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価値創造にとって統一感より大事なこと − AnyProjects が挑む個の時代のチーム

この春、異分野で名を馳せてきた5人のプロフェッショナルによって設立したAnyProjects。創業から2カ月時点で、すでに複数の大きなクライアントワークを手掛けるなど、今注目のクリエイティブ集団です。

 

個々人で活躍しながらも、ひとつの会社を創業するということ。しかも、バックグラウンドや考え方も、何もかもが異なる5人が集まるということ。彼らいわく、それは新しいチャレンジでもあり、実験でもあるのだそう。
共同創業に至った前編を踏まえて、後編では個の強い組織だからこその課題や、個と組織を両立する上で意識していることについても話が展開しました。

 

・前編_「個」の時代、なぜチームで会社を結成するのか? AnyProjectsが考える新しい組織のカタチ

 

クライアントワークだけど、クライアントとは感じていない

WORK MILL:実際に5人でプロジェクトを始めていく中で、これまでと変わったことや戸惑うことなどはありますか?

 

 

全員:いっぱいありますね(笑)

 

高橋:変わったことだらけです。ただ、今まではできていなかったことが、できるようになっていると感じます。とくにあるのは、クライアントと融合している感覚。今、僕らは、単に仕事を請け負うという形だけでなく、レベニューシェアなどの形でクライアントさんとお仕事をご一緒することもあります。本来であれば、外部の人間に当たるはずなのですが、社内のメンバーとして捉えてくださっている方が多いように思うんですよね。外部の人間が社内の問題を洗い出して解決するというより、一緒に問いを立てて考えていく。たとえば、実際に僕らが携わっているホテルの立ち上げプロジェクトは、普通なら敷地も予算も決まりきっているはずです。でも、コンセプトを決めて、どんなスケールでどこに誰と作るのか決めることまで仕事。しかも、報酬は一部レベニューシェア※で受け取る契約になっているので、僕らも真剣です。僕ら自身としても、このスタイルが機能するのかどうかのチャレンジでもありますし。

 

WORK MILL:なるほど。組織としてもすごく新しい取り組みなんですね。AnyProjectsは、メンバー一人ひとりの多種多様さが強みのように感じられるのですが、チームを組成する上で意識しているのはどのようなことなのでしょう。

 

 ※レベニューシェア:あらかじめ決めておいた利益率で収益を配分すること。リスクを共有しながら利益を得る、新しい提携手法として知られる。

ー石川俊祐(いしかわ・しゅんすけ)
ロンドン芸術大学Central St.Martins卒業後、Panasonic Design Company、PDD Innovation UKのCreative Leadなどを経て、IDEO Tokyo立ち上げに従事。Design Directorとして数々のイノベーションプロジェクトに携わる。2017年に田中雅人とともにAny Projectsを設立。その後、BCG Digital Ventures Head of Designを経て、2019年3月よりAny Projectsを本格始動。近著に『HELLO, DESIGN 日本人とデザイン』(幻冬舎)。

 

石川:強みだけではなく、弱みを見せ合える関係性を作ることですね。小さなことですが、すごく朝に弱い、みたいなことまで(笑)。得意・不得意を個人単位で明確にしているんです。全部を完璧にしようと思っても難しいし、できるポーズや間違わないフリをするのってあんまり意味がないので。プロジェクトの目的に応じて、誰のどんな強みを活かすべきなのかしっかりと把握していますね。

 

ー九法崇雄(くのり・たかお)
一橋大学商学部卒業後、NTTコミュニケーションズを経て、編集者としてのキャリアをスタート。「PRESIDENT」副編集長、「Forbes JAPAN」編集次長兼Web編集長などを歴任し、国内外の起業家やクリエイターの取材を行う。現在、「WORK MILL with Forbes JAPAN」のエディトリアル・ディレクター、東京都が運営する「青山スタートアップアクセラレーションセンター」メンターなども務める。

 

九法:クライアントの前だけではなく、オフィスでも常にチームで議論を重ねています。プロジェクトの目的のような大きなところから、進行の細かいところまで、いつでもメンバー同士で話しますね。もちろん、僕らだけで話したことをクライアントに共有するのも忘れていません。全員が情報を共有できる場を多く設けることで、社内だけでなく、クライアントサイドとも信頼関係を築けているのではないかなと。

 

ー野田臣吾(のだ・しんご)
慶應義塾大学総合政策学部(SFC)卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)、モルガン・スタンレー証券を経て、2006年、フォートラベル株式会社社長就任。2010年以降、グルーポン・ジャパンCOO、mixiを経てトンズ・キャピタルを設立。取締役や顧問として約30社のベンチャー企業等の支援を行う。2018年よりBCG Digital VenturesにてVenture Architect Directorを務めたのち、AnyProjectsに参画。

 

野田:AnyProjectsを始めてみて思うのは、僕らは思考と実践の壮大な実験をしていること。最近ではデザイン思考なんて言葉も語られますが、あれはデザイナーの思考プロセスを用いてアイデアを考えることを指しますよね。それと同じで、僕らはバックグラウンドが違うからこそ、思考のプロセスが全く違う。過去にどれほど思考してきたのかが今に活かされているように思うんです。5人やAnyに共感して集まってきてくれる様々な分野の第一人者が思考し尽くして、ワークする方法を探しているんですよね。まだ、正解は見つかっていないので、あくまでも実験です。

 

石川:実験って言葉は、僕らをよく表しているかもしれないです。以前、たまたま知り合いのクリエイターと食事をしていたのですが、そのときにAnyProjectsのメンバーも数人いたので、食事中にも関わらず本気で議論を始めてしまって。そのとき「Anyのみんなは、キャリアも積んできたから余裕で仕事しているのかと思っていた」と言われたんですよね(笑)。本当は、毎日が必死なんです。余裕でできる仕事はあるのかもしれないけれど、その余裕をあえて捨てています。

 

ー高橋真人(たかはし・まさと)
2005年、英国・ロンドンRoyal College of Art修士課程卒業。2005-2011年、スイス・バーゼルの国際的設計事務所Herzog & de Meuronに勤務。世界各地で建築、都市デザインのプロジェクトを手がける。帰国後は建築設計から、都市、インフラ分野へと活動領域を拡張、 様々な分野の企業・機関と恊働しながら、国内外の地域開発プロジェクトにおけるデザインアドバイザリも行う。

 

高橋:俊さん(石川さん)って、心配性ですしね(笑)。僕も似ているのですが、たとえハッピーなことが起きたとしても、一瞬喜んだあとにはすぐに未来のことを考えているタイプ。満足している瞬間が人と比べて短いんです。それって、きっと誰かができるアウトプットなら僕らがやる意味はないと思っているからなんですよね。「これだったら世に出せる」と思えるレベルがもともと高い上に、その限度も知らないからずっと頑張り続けているのかもしれません。

 

石川:それはありますね。僕は必要以上の自信を持っていないんですよ。周囲の方のほうがいろいろなものを見て感じてきているかもしれないからと思うと、本当に今のレベルでいいのだろうかと感じてしまって落ち着かないんです。

 

九法:たしかに。それなりに自分の能力には自信はあるけど、みな謙虚なんです(笑)。もっと自分たちの能力を引き上げたいと思うから、僕らはコラボレーションって形を選んでいるのかもしれません。

 

あえて仕組みを作らない、という選択

WORK MILL:具体的に、AnyProjectsのメンバー内で決めたルールってありますか? 個の強い組織が集まる場だからこその仕組みづくりをさらに深掘りしたいです。

 

 

石川:正直なところ、どうやって決めようかと悩んでいるんですよね…。今僕らは週に一度だけ会議をするために集まっているのですが、それも必要なのかわからなくて。週に一度って束縛があることすら負担に思うメンバーだっているかもしれないじゃないですか。

 

高橋:仕組み作りは僕らのこれからのチャレンジですね。どうしようか、とも考えているけれど、そもそも決める必要すらあるのかわからないんですよ。というのも、僕らはみんな、これまで全く違う働き方で生きてきました。だから、ワークルールを決めようって話し合っても、まとまる部分とまとまらない部分が出てきてしまうんですね。でも、よく考えてみたら、それがもう結論なのかもしれないとも思って。企業ではよく、「ビジョン・ミッション・バリューを言語化することが大切」なんて言いますが、僕らはそれを言葉にキャプチャする必要がないのかもしれない。無理に言葉に落とし込むと、テンションが下がりそうなんですよね(笑)。だから、このままの状態で進むかもしれないし、やっぱり決めるってことになるかもしれない。その都度、一番いい形を考えていきたいですね。

 

ー田中雅人(たなか・まさと)
国内外のデザイナー、クリエーター、アーティスト、研究者などのネットワークを生かしビジネスとデザインやクリエイティブをつないでいく事業に従事する。これからのデザインとアイデアが集結する日本の新たなクリエイティブの祭典「AnyTokyo」の総合プロデューサーとして活動。

 

田中:実際にこのメンバーで「AnyProjectsとは?」と考えてブレストをしたことがあるのですが、みんな表現方法はバラバラでした。言葉ってケースもあれば、絵のケースもある。だから、わざわざ統一するための言葉を持たなくても良いのかもと思ってしまうんです。

 

野田:僕らは、これからひとつの組織として一緒に過ごす時間が多くなるわけですけれど、みんなが一緒に過ごすことは危険でもあるんですよね。AnyProjectsのどこを切り取っても同じことを言うようになっていたら、全然面白くないじゃないですか。あえて統一しないことが魅力でもあるのだろうと考えているんです。

 

WORK MILL:あえて統一しない面白さ、ですか。たしか、みなさんはAnyProjects以外にも、個人での仕事も請けていらっしゃるんですよね。

 

九法:そうですね。僕たちは8:2ルールというのを設けていて8割はAnyProjectsの仕事にコミットし、2割は個人の仕事を受けてもいいことにしています。この2割があることによって、自分らしさをAnyProjectsに持ち寄れる仕組みになると良いなと。

 

WORK MILL:なるほど。ほかにも決めていることってありますか。たとえば、給与や採用面など。

 

 

九法:給与体系に関しては、現在は5名とも同額の役員報酬を受け取っています。まだ組織が大きくないので、これから採用するメンバーに関しては都度考えていきたいですね。採用面に関しては、先ほどの8:2の感覚を理解している、いわゆるハイブリッド型の思考を持ったメンバーを探したいと考えています。ファンクションのみで雇うのなら、AnyProjectsのメンバーではなくスポットで依頼するほうが僕ららしいとは思うので。

 

もっと組織はバラバラで良い。「らしさ」はそこに宿る

WORK MILL:まだ組織ができあがってから1カ月ほど(取材日は4月)ですが、これからの展望や挑戦したいことって、どんなことですか?

 

 

野田:そうですね…。まだ、領域を絞って仕事をしているわけではないので、グラデーションのように常に変わるものなのかなとは思っています。今、5つのプロジェクトが同時に走っているのですが、内容だけお話するとコンサルティング会社だと思われてしまいそうなんです(笑)。でも、僕らはコンサルティング会社を作ったわけではなく、これから自分たちの事業も立ち上げたいし、ファンドを作って地方のクラフト系企業にも積極的に投資していきたい。コンサルティングというのは、新しい価値を生み出すための一つのやり方にすぎません。

 

田中:組織に関して言うなら、今よりももっとバラバラで良いし、お互いフレキシブルに影響を与えられるようになると良いですよね。さまざまな環境から出てきた人同士がひとつの場所に集まって、刺激を受けていく環境はすごく面白いですから。いろいろな英知が集結し、自分自身も影響を受けたり、与えたりするような環境ってワクワクします。あとは、その上で、AnyProjectsとして社会にどんなインパクトを残せるのか。今はそんなことばかり考えています。

 

 

WORK MILL:実際に手応えも出てきているのでしょうか。

 

高橋:どうなんでしょう。満足感は日々ありますけれど、安心できることはほとんどないです。でも、特別なルールも決めない新しい組織体の中でいろいろな挑戦はできていますね。

 

野田:自分が見てきたものを活かして、興味のあるアイデアに深く入り込めるようになったことが一番嬉しいですね。僕ひとりでは解決できないからクライアントからの相談にすら至らなかったようなことも、AnyProjectsだからこそ解決できる。今後は、アイデアを昇華させられるような場所になりたいと考えますし、誰かのアイデアを僕らの手でフィーチャーできたら最高です。

 

石川:楽しさと不安は常に両立していますよね。難しいことにも挑戦しているから、どうしたら解決できるのかと頭を抱えることもたまにはあります(笑)。でも、今の5人も含めて、周りには仲間が多いからみんなを巻き込んでプロジェクトを動かしているんですよね。多くの人が関わるからこそ作れる世界観に、今挑戦している最中なのかもしれません。

 

 

2019年6月25日更新
取材月:2019年4月

 

テキスト:鈴木 しの
写真  :黒羽 政士
イラスト:野中 聡紀

 

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