社員も犬も幸せになれるオフィス。バイオフィリアの働き方「わんダフル・ワーキング」とは
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オフィスで愛犬と戯れながら仕事ができる——。そんな夢のような環境を実現しているのが、フレッシュペットフード「ココグルメ」「ミャオグルメ」を提供する国内シェアNo.1のスタートアップ企業、株式会社バイオフィリアです。
同社のビジョン「動物と人の幸せな共生社会の実現」を体現するのが、独自の制度である「わんダフル・ワーキング」。社員の愛犬をオフィスに同伴できるという、ユニークな取り組みです。
ペット同伴出勤可能なコワーキングスペースが増えている昨今、オフィス全体でペット同伴を導入している企業は希少です。
バイオフィリアがどのように「わんダフル・ワーキング」の制度やオフィス環境を設計し、ペットたちは職場にどのようなウェルビーイングをもたらしているのか。またオフィスは、社員、お客様、そして動物たちにとって、どのような「場」になっているのか。
代表取締役社長CEOの岩橋洸太さんにお話を伺いました。
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岩橋洸太(いわはし・こうた)さん
1989年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、SMBC日興証券にて未上場企業の上場準備、支援業務(公開引受業務)に従事。2017年にバイオフィリアを立ち上げ、2019年に「ココグルメ」を開発、提供。
「わんダフル・ワーキング」がもたらす3つの効果
早速ですが、バイオフィリアの大きな特徴である「わんダフル・ワーキング」について、あらためて教えていただけますか?
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岩橋
「わんダフル・ワーキング」は、「飼い主である社員が、大切な家族であるペットをお留守番させなくても済むように」と考えたことから始めた、弊社ならではの働き方です。
どうぶつが安心して過ごせる環境を整えているため、ペットと同伴出社が可能。他にもペットの忌引制度や扶養制度も設けています。
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ペットと一緒に働くことで、どんなメリットがあると思いますか?
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岩橋
大きく3つあります。
一番大きいメリットは、言うまでもなく「愛犬と一緒に長くいられる」ことです。会社員は、1日のうちの多く時間をオフィスで過ごすことになりますからね。
「少しでも長く大切なペットと一緒に過ごしたい」と考える飼い主の方にとって、とてもうれしい制度ですね。
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岩橋
2つ目のメリットは、精神的な安心感ですね。
仕事でうまくいかないときや疲れたときでも、愛犬がそばにいることで癒やされたり、仕事のモチベーションアップにつながったりしますよね。
どうぶつとの触れ合いは、ストレス軽減や幸福感の向上に効果があるという科学的な根拠もあると言われています。実際、社員からは「この子のためにがんばろうと思える」という声も聞きます。
仕事のパフォーマンス向上にも効果がありそうですね。
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岩橋
そうですね。実際、ペットのお世話のために仕事を休む必要がないため、欠勤率の低下にもつながっています。
また、愛犬と一緒に出勤できることで、ペットシッター代ペットホテルの利用料金を節約できるというメリットもあると思っています。
「わんダフル・ワーキング」導入によるメリット、3つ目はなんでしょう?
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岩橋
「チームワークの向上」です。ペットという共通の話題がきっかけで会話が弾み、社員同士の交流やチームビルディングにも寄与してくれていると実感しています。
弊社の社員は年代の幅が広く、20代から40代後半までいろんなメンバーがいます。犬をきっかけに世代を超えたコミュニケーションが円滑になり、本音ベースの相談もしやすくなるなど、チームワークひいては業績の向上にもつながっていると感じます。
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“バズ”をきっかけに、採用応募者数が10倍に!
2024年4月に西新宿に移転する前の五反田オフィスでも、ペット同伴可能だったそうですね。
2020年に制度を導入してから、オフィスでペットと過ごすためのルールや規定はどのように定めましたか?
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岩橋
オフィス移転自体は、大規模なものが2回、細かいものも含めると計5回していて現在のオフィスは6つ目。最初の3つのオフィスはペットNGでしたが、その後の五反田と中目黒のオフィスはペットOKの場所を選びました。
社員数も、最初のオフィスは2人、2つ目は3人、3つ目は6人という小規模なスタートでした。4つ目のオフィスで20人、5つ目の五反田オフィスで40人、そして現在の西新宿オフィスで60人規模になりました。
オフィスが大きくなるにつれて、社員数も増えていったんですね。
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岩橋
そうですね。ペット同伴をOKにしたのは、会社がある程度大きくなってからです。
ペット同伴OKにしてから、採用面でも良い変化があったんですよ。当社の理念である「動物の幸せから、人の幸せを。」に共感し、「動物のために働きたい」という人が来てくれるようになったんです。
バイオフィリアさんの理念に共感した人が集まってきたんですね。
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岩橋
前の中目黒オフィスのとき、僕が“犬吸い”している動画を公式SNSに投稿したところ、大きな反響があって(笑)。
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岩橋
ニュース番組やさまざまなメディアに取り上げていただいて。この“バズ”をきっかけに採用応募数が10倍に増えました。
採用にも大きなインパクトがあったんですね。動画に対してどんな反響やコメントがありましたか?
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岩橋
それまでは犬猫が好きな私たちにとって“犬吸い”をするのも、犬と一緒にオフィスで働くのも「当たり前の光景」だと思っていて。でも、世間では「オフィスでこんなことができるだなんて奇跡だ」と受け止められたことにすごく驚きましたね。
こうした世間の声を受けて、自分たちの「当たり前」自社のユニークな取り組みや制度、思いは世間に積極的に発信していくきっかけにもなりました。
動画では、オフィスで犬が実際に商品であるドッグフードを試食している様子なども映っていました。
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岩橋
そうなんです。それがきっかけで当社の商品に対する安全性やこだわりを伝える機会にもなりましたし、「本気で犬のことを考えている会社なんだ」と僕たちの事業やサービスへの認知が広がったのもうれしかったですね。
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オフィスが「お客様との交流の場」に
現在の西新宿オフィスに移転したことで、どんな変化がありましたか?
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岩橋
このオフィスこそが、当社のビジョンの象徴になったと考えています。
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「ビジョンの象徴」というと?
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岩橋
私たちのビジョンは「人と動物の壁のない世界」です。現代において、動物を「物」として扱う風潮はまだ残っているのが現実。命がないがしろにされている現状を変えたい、という強い気持ちがあります。
どうぶつも人と同じで感情があり表現も豊かです。同じ命として尊重するべきではないでしょうか。
弊社のオフィスがこのビジョンを体現する場となり、人と動物の壁がないことを世の中に示すことで、共生社会実現への第一歩になればと思っています。
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素敵なビジョンですね。そのようなオフィスがもっと増えてほしいです。
開発中のペットフードを“社員犬”に試食してもらうこともあるそうですが、「わんダフル・ワーキング」が事業成長に影響を与えている点もあるのでしょうか?
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岩橋
当社は手作りごはんブランド「ココグルメ」や「ミャオグルメ」の事業を行っていますが、作った商品が人間にとっておいしくても、犬にとっておいしいとは限りません。犬に試食してもらう環境があることで、商品の精度が向上していると感じています。
西新宿オフィスでは、お客様感謝祭を開催して愛犬と一緒に参加してもらい、交流を深める場をつくっています。お客様の声を直接聞ける機会は貴重ですし、商品開発にも役立っています。
柔軟なルール作りで、社員も犬も安心できる環境に
ペットと一緒に働く上で、どのようなルールや規定を設けていますか?
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岩橋
ワクチン接種や一定以上のしつけを行うこと、ご飯やおやつを他の社員のわんちゃんに無断であげてはいけない、などのルールを設けています。
ルールは常にアップデートしています。たとえば、以前のオフィスではノーリードで自由に移動していましたが、現在はリード着用を義務付けていて。ノーリードはワンちゃんが自由に動けるメリットもありますが、安全面を考慮するとリード着用が適切だと判断しました。
今後は月に1回程度、ノーリードDayを設けるなど、柔軟に対応していきたいと考えています。
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状況に応じて柔軟にアップデートしていくことが重要ですね。
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岩橋
そう思います。現在さまざまな犬種のワンちゃんが出勤していますが、猫ちゃんやうさぎちゃんなどの他のどうぶつについては、まだオフィスに同伴できる環境が整っていません。
猫ちゃんはリードで繋ぐのが難しく、広いオフィスだと隠れてしまう可能性もあるため、安全なルール作りが課題です。将来的には、猫ちゃんも同伴できる「ニャンだふる・ワーキング」も実現したいと思っています。
ペットと一緒に働くためのオフィス設計について、具体的に教えてください。
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岩橋
執務エリアはすべてペット同伴OKです。広々とした空間で、愛犬たちが自由に過ごせるようになっています。
またドッグランも設けていて、ここでは愛犬が自由に走り回れるようにしています。
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岩橋
おもちゃや衛生グッズ、ペット用家具なども完備。また、集中したいときや電話会議の際は、ペット同伴NGのテレカンエリアも用意しています。
また、ワンちゃん同士のトラブルを防ぐために十分なスペースを確保。ペット用の水飲み場やトイレシートなども設置しています。
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岩橋
他にもおもちゃなども置いているので、ドッグランスペースで自由に遊ぶこともできますよ。
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動物福祉への貢献。殺処分ゼロの未来を目指して
スタッフを採用する際、動物好きであることは必須条件なのでしょうか?
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岩橋
必須ではありません。多様性を重視しているため、動物を飼っていない人や、そこまで好きではない人も歓迎しています。
むしろ、どうぶつがあまり好きではない人の視点も重要だと考えていて。多様な視点を取り入れるからこそ、動物が広く受け入れられる社会の実現につながると考えています。
なるほど。多様な視点が、ビジョンの実現にとって大切なんですね。
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岩橋
もちろん、当社のビジョンやミッションに共感し、実現に向けて熱意を持って取り組める人は大歓迎です。その上で、プロフェッショナルなスキルや、現状を変えていく実行力なども重視しています。
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バイオフィリアは「動物と人の幸せな共生社会の実現」を目指しているかと思います。現状、どんな課題があるとお考えでしょうか?
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岩橋
当社では、人間が食べられるレベルの食材を使用し、食品工場で調理することで、高品質で安全なペットフードを提供することにこだわっています。
私はもともと、どうぶつが物として扱われている状況に課題を感じて、その状況を変えたいという想いで2017年に起業しました。
それまでは、犬猫の殺処分の問題をビジネスの力で変革しようと試みたこともありましたが、志半ばで断念せざるを得なかった。
その後、自分の愛犬が立て続けに闘病生活を送る経験をして……。必死に看病をするなかで、「ペットの健康を守るためには毎日食べるフードが非常に重要だ」とあらためて痛感したんです。
個人的な原体験をお持ちなんですね。
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岩橋
そこで生まれた「心を込めて作った、本当に安心安全な食事を提供したい」という想いが、いまの事業につながっています。
もちろん当初の動物福祉の思いもまだ持ち続けており、今後もチャレンジし続けていきます。
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「人と犬の壁を壊したい」世界を見据えた挑戦
今後の展望について教えてください。
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岩橋
世界には25兆円のペットフード市場があり、世界進出を目指しています。また動物福祉の観点では、無理のない殺処分ゼロの実現に向けて、保護団体への支援や啓蒙活動にも力を入れていきたいです。
売上の一部を寄付するだけでなく、啓蒙活動や生体販売市場の改革など、より積極的に社会貢献活動に取り組み、業界全体の意識改革を促していきたいです。
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最後に、岩橋さんが考える「人と動物の間にある壁」とはどんなものだとお考えですか。
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岩橋
「命の尊厳を守るかどうか」という点で、まだ壁があると感じています。人間の世界では信じられないようなひどい環境が、どうぶつの世界では保健所などではいまだ繰り広げられているのが現実です。
「どうぶつを殺すことに何の疑問も抱かない」という現状を変えていきたい。そのためにも、このビジョンを体現したオフィスから大きな挑戦を続けていきます。
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
【編集後記】
まず何よりも、愛らしいワンちゃんたちがたくさん迎えてくれて、愛犬家の私にとって幸せすぎる空間でした。実は大学生の頃、「犬と一緒に働ける職場をもっと増やすべきだ!」とプレゼンしたことがあり、実際にそのアイデアが現実となっている場を取材できたことが嬉しかったです。単に「犬と働く」というだけではなく、動物たちが幸せに暮らし、人と動物が支え合える社会を目指したいというバイオフィリアさんの熱い思いにも深く共感しました。
このようなペットフレンドリーなオフィスがもっと増えれば、例えば「子どもを連れて職場に来るのが当たり前になったよね」とか、「会社員の服装がもっと自由でカラフルになったよね」とか、オフィスの「当たり前」をアップデートしていくムーブメントにつながるのではないか、そんな可能性を感じる取材でした。
(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / Sea コミュニティマネージャー 宮野 玖瑠実)
2025年1月取材
取材・執筆=安心院彩
写真=栃久保誠
編集=桒田萌(ノオト)