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常に問い続け、変わり続ける。中途採用責任者の佐伯香那さんに聞くボーダレス・ジャパンの“人育て”

スマホを開くだけで、毎日さまざまなニュースが私たちの目や耳に飛び込んできます。貧困、性差別、人種差別、難民問題、地球温暖化……。世の中には社会問題が山ほどありますが、「自分1人では何もできない」と無力感を感じることも少なくありません。

しかし、それらの社会問題をビジネスで解決しようとしている会社があります。福岡市天神に本社を置くボーダレス・ジャパンです。

同社では、新卒入社のメンバーが起業家や事業開発人材として成長し、国内外でソーシャルビジネスの起業や新規事業開発を手がけています。

どうすれば経験ゼロも起業や新規事業開発ができるようになるのか。採用担当でありながら、自身も事業代表を務める佐伯香那さんに、ボーダレス・ジャパン流の“人育て”について伺いました。

佐伯香那(さえき・かな)
小学生の頃から社会問題に関心を寄せ、大学生になると社会問題をビジネスで解決することを考え始める。2006年、サイバーエージェントに新卒入社。その後、リクルート、医療系ベンチャーで一貫して新規事業立ち上げや事業開発に携わった。30代半ばで起業し、教育事業を立ち上げ。2021年にボーダレス・ジャパンにジョインし、ミャンマーの貧困農家に雇用を生み出すハーブティ事業「AMOMA natural care」の事業代表と中途採用責任者、社会起業家・事業開発人材の支援などを行っている。

さまざまな社会問題の解決を目指す「ソーシャルビジネスの総合商社」

ボーダレス・ジャパンはどのような会社なのでしょうか?

佐伯

ボーダレス・ジャパンは、2007年に設立されたソーシャルビジネスしかやらない会社です。

メンバーはグループ全体で1500人ほど。そのうち900人はバングラデシュの方です。

バングラデシュにそんなにたくさんのメンバーが!

佐伯

日本やアジア、アフリカ、中米、南米など13カ国で50事業(2024年11月現在)を展開しており、そのうち複数事業がバングラデシュを拠点にしています。

バングラデシュでの事業の様子(提供写真)

佐伯

ちなみに各事業の代表は世界中に散らばっているので、全代表が集まる月1回の「社長会」の日時調整は大変です。

国によっては、早朝や深夜に起きて頑張っている方もいらっしゃるんですね。

佐伯

そうなんです。

すべての事業に共通するのは、当事者の力だけでは解決できない「社会問題」を「ビジネス」で解決する、ということです。

かなり珍しいタイプの会社ですよね。

佐伯

これらのビジネスをソーシャルビジネスといいますが、複数のテーマで事業を展開していて、それらがすべてソーシャルビジネス、という会社は珍しいと思います。

だから、例えていうならば「ソーシャルビジネスの総合商社」だと考えています。

なるほど。

ちなみに、ボーダレス・ジャパンと各事業の代表はどのような関係にあるのでしょう?

佐伯

ボーダレス・ジャパン代表の田口(一成)は、世間から見れば親会社の社長ですが、各事業の経営についてはそれぞれの代表に一任しています。

代表はそれぞれ、独立した一経営者として事業を推進しているんです。

かなりフラットな関係なんですね。

佐伯

今期、ボーダレス全体の年商は102億円に着地する予定です。

ただ、100億円規模の売上では「世の中を変えることができている」と言うにはまだまだ足りないと思っています。

すごい規模に聞こえますが、目標も高い……!

佐伯

これまで、ボーダレスは数々の社会問題を解決して世の中をよりよく変えるために、売上1〜10億円の事業をたくさんつくろうとしてきました。

でも、これからは売上100億円規模の事業をたくさん生み出し、売上1兆円規模のソーシャルインパクトを目指していきます。そのためには事業戦略も大きく変える必要がありますし、「人」がますます重要になる。

そのため、最近は採用にかなり力を入れています。

社会問題に関心があれば、強烈な原体験はなくてもいい

佐伯さんは採用ご担当者でありつつ、ご自身も起業家でいらっしゃるんですよね。

佐伯

はい。私はボーダレス・ジャパンの採用担当ですが、同時にミャンマーの貧困農家のためのハーブ事業を展開するAMOMA natural careの代表でもあります。

仲間とともに、どうすれば契約農家数を増やせるかを考えて試行錯誤するのは本当にやりがいがあります。

ボーダレス・ジャパンの採用担当と事業の代表を兼務する……。そんな働き方も可能なのですね。

ボーダレス・ジャパンでは新卒採用と中途採用、どちらもされているんですか?

佐伯

はい。新卒採用では、ソーシャルビジネスで社会問題を解決する社会起業家を目指したい人、新規事業開発をしたい人を募集しています。

中途採用では、「プロフェッショナル採用」が主になります。よりソーシャルインパクトを出していくために、それぞれの領域のプロフェッショナルの採用を強化しています。たとえば、広報・PR、マーケティング、コーポレート担当、採用担当などですね。

どんな人がソーシャルビジネスの世界に向いていると思いますか?

佐伯

まず何よりも、社会問題に関心があることですね。

ただし、特定のテーマへの関心や強烈な原体験がなければダメ、というわけではありません。

きっかけは人それぞれでいい、と。

佐伯

はい。また「こんな未来や希望をつくれたらいいよね」とワクワクを大事にしている方もフィットするのではないかと思います。          

社会問題の解決ですから重いテーマを扱うこともあるんですが、「〜しなければならない」と思い詰めるとしんどくなってしまうので。

やろうとしていることと、人生の最終目標がリンクしているかどうかを重視

たしかに、仕事でも遊びでも、ワクワク感があったほうが続けやすいです。

社会課題という事業領域と個人の特性にミスマッチが出ないよう、心がけていることはありますか?

佐伯

入社前後で、その人が「自分の人生を通して、何をしたいか」を必ず確認します。

「現段階でやりたいこと」と「人生の最終ゴール」がリンクしているかどうかを重要視しているんです。

リンクしていないと……?

佐伯

「やらされ仕事」になってしまいます。

でも、やりたいことと人生の最終ゴールとリンクしていれば、困難にぶつかっても自分で解決の道を探そうとしますし、足りないものがあれば勉強しようとする。頑張れると思うんですよね。

だから、人生の最終ゴールを必ず聞くようにしています。

それは、どこの企業でも大切なことですね……。

新卒でも起業は可能。困ったときもメンバーの力を借りることができる

難易度の高い仕事ですが、新卒で入った人をどのように育てているのでしょうか。

佐伯

直近においては、新入社員は数カ月ほど代表田口のもとで、事業開発のいろはや経営判断の仕方などみっちり学んでもらいます。

その後は、人によって異なりますが、社会起業家志望なら自分でゼロから新規事業を立ち上げるといったチャレンジをすることになります。

新卒でも、すぐに新規事業開発や立ち上げができるものですか?

佐伯

たとえば、ハチドリ電力代表の池田(将太さん)は、新卒で入って数カ月後にはハチドリソーラーを起業し、10カ月も経たないうちに黒字化させました。

提供写真

佐伯

BORDERLESS LINK、Borderless Myanmar Fertilizer、そしてBorderless Myanmarの代表を勤める犬井(智朗さん)も新卒入社です。

国内のグループ会社で1年ほど修行した後にミャンマーに移住し、農家向け事業を年商15億円の事業に成長させています。

ミャンマーでの事業の様子(提供写真)

新卒でもそこまでできるんですね……。

とはいえ、壁にぶつかることもたくさんあるでしょうし、向き・不向きもあると思います。どんなサポートをしていますか?

佐伯

アイデア出しで壁にぶつかった人が社内に呼びかけてみんなの知恵を借りる「アイデア突破会」という仕組みがあります。

アイデア突破会の様子(提供写真)

佐伯

ほかにも月1回、ボーダレス・ジャパンのメンバーや起業家が参加できる「オープンナレッジ」という会があります。

これは、各事業における成功事例を共有して他の事業に転用する仕組みですね。

社内で事業の相談をしあう機会も多いのだそう(提供写真)

1人で考えると堂々巡りになりがちですが、みんなの知恵を借りると壁を乗り越えられそうですね。

佐伯

自分の仕事だからといって、自分1人で考えなくちゃいけないということは全くありません。

短期間で最大のインパクトを出したいなら、1人でやることにこだわりを持たず、いろいろな人の力を借りたほうがいいですよね。

何よりも大事にしているのは、その人の「強み」

最初は志を持って入社しても、何度も壁にぶち当たるうちに熱意が低下する人もいると思います。

そういうときはどうするんですか?

佐伯

得意じゃないことを続けても、結果が出なくて苦しいだけなので、まずはうまくいっていない原因が何かを考えます。

仮に、やりたいけど得意じゃないことをやっているとしたら、その人の強みを活かせるポジションに変えますね。

確かに、得意なことをしていると自己効力感が上がりますね。

佐伯

部署の壁を越えてフォローアップすることもよくあります。

「あの部署にこういう仕事があるからそっちにどうかな?」「うちのチームのほうが合いそうだから来てもらいましょうか?」って。

いろいろな事業に取り組んでいるボーダレス・ジャパンならではですね。

佐伯

以前は、本人の「やりたいこと」を重視していたのですが、この1〜2年前くらいから「やりたいこと」よりも「強み」を活かすように変えました。

「やりたいこと」と「得意なこと」が一致する場合は良いのですが、一致しない場合は「強み」にフォーカスして、よりソーシャルインパクトにつながるポジションで活躍してもらうようにしています。

その方が、本人も無理せず、自然な形で結果が出せ、良いループになると思います。

常に問い続け、変わり続けるカルチャー

臨機応変にフォローしているんですね。

もっと厳格な育成の仕組みがあるのかと思っていました。

佐伯

実際、育成のためのいろいろな仕組みをつくって運用していた時期もあったんです。

でも、いまはそうした仕組みもなくなったり、変わったりしています。

なぜなんでしょう?

佐伯

私たちの目的は社会課題を解決することです。

そのため、各事業には解決したい社会問題に対してどれだけインパクトを与えられたかを数値で示した「ソーシャルインパクト」と呼んでいる最重要指標があります。

ビジネスモデルや組織のあり方は、ソーシャルインパクトを最短で最大化するための「手段」でしかない。だから、どんどん変化しているんです。

「ソーシャルインパクト」という旗を立てて、そこを目指す道のりは変えてもいい……という感じでしょうか?

佐伯

そうですね。たとえば、私が代表を務めるハーブ事業のAMOMA natural careなら、ソーシャルインパクトは「契約農家数」です。

先日、新商品を出したのですが、こっちのネーミングのほうがSEO観点でよりリーチできそうだということが分かったら、リリース直後だとしても、ネーミングやパッケージを変更し、より最短でソーシャルインパクトが出せるように、軌道修正を行います。

AMOMA natural careの製品(提供写真)

佐伯

他にも、クラウドファンディングの「For Good」という事業は、リリース時は「レスキュー」というサービス名でした。

でも、「インパクトを出すならもっといいサービス名があるんじゃないか」という結論が出て、リリース2カ月後に変えたんです。

決断してから、3日でサービス名を考えて、ロゴを変更し、サイトをリニューアルしました。

すごいスピード感ですね……!

佐伯

常に問い続け、変わり続ける。それが私たちのカルチャーであり、組織全体、各事業に根づいています。

だから、ビジネスモデルに限らず、メンバーをどう育成して支えていくかという仕組みも、今後どんどん変わり続けると思います。

大事なのは、強みと人生を通してやりたいことがつながっていること

ポジションを変えても本人のやりたいことと強みがなかなか合致しない場合はどうなりますか?

佐伯

最終的に転職して別のことにチャレンジする人もいますね。

新卒で入社して、起業家として頑張っていたものの、実際にチャレンジしている中で、自分と向き合い、本当にやりたいことを見つけて、別の道に進んでいるメンバーもいます。

そうだったんですか。

佐伯

やってみないとわからないことってたくさんあります。だから、やってみて「違った」となっても全然いいんです。

大事なのは、本人がハッピーであること。自分が幸せじゃないと、他人の幸せをつくることはできませんから。

最後に、志のある社員が活躍できる会社をつくるためにはどうすればいいと思いますか?

佐伯

強みと人生をかけてやりたいことがつながると、モチベーションが上がって質のよいアウトプットにつながりますし、何より本人が幸せになれます。

1日のうち、仕事に割く時間の割合はとても大きいものですよね。

せっかくそれだけの時間を使うなら、自分の強みと、人生を通してやりたいことが接続すると、よりやりがいを感じることができるのではないかと思います。

ありがとうございました!

2024年10月取材

取材・執筆=横山瑠美
アイキャッチ作成=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト