BIOTOPE流・事業継承とその後の現在地(戦略デザイナー・佐宗邦威)
戦略デザインファームBIOTOPEを立ち上げ、戦略とデザインを掛け合わせて価値を作り出す「戦略デザイナー」として、企業のビジョン策定やイノベーション支援の仕事をしている佐宗邦威さん。戦略デザイナーの目には、世界がどのように映っているのでしょうか。佐宗さんが仕事や普段の暮らしの中で見えたこと・考えていることを、手帖を見せてもらうようにカジュアルに公開していくビジネスエッセー連載です。
代表退任後に届いた2つの反応
2026年6月、自ら立ち上げた戦略デザインファームBIOTOPEの代表から降り、4人のパートナーメンバーに会社を継承しました。今までは、デザインファーム代表かつ戦略デザイナーとして活動してきましたが、今後は一戦略デザイナーとして活動していくことになります。
年齢で言うとまだ40代後半に入りかけたところ。「創業した会社の代表を降りる、という選択は早いのでは?」と思われた方も多いのではないかと思います。
こういう退任の発表はSNSに投稿した後、多くの友人や知り合いからご連絡をいただき、ご飯を食べたり、お茶をしたりする機会があるものです。僕の場合は、退任を発表した後の反応は大きく以下の2つに分かれました。
比較的少数の経営者や事業継承経験のある人は、「すごい、美しい事業継承だね。スパッと継承するのはすごく難しいこと。よく決断したね」。
そして、多くの人の反応は、「何でバリバリやっていたように見えたのに突然辞めたんですか?」。
正直、なぜこのタイミングで継承したのか?については、「自分のタイミングと継承してくれるメンバーのタイミングが奇跡的に一致したから」というのがシンプルな答えです。
高齢化を迎える日本では、事業継承を必要とする会社の数が増えていて大きな課題になって久しいですが、実際に自分でもやってみて、事業継承というのはすごく難しい営みだなと思います。
数年前までの自分は、以下のように考えていました。
「自分がオーナーの会社は、一度初めてしまうと出口が難しいものだな。優秀なメンバーに、『自分のキャリアを賭けてこの会社を継いでくれ』なんてなかなか言えないよなあ。多分、継いでくれないだろうし、相談して『いやだ』と言われたらショックだもんなあ」
会社に対する想いについては、創業オーナーと会社で働いている社員の間に往々にして大きなギャップがあるものです。特に創業オーナーにとって、会社は自分の分身のような存在。それを受け取ってくれるかどうかは、清水の舞台を飛び降りるような心境で切り出すものだと思うのです。
あらゆる選択肢の中からメンバーたちが選んだ道
今回の事業継承については、メンバーとの阿吽の呼吸の中で、自然に形が決まっていきました。
僕が経営していたBIOTOPEという会社は、その名前の通り「色々な生き物がイキイキと生きられる場になってほしい」というビジョンを持って経営してきました。そのため、創業当初から一人ひとりの個性をいかに引き出し生かすかを第一にプロジェクトアサインをしたり、日々のフィードバックや定期的な1on1をしてきました。
今でいう「自律型の組織をいかにつくるか」というチャレンジをしてきた中で、メンバーがトップの僕の顔色ではなく、目の前のお客さんを見ながら自分自身のビジョンを北極星に成長していくことを組織の文化としても大事にしてきました。
そんなBIOTOPEの今後を考えるために、多くの会社が選ぶであろうM&Aによる事業売却というシナリオも当然検討しました。
そして、M&Aを含めたあらゆる選択肢をメンバーに透明性を持って公開し検討してもらったところ、メンバーは自分たちで新しいパートナーシップ制の会社を立ち上げ運営することで、今まで作ってきた自分たちのコミュニティと組織文化を大事にするということを選びました。
メンバーのコミュニティに経営権を継承していくという意味では、Exit to communityというような考え方での珍しい事業継承につながってきたのです。
とはいえ、新しい会社の立ち上げ。当初は「今までのような安定はなくなるし、メンバーが離散してしまうのではないか?」という不安がありました。しかし、ありのままの想いと事情を伝えていく中で、ほとんどのメンバーが新しい体制に参画するという意思決定をしました。それぞれのメンバーの中に不安は当然あったとは思うのですが、驚くほどスムーズに、そして温かい雰囲気で、組織のトランジションを受け止め、継承がなされました。
準備期間が9カ月あったので、引き継ぎについてはある程度終わっていましたが、退任の日には儀式としてBIOTOPEという会社が大事にしてきた理念や経営上大事にしてきた魂を共有し継承するという会社継承式も行いました。
メンバーからは、「改めて儀式としての継承の場を設けることで、これから自分たちがやっていくんだなあ、というのを実感した良い場になった」というフィードバックももらいました。やはり体制が変わる時に、その変容をしっかりと身体化する上でも、儀式を設計して行うことはそれぞれが変化を受け入れていくためにも大事な過程だと思います。

事業継承後、「役立つ」から離れる時間をつくる
この継承の過程を経て、ようやく自分自身のことも考えられるようになってきました。正直、まだ何も決まっておらず、これから何をやっていくのかを探していくというトランジションにおけるニュートラルゾーンに入っていく状況です。
今考えていることを記録しておくと、会社を始めてからずっと背負ってきた社員の雇用や未来の安定に対する責任がグッと減って気持ちが軽くなった一方で、戦略デザインファームの代表として感じていた社会に対する責任感や背伸びしてでも頑張ろうという意識についても同時になくなりました。
今、この状況の中で感じているのは、この期間、まず自分を今まで駆動させてきたモデルをゼロから見直す時期に来ているなということです。
コンサルティングの仕事をしていると、誰かの役に立ち、その役立ちによって報酬をもらうというモデルが強化されていきます。「自分が誰かの役に立っているだろうか?」を24時間考えているし、「役に立たない自分は存在価値がない」と考えがちです。
しかし、常に誰かの役に立っていないといけない、となると、何もしていない自分をありのままに肯定できなくなるし、それはなかなかシンドイものです。
誰かの役に立つことはめちゃくちゃ嬉しい。でも、その体験に依存しない。仮に役に立っていない自分がいたとしてもそれは自分として受け入れる。そんな、「価値なくても生きていてOKモデル」に少しでも転換していく価値観の変化を通り抜ける必要があるんじゃないかと思っています。
トランジション期は、今まで自分が拠って立っていた価値観、組織がなくなるので、正直不安と楽しみが半々の中方向感覚を持たないまま過ごす時期という感じです。きっと、そういう中から次の何かしらの軸が見えてくると信じて、日々を過ごしていこうと思っています。
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト


