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自己肯定感を育み、社会と接続する - 今、高校生のキャリア教育に必要なこと

先日、高校生に向けてキャリアについて講演する機会がありました。目の前に迫る大学受験、進路選択という決して簡単ではない判断、そしてそれぞれが思い描く「夢」。一方で、低い自己肯定感という「現実」。

 

今回はその講演を通じて感じたことをベースに、筆者自身も高校生の子どもを持つ一人の親として、高校生と社会の接続の必要性などキャリア教育にいて議論してみたいと思います。

 

高校時における文理選択の難しさ

冒頭で述べた講演は、私立の中高一貫女子校の高校生の生徒全員を対象にした、キャリア講演会という場でした。自分自身が社会人になってから、どんな風にキャリアを積み重ねてきたのか。これまで経験した3社で、具体的にどんな仕事をしてきたのかをベースにしながら、可能な限り詳細に話をしました。皆さん真剣なまなざしで、最後まで熱心にメモを取りながら聞いていただきました。

 

この講演で伝えたかった重要なポイントの一つが、高校時の文理選択の難しさについて。私は法学部を卒業し、新卒で入社したキヤノンでレーザープリンターの新製品事業企画部門に配属された経験を持ちます。新製品のプロジェクトチームに事業側の立場で参加し、設計・試作・品質保証・生産・コスト管理等、理系出身のエンジニアを中心とする様々な部門のメンバーとともに、新製品を市場投入するまでのプロセスに10年近く関わり、30製品を超える製品を担当しました。法学部という文系学部出身者でありながら、製造業におけるモノづくりの最前線で仕事をしていたわけです。生徒の皆さんには、「文系でも商品企画・事業企画といった役割で、製造業におけるものづくりの最前線で活躍できるので、現状の理数科目の成績が悪いからということだけで、やりたいことを諦めないで」ということを伝えました。

 

寄せられた感想にも、製造業は理系出身者だけが活躍する場だという先入観があったというコメントを数多くいただきました。
 

・私は理科部に所属していて理科が好きだけれど、苦手なので、「開発系に進みたいけど、理系に行けるくらいの学力はない」とずっと悩んでいました。しかし、今回のお話を聞いて、理系だけではなく文系でも商品開発にたずさわれることを知り、その進路について調べてみようと思いました。

・モノ作りに関わるのは理系ではないと無理だと勝手に思っていましたが、文系でもモノ作りに関わる事が出来ると知りました。私はモノ作りに関わりたくて、少し職業について調べましたが、まだまだ知らないことがたくさんあると思いました。

・夢を理系が出来ない、文系が出来ないなどで諦めてはいけないと思いました。

・製造業などは理系の人しか就けない仕事だと思っていたので驚きました。

・文系でも理系の企業に入り、活躍ができるということに、様々な可能性を感じました。

 

一般的に高校生は二年生へ進学する際に、来るべき大学受験を見据えて国立文系、私立文系、理系といったような選択を迫られます。しかし日本の高校生は、社会で働くということにどれだけ具体的なイメージを持つことができているでしょうか。両親や親戚といった身近なロールモデル以外には職場体験の機会があるくらいで、実態を知らないまま進学する生徒が大半ではないかと推測します。そのような限られた情報と想像力で文理の選択を迫られるのは、なかなか酷なことです。ちなみに自分自身、父のような地域研究の研究者になりたいという思いだけで文系を選択しましたが、数学の成績が良かったため、当時の担任の先生に「本当に文系でいいのか?」と質問されたのを思い出します。今振り返ってみれば、当時はとても視野の狭い状態で選択せざるを得なかったなと感じています。

 

 
社会接続に関する低い想像力と自己肯定感の低い高校生

結局のところ日本の高校生は、大学のみならず自分が社会とどう接続するのかについての想像力が低い状況にあるのではないかと私は思います。小学校どころか幼稚園の頃から、生き生きした多様な個性が衝突しつつ連携する集合体というよりは、同質・均質・同調による人間関係で育ちます。そしてそのコミュニティが狭いので、想像力が養われる機会が少なく、その幅も狭く深さも浅いまま。そういう構造にあるのではないでしょうか。

 

同調が前提となるこのようなコミュニティにおいては、自分の評価が他者に依存するため、自己肯定感が低くなるのも当然の成り行きです。独立行政法人 国立青少年教育振興機構が2018年に発表した報告書では「日本の高校生は、『私は価値のある人間だと思う」『私はいまの自分に満足している』などの自己肯定的な項目に対する評価が米中韓に比べて低く、しかもその差が大きい」と報告されています。

 

全体的に見て、日本の高校生の心と体の健康状態は、他の国と比べて安定している、といえる。(中略)しかし、キャンプなどの体験活動の経験は少なく、ちょっとしたことで落ち込みやすい傾向が強い。勉強と進路の悩みは解消されていない。そして、インターネットという情報の世界にはまりかけている。

自己肯定感は少しは上向きかけているが、 「まだまだの感」がある。教師との関係も好転し始めているが他の国に比べると十分とは言えない。

自己肯定感を高めるには、親や教師、それから友だちとの関係の濃密さが大きく影響している。また、インターネットの利用時間も短い者ほど自己肯定感が高まっている。これは注目すべき知見である。

― 高校生の心と体の健康に関する意識調査の結果を読み解く

 

インターネットへの依存度合いが高まっていることと、自己肯定感の相関が指摘されている点が興味深いです。世界はSNSで広くなっているものの、グループ内における同質さの度合いが増して、さらに自己肯定感の成長を妨げる要素になっているのではないかと読み取れます。

 

  
高大連携の改革は進むが…

少し話題を変えましょう。現在、文部科学省では高大接続システム改革が進められています。「高大接続システム改革は、高等学校教育改革、大学教育改革、及び大学入学者選抜改革をシステムとして、一貫した理念の下、一体的に行う改革である。」と定義されています。また、この文書内で、以下の内容が学力の三要素として表現されています。

 

(前略)今後の時代を生きる上で必要となる資質・能力の育成に向けた教育改革を進めるに当たり、特に重視していくべきは、
(1)十分な知識・技能、
(2)それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見いだしていく思考力・判断力・表現力等の能力、
(3)これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(これらを「学力の3要素」と呼ぶ)。

ー 平成28年3月31日 文部科学省 高大接続システム改革会議概要等資料

 

この「学力の3要素」を含む改革の視点には大いに賛同するものの、文部科学省が公開している議事録や資料を見る限り、議論の中心は大学入試のシステムを変えよう、という趣旨が中心であるように見受けられます。この結果として2021年度の入試から大学入試の在り方が大きく変わりますが、やはり肝心なのは入試に至る前の段階。いかに社会との接続を作り、自己肯定感をはぐくみながら豊かに将来を想像する機会を持てるかということが大切だと私は捉えています。

 

  
各地で生まれる様々な動き

一方でこういった状況を受け、民間から様々な取り組みが生まれています。以下は筆者が何らかの形で関与した2件ですが、いずれの事例も、地域や社会の大人たちが教育指導要領や学校教育の枠を超えて、様々な知見を共有していることに特徴があります。世の中には様々な仕事があり、現在は起業家という選択肢も現実的になっている。こうした大人の可能性があるのだということを伝えるだけでも大きな意味があると考えます。

 

① 高校生夢マルシェ

2015年発足。筆者が会員としてコミュニティに参画しているコワーキングスペースKOIL(柏市)のメンバーが発起人となってスタートしたプロジェクト。起業家・社会人との交流を通じ、「自分のやりたいこと」を探りながら自己肯定感の情勢を狙う仕組みとして発足。半年間にわたり経営やマーケティングの手法を学び、高校生のアイデアを社会人が一緒になって実査に事業化する現場共創型の企業体験プログラム。社会で必要とされることの実感を得ながら、地域の多世代交流を図る。

 

柏市の後援も獲得し、第一期の初回会合においては柏市長も出席。第一期では柏の葉キャンパス駅周辺で開催されたマルシェイベントでの出店を目指し、柏市の特産品であるカブを原材料にしながら、柏市のフレンチの名店「ル・クープル」のオーナーシェフである佐々木清恭さんの監修でポタージュを提供することに決定。あいにくの雨天にもかかわらず全200食を完売した。以降4期37名の高校生がこのプロジェクトを体験し、卒業。柏市から鎌ヶ谷市に活動が拡大し、現在第5期生の募集を受け付けている。

 


 
② 日本総先生化プロジェクト

2019年1月発足。名称の通り、年齢、地位、役職を問わず、お互いを自分が知らないことやこれまで体験したことないことを知っている「先生」として尊敬しあい、相手から何かを感じて学び、感謝し、相手に何かしらを与えようとすることを日本人全員が当たり前に行うようになる為のプロジェクト。今まで教育に関わっていない社会人が動き、学生と社会人が関わりを持つことを当たり前にすることで、社会全体が教育に力を入れる世の中を目指す。

 

このプロジェクトの一環として、「先生・親以外のオトナ=社会人」が高校に訪問する「リーマン、母校に帰る」企画が各地で進行中。教員免許を持たない一般的な社会人が高校生の前で先生を体験することにより、自分だって先生になれる(高校生に何かしらを与えられる力を持っているということに気づく)ことを認識するのと同時に、高校生からも様々なエネルギーを感じ、彼らから学ぶことができる(高校生も我々の先生である)ことに気づく効果を狙う。有志の社会人メンバーで発足したのち、高校生側の参加者も増え、同プロジェクトの運営の意一端を担う高校生コアメンバーが編成されて活動を開始している。

 


 
働くこと・学ぶことで自分を知り、夢の解像度を上げていく

想像力というキーワードを用いながら議論してきましたが、人はやはり知らないことは想像できないものです。自分が社会に対してどのように接続したいのかという想像力を養うためにも、様々な情報を提供する機会が必要だと考えます。自分は何者で、どのような強みがあって、何をしたら嬉しいと思い、どんな自分でいたいのか。そして、どんなことを実現したいのか。『WORK MILL with Forbes JAPAN』第2号の取材で訪れたデンマークのビジネススクール、カオスパイロットのクリエイティブリーダーシッププログラムにも通じるところがあります。

 

他者を巻き込みたいなら、人々をやる気にさせたいのなら、まずはあなたが「あなた自身」でなければならない。

― カオスパイロット、デイビッド・ストークホルム

 

日本は小・中・高・大・企業それぞれの過程で区切りが強く、それを超えた人や知の交流がほとんどありません。

 

これは社会的な損失です。自分の経験を振り返ってみても「学生のうちにこういうことを知っていたかった」と思うことが数多くありました。こうした分断を超え、将来を担う学生へいかに豊かな知を共有するか。今の大人の責務として真剣にとらえ、一つでも多く対話や体験の場を作ることが重要だと考えます。

 

2019年6月11日更新

テキスト:遲野井 宏
写真:久保 真二、遲野井 宏
写真提供:高校生夢マルシェ、総先生化プロジェクト

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