地域の事業者とともに育ち、川越の文化を発信。埼玉りそな銀行が「りそな コエドテラス」で見据える未来
蔵造りのレトロな町並みが懐かしい気持ちを思い起こさせる、埼玉県川越市の小江戸川越一番街商店街。
ここにひときわ目立つルネサンス様式の建築物があります。1996年、埼玉県で初めて国の登録有形文化財として登録された築100年以上の建物。現在の名前は、「りそな コエドテラス」です。
埼玉の食材を活かした飲食店やショップ、そして創業支援の場やインキュベーション施設を設けるなど、地域の魅力を発信する複合施設として、埼玉りそな銀行の子会社である地域デザインラボさいたまが運営しています。
銀行が地元に根ざした複合施設をつくったのは、なぜなのか。そして、地域事業者の発展と町の魅力をどのようにリンクさせていくのか。りそな コエドテラス館長でコミュニティリーダーの森直人さんに伺いました。
森直人(もり・なおと)
2006年、りそな銀行入社。りそな銀行・埼玉りそな銀行にて中小企業や大企業向けのコンサルティング営業に従事。2023年7月より地域デザインラボさいたま グループリーダーに就任。2024年5月に「今を照らす、未来とつながる」共創拠点である「りそな コエドテラス」館長に就任し、金融プラスに関する取り組みを展開中。
川越の街並みに誕生したりそな コエドテラス
とても素敵な建物ですね。クラシカルな外見と内装を活かしながら、必要なところは新しく、きれいに整えられています。
森
ありがとうございます。今回、オープンにあたり、これまで100年以上に渡って支えられてきた拠点を活用しました。
この建物は、第八十五銀行の本店として、1918年に建てられました。
その後、さまざまな銀行との合併などを経て、2020年6月までは埼玉りそな銀行の川越支店として使用していたんです。
現在は、どのような施設として使われているのでしょうか?
森
大きく3つの機能に分かれています。1・2階は、観光客や地元のお客さまをターゲットにし、飲食や食のブランディングの目的が強いのですが、Resona Kawagoe Base +では起業家を育て、共創を実現する空間を目指しています。
まず、1階には日替わりで出店者を募って飲食店営業をしていただくシェアキッチン「CLOCKKITCHEN」と、埼玉の農と食のブランディングや魅力の発信をするイートインスペースやテストマーケティングを目的としたチャレンジショップ「ECCOLA」があります。
食に関連したコーナーが多いのですね。
森
埼玉のブランディング拠点として、地産の物を多く扱い、農と食には力を入れています。また、地域の物産・文化芸術のPRの場としても機能しています。
そして、埼玉りそな銀行の歴史がわかるギャラリーも。ギャラリーはもともと金庫室だった場所です。
森
2階には、レストランの「Tratteria Azzurri KOEDO」と「Bar Azzurri」があります。バーは私も仕事帰りによく立ち寄ります。
テラス席からは蔵造りの町並みが見渡せますよ。
森
また、旧頭取室は第八十五銀行時代の頭取が使用していた部屋をイメージして復元を行い、一般の方も自由に見学や写真撮影ができるようにしています。
さまざまな利用者層で川越の拠点に
さまざまな切り口で、人が集まりたくる施設にしているのですね。
森
そうなんです。2階までは主に観光やお出かけの方がメインの場所ですが、3階はビジネスに特化しました。
インキュベーション・コワーキングスペース「Resona Kawagoe Base +」と貸し会議室があり、りそなグループの社員がコミュニティマネージャーとして常駐しています。
森
埼玉りそな銀行は、かねてから企業の創業支援や起業支援に取り組んできましたが、非金融としてこのような施設をつくるのは初めてです。
金融機関がインキュベーションセンターというビジネス支援の場を設けたのは、どのようなお考えからでしょうか?
森
2021年の大幅な規制緩和により、銀行は子会社を作ったり、IT分野に進出したり、地域の商社へ進出したりしやすくなりました。
私たち埼玉りそな銀行も、地域の事業者の役に立てるよう、非金融部分でも取り組んでいるところです。
いま、開業からおよそ半年ほどですよね。どのような方が利用されていますか。
森
組織の形態はさまざまです。新規事業に取り組む老舗企業さんを始め、ベンチャー・スタートアップ・個人事業主・フリーランスなどです。105ほどの事業主体にご利用いただいています。
インキュベーション機能の核となるResona Kawagoe Base +
インキュベーション施設といえば、それぞれの企業に個室を割り当てる入居型のケースも多いですよね。
Resona Kawagoe Base +はコワーキングスペースのような利用形態になっていますね。
森
はい。あえて、みなさんが集える場所にしています。
オープンスペースが中心ですが、個室ブースや集中席もありますので、集中して作業したいときに活用できます。
森
会員の形式もさまざまです。
法人でオフィス拠点として利用するインキュベーション会員や、一般会員、そして都度会員があります。
都度会員は、いわゆるコワーキングスペースのドロップインとは違うのでしょうか?
森
都度会員は、どういう用途で使いたいのかなどをヒアリングし、利用申し込みしてからご利用をいただく会員さんです。
個人事業主やフリーランスで、不定期で利用しながらコミュニティを求めている方を対象としたシステムですね。
コミュニティマネージャーも3人常駐されているので、安心して利用できそうですね。
森
コミュニティマネージャーもりそなグループの社員なので、金銭面のおつなぎやサポートを、銀行と連携しながらシームレスにできるのは大きな特徴ですね。
埼玉りそな銀行は、2021年に「地域デザインラボさいたま」という子会社を立ち上げ、地域の事業者が新しい事業に取り組めるハブになろうとしています。 「地域デザインラボさいたま」との連携によって、利用者さまと我々が一緒に事業を作る構図も生まれています。
川越の文化を海外にも伝えられるように
この場所は、川越の魅力を発信する場としても機能しているかと思います。
1階のショップのほかに、魅力を伝える取り組みは行っていますか?
森
伝統文化をインバウンドの方に伝えるツアーを企画しているところで、2025年の1月から実証実験を始める予定です。 りそな コエドテラスの建物自体も、ツアーの1コンテンツとして含まれているんですよ。
新たなつながりが生まれそうですね。
森
建物の外にある駐車場では、会員さまや地元企業と連携した体験コンテンツを用意する予定です。それをきっかけに、企業同士の協業が生まれたら……とも思っています。
素敵ですね。これからどのような展開を考えていますか?
森
皆さんには自分の事業の良さを知ってもらうための場としてどんどん活用していただきたいです。自社プロダクトを伝えるセミナーを開催するような場としても、ぜひ使ってほしいですね。
そうして地元の事業者の成長を支援しながら、ゆくゆくは川越の文化を国内外に広められたら、と思います。
【編集後記】
古い建物の美しい意匠はそのままに、内部では常に革新的な挑戦が生まれているResona Kawagoe Base+。りそなグループの従業員がコミュニティマネージャーとして常駐し、金融だけでなく事業面でも深い理解を持ってクライアントに寄り添う姿勢は、理想的な銀行員像を体現しているとも言えるそう。社員の成長を促す場としての期待も高まっていると感じました。これからも、古き良き日本の風景が残る川越を愛し、まちの人から愛され、多くの人々の挑戦を支え続ける拠点となることでしょう。
2024年10月取材
取材・執筆=奥野大児
撮影=吉田一之
編集=桒田萌/ノオト