住宅の管理会社が、なぜカフェやブルワリーを運営するのか。西浦和「団地キッチン」田島に学ぶ”ほどよい”つながりのつくり方
2022年8月、埼玉県さいたま市西浦和に食をテーマにしたコミュニティ施設「団地キッチン」田島がオープンしました。オープンから3年が経った今でも多くの人が集い、ランチタイムには周辺住民の方々で満席になり、売り切れが出るほど愛される場所に成長しています。
カフェ、シェアキッチン、ブルワリーを併設したこの場所を運営するのは、UR賃貸住宅を中心とした住宅管理を担う日本総合住生活株式会社(以下、JS)。普段は団地などの管理を担うJSが、なぜコミュニティ運営に乗り出したのでしょうか?
さらに、最近では「DANCHI KITCHEN CLUB」が立ち上がり、個性豊かな住民たちが各々の活動拠点として、その輪はさらに広がりを見せています。団地という場所だからこそ生まれる”ほどよい”つながりのヒントを、団地キッチン田島のコミュニティマネージャー・金澤駿佑さんに伺いました。
予想以上にカフェが人気に! 「団地キッチン」田島の現在とは?

今日はよろしくお願いします。オープンの11時から途切れることなく幅広い世代のお客様がいらっしゃっていますね。
まずは「団地キッチン」田島がどんな場所なのか、教えてください。


金澤
もともと埼玉りそな銀行の窓口があった建物を改装し、2022年8月にオープンしました。ちょうど駅から団地に向かうまっすぐな道の途中にあって。
UR田島団地では団地再生事業が進められており生まれ変わりの時期にあったこと、さらにURグループである当社の技術研究所が近くにあるという縁もあり、「ここがぽっかり空いてしまうのはもったいない」と思い、当社が新しい試みをする場所として食をコンセプトした「団地キッチン」田島を開業しました。


金澤
「団地キッチン」田島は、大きく3つの機能を持っています。
それがカフェ、シェアキッチン、そしてビール製造が可能なブルワリーです。



金澤
この施設の最大の目的は、地域の交流ができる拠点として、地域活性につながること。
施設へは大きな投資をしていますが、当社としても「コミュニティの可能性を探る施設」として、力を入れてオープンさせました。
そもそもJS(日本総合住生活株式会社)って、団地などUR住宅を中心とした管理会社さんですよね?


金澤
そうなんです(笑)。日本で住宅が不足するようになった昭和30年代頃、全国に団地が建てられるようになり、それを管理するために私たちの会社JS(旧社名:株式会社団地サービス)ができました。
当時、団地は最先端で、入居するにもものすごい競争率だった、と聞いています。私たちはそんな時代から現代まで、UR賃貸住宅や分譲団地など全国約90万戸の管理と建物の修繕を行っています。
そんな時代があったんですね。
それでも、なぜそんな管理の会社さんがカフェを? しかもブルワリーまで……。


金澤
団地はただ建物を管理していればいいものではなく、人が住み続けていただけないと活力は失われていきます。
もちろん少子高齢化は、全国的な大きな課題です。ただ、それ以上にそこに暮らす人々が継続的なつながりを持って、安心して生活できることが欠かせません。


金澤
昨今、団地に暮らす方々のライフスタイルは多様化しています。
そうなるとハード面だけではなく、コミュニティといったそこで暮らす人々のソフト面にも関わっていく必要があるだろうと考え、当社では人とのつながりやコミュニティ形成を後押しするような取り組みに力を入れるようになりました。
その中のひとつが、今日お越しいただいている「団地キッチン」田島です。
「食」をテーマにしたというのも面白い切り口ですよね。
オープンから3年以上が経って、地域にはどんな変化がありましたか?


金澤
おかげさまで少しずつ認知度は上がってきており、特にカフェ利用は多くの方に楽しんでいただけるようになりました。
予想外と言っていいほどにカフェの需要があったことにも驚きました。
予想外だったんですね!


金澤
最初は食事のメニューも数えるほどしかなかったのですが、試行錯誤しながら増やしていくことができました。
ランチにカフェ、そして夜はビールを楽しんでいただけるよう、時間ごとに工夫しながら続けています。実は、コーヒーの焙煎機もありまして……(笑)。ビールもコーヒーもこだわっているんですよ。

本当だ!
隅々までこだわりが行き届いているんですね。


金澤
また2025年からは「DANCHI KITCHEN CLUB」という名前で、この場所を使ったサークル活動を開始しました。こちらも予想外に個性豊かな地域の人たちが集まってくれました。
多種多様な輝く個性を持った住民の方たちが暮らしていることが浮き彫りになって、とてもうれしい気持ちですね。

3年ごとの異動がむしろいい。属人化しないコミュニティ運営
あらゆる創意工夫が詰まっている空間ですが、金澤さんはいつからコミュニティマネージャーをされているのでしょうか?


金澤
実は、2025年の冬からでして……。

そうなんですか!? まだ半年くらいなんですね! 長いこと関わっている方なのだと思っていました。


金澤
当社は、定期的に人事異動が行われています。なので、いろいろな部署でオールマイティに働ける人材が集まっている組織だと感じています。
新卒入社後、10年以内に3〜4事業部を経験して現場のことを幅広く知るのが通例になっています。私自身も、コミュニティマネージャーになる前は、分譲団地の管理を担当していました。
こういった施設はどこか属人化しがちというか「属人化すべき」と思っている人も多いと思うのですが、異動がある中でよりよい施設にしていくってすごく面白い取り組みですね。


金澤
社員同士でもよく話すのですが、特にコミュニティマネージャーという業務は社内でも特殊な部署ですので、転職したくらい新鮮な気持ちで業務に向き合っています。
私自身、コミュニティマネージャーの仕事は初めての体験ばかりで、どう始めたらいいかもわからず不安がありましたが、今はとても楽しいです。

もともと、こういったお仕事に興味があって希望を出されたんですか?


金澤
いえ。私の場合「特定の部署に強く異動したい!」というスタンスではありませんでしたから、驚きの異動となりました(笑)。
ただ団地の未来には興味があったので、道を切り開くきっかけになる部署に異動できたことは自分にとってもメリットになると感じました。
なるほど。「団地キッチン」田島では、どんな方が働いているのでしょうか?


金澤
そこにあるブルワリーの醸造担当の柳川さんもうちの社員なんです。
ちょっと呼んできますね。
未経験からビール醸造の責任者へ!?

はじめまして! 名刺に「団地キッチン田島」醸造担当って書いてある……! 初めて見る肩書きです(笑)。
柳川さんは、JSさんの社員なんですよね?


柳川
はい、2024年からJSの社員です。
それまで20年以上都内の企業で働いていましたが、子どもが社会人になったのを機に地元で働けて地元に貢献できる仕事をしようと、それまで勤めていた会社を退職しました。
「団地キッチン」はもともと利用者の立場だったのですが、「こうした施設で働けたらいいな」と考えていたところ、たまたま募集があり、応募したところ採用されました。

もともとビールの醸造をしていたんですか?


柳川
いいえ、ビールの醸造はおろか、飲食業ともまったく関連のない業種で働いてきました。
ただ以前、さいたま市近隣のブルワリーが集まって独自に原材料の大麦を育てる取組みがあって、そこに私も私的に参画していたので、ビール醸造の方々とはもともと知り合いでした。
醸造担当になった当初はもちろん、今でもそうしたブルワーの方々から教わったり、国やメーカー主催の研修・セミナーに参加したりしながら、レベルアップを目指している感じですね。

金澤
すごい展開ですよね(笑)。
柳川さんは、醸造だけでなく、一般向けにビール作りのワークショップを行ったこともあり、最近では、企業の新人研修の一貫としてビールの醸造ワークショップを行ったこともありました。

柳川
いくつかのチームにわかれて、チームごとにビールをつくり、研修期間の最後に互いに作ったビールを飲んで交流を深めているそうです。
クラフトビールは少ないボリュームから醸造できるので、オリジナルビールを作るのにも向いているんですよ。
もしかして「WORK MILLビール」も作れるのでは……?


柳川
できますよ!
ぜひ今度は、ワークショップでお会いしましょう。
はい、ありがとうございました。ぜひ次回はビール作りにお邪魔させてください!
色々なワクワクが詰まっている「団地キッチン」田島ですが、3年続けてきた中でわかったこと、コミュニティ拠点の活かし方のヒントを教えていただけますでしょうか?


金澤
そうですね。
団地の中だけで完結して団地を良くしていくことは難しいので、地域や周辺に住む人々を巻き込みながら、つながりを作っていくことが大切だと感じています。


金澤
また、柳川さんのワークショップや「DANCHI KITCHEN CLUB」を通して、活動したくても場所がないという人がたくさんいらっしゃることを知りました。だからこそ、「なにかやりたい」と思っている人の背中を押す場所が必要だと感じています。
「団地キッチン」田島があることで、人とのつながりが自然と生まれ、団地を含めたゆるいコミュニティが形成され、地域が活性化していく。
今はまだ道半ばですが、地域のための活動が団地住民の活力になり、そこに住む人々の魅力が外に伝わり、人が集まり、地域の活性化につながることに期待しています。
コミュニティ拠点をもっと身近な存在へ
たしかに、「いつも西浦和は活気があるね」と言われるようになったらそこに住みたい人も増えてきますもんね。
改めて、団地の魅力とはなんでしょうか?


金澤
広い敷地や緑の多さという環境面はもちろんですが、何かあった時に頼れる「人」がいることではないでしょうか?
私自身も別の団地に住んでいるのですが、家に帰るまで団地内の道のりを歩いていると人の気配を感じられますし、夜に仕事から帰ってきても家の明かりにホッとできる瞬間があって。
隣に誰が住んでいるのかわからないのが当たり前の時代になりつつありますが、ゆるいつながりを感じられるのは団地ならではでしょう。

では最後になりますが、これからの目標を教えてください。


金澤
個人的には、もっと気軽に「団地キッチン」田島を使ってもらえたらと感じています。
カフェとしての認知度は高くなっているとはいえ、「コミュニティ活動の拠点」としてはまだまだこれからだと感じていますので、団地に住んでいる方々がもっと身近に感じてもらえる施設にしていく必要があると感じています。


金澤
たとえば、定休日に団地の自治会や地域の方に解放したり、イベント会場として利用していただいたり、身近な施設になるように画策しています。
親しみをもって使っていただけるよう、さまざまな企画を通じて関わり合いを持てればと思っています。
また5年後、10年後には見えていなかったような景色が見えてくるかもしれませんね。


金澤
私自身も、コミュニティマネージャーになってこの場所にどんどん愛着が湧いてきています。
「団地キッチン」田島に集まるみなさんが楽しめるように工夫しながら、自分なりの要素を残しつつ次の担当へと受け継いでいきたいですね。

【編集後記】
オープン前のお時間にお伺いしたのですが、取材が終わる頃にはすでに店内はほぼ満席に!ワーカーの方、主婦の方、親子連れなど、多様な方々が訪れていて、この場所が周辺住民のみなさんにとって、いかに「よりどころ」になっているのかを目の当たりにしました。
自分も含め、都市部で忙しなく働く若い世代にとって、「暮らす」ということに、どこか漠然とした不安を抱えている人は少なくない気がします。そんな中で、団地キッチン田島のような場が日常の中にあることは、安心感や心の拠り所につながり、暮らしそのものを豊かにしてくれるのだろうなと感じました。団地ライフ、とても気になります…!
(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / 共創ディレクター 宮野 玖瑠実)
2026年4月取材
取材・執筆=つるたちかこ
写真=小野奈那子
編集=鬼頭佳代/ノオト


