会場を提供してきた株式会社オカムラ Open Innovation Biotope “Cue”(以下、Cue)の河田佳美が、舞台裏を振り返ります。
Facebookのコメントから始まった、手弁当の勉強会
まず、内藤さんが公人研を立ち上げたきっかけを教えてください。


内藤
キャリアコンサルタント・柴田朋子さんと出会ったことがきっかけです。
柴田さんはリクルートの出身で人材育成やマネジメント、キャリアに幅広い知見ををお持ちであるとともに、元公務員として行政の現場もご存じで、公務員の人材育成の現状に課題を感じていました。
どんな課題があるんですか?


内藤
公務員って、早ければ3〜5年で異動になるんです。
この数年のサイクルで異動する中で、公務職場では特に理論などを学ぶことなく、経験と勘で人材育成やマネジメントをしている状況がずっと続いていたんです。


内藤
柴田さんは「手弁当でいいから、公務員の人材育成のあり方を変えたい」と思われていました。
そして、ご自身のFacebookに「公務員向けの人材育成勉強会をやりたい」と書いていて。その投稿に、私が「勉強したいので、なにかお手伝いしますよ」とコメントしたんです。実は当時、私自身も新人指導員をやっていて、どうしたらいいかわからず悩んでいる時期だったんです。
そうしたら、「じゃあ、一緒に発起人になってね」と言われて……(笑)。
Facebookのコメントのやりとりから、偶然共同発起人に?


内藤
そうなんです(笑)。笑い話のようですが、本当にそういう始まり方で。2017年5月のことでした。
「公務員の場」が、予想外の共創の舞台に
その勉強会をオカムラの共創空間Cueで開催したのはどんな経緯だったのでしょうか?


内藤
Cueが2016年末オープンすることは、この地域で話題になっていたんです。柴田さんがオープン前に会場を見学してコンセプトを聞いていました。
「公務員限定ですが、自治体間の横のつながりや連携を意識した勉強会になる予定。この共創空間でできないでしょうか?」とお話したところ、当時のCueの担当者さんに「いいですね! ぜひやりましょう」と言っていただけたんです。
河田さんは当時、その話をどんな気持ちで聞いていましたか?


河田
正直に言うと、最初は公務員向けの勉強会がCueで始まることになるとは、1ミリも思っていなかったんです(笑)。
まずは中部地方に多い製造業の方が中心になるかな、と思っていましたし、何よりも「公務員=少しお堅いイメージ」があって、私たちの取り組みに乗ってくれるなんて全く想像していませんでしたから。


河田
でも、共創空間はオープンしたばかり。これからどんな方が来てくれるかが全くわからない。だったら、まずは「一緒にやろうと思ってくれる方がいるなら、挑戦してみよう」という気持ちで取り組みました。
そうしたら結果的に本当にいいつながりができて、まさに共創活動の一歩なんだと、改めて感じさせてもらいました。
まずは原因分析を。参加者が必ず「持ち帰り」と「実践」できる場をつくる
公人研の活動内容について、改めて教えてください。


内藤
講座のメインテーマは「人材育成」です。毎月開催していて、テーマ設定はほとんど参加者からの提案を最優先にしています。
柴田さんが講師として、私が企画・ファシリテーターとして開催しています。


内藤
序盤のころは、人材育成の理論をインプットして、現場の実務に置き換えながら学ぶというスタイルでした。それがだんだん、子育て世代の女性職員の悩みや、ボスマネジメント(上司への向き合い方)、キャリアの在り方など、より個人の内面に近いテーマを深掘りするようになりました。
最近では、より具体的なケースでの仕事の向き合い方や、異動に対する個人的な受け止め方など、さらに深い問いを扱うようになっています。

公務員限定にしている理由は何でしょうか?


内藤
一番は参加者が本音を話せる「心理的安全性」のある環境を確保するためです。公務員って、苦情は受けても、感謝の言葉をなかなかもらいにくい仕事なんです。そんな中で起こる、日々の現場の悩みや本音はなかなか他には言えないし、聞ける場もないですからね。
市役所・県庁・国家公務員・自衛隊・公立学校の教職員と、所属はバラバラでも、法律をもとに行う私たちの仕事は共通しているので、話し合える土台があるんです。

Facebookコミュニティには400人の登録があるそうですが、毎回新規の参加者が多いそうですね。


内藤
100回やった中の7〜8割に、新規参加者がいます。参加者が自分の職場の同僚を「悩んでいるなら来てみなよ」と誘ってくれて広がっているんですよね。
公務員ご夫婦で参加される方もいますよ(笑)。
ファシリテーションをするうえで、特に大切にしていることはありますか?


内藤
「すぐに解決策に走らない」ということです。グループワークをすると、どうしても「じゃあ、コミュニケーションをしっかり取りましょう」みたいな結論に向かいがちなんですよ。でも、それができないから悩んでいるわけですよね。
だから、「まず原因分析をちゃんとしよう」と伝えています。「なぜ問題が起きているのか」をみんなで一緒に考えてから、解決策を出す。そうすることで、現場で本当に実践できるアクションが見えてくるんです。

河田
私も参加しているのですが、この原因分析のプロセスに「なるほど」となるんですよ。
みんなが主体性を持って参加していて、自分の悩みを言語化して、それをちゃんと深掘りして持ち帰ろうとしている。その姿勢が、回を重ねるごとにどんどん強くなっているなと感じています。


内藤
直近でいうと、新規採用職員を対象とした職場理解、仕事理解を深める取組みやジョブローテーション、定型事務のマネジメント、チャレンジするチームづくりなどの興味深いテーマについて課題を分析して、実践に繋がるディスカッションをすることができています。
参加者のみなさんも「自分にも全く同じパターンがある」と感じながら聞いている様子で、それが共鳴していくのが毎回よくわかります。これ、「公務員」という言葉を取り除いても、どの組織にも共通して起きている話だと思うんです。

河田
興味深いことに、回数を重ねるごとに公務員というフレームを超えて、誰もが共感できそうな普遍的なテーマが増えてきて。
私自身も「会社でこういう場面があったとき、このアクションを取ってみよう」というヒントをもらっていますね。個人的にもすごく学びがあります。

内藤
あと、全員が発言できる場を必ずつくる、ということは徹底しています。最初に話しやすい雰囲気をつくって、グループワークでシェアする時間をつくると、みんな自然と話し始める。


河田
初参加の方は多いんですが、必ず「全員がしゃべって帰る」のが本当にすごいですよね。
どんなイベントやコミュニティでも、全く発言しない人って必ずいるじゃないですか。でも、公人研は本当に毎回、全員が話しているんです。

内藤
一回話し始めたら、あとは止まらないですね(笑)。
自然体で続けること。100回の秘訣は「無理しない」仕組み
コミュニティ運営で一番難しいのが「継続」だと思います。
100回以上、続けられた理由は何でしょうか。


内藤
一番大事なのは、自然体であることだと思っています。
最初から「地域や会社を良くするために!」と大きな目的を掲げていたわけじゃなくて、自分自身が困っていたから始めた。
自分がやりたいという動機が起点にあるから、自然と続いてしまうという感覚です。それがいいんだと思います。


内藤
運営面では、なによりも参加者主体の場づくりを最も大切にすることを意識していて。大きなテーマではなく、参加者の困っていることに寄り添う形でテーマ設定をしています。そうすることで自然に、また具体的にテーマを設定できるようになりました。主催者だけでテーマを考えるのも大変です(笑)。
あとはやはり、Cueの河田さんと一緒に運営してもらっているという環境が大きいです。正直、もし毎回場所を探したり、会場設営、オンライン開催の準備まで自分ひとりでやっていたりしたら、ここまで続いていなかったと思います。

河田
私たちも、無理することなく自然体でいられていると感じています。準備もほとんどありませんから。
それって、公人研の価値と目的が明確で、お互いにちゃんと分かっているからだと思うんです。
この活動が、私を変えた。今後も続く「共創空間」
この活動を通じて、内藤さんご自身に何か変化はありましたか?


内藤
「自分が一番成長した」という実感はありますね。
まず、私と一緒に仕事をしてきた職員の成長につなげることができていることをとても実感しています。面談、目標設定、日々の機会の与え方と支援の仕方、フィードバックなど、公人研で学んだことを職場で実践し、職員の成長と業務の成果に繋がっています。本業での私自身の成長を感じています。
仕事への変化が感じられるのも素敵ですね。


内藤
次に公人研では、最初のころは本当に右も左もわからずにファシリテーションも全然できいませんでした。
それが今では、当日のテーマや展開を事前に準備しつつも、その場の雰囲気や参加者の言葉に合わせてライブで問いまで変えていけるようになりました。


内藤
公人研で人材育成について日頃からよく考えるようになり、仕事でも生かせるようになった過程で、2023年にキャリアコンサルタントの資格を取りました。
人の成長に関わり続けるうちに、「もっと学びを深めたい」という動機が自然と生まれてきたからです。この自分の成長と変化は、公人研をはじめるときには、全く想像していなかったことでしたね。
資格を取ってから、活動の広がりはありましたか?


内藤
公人研のテーマを設定する際に、提案者とディスカッションする中でより深めて、問題の本質を見出すことができるようになりました。
また公人研以外では、公務員のキャリア支援や民間企業の方と一緒に学生向けキャリアイベントの開催、全国の公務員のキャリアコンサルタントの繋がりを作ったり、研修講師の依頼もいただいたりするようになりました。
本業では、最近ニュースで取り上げてもらう機会があったのですが、自分は裏方に回って若手職員に取材対応をしてもらいました。
自分より、周りの人が成長していく姿を見ることに、だんだん関心が向くようになってきたんだなと感じています。

河田
そのニュース、見ました! そうしたら、若手職員がインタビューを受けていて(笑)。
公人研でずっと言ってきた「部下を育てる」「経験を積んでもらう」というのが、「職場でもちゃんと体現されているんだな、内藤さんらしいな」と思って、すごく嬉しかったです。
河田さんご自身の変化はいかがでしょうか?


河田
実は私自身、もともと中高生の探究学習やキャリア教育に関心があって。公人研に参加していく中で、キャリアコンサルティングの視点が探究学習に何かしら活かせるかもしれないと思って、キャリアコンサルタント資格の勉強を始めたんです。「もっと学びたい!」と思うようになったんですよね。
資格取得時は、内藤さんにひたすらロールプレングの相手をしてもらいました。フィードバックの切り口に、毎回「えっ、そういう見方があるのか」という発見があって。だから、内藤さんは私の「師匠」でもあるんです(笑)。
なるほど! この活動を通じて、内藤さんが大切にしている価値観や考え方はありますか?


内藤
「学ぶ・働く・暮らす」という3つのキーワードが、自分の中でずっと軸になっています。この3つって、どれか1つだけで完結するものではなくて、重なり合ってこそ厚みが出る気がしているんですよね。
公人研はまさに「学ぶ」と「働く」の重なるところにある活動なんです。勉強会で得たことがそのまま職場での実践になって、実践がまた新しい問いを生む。その循環の中で、働くことがちゃんと暮らしにつながっていく。そういう場を、これからもずっと続けていきたいと思っています。


内藤
10年たてば社会人になる世代が変わるし、新しく管理職になる人も出てくる。でも、公人研の価値とニーズは普遍的に続くだろうという実感があります。なので、まずはこの学びを提供する場を長く続けていきたいですね・
加えて、Cueの中で別のテーマや目的を持った場づくりも、少しずつやっていきたいと思っています。
単なる交流の場ではなくて、小さくてもテーマや目的を持った場を偶発的に始めていけたらと思っています。僕自身「偶発的なところから新しいことが生まれる」という価値観を大事にしているんです。

河田
素敵ですね。Cueだからこそできることもあると思いますので、これからもぜひ一緒に実現していきたいです!

2026年6月取材
取材・執筆=光田さやか
撮影=山口卓人
編集=鬼頭佳代/ノオト


