キャンピングワークがもたらすクリエイティブな働き方とは?ーOFFICE CAMPERSイベントレポート
働き方改革は、「ルールや規則」だけを変えれば成し遂げられるのでしょうか?厚生労働省は「意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ること」もそのひとつとして掲げています。(参考:「働き方改革」の実現に向けて)
また、働き方が多様になり、仕事に求められる価値にも変革が求められるなか、効率化を目的とした「作業」に特化したオフィスだけでなく、生産性の向上やアイデアの創出に焦点を当てたオフィス環境にも強い関心が寄せられています。
WORK MILLとスノーピークビジネスソリューションズは、オフィスとアウトドアを融合させた”働き方改革”としての「OFFICE CAMPERS」を提案しています。その活動の一環として、2018年1月30日、loftwork COOOP10にてイベントを開催しました。
2018/1/30開催 キャンピングワークがもたらすクリエイティブな働き方とは?
第二部のトークセッションでは、それぞれの分野でキャンピングワークへの知見を持つ登壇者が集結。アウトドアギアを取り入れた働き方改革を提案するスノーピークビジネスソリューションズの岡部祥司さん、クリエイティブ・エージェンシーのロフトワークで「FabCafe」や「飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)」の立ち上げに参画した岩岡孝太郎さん、WORK MILLプロジェクトチームから 「OFFICE CAMPERS」を推進する山本大介と庵原悠が参加しました。
単にキャンピングワークを提案するだけでなく、そもそもの問いである「キャンピングワークがもたらすクリエイティブな働き方」を掘り下げながら、参加者のみなさんと一緒に議論を深めました。三者三様の立場から語られたイベントから、特にその価値の核心に触れた「共創が生まれる環境づくり」にフォーカスします。
共創空間に必要なのは「適度な雑音」と「ポジティブな強制力」
セッションの冒頭で、山本は「クリエイティブとは何か?」と参加者に問いかけます。ある参加者は、「アイデアは発散と収束が必要。さらにアイデアを熟成させるには『自席ではないシチュエーション』と『適度な雑音』がいるのでないか」と返答しました。
その両面を兼ね備えるワークプレイスとして、カフェが候補に挙がります。岩岡さんが携わる渋谷・道玄坂上の「FabCafe」では、カフェのもつ機能に加えて、さらに利用者のアイデアや体験を広める取り組みをしてきました。
店内に3DプリンターやレーザーカッターなどのFab機材が備わっている「デジタルものづくりカフェ」であるFabCafeで、カフェとしての利用目的で来店した顧客が、「デジタルものづくりをやってみよう」と行動に踏み出すには、「クリエイティブは特別な人がやるもの」という心理的なハードルを超えてもらうことが鍵になると、岩岡さんたちは自ら顧客に働きかけています。
FabCafeは「クリエイターが集まるカフェ」とも呼ばれますが、お客様のなかには「実は機材を使ってみたかったけど躊躇していた」という人もいます。だから、もしお客様が機材の方をチラッと覗き見しているようなら、「よかったら使ってみませんか?」と店員から声をかけるんです。つまり、それまでは「コーヒーを飲んでいるときに目に入る」程度の関心しか持っていなかった人でも、3Dプリントを体感してもらうと、のめり込んで何度もやってくれることがあります。店員が「お客様」と「クリエイティブな環境」をつなぐ橋渡し役を担うのです。(岩岡)
続いて、庵原も「アイデアを生み出すには、『他者の介在』と『ポジティブな強制力』が必要」と続けました。
強制力がなくても自分のクリエイティビティを発揮できる人もいますが、ほとんどの人は「誰かがサポートしてくれるから、誰かに求められるから創作できる」という要素があると思っています。ある意味「他人」という強制力が働くからできるという一面もあるのです。成長経済のなかでは、個人の生産性を効率よく高めることが求められてきましたが、これからは「今までとは違う価値観をどのように生み出すか」が必要となり、それを後押しする他者の存在は欠かせないものになっていくと思っています。(庵原)
岡部さんは「適度な雑音」に焦点を当て、共創を生む空間としてのキャンピングオフィスの可能性について言及していきます。
「話している内容がなんとなく聞こえること」が、共創を生む空間では必要だと思います。だいたい何かが始まるときというのは、1人が考えたアイデアに2人、3人と寄ってきて、部外者である4人、5人が覗き見し始めたときなんです。
オフィスに置き換えると「話が聞こえてくる」「表情が読める」ことにより、他の部署の人が「話しかけてみてもいいかな」と思ってくれるときですね。これが会議室のように閉じられた空間であれば、「雑談が聞こえてきて関心を持ったから、中に入って一緒に議論する」ということはありえません。そこで会議室の代わりにテントを用いると、中で行われていることが見やすく、ふとした交流が生まれやすい。そういった意味でも、キャンピングオフィスは共創空間の価値を帯びているのです。(岡部)
山本はここまでのコメントをまとめた上で、「キャンピングオフィスはあくまで手段だ」とフラットに表現。
アクションを躊躇する人にはチャンスを提供し、やりたい人は後押しする。「場になにがあるか」よりも、「場にいる人がどのような空間をつくりたいか」というマインドが成果にも反映してくると感じています。(山本)
オフィスの「不便さ」がクリエイティビティを生む?
ここから話は職場への「OFFICE CAMPERS」の導入に及んでいきます。「OFFICE CAMPERS」とはオフィス内外へのアウトドア用品の導入によって、組織・個人の生産性を高める働き方の実現を目的としています。
オフィス内では芝生やキャンプギア、自然音響を用いた「グリーンオフィス化」を導入。オフィス外でも持ち運びに適していることから、自然のなかでも自由に仕事ができる環境をつくる「キャンピングワークスタイル」の提案も、そのひとつです。
トークセッションの後半では、よりキャンピングワークをイメージできるよう、それぞれの登壇者が「キャンプ」と「働く」の共通点について語ります。「ヒダクマ」でキャンプを利用した企業向けの合宿を提供する岩岡さん。焚き火には、スノーピークビジネスソリューションズさんが提案する「ビジョンシェアリング」の効果を実感するそうです。
普段の業務ではわからない「仲間の内面」を掘り下げて話せたりもします。焚き火に手をかざしながら「自分は会社をこういう風に変えていきたい」とビジョンを話し合う。静かで落ち着いた自然のなかでは、オープンマインドになってイメージをシェアしあえるんです。(岩岡)
続けて、キャンプのテント設置を引き合いに、「始まりと終わりの儀式があること」とオフィスワークの関連性を言及します。
なにもない野原にテントを設営するところから始まり、最後は撤収で終わります。チェックイン(始まり)と、チェックアウト(終わり)が決まっているんです。チェックアウトをするとき僕は必ず参加者へ「キャンプをする前と後でどのように変わったか?」と質問しています。すると、キャンプでの実りがわかる。「始まりと終わり」の儀式は、プロジェクトの進行にもその概念を取り入れることができると思います。(岩岡)
キャンプで自然に触れる最中には天候や道具に制限がかかり、必然的に知恵を絞らなくてはいけない状況も発生します。庵原は制限があるなかでこそ能動的になるのと同じく、オフィスにはある程度の「不便さ」が重要だと語ります。
今までのオフィスは「快適であること」「便利であること」が求められてきましたが、一方で便利過ぎることで働く側が受動的になる要因を生み出していることも事実です。ある程度の「働きづらさ」や「自分で何かしないといけない状況」をつくることも、クリエイティビティを発揮する要素になるのではないでしょうか。(庵原)
岡部さんからはイベントの参加者へ「キャンプをするように働く」ことにクリエイティビティを発揮するヒントがあるといいます。
「クリエイティブ」という言葉を使うと難しく考えがちですが、「既存のものの掛け合わせ」はキャンプのなかでもよく見られることです。ファミリーでするキャンプに多いのですが、他の家族と交流するなかで家族同士でも“当たり前”の違いが垣間見え、それを知るたびに新たな発見があり、より親近感を抱きます。
キャンピングワークの導入を「共創」への取り組みだと捉えるならば、どんな効果が得られるのかと言うエビデンスの提示よりも、むしろ「まずやってみよう」のマインドが大事になるかもしれません。「まずアウトドアチェアを置いてみてはどうか」とひとりが導入を進めていくなかで、共感を持つ周囲が二人、三人と参加していくこと自体が、「共創」の取り組みへの一歩になります。OFFICE CAMPERSは、その取り組みを後押しする存在といえそうです。(岡部)
ウェルビーイングの設計へ。社員の健康に寄与する。
いよいよイベントも終盤。質疑応答で参加者から質問が挙がった「OFFICE CAMPERSの導入効果」について、岡部さんが導入メリットをコストも含めて伝えます。
最初は中小企業の経営層と直接お話をすることが多かったですが、昨今は大手企業でも人材の確保・育成や、社員の会社への愛着の向上を目的として、キャンピングオフィスを導入するケースが増えています。それから、設置費用にもメリットを感じてもらえることもあります。「キャンプ用品」は今までB to Cのビジネスだったので、消費者からすると高価なものも多いように思われてきましたが、B to Bの「オフィス用品」として見ると比較的安価なんですよ。(岡部)
さらに庵原は岡部さんの意見に付け加えて、人の健康に配慮した建築設計の基準「WELL認証」の価値を付記します。
「WELL認証」というオフィス認証制度の機運が日本でも高まっています。オフィスビルなどのなかに、ウェルビーイングの概念(いかに健康的に過ごすか)を取り入れているかを評価する制度のことで、米国や豪州では基準を満たし認定されたオフィスの事例が生まれ始めています。WELL認証の中には自然の要素の取り入れ(バイオフィリア)に関する項目が多く含まれており、環境デザイン、採光、空間レイアウトなどに自然の要素を取り込むことが重要視されています。キャンプの要素を取り入れることが、オフィスを改善するだけに留まらない、人事施策や社員の健康にもつながりそうです。(庵原)
「労働環境の向上」と「自然への回帰」をミックスしたキャンピングワーク。たしかに、日が暮れた中で煌々と蛍光灯を灯し長時間働き続けることが、果たして自然なことなのかどうか、という問いが生まれます。「自然のなかで健やかに活動する」「手や体を動かし、仲間と共に組み立てる」「制約条件を知恵で乗り越える」というキャンプの体験から働き方へ転用できるものは多そうです。
また、ワークスペースとしてのキャンプ道具の設置に留まらず、キャンプ用品を使った研修、健康経営にまで、あらゆる事柄に効果が見込めそうです。
企業と個人の関係性が変化の兆しを見せるなか、よりお互いが貢献しあえるような関係を構築することも求められていくことでしょう。その一助として、今回のイベントでも語られたように、キャンプを始めるのもよし、オフィスに緑を取り入れてみるもよし。「まずやってみる」ことが、“働き方改革”の第一歩になるかもしれません。
2018年2月21日更新
取材月:2018年1月
テキスト: 奥岡 権人
編集: 長谷川 賢人
写真: スノーピークビジネスソリューションズ、ロフトワーク提供