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新しいことへの挑戦が面白いキャリアをつくる。「前と同じでいい」をやめよう(澤円)

仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。

人間の心で常時オンの「現状維持スイッチ」

突然ですが質問です。

あなたは、毎日が変化しまくる方がいいですか?
それとも変化が少ない方がいいですか?

これはかなり個人差があるでしょうし、「変化」というものの定義にもよりますね。あくまで一般論としてですが、人間というのは基本的に「現状を維持したがる」傾向があるようです。

これは、数多くの論文にもなっています。「現状維持バイアス」と呼ばれる、未知のものや変化を避けようとする心理的作用については、 “Status quo bias in decision making.”という古典的論文で1998年に広く世の中に認知されることになりました。

この論文はリチャード・ゼックハウザーとウィリアム・サミュエルソンによって発表され、多数の選択課題実験で、人は合理的に考えると不利にもかかわらず、現状の選択肢(デフォルト)を選び続ける傾向が強いことを示しています。

これは、「できるだけ損をしないように」と考える、行動経済学の「プロスペクト理論」でいう損失回避性も深く関わっているようです。

いずれにせよ、人間の心理としては「あまり現状を変えたくないよな〜」と考えるのが自然であるようです。過去の延長線上であらゆるものが平穏無事に進む状況では、「現状維持スイッチ」をオンにしておくことは、極めて合理的です。

何かを変えようとすれば、必ず失敗や損失のリスクが伴います。何もかもが安定しているのであれば、変化させないことが最も安心・安全であるといえます。

一世を風靡した漫画『鬼滅の刃』で鬼舞辻無惨様が口にする「私が嫌いなものは“変化”だ」という名台詞があります。鬼は変化しない存在だからこそ永遠に鬼であり続ける。実に示唆に富むセリフだよなぁ……と勝手に感動をしていました。

ボクはこのセリフを「変化をさせないということは、邪(よこしま)なものを維持するのに最も好都合である」と解釈しました。変化しないということは、悪きものに対して持続性や永続性を与えかねません。

水平飛行には推進力と揚力が必要

実は、「現状維持」というトピックについては、1年半ほど前に扱ったことがあります。

その時には、飛行機に例えてお伝えしました。

さて、飛行機に乗ると、離陸してしばらくすると水平飛行状態になり、シートベルトサインが消えますよね。水平飛行とは、すなわち安定しているということ。

なんとなく楽ちんに飛んでいるようなイメージを与えてくれませんか?

でも、水平飛行をしている最中には、飛行機には次の4つの力がかかっています。

・重力
・空気抵抗力
・推進力
・揚力

これらの4つの力が拮抗して、はじめて水平飛行状態が作れるわけです。水平飛行をしている最中、重力と空気抵抗力は飛行機が飛ぶ邪魔をしているといえます。

それに抗うためにも、推進力と揚力が必要になります。

前に進む、上に行く、という力がなければ水平に飛ぶことすらもできないのです。

これはキャリアでも同じことだと思っています。前進しよう、上昇しようという意識がなければ、実は現状維持すらできません。

この比喩をちょっとアップデートしてみました。今度は「潜水艦」です。

潜水艦が水平に移動するためには、飛行機と同様に重力がかかっており、推進力によって前に進みます。飛行機と違って水中なので、空気ではなく水の抵抗を受けることになります。そして残るは揚力なのですが、これが飛行機と一番違います。

飛行機は基本的に重力に抗うようにする構造になっていますが、潜水艦の場合には重力と同時に上に引っ張る力=浮力がかかっています。この浮力をコントロールしないと、一気に浮上してしまって大事故につながります。

また、飛行機と違って深く潜れば潜るほど水圧がかかってきます。水圧に対応しないと、潜水艦はぺちゃんこに潰れてしまいます。

生成AI時代になり、飛行機より潜水艦に近い気がするぞ……と思っています。というのも、生成AIのいいなりになるような働き方をしていると、思考力が一気に衰えてしまいます。まるで急浮上した潜水艦のように、自分で何もコントロールできない状態になるかもしれません。

また、水圧は「過度のプレッシャー」に化けるかもしれません。「AIがあるから、もっとできるだろう」という謎のプレッシャーによって、業務過多になったり、AIそのもの進化にキャッチアップすることに翻弄されて時間に追われたりして、心身の不調を招いてしまうかもしれません。

いずれにせよ、現状を維持しようというマインドに対して、AIは今までとは違う力が働いてきます。

変化を受け入れるのはスキルではなく意志

さて、変化を受け入れるためには何が必要でしょうか?

特別なスキルは必要ない、というのがボクの考えです。これはAI時代そのものを表しているともいえます。

AIが意志を持つかどうかの議論は常にホットですが、人間にとって最も重要なことが「自分の意志を持つこと」だと思います。「AIが仕事を奪う」と言われるこの時代、自分の意志を持って行動することだけが、キャリアの道を開いてくれます。

あまりにも抽象的に感じるかもしれませんが、「ずっと以前からある個別具体なことをこなす」というのは、生成AIやAIエージェントがやる方が効率的になっていきます。そうなると、意志をもって自分がやることを選び取っていくことこそが、聖域として残っていくのではないかと思います。

その聖域を作るために、さまざまな揺らぎを自分に課すことが必要になってきます。過去の延長線上で物事を考えるのではなく、「今まで選択したことのないアプローチ」を優先的に選ぶマインドセットが、面白いキャリアを作るのではないでしょうか。

「前と同じでいいや」と思っても、現状維持するためには前進と上昇の力が必要です。いま、世界は生成AIの登場によって第四次産業革命の時代へと突入しました。

革命が起きると、その前後の世界は一変します。「前と同じ」が通用しない世の中にもうなっているのです。

もっと面白いやり方でやってみよう。そんなチャレンジ精神を持った方が、きっと面白い仕事ができますよ。

アイキャッチ制作=サンノ
編集=ノオト