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福利厚生は日常の支援へ。社食サービス「オフィスおかん」の思想

働き方の多様化が必要とされている時代に、福利厚生のあり方も変化が求められています。たとえば、オフィスワーカーの昼食シーン。これまでのように社食を設けて同じ時間・場所で全員がまとまって食事を取ることが働き方の変化に合わなくなり、適切なタイミングで健康的な食事をとれずに「ランチ難民」や「オフィス内孤食」となるシーンが少なくありません。 

そんな背景のなか登場し、急速に導入企業が増えているぷち社食サービス「オフィスおかん」。企業のオフィスに冷蔵庫を設置し、真空包装のお惣菜をいつでも好きなタイミング、量、自由な組み合わせで食べることができるユニークなサービスです。

今回は、代表の沢木さんに、新しい働き方に寄り添う福利厚生のあり方についてうかがいました。

働く人のニーズを満たす「オフィス設置型社食サービス」の新たなソリューション

WORK MILL:簡易なのに健康的な社食とはユニークなサービスです。サービスを思いついたきっかけとはなんだったのでしょうか。

沢木:きっかけは私自身の実体験です。新卒で入社した会社はコンサルティング会社で、当時は勤務時間が1ヶ月で400時間~500時間という、かなりハードな働き方をしていました。食事をする時間の確保が難しく、仕事の合間にお菓子を食べて空腹を満たしていました。しっかりとした食事を怠っていた為、健康診断の多くの項目で注意を受けるほど、健康状態は悪くなっていましたね(苦笑)。
仕事には打ち込んでいたものの、忙しいという理由で犠牲になっていたのが食事であり、健康面だったんです。私だけではなく「忙しいから」「食べる場所がないから」「価格が高いから」という理由で健康的な食事を諦めている人が周りにたくさんいるということに、当時から問題意識を持っていました。
そこで、健康的な食事を同じような仕組みで実現できないかと模索した結果、オフィスおかんのビジネスモデルが生まれました。日本各地のお総菜企業と提携し、産地・添加物の基準をクリアしたもののみ扱っています。高温滅菌で風味を損ないがちなレトルトではなく、冷蔵で30日間保管できる真空パックで提供することにたどり着いたんです。

WORK MILL:2年で250社が導入※というのは、ニーズにマッチした証拠ですよね。(※2016年1月現在)

沢木: 働き方が多様化したことで、食事に関わる環境も変化しています。みんなが一律にお昼休憩を取るわけではなくなり、仕事の合間に食事をとるケースが増えています。首都圏では「ランチ難民」という言葉があるように、自分の好きな時間に食べたいものを食べることができない人が大勢いるんです。
人口が密集しているので、ランチを食べに行ったとしても行列に並ばなくてはならなかったり、仕事が一段落して食べようと思ったときには、ランチ営業が終わっていたりというのもよくあることですよね。オフィスが高層ビルにあるために、オフィスから下りるだけで時間がかかってしまうこともあります。
社員食堂は導入にかなりのコストがかかってしまいますし、維持費も膨大です。最近は、コストカットの名目で廃止になったり、営業時間が短縮となったりしています。これでは、現代の働き方にマッチしませんよね。

WORK MILL:現代の働き方にマッチさせる点でポイントになったのはどんなところですか。

沢木:仕事の合間に、外へ行かなくてもオフィスですぐに食べられるというのはもちろんですが、お総菜を約100グラムずつ真空包装にしたことで、あらゆる利用シーンにマッチしたのだと思っています。
オフィスおかんの商品は、一人ひとりの利用シーンに合わせて柔軟に取り入れることが可能です。総菜、ごはんをそろえて食事をすることもできますし、持参したお弁当にプラス一品という使い方もできます。また、オフィスで食べるだけではなく自宅へ持ち帰る方も結構います。
自宅での食事のプラス一品として活用し、家事の負担を減らすことができるため、特にワーキングマザーの方に喜ばれています。仕事をして、子どもを迎えに行き、料理をするとなると、家事が重荷になるケースが多いですから。オフィスおかんは、女性に子育てをしながら働いてもらうためのソリューションにもなり、企業側のメリットも大きいんです。

鯖の味噌煮、肉じゃが、里芋の煮ころがしなど、自分で作ると手間がかかる料理を中心に、ひとつ100円から提供。一般的なレトルト商品とは異なり、手作り感を損なわない調理法を採用しているのも特徴。

WORK MILL:働く女性をサポートするサービスでもあるわけですね。

沢木:女性が働きやすい環境作りについては多くの企業が関心を寄せている課題だと思います。女性の社会進出が進むなか、企業にとっては働く女性の出産・育児・家事へのサポートが急務となっていますが、働く女性のサポートに関わるサービスはまだまだ不足しているのが現状ですから。

WORK MILL:オフィスおかんのサービスは、従業員の満足度向上の福利厚生の一つとして評価され、日本の人事部「HR アワード 2015」の「プロフェッショナル部門 人事労務管理の部」で最優秀賞を受賞されていますね。

沢木:福利厚生というと、かつては豪華な保養所を用意したり、高級ホテルに安く泊まれるという「非日常」の演出がメインでした。以前はそれでよかったのかもしれませんが、今のニーズにはマッチしません。求められているのは「日常」のサポートなんです。

沢木:私たちは「ワーク・フードバランス」という言葉を使っています。仕事も日常の生活も合わせて、ライフスタイル全体を自分らしくよりよいものにしていきたいという価値観が拡がっています。これまでは分断してとらえられていた「仕事」と「日常」ですが、今はオフィスでの時間もライフ(日常)の一部だととらえられるようになっているんだと思います。
価値観の変化として私が感じているのは、「自分らしさ」や「自分の幸せ」といったことを軸に、働き方を変える人が増えているということです。働いて不幸になっては意味がない。企業は働く人が充実した生活を送って幸せになれるよう、働く人のライフスタイルに合わせたサポートをする必要があります。優秀な社員を確保するためにも、企業にはフレキシブルな対応が求められるのです。

企業が働く人のライフスタイルをサポートする文化を根付かせたい

WORK MILL:株式会社おかんが目指すサービス展開についてお聞かせください。

沢木:私たちは、「働くヒトのライフスタイルを豊かにする」ということをミッションに掲げています。そのミッションを達成するためのひとつの手段がオフィスおかんです。食だけにとどまらず、衣食住、医療、教育などの生活インフラに関連する部分で、今後私たちができることは広がっていくと思います。
またサービスの提供だけでなく、企業側が働く人のライフスタイルをサポートする文化を根付かせたいんです。そのため、オフィスおかんを導入いただいた企業担当者様には「なぜ導入したのか」を社員の方へ伝えることに重きを置いてもらっています。

WORK MILL:「オフィス」という人が長く滞在する場所が、サービスを提供する上でのひとつのキーになりそうですね。

沢木:デパ地下からスーパー、コンビニ、ネットスーパーと惣菜販売の顧客接点が変遷してきましたよね。そして女性の社会進出が進み、自宅ではなくオフィスに滞在する時間が長くなりました。サービスの提供は人がいる場所に寄っていくことで進化していきますから、オフィスはBtoE(Business to Employee、従業員向けビジネス)市場における顧客接点の場として今後さらに重要になると考えています。

これからの働き方をリードするモデルケースとなる

WORK MILL:「働くヒトのライフスタイルを豊かに」というミッションを掲げている会社として、働く環境作りという点で行っている取り組みはありますか。

沢木:私たち自身がひとつのモデルケースとなりたいと考えています。まずは、自分たちが働きやすい環境を作り、多様な働き方を提案することを目指しています。その取り組みの1つとして、2016年1月に新オフィスへ移転しました。
お互いに支え合いながら働こうという私たちの会社の価値観である「ファミリーワーク」と、誰もがくつろげる空間でありたいという意味の「おかえり」というふたつのワードをコンセプトとしてオフィスデザインに反映しています。
「ファミリーワーク」は、オフィスでのコミュニケーションが取りやすいこと、家にいるような感覚でくつろいで仕事ができるということを意味しています。「おかえり」は、主に社外のお客様へ向けたメッセージです。私たちのオフィスに来たときは、落ち着いた気持ちになっていただきたいという思いが込められています。
自社としても、多様な働き方を受け入れ、課題を解決しながら、企業と働く人がサポートし合っていくことが理想ですね。

WORK MILL:ミッションの実現に向け、自ら実践されているんですね。

沢木:実際にいくつかの会社に在籍し、仕事を兼業するパラレルワークで働いているメンバーもいますし、京都から遠隔で働いているメンバーもいます。もちろん、子育てをしながら働いている人もいます。時間、場所にとらわれない働き方を実践しているんです。そういったチャレンジを積み重ね、私たち自身が導入を検討されている企業にとってのモデルケースとなれたらと考えています。

WORK MILL:5年先、10年先、20年先を見据えたとき、どのようなサービスが求められると思いますか。

沢木:今後も、働く環境は変化を続けます。働き方が変われば、その変化に応じて課題も生まれます。働く人の目線から時代に応じた課題を見つけ、それに合わせたソリューションの提供をしていきたいですね。

テキスト:まきだ まどか
写真:岩本 良介
イラスト:野中 聡紀