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他人のことが気になるのは暇な証拠 過剰なフィードバックをやめよう(澤円)

仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。

出版社の人から聞いた話

以前、出版社の方とお話ししている時、なかなか興味深い話を聞きました。

我々の仕事は大きく二つあります。
一つ目が、「本を書きたい」と言ってくる人に角を立てずに諦めてもらうこと。
二つ目が、「ぜひ本を書いてほしい」という人を発掘してお願いすることです。

実に趣深い説明だと思いませんか?

そして、「本を出したい」と申し出る人の中には、たくさんの「定年退職したばかりのおじさんたち」が含まれるそうです。

「自分の現役時代の経験は役に立つだろうから、本にまとめて多くの人に教えてあげたい」というのが原動力になっており、企画を持ち込むレベルを超えて、数万文字の原稿を携えて「今すぐ出版してくれ!」と出版社の受付に突撃してくる人も数多くいるとのこと。

もちろん、自分よりも経験が少ない人たちに対して、何かしらのアドバイスをしたり、フィードバックをしたりするのは、とても役に立つ場合もあります。

ただ、これは前提条件として「相手がフィードバックを望んでいる場合」に限定されることを意識したほうがいいと、ボクは思っています。

望まれてもいないのにフィードバックを押し付ける姿を見たければ、ゴルフの練習場に行くと発見しやすかったと噂に聞きます。特に、ゴルフ歴の浅い若い女性のところには、「教え魔」と呼ばれる人種がうようよと発生したりしていたものです。

相手の都合など無視して、ゴルフのうんちくを語るわけです。実際、練習場によっては注意喚起ポスターを貼ったりしているところもあるようです。

人のことが気になるのは暇な証拠

定年後の人が誰かに何かを伝えたくなるという心理を深堀すると、

時間を持て余している
自己承認欲求を満たしたい

という二つの要素が含まれると思われます。

ちなみに、この二つの状態は現役の社員にも当てはまりますし、なんなら肩書・年齢問わずに発生したりします。

自分の仕事に集中せず、他人の動向に目が向くのは、まさに「時間を持て余している」&「自己承認欲求を満たしたい」のコンボが発生している状態です。

本来時間を投入しなくちゃいけない領域があるのに、あえてそうしないことで「暇」ができてしまっているのです。もちろん、自己研鑽にその時間を回すことで、仕事のクオリティを上げるならアリでしょう。

でも、他人に対して余計な口出しをするのは、迷惑行為以上の何物でもありません。

ただ、同じ部署のマネージャーとメンバー/先輩と後輩の関係となると、「フィードバックをするのも仕事」と考えるのは自然なことですし、実際適切なフィードバックが必要となる場合もあります。

とはいえ、メンバーや後輩だからといって、フィードバックをすべて受け入れなくちゃいけないかと言えば、そうでもないでしょう。ましてや、良好な人間関係が十分に築けていないのに、ネガディブなフィードバックをしてしまうと、その後の仕事に悪影響が出かねません。

自分から求める習慣をつける

さて、それでもフィードバックをしたい、あるいはしなくてはならないと考えている人はどうすればいいでしょうか?

効果的なのは「先に自分に対するフィードバックを求める」ことを習慣づけることだと考えています。「私はあなたの話を聞きますよ」という態度を先に示すことで、相互にフィードバックを受ける下地を整えておくのです。

「目上の人間は敬われるべき」なんて考えからは、もう解放されてもいいんじゃないかと思うんですよね。情報が今ほど多くない時代は、「上司や先輩社員が正しい」と思って行動することで、結果的に効率よく会社の仕事が回っていました。

しかし、ネットの登場・SNSの浸透によって、若者はたくさんの情報を持っています。マネージャーや先輩に聞かなくても、世の中について知っていることが多い状態になっています。

そのため、フィードバックを聞くかどうかは、相手が尊敬に値する人間かがより一層大事になってきています。「この組織については自分の方が詳しい!」と息巻いても、無条件にそれを受け入れるような時代ではもはやなくなってきています。

いいフィードバックをしたいなら、まず自分が「フィードバックを受ける達人」になることで、その雰囲気が作れるのではないでしょうか。

そこで大事なことは、「余計なプライドを持たない」という思考です。プライドは大切ですが、相手の話を聞かないようなプライドは百害あって一利なしです。

むしろ、自分の弱い部分をオープンにする方が、人間関係は円滑になるものだと思います。完全無欠のスーパー社員を演じるよりも、人間味のある仲間として接する心構えを持つ方が、気楽に働けると思いませんか?

アイキャッチ作成=サンノ
編集=ノオト