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時代の波には乗らなくてもいい。地域の人がやたら集まるコンビニ「ヤマザキショップ代田サンカツ店」のオーナーに聞く、人と町が仲良くなるヒント

かつては「開かずの踏切」に悩まされていた小田急線沿線。2023年には線路が完全に地下にもぐったことで人の流れが変わってきました。

とくに下北沢の隣駅である世田谷代田(せたがやだいた)駅周辺は、ドラマのロケ地に採用されたり、新しいお店も続々とオープンしたり、行き交う人々が増えてきたようです。

そんな代田に一風変わったコンビニが……。それが地元の人たちが“なぜか”吸い寄せられていくヤマザキショップ 代田サンカツ店。コンビニチェーンなのに、一体なぜ?

祖父の代からここで商いをしているという池田勝彦さん。地元の方々からは「サンカツさん」の愛称で親しまれています。なぜ人々はサンカツさんに魅了されるのでしょうか? 今回は世田谷代田エリアの魅力、そして、人が集まるヒミツを解剖すべく伺ってきました!

ヤマザキショップ 代田サンカツ店
住所:東京都世田谷区代田2丁目31−1
営業時間:7:00〜24:00
定休日:毎月第3火曜休

「とりあえず乾杯しよう!」

今日は営業中にもかかわらず、取材をお引き受けいただき、ありがとうございます。

サンカツ

大丈夫! 

うちのお客さんの9割が酔っ払いで、残りの1割が泥酔者だから! シラフの人がくるなんて珍しいよ。しかも取材でしょ? すごい時代になったよね〜。

あ、まずは乾杯しようか。好きなドリンク選んで〜。売るほどあるから!

ま、ま、まってください!
勢いが……!

サンカツ

選んだね! じゃあ、かんぱーい!

瓶のコカ・コーラやファンタはお店の大人気の商品だそう

この乾杯で一気にサンカツさんに心を掴まれてしまったのですが……(笑)。

まずはこのお店について教えてください。

サンカツ

まあまあ、ゆっくり座って話そうか。

お客さん来たら対応しちゃうけど、いいかい?

もちろんです!

サンカツ

1929年に俺のおじいちゃんがこの場所で酒屋を始めて、その後うちの父ちゃんが二代目として引き継いで、建物も木造家屋からビル風に建て替え。

お酒プラス調味料や雑貨を販売するコンビニのような店舗を経営していたんだよね。

もともと酒屋から始まったからこそ、店内のお酒コーナーも充実。他には、要望に合わせてクラフトビールなども。

サンカツ

当時は、タバコやお酒を販売するには特別な免許が必要だったから、重宝されていたんだよ。

父ちゃんが亡くなって、俺が三代目として母ちゃんと一緒にお店を引き継いだって流れだね。

サンカツのオリジナル日本酒「三勝」と「代田びより」。「『代田びより』は俺が名付けたんだけど、いい名前でしょ?」とサンカツさん。すごく素敵です!

「ヤマザキショップ」になったのは、サンカツさんの代から?

サンカツ

そうそう。知り合いに聞いて良さそうだったのと、看板があるとみんなの目印になるでしょ?「ヤマザキショップに集まろう」とかさ。

サンカツ

俺の代になってからは、酒屋プラスコンビニだけじゃなく、お酒の配達とかクリーニングとか、もう色々やってんだよ。お酒は珍しいのもあるよ?

駄菓子もあるし、お弁当にお茶も付けて販売しちゃってるの。

駄菓子コーナーは子どもだけではなく、大人にも大人気

自由! お店の中には掲示板もテレビもあって……、なんだか落ち着く空間ですよね。

先ほど9割が酔っ払いと話されていましたけど、どんなお客さんが来るのでしょうか?

サンカツ

え! さっきの話、信じたの? 俺がいうことは8割ウソなんだから、気をつけなきゃ〜!(笑)

本当のことを言うと、小さいお子さんからおじいちゃんおばあちゃんまでいろんな人が使ってくれているよ。あ、ちょっと待ってね。いらっしゃい!

あ、お客さんが来ましたね。

サンカツ

あ、今買ってくれたこのメロンパンね、俺も食べたけどおいしかったよ〜。はい、おつり。どうもありがとうね!

仲良くお話されていましたが、今の方は常連さんですか?

サンカツ

いやぁ、初めて来たんじゃないかな?

え、ええ〜っ!? 常連さんかと思いました。

サンカツ

俺はいつもこんな感じだよ! 酒屋の息子だからさ、そういうDNAになっちゃってるんだろうね。

小さい頃から、父親が配達に行く姿や御用聞きしている姿を見てたし、自分も昔から近所のおばちゃんと話したり、挨拶を交わしたり、荷物を運ぶのを手伝ったりするのが当たり前で育っているから。

それ以外のコミュニケーションの方法を知らないとも言えるかな。

この感じが当たり前なんですね!

一見、よくあるコンビニかと思いきや……壁に貼られているのは地域の子どもたちの絵

常連さんは1日来ないだけでも心配

サンカツ

お! いらっしゃい。

お客さん

 サンカツさん! 子ども、生まれました!!

サンカツ

おお、そうか!!! おめでとう〜!!!

(みんなで)おめでとうございます!!(拍手)

サンカツ

ついにパパだな、うれしいなぁ〜!!

こちらの方は?

サンカツ

よくうちに来てくれるんだよ。もう家族みたいな感じで、彼が結婚する前からの常連さん。

あ、母ちゃん! 子どもが生まれたって!

サンカツ母

あら〜!! よかったね!!

子どもが生まれたばかりの常連さん(左)と、サンカツさんのお母さん(中央)と一緒に喜びの記念撮影。幸せな報告に、取材陣一同ほっこり。

すごい……。そんなハッピーな報告を当たり前のようにしに来てくださるんですね。

サンカツ

うちの常連さんの中には、ただ話に来るだけの人も多いんだよ。うれしいよね。

1日来ないと「ん?」と思うし、2日来ないと「大丈夫か?」と様子を見にいきたくなっちゃう。3日来ない時は「入院したか?」って心配になるくらい。

そんなふうにコンビニに行ったことないです!

毎日通えたとしても、店員さんから心配されることもないと思います(笑)。

サンカツ

これしかできないの。

みんなが思ってるような「コンビニ」のスタイルは、俺には無理なんだよ(笑)。

代田に対する反発から、町が好きになった

「これしかできない」とサンカツさんは言いますが、このスタイルが周りの人にも受け入れられているのが素敵だな〜と思います。

サンカツさんが代田エリアを愛しているのも伝わってきますし……。

サンカツ

最初はね、町に対する反発心がすごく強かったんだよ。大学生の頃に父が亡くなって、すぐに店を継いだもんだから……。

当時は、まだ若いでしょ? 自分でやっていくしかない! 周りの大人に負けたくない! このままじゃ代田は何もない町になる! って思ってたんだよ。

全然、想像がつきません!

サンカツ

でしょ?(笑)

父親が残した借金もあったから、もうやるっきゃないわけ。そうすると、不思議と自分の角も取れて丸くなるんだよね。

そして、世田谷代田の町が好きになってきたんだよ。本当に少しずつだったけどね。

少しずつ変化していったんですね。

サンカツ

自分でも不思議なんだけど、せっかく同じ町に住んでいるんだから、みんな知り合いならいいと思ったの。すれ違う人と「おつかれちゃ〜ん」って声をかけ合えれば、なんか気分がいいでしょ?

もちろん「どうでもいい」って思っている人もいるし、俺と合わない人もいるよ。

こんなに明るいサンカツさんでも!?

サンカツ

そりゃ人間だもん、好き嫌いはあるよ!

なんていうかな、“代田くさい”かどうか。直感みたいな感覚なんだけど、「あっ、この人は代田くさいから大丈夫だ」って思ったら仲良くなれるね。

代田くさいかどうか?

サンカツ

本当にニオイがあるわけじゃないよ?(笑)

2014年かな? その頃から毎月『さんかつ de ナイト☆』っていうお楽しみ会をやっていて。

ご近所さんを集めて、夜9時からお店でのほほ〜んとした時間を過ごすんだけど、ここに集まってくる人たちは、みんな代田くさいね! 先月も17人集まっちゃった。

店内にある商品を各自が買ってワイワイ過ごすお楽しみ会『さんかつ de ナイト☆』。時にはお店の中がぎゅうぎゅうに!

酒屋さんの角打ちみたいな雰囲気なんですね。私も行ってみたいです!

サンカツ

おいで、おいで!

あとね『占night(うらないと)』もやってる。俺がタロット占いするんだよ。

え、サンカツさんが!?

サンカツ

ウソだと思ったでしょ(笑)。これは本当です。

(半信半疑で)……信じます。

あと『サンカツアー』もやられていましたよね?

サンカツ

そうそう。俺さ、ジャングルクルーズの船長さんになりたかったんだよ。

これもウソですか?

サンカツ

本当だよ! タロット占いができるのも、船長になりたかったのも、本当(笑)。

イベントで面白く楽しく代田の町を案内するツアーをやったら好評でさ。今日の取材の後、時間があったらツアーに出かけようか?

ぜひ、お願いします!

不定期開催の「サンカツアー」。代田の町を歩くだけで、サンカツさんはさまざまな人に声をかけられる

時代の流れに乗ろうとしない。周回遅れがトップになるタイミングがくるんだよね

サンカツさんの話を聞いていると、仕事も楽しそうだし、町の人からも愛されているし、サンカツさんも町が好きなんだな〜と思います。

でも、仕事って長く続けるのは大変じゃないですか。「もうしんどいな」、とか思うことはないんですか?

サンカツ

う〜ん……、今日も思っているよ。毎日、「仕事やんなっちゃった!」って思うよ。

でも、な〜んか続いちゃってるんだよね。

意外すぎる……。

サンカツ

みんなそうじゃない?

それに昔はさ、もう一店舗出そうとか欲が出たこともあった。でも、俺はパソもできないし、諦めたんだよ。

パソ?

サンカツ

パソコン。持っているだけで「すげ〜」って思っちゃう。

俺はパソができないから、お店のポップも手書きだし、チラシも手書き。それがさ、今は若い子たちからも「それがいい」って言われるんだよ。

店内の値札やなどの掲示物はすべてサンカツさんの手作り。まちのお知らせを貼っていく「いろいろ掲示板」は思わず立ち止まってしまいます。

サンカツ

ぐるぐる巡り巡って、周回遅れだけど気づいたら自分がトップになってることもあるんだよね。

ゴールした後に「お前、一周足りないぞ!」って怒られちゃうこともあるんだけど(笑)。

クリーニング業務で使っている「パソ」。年代物が現役で使われている姿に驚いて、撮影をしていく人もいるそう。

自分のペースでやっていれば、時代が追いついてくることもありますよね!

サンカツ

そうかもしれないね。

だから、最先端の人たちになろうって思わなくてもいいのよ。上手い人たちに任せておけばいい。そのうち、巡ってくるから。

小田急線沿線が地下に入ったことで、ヤマザキショップ 代田サンカツ店のすぐ裏に緑豊かな道が出現し、通りかかる人の数もかなり増えたそう。町も変化していっている

なんだか心がすごく軽くなりました! 最後にひとつ聞かせてください。これからサンカツさんがやってみたいことはありますか?

サンカツ

うちの前で卓球!

え!?

サンカツ

なんて言うのかな〜。サッカーでも野球でも、スポーツ実況を見ていると客席が映るでしょ? その時みんないい顔をしているんだよね。

わぁ〜!!!って心が感動するようなこと、うれしくてびっくりすることをやっていきたいかな。

素敵!

もうすっかりサンカツさんのファンになってしまいました(笑)。

ぜひ卓球する時は教えてください。そして、今度占ってください!

サンカツ

喜んで!

サンカツさんのコミュニケーション力に圧倒された取材時間。取材後に特別開催された「サンカツアー」で、周辺のお店や町の歴史を教えていただきました。帰る時には、取材メンバーも「代田に住んでみたい〜!」と話すほどに魅了されました。


2025年5月取材

取材・執筆=つるたちかこ
写真=篠原豪太
編集=鬼頭佳代/ノオト