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主体性あるチャレンジを支える組織のセーフティネット

WORK MILL編集長の遅野井が、気になるテーマについて有識者らと議論を交わす企画『CROSS TALK』。

今回は『会社のITはエンジニアに任せるな!――成功率95.6%のコンサルタントがIT嫌いの社長に教えていること』などの著作を持つ、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズのディレクター、白川克氏を迎えました。

 

前述の著書はITの使いこなしを、コンサルタントやITベンダーに丸投げすることなく “自分で考えられるようになる” ための手引き。今回のクロストークでも強くフィーチャーされた言葉は「主体性」でした。惰性的なPDCAではなく「主体性のあるワークスタイル」こそが、日本企業が現状を突破するための鍵となるようです。

 

後編では主体性をもたらす働き方やマインド、今後の会社を強くするために「変革すべき部署」について考えます。

 

・記事前編_知的生産を生み出すために、現場に取り戻したい素質

ワークスタイルを変えるきっかけづくり

ー遅野井宏(おそのい・ひろし)WORK MILL編集長
大手製造業での長年にわたる事業企画経験を通じ、日本企業の現場における働き方に強い問題意識を持つ。同社における社内変革経験を経て外資系IT企業に転職し、ワークスタイル変革コンサルタントとしてこの奥深いテーマに挑む。現在は、オフィス環境に軸足を置きながら、組織を超えた人のつながりを探求。Open Innovation Biotope “Sea”の企画立案に携わるほか、社内外様々な場で講演活動や情報発信を行う。

 

遅野井:これからの社会では、より良くはたらくための「ワークスタイル」に、さらなる注目が集まってくるはず。ただ、私の経験から見ると、ワークスタイルはそれぞれの会社が長い年月をかけて形成した様式であり、変えるのは本当に難しいものだなと感じています。白川さんは、このワークスタイルに外から働きかけて変革を促すことを、仕事としてもやられていますよね。やはり、修正するのは難しいのでしょうか。

 

ー白川克(しらかわ・まさる) ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ(株)バイスプレジデント
一橋大学経済学部卒。中堅ソフトハウスでシステム開発を経験後、2000年ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズに転職。以来、IT投資計画策定、人事、会計、販売管理、顧客管理、ワークスタイル改革、全社戦略立案など、幅広い分野のプロジェクトに参加。

 

白川:ワークスタイルへのテコ入れは、プロジェクト単位なら「こうしたほうがいいよ」と言い続けることで、意外と矯正できます。プロジェクトというのは、独自の目的を追求する隔離されたチームなので。
ただ、それを会社全体にまで広げようとするなら、外から言葉を投げかけるだけでは、なかなか変わっていきませんね。もっと、主体性が自発的に育つような、別のしかけがあった方がいいでしょうね。

 

遅野井:たとえば、オフィスに「モードチェンジ」できる場所を設けるのはどうでしょう。専用のプロジェクトルームを切り分けたり、部屋の色や香りで意識を切り替えたりするのもありかなと。

 

白川:いいですね。僕らはファシリテーターとして、1つ1つの会議やプロジェクト全体の「モードチェンジ」をかなり意識して演出します。それをプロジェクトルームという物理的な場でも後押しできたらパワフルですよね。
部署を横断して人の交流が生まれたり、アイデアの発散や意思決定と状況に合わせて、部屋の雰囲気を変えられたり。目指すワークスタイルに合わせて、オフィスのアレンジをしていくことは、これからの会社で積極的に取り組んでいくべきことだと思います。

業務に対するオーナーシップが、主体性を育てる

 

遅野井:「主体性を育む」という観点からオフィスづくりの話が出てきましたが、より直接的なアプローチである「教育」についても、お聞きしたいなと。

 

白川:ケンブリッジ流の人材教育には、2つの大きな柱があります。まずひとつは「方法論を知る」こと。僕らが言う方法論とは「いつ、何を、どうやるか」が体系的にわかるメソッドです。たとえば、「チームの立ち上げにおいては、結成初期に、この内容のミーティングをしなさい」といったことを、一定の型として共有しています。

 

遅野井:なるほど。

 

白川:もうひとつは「仕事のオーナーにさせる」ことです。うちでは、新入社員が必ず最初に携わる仕事があります。僕らはそれを「ドキュメントコントローラー」と呼んでいまして。

 

遅野井:それは、どのような業務を担当する役割なんでしょうか?

 

白川:主な業務は、プロジェクトで作成する報告書の仕切り役ですね。報告書提出日に向けて作成の進捗管理をしたり、整合性のチェックをしたり。報告書の中身ではなく、作成プロセスのマネージャーです。大事なことは、「こと報告書を期限までに完成させることについては、君が責任者だ」と任せることです。
任された側は、責務を完遂するために必要なことは、なんでもやらなければならない。ルールを作って皆に守らせたり、進捗が危うければ、顧客と交渉したり……そういった判断も、自分でやらせるんです。僕も若いドキュメントコントローラーに催促されたり怒られたりしますよ。逆に、遠慮していると怒られる。責務を果たせないから。

 

遅野井:同じ仕事をやっていても、その仕事に対してオーナーシップを持つかどうかで、大きく考え方と動き方が変わってきますね。

 

白川:いわゆる「雑用」と呼ばれがちな仕事でも、オーナーシップを持って行うことで、多くの気付きと学びを得ることができます。とにかく自分で考えて、その上で自分だけで抱え込まずに、必要に応じて他人を動かすことが大事です。プロジェクトにおいて、1人で取り組まなければならないことなんて、そうそうないですから。

主体性が、仕事の楽しさを生み出す

遅野井:伺っていて、主体性を育てるには一定の「素直さ」が備わっているべきなのだろうと感じました。

 

白川:ピンチの時に表明するのも、ひとつの素直さですよね。

 

遅野井:そうですね。教育の過程においては、「そんなことは教えられるまでもない!」とプライドが邪魔をしてしまう人もいそうですから。

 

白川:良い意味でのプライドなら歓迎できますし、そこに素直さも共存していると嬉しい。うちの会社では、日々の仕事の中で「自分を変えなければ」と気づく社員は、よくいます。ただ、プライドと素直さの両立を意識的に成立させるのは、なかなか難しい。

 

遅野井:企業の変革にも人の成長にも、プライドだけでない素直さがキーになりますね。ケンブリッジ流の方針ではないですが、私たちもこの『WORK MILL』の社内プロジェクトを動かし始めた時に、いろいろなグランドルールを決めました。実は、そのルールの最後に、白川さんの本からアイデアをお借りして「Have Fun!」を加えたんです。 

 

白川:「主体性を持って新しいことをやれると楽しい」という意識を持てるようになると、仕事のパフォーマンスは大きく向上しますよね。

 

遅野井:おそらく仕事を楽しめていない人が多いのは、自分で決められる領域が狭いせいなのでしょう。決められたことを守っているだけでは、仕事は回るけど「楽しくはない」わけですから。個人としては「主体性を持つこと」が大事な一方で、組織としては「主体性を持てる環境づくり」を考えなければいけませんね。

 

 

白川:そうですね。急に新しい業務を「ひとりでやり切れ」なんて言われてしまうと、楽しさよりプレッシャーが勝ってしまう。「主体性を尊重する」ことと「責任を負わせる」ことは、似ているようで根本的に違います。「ピンチの時に手を挙げられる」といった救済の仕組みがないのに、責任だけ背負わされたら、逃げたくなってしまうのは当然のことです。そこには、挑戦を支えるセーフティーネットの整備が必要になってきます。

新しい価値創造には「救済システム」が不可欠

 

遅野井:今の「救済」という言葉、個人的にとても刺さりました。主体性を保つためには、不完全や失敗を許す風土を、チームやプロジェクト、ひいては会社に「救済システム」を作って担保していくのが重要だなと感じます。

 

白川:そうですね。そして救済とは、必ずしも部下を上司が支えるだけではありません。たとえば、ケンブリッジでは上司が部下に助けを求めるシーンも多々あります。支援する上司が常にスーパーマンでなければならないのは、上司としてはつらい時もありますから(笑)

 

遅野井:人は誰しも、完璧な存在じゃない。必要な時にはフラットに助け合えるのが、組織として理想ですね。能力が低いから救済するのではなく、「そもそも難しいことをやっている」という前提をチーム内で共有できれば、気持ちがとても楽になるし助けも求めやすくなる。

 

白川:おっしゃる通りです。僕らも「うかうかしていると失敗する」と常に感じながら、難しい仕事にチャレンジしています。だからこそ面白いし、一方で救済システムがないと心身がもたないんですよ。

 

遅野井:日本の社会では、失敗に対するペナルティが重いように感じます。その風潮が過剰な緊張感を生んでいるから、仕事で挑戦できない、仕事を楽しめない人が多い。これからの社会に向けて、新しい価値を生み出していこうと会社にとって、「救済システム」は不可欠な要素なのかもしれません。

ワークスタイルと主体性は、共に高め合う

 

遅野井:これまでのコンサルティング業務で、会社全体の文化を変えていくような大がかりなプロジェクトも、いくつかあったかと思います。その際、営業や企画などの現場に立つ部署と、総務や人事など現場を支える部署の間に、意識の差を感じられることはありましたか?

 

白川:会社やプロジェクトによって度合いは違うものの、現場とバックオフィスの間に距離感があることは、往々にしてありますね。しかし、全社を巻き込んだ変革プロジェクトを遂行する上では、両者に溝があるまま進めてもうまくいきません。

 

遅野井:溝を埋めるためには、どんなことをするのでしょうか?

 

白川:まずは、意識の差が生まれている背景を探ります。問題の根底には、歴史的な経緯だったり、規模の大きさだったりと、いろいろな要因が複雑に絡み合っています。それらを理解した上で、ひとつずつの要因にどうアプローチしていくかを考えます。

 

遅野井:会社によって問題の背景はまったく異なるから、そこに共通のアプローチ方法があるわけではない。

 

白川:その通りです。時には、強引にひとつのワークスタイルにまとめあげられないかを考えたり、なじまない人と「喫煙室トーク」な感じでラフに話したり。細かいケアもしつつ、あの手この手でいかに目指す社内文化、システムを作れるように導いていきます。こうした具体的な解決策の提案は、僕らの重要な腕の見せ所です。

 

遅野井:会社の変革において、ワークスタイルや社内システムへのテコ入れは必須だと思います。それらを司っているのはどこか……と考えていくと、これからの働き方を作り上げていくにあたって、人事や総務などのバックオフィスが主体的に動くことが必要だと、私は感じています。

 

白川:確かに、人事や総務は裏方のイメージが強いですが、これから表舞台へ出てくるべき存在と言えそうです。各種のメディアで新しい働き方がクローズアップされているのもあって、フリーアドレスや共創空間などへの感度が徐々に上がっている。ITインフラが整備されたことで、はたらき方はさらに多様な変化をしていくでしょう。

 

遅野井:今では、多くの人がパソコンやスマートフォンを持ち歩くようになった結果、「オフィス、自席、会議室だけでない『はたらく場所』があってもいいのだ」と気づき始めました。それに伴って、自主性や多様性に目覚めた会社員の意志が、マグマのように盛り上がりつつあります。これからの総務や人事には、従来の管理業務を見直して、多様性や主体性を軸に社内システムを再構築することが、強く求められていきますね。

 

白川:そのためには、彼らが主体性を持つことも不可欠でしょう。ワークスタイルと主体性、この2つは「鶏が先か、卵が先か」問題のように、切っても切り離せない関係にある。

 

遅野井:主体性がよりよいワークスタイルを生み、最適化されたワークスタイルが個人やチーム全体の主体性を引き出す。主体性とワークスタイルは、互いに影響を与えながら、一緒に向上していくのですね。今回の対談、非常に刺激的な時間でした。

 

白川:こちらこそ、自分の思考の中で渦巻いていたことが、遅野井さんとの対話の中で、よりくっきりと言語化されました。素敵な知的生産の時間を、ありがとうございました。

 

 

テキスト: 西山 武志
写真:岩本 良介
イラスト:野中 聡紀

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