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目的仲間が自分と社会を豊かにする ー さとなおさんが育てる「4thコミュニティ」

時代の変化に伴って、働き方や働く場所は大きな変革期を迎えています。2015年末、リクルートホールディングスが全従業員を対象にした「リモートワーク(在宅勤務)」の本格導入を発表しました。今後、このような働く人々の多様性を尊重するための「働く場づくり」は、社会的な注目を集めるトピックとなるでしょう。

 

今回は『明日の広告』『明日のプランニング』などの著者であるコミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之氏(通称「さとなお」さん)に、「働く場づくり」というテーマで、お話をうかがいました。

 

自身のワーキングスペースを「4thコミュニティ」と名づけ、新しい場づくりに力を入れている佐藤氏は、働く場所の変化やオフィスを持つ意味について、どのように考えているのでしょうか。

 

目的仲間が集う場所、それが「4th(フォース)コミュニティ」

WORK MILL:さとなおさんはこちらのオフィスを「4thコミュニティ」と位置づけているとうかがいました。

 

佐藤:スターバックスはファーストプレイスを家、セカンドプレイスを職場や学校として、自分たちの店舗がその2つの中間地点であるサードプレイスになるように……というミッションを掲げていますね。ただ、僕が使う「フォース」は、この文脈とはちょっと違う流れなんです。

 

WORK MILL:どのように違うのでしょうか。

 

佐藤:前述の文脈では「物理的な場所の違い」にフォーカスしていますが、僕は「コミュニティの違い」で分けています。「ファースト」はファミリーで、最も身近な存在。「セカンド」はフレンズ、自分の中では遊び仲間というニュアンスで捉えています。「サード」はオフィス、仕事仲間で集うコミュニティですね。

 

WORK MILL:その流れで言うと、「フォース」はどんなコミュニティなのですか。

 

佐藤:会社を独立してから価値観が少しずつ変わっていく中で、僕は「目的仲間」がほしいと感じるようになったんです。そんな願いから「仕事上の付き合いではなく、同じ目的の下に人が集まるコミュニティ」を「4thコミュニティ」と名づけて、このオフィスは目的仲間のための場所として活用していこう……と思うに至りました。

 

独立して気づいた「雑談」の重要性

WORK MILL:さとなおさんが独立されたのは2011年の3月でしたね。それから1年半ほどは個人の事務所などを持たずにお仕事をされていたそうですが、ご自身のオフィスを持たれるきっかけなどはあったのでしょうか。

 

佐藤:独立してしばらくは、一応シェアオフィスも借りていましたが移動も多かったので、都内で作業のしやすいお気に入りのカフェを転々としていました。そんなノマド的な働き方をするうちに、会社のオフィスに通っていたころと比較して、明らかになくなったものに気づいたんです。

 

WORK MILL:なくなったもの?

 

佐藤:そう、「雑談」がなくなっていたんです。会社員時代は何をするわけではなくオフィスにいて、そこで同僚と他愛もない話をしている時間が結構あったんです。それが、独立してからほぼゼロになってしまった。仕事相手とは必要最低限だけ集まって解散し、あとは一人で黙々と作業をする日常の中で、ある日ふと「最近新しいアイデアのヒントになるようないい刺激をあんまり受けていないな」と感じて。その刺激の大きな源が、僕の場合は雑談だったんですよね。

 

WORK MILL:その雑談を取り戻すために、個人のオフィスを持たれたのですね。

 

佐藤:ほかにも小さな理由はいくつかありましたが、最も大きな要因はそうです。2012年10月、乃木坂に初めての個人オフィスを構えました。毎月、家賃分は何が何でも稼がなきゃいけないというプレッシャーは生まれましたが(笑)、本当に作ってよかったなと思っています。そこには僕を含めて3人が常駐していたのですが、狙い通り雑談が飛び交うようになって、アイデアも出やすくなりましたね。ただ、オフィスを作って生まれた一番の収穫は、質の高いコミュニティができたことです。

 

WORK MILL:「さとなおオープンラボ」(さとなおさんがプランニングの基礎を教える連続講座)を始められたのも、この頃からでしたね。

 

佐藤:ラボの講義は、僕のそのオフィスでやっていました。個人のオフィスというプライベートに近い空間に招き入れたからこそ、集まった人たちがお互いに踏みこんだ関係になれたと思っていて。おそらくラボを貸会議室などでやっていたら、ラボ生同士が僕のいない所でも頻繁に集まるような仲にはならなかった気がします。そして、そこで生まれたコミュニティは今でも残っていて、どんどん発展していってるんですよ。

 

WORK MILL:ラボが「目的仲間のコミュニティ」の原型になった、ということでしょうか。

 

佐藤:そうですね。ラボはまさに、さまざまな業界からさまざまな人生を歩んできた人たちが、ある目的の下に集まった「4thコミュニティ」でした。その目的自体を作り出すことも含めた「コミュニティづくり」が、これからの世の中では重要になってくるはず。個人的に「目的仲間がほしい」というよりは、社会的な必要性を感じているんです。そんな思いから「もっと積極的にコミュニティ運営をしていこう」と考えた結果、2015年の9月に今のオフィスに移りました。

 

職業も年齢もバラバラな人たちが「4th(フォース)コミュニティ」を豊かにする

 

WORK MILL:新しいオフィスを検討する上で、ポイントになったのはどんな要素ですか。

 

佐藤:ラボ生の集まる頻度や人数を考慮して、一度に30~40人は収容できる広さは確保しました。勉強会や飲み会も頻繁に行われるので、いろいろなワークスペースを用意したりバーカウンターを設置したりと、ふらっと集まりやすく使い勝手のいい空間になるように心がけています。

 

WORK MILL:「4thコミュニティ」として、ここにはどんな人たちが集まってきますか。

 

佐藤:基本的にはラボ卒業生(現在五期計150名以上)になりますが、年齢や職業はなるべくバラバラになるように選んでいます。今期のラボ生の年齢層は一番下が新入社員で、一番上が57歳の方になりますね。業界としては広告系やスタートアップ系の方々が若干多いですが、指揮者の方もいますよ(笑)。始めた頃は男性の方が多かったのですが、今では男女比もちょうど半々くらいになりました。

 

WORK MILL:背景がバラバラな人たちを集めることで、どんな効果があるのでしょうか。

 

佐藤:「アイデアは異質なもの同士の組み合わせ」とはよく言われますが、まさにそれと同様です。同質な人間よりもタイプが異なる人間と話をした方が、お互いに刺激し合うことができます。課題図書を出して全員が同じ本を読んでも、各々が自分の立場に当てはめて感想を発表してくれるので、それだけでも数多くの発見や気づきが得られます。

 

WORK MILL:確かに、会社のオフィスでは同質な人間で集まりがちですね。

 

佐藤:ここは会社の外ですから、参加者が「わざわざここに来る理由」をつくってあげたいですね。最近はラボ生を対象に、単発のセミナーも積極的に開催しているんです。1月はボリショイバレエで外国人初の第一ソリストを務めた岩田守弘さん、TBSキャスターの松原耕二さん、ラーメン評論家の大崎裕史さん、落語家の古今亭菊之丞さんなど、第一線で活躍しているさまざまなゲストを招いています。また、ラボ生の中にもいろいろな職種の方がいるので、その人たちに講演をしてもらうことも。今度、花王の社員とライオンの社員の方の2人でトークセッションをしてもらう予定で(笑)。外ではなかなか実現できない組み合わせでも、信頼感のあるコミュニティ内では成立するんですよね。

 

「100人に1人」になれるものを増やせ

佐藤:なんでいろいろなゲストを呼んで話してもらうのかと言うと、視野を広くもってほしいんですよ。ひとつの世界に固執しすぎないように。

 

WORK MILL:「ひとつの技術に特化したスペシャリストよりも、幅広く対応できるジェネラリストを目指せ」ということでしょうか。

 

佐藤:ニュアンスは近いですが、ちょっと違います。あらゆる世界において、一流の人たちは大体「1万人に1人」とか「100万人に1人」という位置にいます。ここにたどり着くためには相当な時間がかかりますし、今は時代の変化も激しいので、目指しているうちに業界自体がなくなってしまうことも少なくありません。なので僕はラボ生に「自分が「100人に1人」になれるものを増やせ」と度々話しているんです。

 

WORK MILL:「100人に1人」ですか。

 

佐藤:たとえば僕は、広告業界で「1万人に1人」という位置には入っていないと思いますが、「100人に1人」という位置にはつけていると思っていて。同じく、「食に詳しい人(食の本を数冊出している)」「ネット体験に詳しい人(個人サイトを20年やっている)」というくくりでは、「100人に1人」のレベルに入っていると自負しています。この属性を並べて「広告がつくれて、食に詳しくて、インターネットに詳しい人」とすると、単純計算で1/100×1/100×1/100=「100万人に1人」という割合になり、一気にレアな存在になるんです。

 

WORK MILL:ここでも「異質なものをかけ合わせる」という考え方が生きてくるのですね。

 

佐藤:さらにもう1つ「100人に1人」の要素をかけ合わせれば「1億人に1人」、つまり「日本に1人しかいない存在」にまでレベルアップします。ここまでくると、首相から意見を求められたりすることもある。ウソみたいに単純な話ですが、実体験だし本当のことなんですよ。

 

WORK MILL:なるほど。

 

佐藤:最近は、とくに若い子たちに向けて「「100人に1人」を増やせ」と言っていますね。みんな真面目で頑張り屋さんなのですが、仕事しかしてないんです(笑)。彼らは同世代とはSNSなどでよく繋がっていますが、プライベートで40~50代の先輩と話す機会がない人も多い。IT系のスタートアップで働いていると、そもそも年上が社内にいない可能性もありますしね。どんなに変化が激しい時代だとしても、人生の先輩から教わることもいっぱいありますから、そういう機会をつくってあげる意味でも、セミナーは続けていきたいですね。

 

じっくりと時間をかけて「4th(フォース)の森」をつくりたい

 

WORK MILL:「4thコミュニティ」は今後、どのように育てていこうと考えていますか。

 

佐藤:「森をつくれば人が集まる」――これは僕の好きな言葉なんですが、このオフィスは「4thという森」にしていきたいんです。人が人を呼んで集まってきて、その人たちがそれぞれ違う場所に木を植え出して、より豊かな森になっていく……そうやってここを中心に、いろいろな動きが自然と生まれてくるのが理想です。

 

WORK MILL:「4thという森」で、さとなおさんご自身はどんな役割を担われるのでしょうか。

 

佐藤:僕は管理人に徹して、なるべく前に出て旗を振らないようにするつもりです。手入れをしながら丁寧に場を育てていけば、自分が先導しなくても、人が頻繁に出入りする場所では、必ず何かが起きます。その「何か」が少しでもハッピーな方向に進むように、これから1~2年をかけて、丁寧にコミュニティの手入れをしていきたいですね。「4thコミュニティ」を世界をちょっとずつ良くするための、温かいプラットフォームにしたいですね。

 

・記事後編_さとなおさんが語る「これからのコミュニケーションと働く場所のゆくえ」

 

テキスト:西山 武志
写真:岩本 良介
イラスト:野中 聡紀

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