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デジタルネイティブ世代の可能性を引き出す分散型組織の作り方

テクノロジーの発達が、私たちの働き方を大きく変えつつある中、インターネットやSNSが当たり前の中で育ったデジタルネイティブ世代が、企業でも存在感を示しはじめています。ソーシャルメディア時代におけるワークプレイス・ワークスタイルなどを研究している実践女子大学の松下慶太准教授は、デジタルネイティブ世代の特徴として、「オンラインとオフラインの境界のなさ」を挙げます。一方、彼らを受け入れる企業の中には、そのポテンシャルをうまく活かしきれず、マネジメント方法を模索しているところもあるようです。

後編では、デジタルネイティブ世代の価値観を紐解きつつ、これからの企業とワーカーとの関係性や、マネジメントのあり方について考えていきます。

 

・記事前編_欧米のワークスタイルから考える、これからのコミュニケーションと組織のあり方

 

オンラインとオフラインがシームレスに行き来するデジタルネイティブ世代

WORK MILL:松下さんはゼミや講義などで学生たちと関わっているかと思いますが、デジタルネイティブ世代のコミュニケーションにはどんな特徴があると感じますか。

 

松下:先ほどお話しした「スーパーインポーズド(superimposed)」のようなコミュニケーションですね。オンラインとオフラインのコミュニケーションが重なりあい、シームレスかつナチュラルに移行していく。こないだ、ゼミ合宿があったんですけど、そのとき僕はベルリンにいたんです。それで、ゼミの発表が終わったあと、ゼミ生みんなでワイワイ飲んでるときに僕へLINEで電話がかかってきたんですよ。「あ、かかった!」って(笑)。

 

―松下慶太(まつした・けいた)実践女子大学准教授
1977年神戸市生まれ。博士(文学)。京都大学文学研究科、フィンランド・タンペレ大学ハイパーメディア研究所研究員などを経て現職。2018-19年ベルリン工科大学社会学部テクノロジー&イノベーション部門客員研究員。専門はメディア論、若者論、学習論、コミュニケーション・デザイン。近年はソーシャルメディア時代におけるワークプレイス・ワークスタイル、渋谷における都市文化に関する調査・研究を進めている。著作に『デジタル・ネイティブとソーシャルメディア』(教育評論社)など。

 

WORK MILL:「もしもし」ではなく。

 

松下:そうそう(笑)。「じゃあ、ビデオ通話にするね」と動画に切り替えて、そのまま僕も飲み会に参加する、という。結局「ちょっと今、電波が良くないみたいだから、切りまーす!」みたいな感じで……すごいなぁ、と(笑)。別に電話するからといって、静かなところへ移動するわけでもなく、「今、大丈夫ですか」と確認するわけでもない(笑)。本当にごく自然にオンラインとオフラインが同期している感じです。

 

WORK MILL:オンラインでSkypeやビデオ通話をつないでも、やはりオフラインの対面コミュニケーションのほうが熱量も伝わるような気がするのですが……。どうしても、「実際に会ってみないとわからない」「信頼関係を構築できない」という固定観念があります。

 

松下:そうですよね。でも、不思議なんですけど、学生たちと話していて、必ずしも「オフラインがいいよね」という話にはならないんです。「こないだはちょっと電波悪かったね。あ、そういえばあの話の続きなんですけど……」と、オフラインへ、あるいは逆にオンラインへシームレスに接続する。オンラインとオフラインのあいだに特に境界もない。オフラインで友人なら、オンラインでもどんどん会話するし、オンラインで出会った人と実際に会っても自然に仲良くなることも珍しくない。「ネット上だけの付き合い」などと線を引くのでもなく、オンラインとオフラインがナチュラルに混じり合い、本当の意味でシームレスなんです。

 

WORK MILL:一方で、SNSで複数のアカウントを使い分けたり、クラスタを分けたりするようなコミュニケーション方法もあります。

 

松下:趣味アカウント、勉強アカウント、裏アカウント……みたいに使い分けるのは当たり前ですよね。ただ、アカウントを切り分けてはいるけど、あくまで目的別に使い分けているだけであって、親友ならTwitterでもLINEでもInstagramでもつながっている、という感じ。趣味だけでつながっている人も中にはいて、その場合、普段は好きなアイドルの情報をやり取りして、コンサート会場で会う、みたいな。僕からすると、それぞれのアプリと複数のアカウント、そしてオフラインをどうやって切り替えているんだろうと考えてしまうけど、彼らの中では「スマホの画面に収まっていることだから、全部一緒」という感覚。オンラインもオフラインも全部並列で処理されている感じなんです。

 

WORK MILL:いわば、オンライン上にも自分の一部がある感覚ですよね。そう考えると、会社に就職していきなり「SNSを使うな」とか、「一件一件電話してアポ取って、足で数字を稼げ」とか、まったく馴染まないでしょうね……。

 

松下:そうですね。もはや「エラー」に近い感覚だと思います。だからもう、「オンラインを使わない」じゃなくて「オンラインをどう活用するか」という方向へ組織もシフトしていかなくてはならないんですよ。

 

これまでのように、時間と空間の裁量を企業側に渡して、働く場所を選べなかったり、フルタイムかつ長時間働いたりしてもらえるようにするには、相当強力なビジョンや共有できる価値観が必要となってくる。果たして、それだけのものが用意できる企業がどれほどいるでしょうか。そう考えると相対的には、時間と空間の裁量をワーカー側に渡して、フリーランスや介護や子育てで時短勤務を選んでいる人たちも含めて、関係性を築いていく企業が増えていくと思います。

 

WORK MILL:ワーカーの働き方が多様化し、デジタルネイティブ世代が増えていく中で、リーダーやマネージャーはどんなコミュニケーションを取っていくべきなのでしょうか。

 

松下:そうですね……基本的な話ではあるのですが、やはりまず「フラットにすること」から始めなければいけないと思います。そもそも、リーダーやマネージャーという時点で上下構造が生まれてしまっている。どうしても今、役職のある人や年齢が上の人は、なかなか下に降りてこれないんですよね。で、中には降り方を間違ってパワハラやセクハラになってしまう人もいる。上下構造がある以上、その問題を解決することはできないんですよ。

 

それは、ほんの些細なことから始められると思います。「タメ語で話されてもイラっとしない」とか、「メールのccが役職順になっていなくても気にしない」とか……平たく言ってしまうと(笑)。メールなんてまさに、権力関係が反映されているツールですよね。

 

大切なのは、企業とワーカーがどのような関係性を築くか

WORK MILL:新しい働き方が少しずつ広がっていく一方で、メルカリやウォンテッドリーなど、ベンチャーでもあえてリモートワークを推奨していない企業もあります。オンラインとオフラインに優劣なくコミュニケーションを取るデジタルネイティブ世代の志向とは、相反する部分もあるかと思うのですが……。

 

松下:そうですね。要は、企業側にとってもワーカー側にとっても、「関係性をどう結ぶか」の選択肢が増えてきたということ。マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が「組織の成功循環モデル」で提唱しているように、「思考や行動、結果の質」を高めるためには「関係性の質」を高める必要がある。その質の高め方において、何を選択しているのか、ということだと思うんです。企業によっては、オンラインを踏まえたうえでオフラインのコミュニケーションを重視して、関係性を高めようとするところもある。ワーカーも、「場所に縛られることなく、自由に働きたい」という人もいれば、「地元が好きだから、ずっと地元で働きたい」と考える若者もいる。その中で、どの企業が誰とどうやって関係性を築いていくのか、あるいはワーカーがどの企業とどうやって関係性を築くのか、選べる時代になったということ。

 

 

WORK MILL:確かに。

 

松下:「メールを使わないようにする」というのは、有効な手段のひとつだと思いますよ。おそらく今、Slackが使いにくいと感じている企業は、フラットな組織ではないということ。Slackを使うと必然的に組織がフラットにならざるを得ませんからね。そこはある種、技術決定論の力強さを入れるしかないというか、トップダウンで始めないと組織は変わっていかないでしょうから。

 

「どちらかを選ぶ」より「やりたいことは両方やる」

WORK MILL:前編でも「マネジメントの意味が変わってくる」とおっしゃっていましたが、これからのマネジメントのあり方はどうあるべきなのでしょうか。

 

松下:もちろん、「フラットな組織であることが前提のマネジメント」という意味合いにはなってくるのでしょうが、そもそも「マネジメント」自体に「マネジメントする人」「される人」という権力構造が含まれているので、「マネジメント」という言葉ではない、他の何かになっていくと思います。「リーダーシップ」という言葉もそうなんですよね。誰かひとりがリーダーシップを発揮するというより、「シェアド・リーダーシップ」のように、全員が必要に応じてリーダーシップを発揮できる組織になっていく。まだ、ふさわしい言葉が見つからないのですが、少なくともそういった方向性にはなってくると考えています。

 

WORK MILL:そうなると、「誰かに決めてもらえばいい」と考えるような人は、これからの組織で受け入れられにくくなってくるのでしょうか。

 

松下:「誰かに決めてもらえばいい」と考える人が多い組織だと、トップダウンのマネジメントがもっともコミュニケーションコストが低く済むんです。ですからある種、ジレンマがある。組織としてあるべき姿を考えたとき、マネジメントコストとコミュニケーションコスト、そしてビジネスコストのバランスを考えて、どちらが機能するか、効率的か、と天秤にかけざるを得ない。

 

ただ、これからの時代にイノベーションを起こそうとするなら、フリーランスやパートナー企業などさまざまな人とプロジェクトを立ち上げて、その場その場で関係性を築いていかなくてはならない。「大量生産で一点突破する」というのは、もはや成り立たないんです。

 

WORK MILL:自分で自律的に動ける人にとっては、働きやすい世の中になっていくかもしれませんが、必ずしもそうでない人にとっては、ものすごく厳しい世の中ですね……。

 

松下:そういった意味では、個人としてポートフォリオを持っているといいかもしれません。たとえば、週の半分は分散型の組織で必要に応じてリーダーシップを発揮しつつ、もう半分は中央集権型の組織で粛々と働く、みたいな。学生たちにもそんなふうに話しているんです。「1社でずっと働く」みたいな働き方は、どんどん主流派ではなくなっていく、と。やっぱり、ゼミ生はメディアを学んでいるので、マスコミに入りたい子が多いんですね。でもやっぱりメディア業界は狭き門。だからむしろ、「商業施設のイベント企画」とかを勧めているんですよ。あるいは、「定型業務で残業のない会社で働いて、夕方以降は自主的に映像制作する」とか。自分でキャリアのポートフォリオを組めるような会社を選べば、リスク分散にもなりますよね。

 

WORK MILL:実際、テクノロジーの発達でクリエイティブにかかるコストが抑えられたり、副業を推奨する会社が増えたりするなど、それが叶う時代になってきていますからね。

 

松下:そう。「あれかこれか」じゃなくて「あれもこれも」やるほうがいいんですよ。それが、自分の希少価値を高めることにもつながる。どうしても、「始めるからにはちゃんと準備しないと」とか、「本業を極めるまでは他のことは始められない」とか、物事の順序を重要視しがちですけど、今はとにかく始めてみてフィードバックを受けながら精度を高めていくほうがいい。やらないリスクのほうが高いんです。

 

僕自身、ベルリンに行って痛切に感じたのは、みんな「自分の価値観を大切にしている」ことなんです。身近なところで言うと、日曜日はどのお店も軒並み閉まるので、公園でいろんなイベントが行われているんですけど、中でもマウワーパークという大きな公園で「青空カラオケ」が開かれるんです。円形ステージで500人くらいに囲まれた中で、「次、歌いたい人!」と司会者が訊ねると、「はい!」と手を挙げて歌う、みたいな。うまいヘタは関係ないんですよ。「近くに住んでて」とか、「旅行で遊びに来ました」とか、自己紹介してから、思い思いに好きな歌を歌うんです。ある種、そういうふうに自分の価値観を出せる環境があるからこそ、自分の価値観を出せる人が多いのかもしれません。

 

 

WORK MILL:どうしても、日本では「空気を読む」ことが重視されて、自分の価値観を尊重しにくいときもありますよね。

 

松下:学生たちにも多いんですよ。「普通幻想」が強すぎて、「両親がこういう働き方だから、自分もこんなふうに働かないといけない」と。でも、もうその「普通」が成り立たないですよね。それに、組織やマネジメントのあり方として、分散型のチーム構造を機能させていくには、心理的安全性が必要となってくる。それはまさに「自分の価値観を大切にして、それを安心して出せる環境」によって育まれるものです。

 

WORK MILL:とはいえ、組織側にある種「余裕」がなければ、ワーカーそれぞれの価値観を尊重して、それを活かしていくことはできないのではないでしょうか。

 

松下:確かに、よく企業は「若い人の発想に期待する」と言っておいて、いざ稟議を通そうとすると「そんなの通用しない」とか「ビジネスはそんなに甘くない」とか、否定してしまう。失敗を許容しない文化はありますよね。でも、イノベーションを起こすにはリスクテイクが必要ですし、「無駄に終わるかもしれないこと」にも有効性がある。

 

ワーケーションなんてまさにそういうことなんですよ。「ワーケーションでどんなインプットを得て、どんな成果があったか報告しなさい」なんてことをはじめたとたんに、有名無実化する可能性がある。そういった対価を求めるより、そこで見出したことを自分の価値観で語ってもらったほうがよっぽどいいんです。どんなことが面白かったのか、楽しかったのかを訊ねたほうが意義もある。

 

WORK MILL:それを快く受け入れるような雰囲気も必要ですよね。

 

松下:「こっちは一生懸命働いているのに」と妬むのではなく、「あぁ、今度僕も行ってみようかな」と乗ってくるような。ヨーロッパでは、本当にみんな「休んでいてすみません感」が全然ないんですよ(笑)。ワーケーションの人も、いかに今、幸せなのか、「こんな仕事をしていて……」と楽しそうに語る。そういう意味では、日本は海外の影響を受けやすいところがあるし、外資系企業の社員が増えたり、企業がフリーランスと契約を結ぶ事例が増えたりしていけば、少しずつ変わっていくかもしれない。デジタルネイティブ世代を中心に価値観が変わっていけば、働き方が変わり、その働き方に触れることで自分の価値観も変わるーそんなポジティブな流れになっていけばいいなと思います。

 編集部コメント
スマートフォンの普及によってコミュニケーションの在り方は大きく変化しました。現実世界においてカフェで時間と空間を共有しているとしても、SNSでのコミュニケーションが常にセットになっています。目の前のリアルなコミュニケーションをより豊かなものにしたり、経験を広く共有したり、そうかと思えばオフライン以上にオンライン上でのやり取りの方が優先されるケースもしばしば。コミュニケーションの情報量と流通量がこれだけ莫大に増える時代にあって、本当に価値あるコミュニケーションを交わしていくためには、まず自分の価値観をしっかりと持つこと。そしてその価値観に基づく対話を交わす、いかに心理的に安全な環境を用意できるか。これが、オフラインコミュニケーションが持つ意義になるのかもしれません。
  
新しい手段やメディアが生まれ、コミュニケーションの在り方はますます進化いくことでしょう。それは果たしてどのような状態なのか。引き続き、松下先生の研究をフォローしていきたいと思います。(遲野井

 2018年10月30日更新
取材月:2018年9月

 

テキスト: 大矢 幸世
写真:岩本 良介
イラスト:野中 聡紀

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